※本記事にはメインシナリオや過去の期間限定イベント、『月姫』の一部ネタバレが含まれています。未クリアーの人はご注意ください。 スマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order』(FGO)の中核を担う武内崇氏と1年を振り返るインタビューをお届け。武内氏が担当したサーヴァントや“奏章II 不可逆廃棄孔 イド”のイラストなど、おもにデザイン面で運営9年目を振り返っていただいた。
本稿は、週刊ファミ通 2024年8月22・29日合併号(No.1861/2024年8月8日発売)に掲載したインタビューを加筆修正し、未公開分を加えたもの。インタビューは2024年7月上旬に収録。
武内崇 氏(たけうち たかし)
TYPE-MOONの代表でイラストレーター、プロデューサー。キャラクターデザインなど、ビジュアル面で同ブランドを支える。『FGO』ではデザインディレクションやビジュアル監修なども担当。(文中は武内)
到達点のひとつを『FGO』に。『まほよ』コラボ誕生秘話
――運営9年目を振り返っていただければと思います。武内さんにってどのような年でしたか?
武内
この1年はとくに、サバフェスに始まり、『Fate/Samurai Remnant』や『魔法使いの夜』(以下、『まほよ』)とのコラボもあって、ここ最近のなかでも密度の濃い年だったかなと思います。いよいよクライマックスに向かっていく最後の準備期間という側面もあって、そのために細かな部分も含めて丁寧に詰めていくような運営をしてきました。
――9年目の中で、とくに印象的だったストーリーやイベントは何でしょうか。
武内
やはり『まほよ』コラボです。TYPEMOONとして、いつかしっかりとやらなければいけないとタイミングを計っていた施策でした。どのようなイベントにするかは奈須とも話し合っていて、全体のプロットを詰める前に3つの案を提案されました。
ひとつは、『FGO』の中のイベントとしての『まほよ』。もうひとつは、いまの『まほよ』をそのまま『FGO』に落とし込んだもの。最後が、今回採用された10年後の話で、同窓会のようなエピソードでした。
――今回のシナリオが採用された決め手は?
武内
奈須からもらったメモには、3本目の話は熱心な『まほよ』ファンほどうれしい、と書いてありました。メモの内容、そしてこの言葉を見て、これをやってこそ本質としても『まほよ』コラボ足りえるだろうと感じました。
『まほよ』はTYPE-MOONにとって到達点のひとつとなる作品なので、それを汚すことはできないという想いは、とくに奈須とこやま(※)の中では強かったと思います。そういったプレッシャーの中でしっかりとやり切れましたし、多くの方に楽しんでもらえて反響もたくさんいただけたのが印象的でした。
※こやま……こやまひろかず氏。TYPE-MOONのグラフィックチーフ。『魔法使いの夜』でキャラクターデザインを手掛けた。――ほかの2案はどんなお話だったのですか?
武内
ひとつは、竹箒日記にも書かれていた城の中で起きる魔女狩りのお話で、ふだん『FGO』で開催されているイベントに近い印象の内容ですね。もうひとつは、『まほよ』の物語中でもとくに強い印象を残している、廃墟になった遊園地での戦いをそのまま『FGO』に落とし込むというものでした。
『まほよ』のプロモーションという意味であれば、後者がいちばん刺さるだろうということでの予備案のような提案でしたが、それはやはり『FGO』らしくも『まほよ』 らしくもないですよね。
――あの戦いにカルデアが介入したら、またおもしろくなりそうだとは思います。
武内
そうですね。たとえばあの戦いをもう一度やり直す、みたいなことが採用されていたらできたかもしれません。
――イベントの中では『まほよ』のキャラクターたちが成長した姿で登場しました。こやまさんとはどのようなお話をされたのでしょうか。
武内
プロットをもとに、必要なデザインを奈須とこやまのあいだで詰めていっていました。想像通りに成長したキャラクターもいれば、意外な姿のキャラクターもいて、おもしろいサプライズになっていましたね。
――サプライズと言えば、『空の境界』から両儀幹也と両儀未那が登場して驚きました。あの時期の未那が描かれたのは初めてでしょうか。
武内
そうかもしれません。『空の境界 未来福音』で描かれていたよりも小さなころですからね。シナリオを書いていく中で、プロットにないシーンが増えることは奈須にもよくあるようですが、幹也と未那もそのうちのひとつでした。制作途中で「もし立ち絵を描く余裕があるなら、最後にこのシーンを付け足すけど、どう?」って言われて、もちろん描くよ、と。
――あの一瞬のために2キャラクターを新規に描いた、というのも驚きです。
武内
『まほよ』コラボではあるのですが、奈須が生み出した世界全体の同窓会みたいなものにもなっている。そこにああいったサービスを入れてくるところが、ニクいところと言いますか(笑)。もうないだろうなと思ったところで「ありますけど?」と出してきて、こちらの感情を揺さぶってくるところは、ゲームマスターとしての奈須きのこの力を感じますよね。自分自身、その遊び心にしっかり応えないといけないと思いながら、デザインしました。
両儀幹也と両儀未那
――原作で受けた印象に比べると、今回の未那はだいぶおとなしいですね。
武内
あれは病気がまだ治っていなくて弱っている、という設定のためですね。最初はもっと神秘的で無表情に描いたのですが、怖すぎるということでかわいく描き直しました(笑)。喜んでくれた人も多かったみたいで、やりがいがありました。
二転三転した水着の配布。武内氏が欲するNPCは?
――続いて、9年目でとくに印象的だったサーヴァントのお話も伺えればと思います。
武内
毎年、『FGO』の歴史に残るようなデザインのサーヴァントたちが登場する中で、今年は巌窟王 モンテ・クリストが超絶デザインだったなと思います。とにかく作家さんの熱量がすごくて、受け取る側としても圧倒されました。何なら、ブレーキが壊れたんじゃないかというくらいの勢いでしたから。
もともとの巌窟王エドモン・ダンテスのデザインを引き継ぎつつ、その先を見せるというのは大変なプレッシャーがあったかと思いますが、やるべきことをやり切ったすばらしいデザインに仕上がっていると思います。
――確かに、モンテ・クリストは宝具カットや最終再臨など圧巻でした。デザイン面以外で、思い入れのあるサーヴァントではいかがですか?
武内
ネモ〔サンタ〕ですね。どのサーヴァントがつぎのサンタになるかを決める会議のときに、ふと現代のサンタってウーバーイーツの配達員みたいな感じじゃない? と思いまして。
個人的に思い入れのある『デス・ストランディング』のイメージも正直ありました。そういったコンセプトがネモというサーヴァント、そして作家さんの個性ともすごくマッチして、こうなったらイイナ、という思いがそのまま形になってくれたキャラクターだったなと思います。
――短くまとまったシナリオながら、最後はホロっとくる場面もあってとてもいいイベントでした。シナリオを奈須さんが書くことは最初から決まっていたのですか?
武内
奈須もネモには思い入れがありますから、ネモ〔サンタ〕を出すなら自分で書くよと言っていました。過密スケジュールの中で少ないリソースをやりくりして、何とか書き上げたのだと思います。
――夏イベントでは水着ノクナレアが実装されましたが、こちらがじつは武内さんの発案だったと竹箒日記で知りました。
武内
自分としては、第2部 第6章(以下、とくに“第○部”と表記していない章はすべて第2部)でいちばん泣いたのがノクナレアが息を引き取るシーンだったので、思い入れはすごく強いんですよ。ノクナレアについては、以前から実装するしないの議論自体はありました。当初は、アヴァロン・ル・フェ終了後にあまりあいだを開けずに6章アフターのイベントをやるという案もあり、そのときにノクナレアを配布してはどうかという話も出ていました。
イベントで何をするかはアイデア勝負なところがあって、ここでこれが来たらおもしろいんじゃないか、こういうのが見たい、っていうことを勢い任せで話し合うこともあります。ノクナレアやトネリコなども、そういった会議から実装が決まっていったサーヴァントですね。
――早い段階で決まったのでしょうか。
武内
二転三転した部分はあって、確かいちばん初めはトネリコが配布サーヴァントという設計でした。奈須からはシナリオ的にはアルトリア・キャスターが配布だといちばんやりやすいという話もあったのですが、最終的にはノクナレアを配布にする形で実装キャラの構成が固まっていきました。
――ノクナレアのように、また出てきてほしいと思ったNPCはいますか?
武内
ファンの皆さんと同じく、いちばんはカマソッソですかね。6章のキャラクターには特別な思い入れがあるので、ウッドワスやゴブリン3兄弟が来てくれても、個人的には超うれしいです。
トネリコにアルキャス、謙信。デザインコンセプトを訊く
――昨年は水着アルトリア・キャスターの第1再臨について伺いましたが、第2、第3再臨についてもコンセプトなどをお聞かせください。
武内
第3はアルトリア・アヴァロンにしようと思っていたので、ワンピースっぽい上品な水着というイメージはすぐに浮かびました。悩んだのは第2ですね。アルトリア・キャスターは色っぽさを前面に押し出すキャラクターではないので、別の路線がいいだろうと考えたんです。とはいえ、水着なので多少はセクシーな要素もほしくて。
アルトリア・キャスター(バーサーカー)の霊基再臨第2段階
――結果的にはウサミミ姿となりましたが、そうなったきっかけというのは。
武内
山のように描いた霊基2のデザインラフを見せて、周囲に意見をもらっていたときに「ウサミミ衣装はどう?」と言われたんです。さすがに狙いすぎだろうと思いながらも描いてみたら、「案外……悪くない……」となりまして。
そこで、思い切りネタ衣装に舵を切って、どうせやるなら不思議の国のアリスモチーフで……と、あのデザインになりました。奈須からもオーケーをもらえたので、これが正解だったんだなと思います。
――TYPE-MOON4大ヒロインのほとんどがウサミミになっているので、てっきり武内さんのこだわりだと思っていました。
武内
自分はどちらかといえばネコミミ派ですが、スタッフの中に強烈なウサミミ好きがいますから。「ウサミミさえあれば勝てますよ!」とか言うんですよ(笑)。
――救世主トネリコ(雨の魔女トネリコ)のデザインについても教えてください。
武内
第1については、“魔女”という指定に従って現代風の魔女や戦士風、軍服めいたデザイン案などいくつか出して、そこで奈須に選ばれたのが比較的オーソドックスな魔女姿でした。 個人的には第2がいちばん描きたかったデザインで、趣味全開でやらせてもらいました。
――水着バーヴァン・シー(ケット・クー・ミコケル)の第2再臨とのつながりもよかったです。
武内
奈須の中ではつながりがあったのかもしれませんが、デザインとしては、とくに合わせたわけではありませんでした。お互い丸眼鏡で、なんとなく通ずるところがあるというのも、シンクロニシティーみたいでおもしろかったです。
第3に関しては、ふだんの衣装が黒いので逆に白い水着にすることは始めに決めていました。いろいろと模索した結果、ちょっとごちゃごちゃしすぎましたがモルガンっぽい雰囲気になったと思います。第1からだんだんと髪の色味が変色していくところも、今回やりたかった要素のひとつです。
――続いて上杉謙信についてもお聞きしたいのですが、武内さんが謙信を描くことを渋っていたと奈須さんから伺いました。これはなぜ?
武内
星5の謙信を出したいという話は以前から出ていたのですが、自分の中で長尾景虎のデザインの完成度がけっこう高かったんです。あのキャラの霊基再臨段階がまったく想像がつかなくて、のらりくらりとかわしたり、明確にやりたくないと言っていたりして、先送りにしていました。ただ、新しいぐだぐだイベントで武田信玄(武田晴信)が登場することが決まり、これはもうやるしかないと腹をくくって着手しました(笑)。
第1に関しては、長尾景虎のときにもう少しこうすればよかったかな、と思ったアイデアを入れ込んだものにしました。ここはよし悪しあるのですが、景虎は基本的には笑顔しかないピーキーなキャラクターだったので、表情のバリエーションがあまり作れなかったのも心残りでした。第3に関してはその制約を取っ払って、いろいろな表情ができるような存在として描きました。デザインは着手までは悩みましたが、髪色の白黒反転を思い付いてからは比較的すんなり進んだかなと思います。
上杉謙信
――デザインをしていくうえで、経験値さん(※)からの指定などはありましたか?
武内
デザインにアイデアがないという話をしたところ、「大丈夫です、巨大な砲塔を持たせましょう」と。自分のキャラに限った話ではありませんが、ぐだぐだのキャラクターについては、経験値さんから明確な指定が出ることが多いですね。好みもはっきりしている人なので、キャラクターデザインのディレクションでは、私とぶつかることもときどきあります(笑)。
※経験値さん……マンガ家の経験値氏。『FGO』では“ぐだぐだ”系イベントのシナリオと登場サーヴァントの設定を担当している。――景虎のデザインでやり残したというのは、どのようなところだったのでしょうか。
武内
やり残した、というほどではないのですが、足まわりをもう少しキレイに見せられたらいいなとか、いまアレンジするならこんな感じかな、というちょい足し感です。
――第2再臨のデザインは現代的ですが、こちらはどういったコンセプトなのでしょうか。
武内
鉄板ではありますが、第1が戦闘服、第3が神がかった姿となると、第2は私服だろうな、と。信玄を赤いスポーツカーに乗せるので、「謙信はバイクですよ!」と経験値さんから言われたような気もします。
――話は変わりますが、E-オルガマリーのセイントグラフは別の方が描かれていました。その経緯は?
武内
オルガマリークエストで登場するエネミーのオルガマリーは、制作工数に配慮してオリジナルの色変えでいいと言われていました。それなら角も変えたいと思って角変えのデザインを用意したんです。
その後、奈須から、各オルガマリーの個性を強調するためにセイントグラフを別の作家さんにお願いしたいと相談されました。それで、複数の作家さんに人間型の怪獣というコンセプトでイラストを描いてもらって、それを実装していく形となりました。
奏章IIのイラスト振り返り。ギャラリー機能の搭載予定は?
――奏章IIについてお話を伺いたいと思います。新規描き下ろしキャラクターも多数登場して、主人公も制服姿になっていましたね。
武内
自分のほうでデザインをする時間がなかったので、今回はラセングルのデザインチームに案を出してもらいました。20案くらいデザインをいただきまして、 その中から、これまでと被っていなくてカッコいい制服を選びました。
もちろん、女性主人公がルーズソックスを履いているのもラセングル側のデザインです。私からは出てこないデザインでしたので、新鮮に感じてもらえたのではないかと思っています。
――あの制服は、もともと主人公が着ていたものではないのでしょうか。
武内
どうなんでしょう。設定上は奏章用のデザインですが、もしかしたら同じような制服だったのかもですね。
――ジャンヌ〔オルタ〕がルーラーのジャンヌに「もうひとりのほうはアンタが殴っておきなさいよ」と言っていましたが、新しいジャンヌを描いているということですか?
武内
描いていないですけど、そのセリフの真意はお楽しみに。
――『FGO』は当初、イベントCGを出さない方針だったと思うのですが、奏章IIでもかなりの枚数が登場しました。そろそろギャラリー機能があってもいいのでは、と思うのですが。
武内
ごもっともだと思うので、検討します。ギャラリー機能があったらうれしいですよね。
――ぜひ実装してほしいです。イベントCGはなぜここまで増えたのでしょうか。
武内
シナリオやキャラクターだけではなく、シナリオパートの表現もつねに挑戦を行う必要がありますから、その結果のひとつではありますよね。分水嶺になったポイントがあるとすれば、やはりアヴァロン・ル・フェですね。あの制作を通じて、私を含め制作側の意識も大きく変わったと感じています。
――あのあたりから明確に増えていった印象があります。イベントCGについては、ライターさんから指定が入るのですか?
武内
そうですね。プロット段階で相談をもらうときや、シナリオ脱稿後に追加でリクエストをもらったり、シナリオ分析の結果増えたりするものがあります。
――奏章IIではキリエの死亡シーンがありましたが、あれは武内さんが描かれたのですか?
武内
そうですね。線画を描いて、仕上げは社内で行っています。マシュもそうですし、下越(※)が担当したダ・ヴィンチに関しても死亡シーンをどれくらい生々しく描くか、バランスを見ながら制作しました。
※下越……TYPE-MOON所属のグラフィッカー、イラストレーターである下越氏。『FGO』ではレオナルド・ダ・ヴィンチやサロメなどのキャラクターデザインを手掛けている。――それをきっかけに病んでいった主人公の、鏡に映った表情もすばらしかったです。
武内
ありがとうございます。あそこは単なる説明のカットにはならないようにと気を付けながら構図を模索しました。
ついにシエルが実装。究極系のドレス姿を目指して
――事前に今年の水着サーヴァントの1騎がシエルと聞いたのですが、これは前々から決まっていたのですか?
武内
どういったキャラクターを実装するかを決める会議がありまして、目玉となる周年サーヴァントに関しては、すぐ決まることもあればなかなか決まらないこともあります。今回は二転三転しまして、その会議の中でシエルにするというアイデアも出たんです。でも、私も奈須も、共通認識としてシエルは違うだろうと。
――“シエルは違う”と考えられた理由をお聞きしてもよろしいでしょうか。
武内
シンプルに、『FGO』の周年キャラとしては筋が通らないでしょう? アルクェイドは、アーキタイプ:アースという特別な役割を担ってもらったうえで、一回限りの変化球だったと思っています。
ただ、それでもシエルを出そうという流れがあって、水着にしてサーヴァント・ユニヴァース寄りのキャラクターにしようということになりました。
――サーヴァント・ユニヴァースのシエルが登場するとは、意外でした。
武内
なので、デザインとしても通常のシエルが水着になったのにプラスして、SF要素も少し入れて飛躍させたようなデザインになっています。やりすぎてしまうとシエルファンにとってもこれじゃない感が出るので、らしさを残しつつ、『FGO』に合わせて跳ねさせる、そんなチューニングにしています。
――再臨で大きく姿が変わるのでしょうか。ロア時代の裸マントのようなものが出てくる、なんてことも期待してしまいます。
武内
それは期待しすぎです(笑)。でも水着なので、そういうものがあってもよかったかもしれませんね。シエルは戦闘特化というか、あまりドレスアップするイメージがなかったと思うんです。ふつうに考えると戦闘服とか、カッコいい系に寄っていくと思うのですが、やはり『月姫』前編における2大ヒロインのひとりなので、アルクェイドと並んでも遜色ないドレス姿が必要だと言われました。なので、第3はいままでにないドレス姿になっています。
――アーキタイプ:アースに匹敵するようなドレス姿が見られると。
武内
匹敵するかはわかりませんが、ある意味突き抜けた感はあるのかも。アーキタイプ:アースって、原作では光体化して光の巨人になるじゃないですか。その要素が少しだけ髪にも出ているのですが、それと同じようにシエルの究極系は何だろうかと考えました。
シエルは、きのこ伝奇世界でも屈指の魔力貯蔵量を誇るキャラクターです。抑え込んでいても身体の末端からエネルギーが漏れ噴き出ている……というイメージを起点にして、そんなシエルのドレス姿を想像しながらデザインしました。
――楽しみです。完全武装シエルの要素は入ってくるのでしょうか?
武内
そうですね。宝具やモーションにいろいろネタを仕込んでいますので、シエルファンの皆さんはどうかご期待ください。『まほよ』に引き続き、宝具演出での原作再現も見ごたえがありますよ。
――もしかしたら、セブンの登場も?
武内
それも期待しすぎです。
水着エレシュキガル裏話。作家の熱量で新システム実装
――週刊ファミ通『FGO』9周年特集号の表紙にも登場している、スペース・エレシュキガルが実装されることになった経緯を教えてください。
武内
まずは、“水着エレシュキガルの実装”というのが大きな目標であり、ハードルでした。もともと、水着エレシュキガルは去年のサバフェスに登場させる案もありました。ただ、エレシュキガルを登場させるということは彼女を物語の中心にするということなので、奈須にとっても実装まで持っていくハードルの高いキャラクターだったと思います。サバフェスでは居場所がうまく作れないと予想できたので、先送りする形になりました。
――それが今回、満を持しての登場と。
武内
長くお待たせしてしまったこともあり、水着でありつつ、より強い意味合いを持たせる方向で検討を行いまして、クラス:ビーストで周年キャラとして実装、という形になりました。デザイン、イラストの完成度の高さは、見ていただければすべて伝わってくることかと思います。
作家の熱量やアイデアは、『FGO』に変化を与えるきっかけになることがあります。今回も森井さん(※)からは本当にたくさんのアイデアをいただきました。
※森井さん……森井しづき氏。マンガ家、イラストレーター。『FGO』ではイシュタルやエレシュキガル、エルキドゥ、トリスタンのほか、概念礼装のデザインも手掛ける。――森井さんと言えば、大量のカレンの絵がマテリアルに掲載されていました。今回もそれぐらい絵は届いたのでしょうか。
武内
届きました。まず、検討ラフの段階ですごいアイデアがてんこ盛りですし、詰めていく段階でもどんどん変化していきました。そのたびに、何かしらのアイデアが生まれたり、熱量がグッと高まったりします。つくづく、つねにもっといいものを目指して自身をアップデートしていく作家さんだなぁと感じましたし、スペース・エレシュキガルは、その思いが結実したようなキャラクターになっていますね。
――実際、森井さんの熱意で仕様が変化した部分があれば教えてください。
武内
バトルの好感度システムです(笑)。
――好感度……システム?
武内
スキルの使用や戦闘中にどんなリアクションをしたかによって、その戦闘におけるエレシュキガルの好感度が上がっていきます。それによって能力が変化するんです。最初に森井さんが、好感度で宝具演出の一部が変わるというアイデアを出してくれまして。隠しパラメーター程度で入るのかな、と思っていたら、戦闘のシステムとして実装されることになりました。もちろん、もとのアイデアであった好感度マックス時の宝具演出変化も実装されています。
森井さんから出してもらったアイデアとしては、第3再臨のときに攻撃をすると、画面の奥でサブリミナルっぽく絵が動く演出が入っています。開発ではビーストフラッシュと呼んでいます。
ビーストフラッシュ
――それだけのものが登場すると、ほかの作家さんからも自分はこういう演出を入れたい、といった提案が増えそうですね。
武内
いただいたアイデアは、コンテ担当が可能な限り取り入れるようにしています。それでおもしろくなるのであれば、いくらでもウェルカムです。今回のビーストフラッシュもそうですが、森井さんからは通常のルールから抜けたようなアイデアをもらうことが多々あるので、毎回とても新鮮です。
――ルールにとらわれない発想という意味では、本誌の表紙でエレシュキガルとイシュタルに「ファミ通」と言わせてみたい、とご提案いただきました。
武内
森井さんのアイデアは、前例がないことも珍しくないんですよね。でも、そこに応えられるかどうかで自分の姿勢が問われる気がします。あの遊び心と、それを形にするための粘り強さには本当に頭が下がります。
週刊ファミ通『FGO』9周年特集号の表紙イラスト。本誌内では、実際に2騎が「ファミ通」と言っている別パターンのイラストも存在する。
――森井さんに限らず、それだけの熱意を持って取り組んでくれるのはありがたいですよね。
武内
そうですね。どんなアイデアも、絵を増やすという意味で作家さんの負担になってしまいます。でも、最近は多くの作家さんが積極的にやってくださるんです。
たとえば宝具のカットインは、パーツ分けをして動かせるようにしないといけないので、すごく時間がかかるんです。でも、やはり花形なので、やりたいと言ってくださる作家さんが増えました。本当にありがたいです。
表現の幅が広がっている感触もありますし、そこがユーザーの皆さんにも喜ばれていると思います。バトルのキャラクターも含めて、2Dの作画で起こしていくゲームだからこそできる、無茶の仕方と熱量の込めかたがあるんですよね。3Dにはできない『FGO』が持っている武器だと思うので、そこは活かし続けていきたいです。
第2部 終章というゴールに向かって。過去最大の挑戦となる10年目
――最後に、10周年に向けた意気込みをお聞かせください。
武内
つい最近まで10周年というものを意識していませんでしたが、いよいよもう来年になって初めて意識するようになりました。この手のゲームはサービスである以上、何年続けていくかが目標になりやすいと思います。でも、『FGO』は一貫してゲームの物語を完結させることがチームの目標でした。そういう意味では、何年目を迎えるかという話は副次的なもので、結果的に10年経ってしまった、という感覚ではあります。
とはいえ、これまで支えてくれたファンの方に向けて、しっかりと記憶に残る素敵な10周年を、ゲームの内外で用意しないといけないと考えています。終章に向けて盛り上がりを作っていくことになるので、おそらく過去最大の挑戦になるでしょう。引き続き応援とご期待を、何卒よろしくお願いいたします。
――本当に第2部が終わるのですね。ちなみに、11周年は迎えられますか?
武内
もちろん迎えます。ただ、お話としては終章を目標にがんばってきましたからね。どのタイミングで終章に突入するかはユーザーの皆さんに委ねる部分ではありますが、やはり、最先端で起こっている戦いと冒険をいっしょに体験していただきたいです。
『FGO』周年記念インタビューアーカイブ
※7周年と8周年のインタビューはWebで掲載されることはありません。チェックしたい方がいらっしゃいましたら紙面でご確認いただければと思います。『Fate/Grand Order』関連記事