2024年1月より、連続2クール放送中のテレビアニメ『ダンジョン飯』。同作は、九井諒子氏による同名のマンガを原作とするもの。ファンタジーの世界で、冒険者が迷宮の深部を目指して進む……という、王道RPGのようなストーリーが描かれるのだが、道中で“魔物を料理して食べる”のがユニークなポイント。魔物が大好きで、魔物を食すことに意欲的な主人公ライオスと、仲間たちの笑いあり涙ありの冒険が人気を博している。

 このアニメの音楽を担当しているのは、作曲家の光田康典氏。『クロノ・トリガー』や『クロノ・クロス』、『ゼノギアス』、『ゼノブレイド』シリーズなど、数々のRPGの音楽を手掛けてきた光田氏は、『ダンジョン飯』の劇伴にどのように取り組んだのか? 1クール目の終わりが近づき、これから物語と音楽はどのように盛り上がっていくのか? 光田氏にたっぷりと語ってもらった。

光田康典氏(みつだ やすのり)

作曲家。プロキオン・スタジオ代表。『クロノ・トリガー』を始め、数々のゲームの楽曲を手掛けているほか、『黒執事』シリーズ(Book of Circus、Book of Murder、Book of the Atlantic)や『月とライカと吸血姫』など、アニメの楽曲も多数担当している。

『ダンジョン飯』原作を読んで即オファーを承諾

――『ダンジョン飯』の劇伴制作のオファーを受けたときのお気持ちをお聞かせください。

光田ふだんマンガを読む時間がなかなか取れず、世間で人気の作品をよく知りませんでした。そんななか、KADOKAWAさんから「『ダンジョン飯』という作品をアニメ化するので音楽を担当してほしい」とオファーをいただきまして。音楽を作るにあたっては、自分が気に入った作品でないと作者の方に失礼ですし、曲を書くうえでもテンションが上がりませんので、まずは原作を読ませていただいてからお受けするかを決めようと考えました。

――原作をお読みになっていかがでしたか?

光田当時刊行されていた11巻まで読んだのですが、衝撃を受けるほどにおもしろかったです。中世のロールプレイングゲーム風な世界観はほかのマンガでもよく観られる設定ですが、食事やトイレといった要素までこんなにもおもしろく描いた作品はほかにあまりない。自分は、食事のような、人間にとってごく当たり前の要素が盛り込まれている作品が好きなんです。ゲームで言うならば『風来のシレン』シリーズのような。

――『風来のシレン』は、ご飯を食べないと体力が減ったりしますからね。

光田さらに『ダンジョン飯』は、食事だけでなく世界観やキャラクター設定も細かい部分までかなりこだわって作られていますよね。絶対にこの世界の音楽を作りたいと思い、原作を読んだ後すぐにKADOKAWAさんに連絡をしたのを覚えています。

――原作を読んだ段階で、音楽の方向性は見えていたのですか?

光田原作を読みながら、自分がストーリーの中に入り込んでいました。第三者的な感覚で「このシーンではこんな音楽が流れるとカッコいいだろうな」などと考えながら読んでいましたね。ほかの小説やマンガでも、読みながら映像を想像するときはだいたい頭の中で曲が鳴るんですよ。

――作品を楽しむうえで、それが逆に邪魔になってしまうこともありませんか?

光田かなりあります。とくに、すでに完成された作品などは、音楽のことが気になってしまってその作品の世界に入れませんね。テーマパークやスーパーなどでも、そこらじゅうで音楽が流れていますから、そればかり気になってしまう。もっと純粋に楽しみたいとは思うのですが、なかなか難しい(笑)。

綿密な打ち合わせのもと行われた楽曲制作

――劇伴の制作はどのように進められたのでしょうか。

光田アニメ制作では、だいたい最初に音響監督の方から、1クールごとに希望する楽曲の内容をまとめたメニュー表をいただきます。ただ、メニュー表だけではどのような曲が求められているか完璧に理解するのは難しい。そこで『ダンジョン飯』では、1曲1曲について、もっと細かいニュアンスやテンポ感、どんなシーンで当てられるのかといった内容を、宮島善博監督や音響監督の吉田光平さんと3時間ぐらい話し合いました。アニメの楽曲制作ではこういった作業が発生しますが、打ち合わせの時間は『ダンジョン飯』がいちばん長かった気がしますね。たとえば「ここにブレイクを入れると、このシーンでも使えそう」といったお話をしながら進められたので、細かく曲作りができたと思います。

――打ち合わせの時点で、ある程度楽曲が使用されるシーンが決まっているんですね。

光田そうですね。たとえば、ライオスが間抜けなひと言をしゃべるタイミングでブレイクを入れる、といった感じです。打ち合わせの時点では具体的な秒数までは出せませんが、原作を読んでいれば、音楽演出が止まりそうなシーンはなんとなく想像できます。それを想定しつつ、ブレイクをかけて、つぎに間の抜けた頭があって、また続いていくといった曲を作っておくわけです。

――アニメでは動きと音楽がピッタリ合っているシーンも多いですが、曲を作っている段階では絵コンテぐらいしかできていませんよね。基本的には原作を基本にされているのでしょうか。

光田そうですね。ひとつひとつの間に入れられる物量は決まっていますので、原作を読んでいればキャラクターが動くペースや会話のテンポ感はだいたい想像がつきます。音楽のスタートから逆算すれば、だいたいの曲の長さを決められるわけです。もちろんピッタリとは合わせられませんが、そこは吉田さんがうまくはめてくださるので、いつもさすがだなと思っています。

――曲作りからレコーディングまでは順調でしたか?

光田2022年の6月、7月ぐらいから作曲を始め、レコーディングは2022年の末くらいから2、3回に分けて行いました。『ダンジョン飯』の楽曲では中世古楽の楽器を使用しているのですが、いろいろと楽器に関する調査をしたり、細かい部分までこだわったりして曲を作れたのは時間に余裕があったことも大きかったですね。もし納品まで3ヵ月しかないといった状況でしたら、オーケストラ楽器のみによる曲になっていたと思います。

――アニメはゲームと比べると、楽曲の制作企画が短いと聞いたことがあります。

光田いつも制作期間が短いのでたいへんです(笑)。『ダンジョン飯』に限っては時間をいただけたので、入念に下準備と調整ができました。

――それだけ制作スタッフの方も、「音楽にしっかり時間をかけよう」という意気込みをお持ちだったんでしょうね。

光田そうですね、皆さん本当にいいものを作りたいという意気込みでお付き合いいただきました。もちろん音楽だけでなく、アニメを観ていても作画などは非常にしっかりしていますし、時間をかけて作られていることがわかります。

――アニメーション制作のほうも、しっかり余裕を持ったスケジュールで進行されたようです。

光田手直しができる時間も確保しつつ制作されているそうですので、やはりいい作品ができますよね。『ダンジョン飯』は音楽に限らず、すべてのセクションにおいて、本当に細かいところまでこだわって作られていると思います。(作品制作は)本来はこうでなければいけないとは思うのですが、なかなか難しいところです。

中世古楽の楽器を扱う難しさ

――先程もお話に上がりましたが、改めて『ダンジョン飯』の音楽のモチーフとなっている中世古楽とはどういった音楽なのでしょうか。

光田中世古楽は、楽器の原型と言われているようなものが生まれたルネサンス期の音楽です。たとえばハンマーダルシマーやクルムホルン、現在のオーボエやフルートなどの原型であるショームといった楽器などが使われています。古い楽器ですから精度があまり高くなく、いまは楽器を製作できる職人も少ないです。コントロールがききにくい楽器ばかりなのでシンプルな演奏しかできませんし、音域も非常に狭い。楽曲を作るうえでは非常に扱いづらい楽器なんですよ。

――そんな扱いの難しい中世古楽の楽器をあえて使われたのですね。

光田『ダンジョン飯』は機械文明ではなく、中世のような“剣と魔法”の世界観です。原作を読み進めながら、たとえばギターのような現代の楽器の音色は世界観的に合わないだろうと感じており、中世古楽の楽器以外は考えられないと確信していました。また、中世古楽ならではのサウンドはかなり特徴的ですが、おそらく昨今のアニメでは使われていませんし、一般的に聞く機会も少ない。最初に皆さんが音楽を耳にしたときに「なんだこの楽器は」と、相当なインパクトを感じてもらえるのではないかとも思いました。

――楽曲のテーマを中世古楽にすることについては、打ち合わせで決まったのでしょうか。

光田最初にどのような世界観で『ダンジョン飯』の全体的な音楽を作るかを打ち合わせしたときに、宮島監督も吉田さんも中世古楽がベストだと意見が一致しました。

――皆さんのイメージが合致していたんですね。

光田皆さんが作品を読むときには、キャラクターの声を始め、音楽や作画、さらにマンガは白黒ですからカラーになったときの色味など、すでに想像しているイメージがあると思います。アニメ化した際にそのイメージから大幅にズレてしまうと違和感が出てしまい、ネガティブな意見が多くなる。『ダンジョン飯』に関しては、宮島監督と吉田さん、そして僕のあいだで原作から感じ取れる音楽的な方向性が一致したということは、おそらくほかのファンの方も同様なイメージを持っているだろうと、中世古楽という方向性に間違いがないことを確信しました。

――たしかに原作もののアニメは、オリジナル作品を作るよりも難しそうですね。

光田細心の注意を払わないと、ファンの方がガッカリするようなデキになってしまいますからね。そういった意味では『ダンジョン飯』はスタッフ全員が、世界観に関して共通の認識を持って制作できたこともすばらしい点だったと思います。

――中世古楽の楽器を使われるうえで苦労された部分はありましたか?

光田中世古楽の楽器は一定音量でしか音が出ない楽器が多いため、クレッシェンドやディミニエンドといった表現が難しい。たとえばリュートは強く弾けば音量が上がりますが、クルムホルンなどのリード楽器は音量がほぼ一定です。そのため、ダイナミクスをつけたいポイントではオーケストラの楽器を加えてダイナミクスを作りつつも、中世古楽の楽器をメインに据えていきました。

――楽器や演奏者の方自体も少なそうですね。

光田そのあたりの調査はすごくたいへんでした。そもそも中世古楽の楽器は、楽器図鑑などに書かれている音域などの情報がまったく当てにならないんです。まずは楽器をお持ちの方を捜し、楽器の状態を確認するところから始まります。楽器の状態はさまざまですので、お持ちの楽器の音域を教えていただいたうえで、曲を書き始めることになる。ふつうの楽器を使った楽曲よりも、ひと手間もふた手間もかかりました。

『ダンジョン飯』劇伴を手掛ける光田康典氏にインタビュー。“料理の音楽”に挑戦するのは作曲家人生初!? ゲームとアニメにおいての曲作りの違いも語る
『ダンジョン飯』劇伴を手掛ける光田康典氏にインタビュー。“料理の音楽”に挑戦するのは作曲家人生初!? ゲームとアニメにおいての曲作りの違いも語る

作曲家人生初となる“料理の音楽”への挑戦

――『ダンジョン飯』といえば料理が切っても切れない作品ですが、料理シーンの音楽は、ゲームなどではなかなか作る機会はなさそうですね。

光田いままで料理の曲なんて一曲も書いたことがなかったので、悩みました。料理や食事の曲となると、どうしても“キューピー3分クッキング”のテーマのようなコミカルなものをイメージしがちですよね。ただ料理を作っているのはドワーフのセンシですから、あまり軽やかな曲も合わないと思い、少し重めでかつコミカルな、センシらしい音色を使ってみました。料理シーンの曲は、センシをイメージした曲のほかにも何パターンかあります。さらに、料理が完成してみんなで食べるシーン用の音楽も、シチュエーションによって何曲かあるんです。料理と食事の曲だけでも、10曲ぐらいあるんじゃないかな。

――『ダンジョン飯』ならではですね。

光田料理の曲のほかに、ジングルも2曲あります。

――食事が完成したときに鳴る音ですよね。

光田おいしそうにできたときと、怪しげなものができたときなど、完成した料理のデキによって使われるジングルが変わるんですよ。

――ジングルもパターンがあると思っていましたが、おいしそうか、そうでないかの違いだったんですね。それにしても料理完成のジングルを作ることなんて滅多にないですよね。

光田本当にどうしようかと思いました(笑)。もっとインパクトがある表現方法はないかと模索していたときに「ホラ貝はどうか?」という意見が上がったんです。センシはドワーフですので、バイキングのようなイメージもありますよね。そこで、アウトドアのシチュエーションで食事が完成し、ホラ貝を吹く……そんなイメージが合うと思い、ホラ貝を採用しました。

――あのジングルはホラ貝が使われているんですね。

光田そうなんです。日本でも戦国時代で使われたイメージがあると思いますが、じつはヨーロッパ地方にもありまして、バイキングなどが吹いていました。貝をそのまま吹くので倍音しか出ませんが、遠くに合図を送るときに使われていた笛です。いまはホラ貝を吹ける人も少ないですね。

――ホラ貝奏者の方はすぐ見つかったのでしょうか?

光田ホルン奏者の方がホラ貝を持っていらっしゃったんです。別のお仕事でこちらに来られた際に、わざわざホラ貝を持ってスタジオに立ち寄り、吹いてくださいました。

――センシのイメージでホラ貝をチョイスされたということですが、エルフやハーフフットといったほかの人種にも楽器のイメージはあるのでしょうか?

光田たとえばチルチャックの曲ではリュートを使うと決めていました。ライオスはルネサンスリコーダーという中世のリコーダー、ファリンはハンマーダルシマーをメインに使っています。ただ、ある程度キャラクターをイメージした楽器を使ってはいますが、すべての登場シーンにおいてそれらの曲が使われているわけではありません。

――今後はカブルーパーティーの活躍も増えたり、新しいキャラクターも登場してくると思いますが、音楽の雰囲気も変わってくるのでしょうか。

光田たしかに1クール目と2クール目では少し毛色が違うかもしれません。ベースは中世古楽ではありますが、徐々にフレーズといいますか音楽の世界観が、少し現代寄りの民族音楽のイメージに近くなっていきます。

『ダンジョン飯』劇伴を手掛ける光田康典氏にインタビュー。“料理の音楽”に挑戦するのは作曲家人生初!? ゲームとアニメにおいての曲作りの違いも語る
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使いどころが難しい? 壮大なメインテーマ

――料理以外の曲についてもお伺いできますでしょうか。まず、メインテーマの制作は順調でしたか?

光田最初に打ち合わせをした後に1、2週間ぐらいでメインテーマを作りました。当初は“バーン”とキメで終わる内容でしたが、吉田さんから最後にリュートのソロを入れてほしいと要望があり、たしかにあると後々使えそうだし曲としてもカッコいいため付け足していまの形になりました。インパクトあるテーマ曲にはなったと思いますが、この曲をどのようにアニメの中で使うかについて、吉田さんは相当苦しまれていた記憶があります。

――メインテーマが壮大なので、序盤のコミカルな雰囲気とは……。

光田あまり合わなかったのかもしれません(笑)。全体的にコミカルさもあり、壮大さもあり。それでいて魔法といった神秘的な要素もあり。いろいろな要素をごちゃ混ぜにしたテーマ曲でしたので、1シーンに当てるには、構成が変わりすぎていて使いづらかったのだと思います。最初の話数ではあまりテーマ曲は使われていないのですが、5話、6話あたりからテーマ曲が多く使われています。切り分けてうまく使っていただけたようで安心しました。

――たしかに、地下5階に着いたあたりからテーマ曲のメロディーはかなり出てくる印象があります。

光田楽曲を納品する際は、いわゆる“ステム”という、楽曲をピアノや弦、金管楽器、木管楽器など音色ごとに分けたデータファイルをお渡しします。すると、たとえば盛り上がるシーンなどで最初はピアノのメロディーだけが使われて、だんだんほかの楽器が入ってくる、といった使いかたができるわけです。5話でセンシが聖水を振り回すシーンの楽曲もテーマ曲なんですが、すごくうまく使われていておもしろいですね。

――第七話で登場した人魚の歌は、テーマ曲でもボーカルパートを担当されている、コーラスグループ・アヌーナのローレン・マクグリンさんが歌われたバージョンがあるとお伺いしました。

光田そうなんですよ。じつは、ローレンさんがフルで歌っているバージョンもあります。本編ではファリン役の早見沙織さんが歌われているのですが、すごく声が似ていて僕も最初は気が付きませんでした。

――早見さんの歌もすばらしいですね。ただ、聴きたいのにライオスがかぶせてくるので聞こえなくなりますが……。

光田あのシーンもおもしろかったですね(笑)。

――人魚の歌のように、特定の回だけで使われるちょっとした楽曲も、光田さんがご担当されているんですね。

光田細かなところまで全部やらせていただいています。

――本作の劇伴制作には、プロキオン・スタジオの土屋さん(土屋俊輔氏)もご参加されていますよね?

光田はい、彼も何曲か書いています。土屋くんのほうが向いていそうな曲はお願いしていますし、アレンジャーとしてマリアム(マリアム・アボンナサー氏)もオーケストレーションで手伝ってくれています。プロキオン・スタジオが総動員で取り組ませていただきました。

――アヌーナのローレンさんもですが、光田さんとゆかりの深い方々が参加されている印象がありますので、もしサウンドトラックが発売されたら『ダンジョン飯』ファンはもちろん、光田さんのファンにとっても注目の一枚になりそうですね。

光田そうだといいのですが、僕が『ダンジョン飯』の音楽を担当していることを知らない人も多い気がします。KADOKAWAさんのYouTubeチャンネルにテーマ曲をアップしていただきましたが、「光田さんが作ったんですか?」といったコメントを何件か拝見しまして(笑)。『ダンジョン飯』のことはずっとSNSに投稿してきたつもりでしたが、発信が甘かったのかな。僕は朝型なのでどうしても朝にしか投稿できず、夜に活動する方々には届いていなかったのかもしれないですね。

――海外でもNetflixで配信されていますが、海外のゲームファンからの声などは届いていますか?

光田海外にはすごくチェックしてくださっている方が多く、国内よりも海外の方からコメントをいただくことのほうが多いかもしれません。

――これまでにお話しいただいた曲のほかに、印象に残っている楽曲はありますか?

光田僕は12話の、マルシルが魔法陣を描いてファリンを復活させるシーンが本当に好きで、原作を読んでる時点ですでに曲が頭の中にできていました。原作であのシーンを読んだときは、だんだん黒い雲が迫ってきて真っ黒になり、魔法陣だけが光り……といった、スローモーションで展開するようなイメージが湧きましたね。アニメでは意外と動きが速かったのですが、それもまたカッコよかった。実際には20秒ぐらいしか楽曲は使われていませんが、そこそこ尺があるシーンのためけっこう長めに作ったので、一曲を通して聴くともっと長い壮大な曲になっています。

――原作からイメージを膨らませて長尺の楽曲を作っておき、どこを使うのかは音響監督の方にお任せするという形なのでしょうか。

光田そうです、魔法陣のシーンではサビの部分が使われていましたね。僕のイメージでは魔法陣を書いているシーンから曲が流れていくとカッコいいだろうと思いながら書いた曲ですので、もしサウンドトラックが発売されたら、ぜひ原作で同じシーンを読みながらフルで聴いてみてください。

――ちなみに2クール目も含めると、全部で何曲ほど書かれたのでしょうか。

光田80曲ぐらいでしょうか。

――アニメの音楽としては多いほうなのでしょうか。

光田多いとは思いますが、アニメの音響監督や監督からすると、シーンごとに細かく当てていくとしたら、もっと欲しいのではないでしょうか。ただ、あまり多くてもいろいろなテーマが出てきて、結果一曲一曲が薄くなってしまう。センシならこの曲、ライオスならこの曲といったものをすべて使っていただいたほうが、曲の印象としては残りやすいと思います。とはいえ1クール40曲ですから、やはり多いですね。もう少し少なめだと助かるのですが(笑)、いい作品を作ろうとなると、なかなかそうもいかないですよね。

――中世古楽の楽器からオーケストラの楽器まで潤沢に使えるということは、80曲の中でもいろいろなバリエーションが生まれそうです。

光田そういった意味では贅沢ですが、難しいところです。要素が多ければ当然飽きはこないのですが、ひとつのパッケージとしての統一感はどんどん薄れていく。逆にパッケージを小さくすると、濃くはなるけれど飽きやすくなる。ゲームもアニメもそのバランスが大事ですね。いろいろなバリエーションを楽しめるもの、かつ世界観にマッチし、なおかつきちんと一曲一曲の絡みが感じられて、どこを切っても楽しい。しかも作品の中でも、シーンを盛り上げられる劇伴を作る……僕はこれまでずっと一貫してそこをテーマに楽曲を作ってきましたが、非常に難しいですね。『ダンジョン飯』は非常にバランスがよく、奥行きも幅もあるよくできた作品になったと自分でも思っています。かなりお気に入りです。

アニメとゲームの楽曲制作における違い

――アニメの楽曲制作は、ふだん光田さんが手掛けられているゲームの楽曲制作と違いはあるのでしょうか。

光田まず打ち合わせに関して言えば、ゲーム制作の場合はどんなシーンで使われるのかといった詳細がわからないまま楽曲リストが作られているケースが多いので、大まかな話しかできません。一方アニメの場合は、すでに原作があったり絵コンテができていたりする場合が多いので、キャラクターの動きや映像の入れかたなどがある程度想像でき、最初からかなり細かい部分まで話ができます。もちろんゲームもある程度制作が進んだ段階でその都度お話をさせていただきますけどね。打ち合わせで相談する内容はどちらも同じだと思います。

――ゲームのBGMは基本的にループされるため曲を何度も聴けますが、アニメではそうはいきませんし、使用されるパートもシーンによって異なります。視聴者の印象の残りかたも違うと思いますが、楽曲の作りかたには違いがあるのでしょうか?

光田アニメは一曲書いても実際には一部しか使われませんので、印象的な濃いメロディーにしています。とくに『ダンジョン飯』では感情的なシーンや激しいシーン、魔法を使うシーンのような重要な場面に関しては、メロディーにかなり重点を置いて書いています。当然おどろおどろしい曲などメロディーがあってないようなものもありますが、基本的には楽曲のどの部分を切り取っても、ある程度インパクトがあって印象に残るようなメロディーにするよう心掛けました。しかも、ゲームの場合はループすることを前提にゆっくりと起承転結をつけていけばいいのですが、アニメの場合はそれぞれのカットが短い。そのため、どうしてもコンパクトに濃いメロディーがずっと続いていくような作りかたにはなってしまいますね。

――使われる場所がわからないからこそ、どこが切り取られても問題ないように濃いものを作るという手法なんですね。料理のメニューだったらたいへんですね。

光田唐揚げとコロッケとカレー、といった全部濃いものばかり(笑)。テーマ曲もそうですが、どうしてもこれでもかというぐらい濃い連続になりますね。

――浅漬けとかを入れる隙はなさそうです(笑)。一曲が完成するまでの工程は、ゲームよりもアニメのほうがたいへんそうな印象ですね。

光田どちらがたいへんかで言えばアニメかもしれませんが、最近はゲームの曲も長いですし曲数も多いですから、どちらもたいへんですよ(笑)。

――完成した楽曲をさまざまなシーンにあてはめていく作業は、ゲームのディレクターやイベントプランナーが音楽をはめていくのと似ている気もします。

光田そうですね。ただ前々から感じているのですが、ゲーム制作でも、アニメにおける音響監督のような役割が必要ではないかと思っています。僕たち音楽制作者が「このシーンは、音楽がスタートするのはもうちょっと後のほうがいいのでは」とか「盛り上がりのシーンにはこれぐらいの音量感で流したほうがいいのでは」といった指示をするのですが、ゲームはムービーだけでも何十時間もあるものも多いですから、すべては見きれない。ですので、やはり専門の方にお任せしたほうが、確実にゲームのサウンドもクオリティーが上がっていくはずです。アニメのお仕事をしていると、そのあたりがゲームサウンドにおける改善点だと感じています。絶妙なタイミングで音楽を鳴らすことは非常に大事な要素です。楽曲データを受け取ったプログラマーが、とりあえずで音楽をスタートさせる場面を設定するのと、シーンごとに合わせて細かく設定するのとでは、まったく異なりますから。もちろん、そのあたりもこだわって制作されているゲームもたくさんありますが、今後のゲームサウンドが抱えるテーマだと思っています。

1クール目はいよいよクライマックスへ

――『ダンジョン飯』では非常に多くの楽曲を作られましたが、視聴者はまだ全80曲のうち半分ぐらいしか聴けていない状況ですね。

光田半分も使われていないかな。僕は先んじて18話まで観ましたが、そのあたりでやっと3分の2ぐらいでしたね。まだ使われていない曲も何曲かあるので、おそらく最後のほうのシーンのために取っておいているのではないでしょうか(笑)。

――最終話でどこまで描かれるのか気になりますね。

光田僕もそのあたりの詳細な情報は仕入れていないので、楽しみにしているんですよ。すでに原作は14巻で完結しているので、ここまできたら最後まで作りたいですね。

――終盤の13巻14巻を読んで、すでにいろいろな曲が頭の中では鳴っていたのでしょうか?

光田そんな感じですね(笑)。

――その曲を映像で楽しめる日がくるのを楽しみにしています。

光田ご支持をいただければ、続きを作れる機会がありそうですよね。

――毎週木曜日の夜はXのトレンドに“ダンジョン飯”が上がりますから。

光田相当な方が観てくださっているんでしょうね。これまでのお話もおもしろいのですが、これからさらにおもしろくなるので、もっと注目してもらえるとうれしいです。

――まだ、料理をするだけのアニメだと思っている方もいるかもしれませんから。

光田たしかに僕もマンガを読んだときは4巻ぐらいまで、ご飯を作って食べる展開がこのまま続くのかと思っていました(笑)。ただ、そこから一気におもしろくなるし、しかもその序盤の内容が後半にすごく生きてきて、そこからの盛り上がりがすごい。アニメのほうも、ストーリーも曲もこれからどんどん盛り上がっていきますので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。

テレビアニメ『ダンジョン飯』公式サイト