個人的にこれまでいちばんハマった『シレン』は、1996年11月にゲームボーイで発売された『不思議のダンジョン 風来のシレンGB 月影村の怪物』だったと思う。週刊ファミ通編集部にアルバイトで潜り込んで2年が経ったころで、仕事とプライベートの境目がまったくなく、朝から夜中までとにかくずっとゲームをしてレイアウトを引いて原稿を書いていた。忙しかったけどその一方で、時間が無限にあるようにも感じていたころだ。
当時『月影村の怪物』にハマった理由としてもっとも大きかったのが、ゲームボーイ用ソフトだったことだ。「あの『シレン』を持ち歩ける」。これがもう最高だった。会社のデスクでも、自宅でも、トイレでも、電車でも……どこでも『シレン』ができることがたまらなかった。
年末時期に発売されたこともあり、帰省(余談ですが青森県弘前市出身です。とてもいいところです)の際にも当然のように携帯。友人宅でみんなで飲んでいるときにもひたすらプレイしていて、「お前は何をしにきたんだ?」と言われたことを覚えている。
『月影村の怪物』も含めて、とくにシリーズ初期の『シレン』は本来のゲーム性……「ダンジョンで倒れるとアイテム(道具)類がすべてなくなった状態で村に戻り、またイチから潜り直す」が際立っていて、それが好きだった。ソリッドでシビアだったからこそ、ダンジョン最奥部に近づくほどに増していく緊張感や、絶体絶命の状況をなんとか打開したときの高揚感がたまらなかった。
ゲームバランスとしてはハイリスクハイリターンの極致だと思うが、だからこそ強い中毒性があり、得られるアドレナリンは強烈で、時間を溶かしながら遊んだ。最高に楽しかった。
前振りが長くなったが、最新作『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』のプレイ感覚は、あのころの『シレン』に想像以上に近く、加えてプレイをサポートする&楽しくする複数の仕様の追加があり、久しぶりに(と言うと語弊があるかもしれないが)寝落ちするまで日々プレイしている。
万人向けのゲームとは言わないが、本作特有のゲーム性とゲームサイクルが肌に合う人なら、時間が溶ける感覚で延々と、しかも夢中になってプレイできる。『シレン』はそんなゲームだ。ハードルは高めかもしれないが、一見さんお断りでは決してない。ここからはおもに『シレン』初級者の方に向けて、魅力と特徴について述べていこう。
『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』(Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp)まず大前提として、『シレン』は知識と経験(プレイ回数と言ってもいい)がモノをいうゲームだ。プレイヤー(シレン)は基本的に丸裸の状態でさまざまなダンジョンに挑む。どのダンジョンも潜るたびに構造が変わり、ランダムで落ちている武器や防具、その他道具類を駆使して敵と対峙しながら階段を使ってつぎの階へと進む。
ダンジョン内はターン制で、シレンと敵は1ターンずつ交互に行動する。行動のやり直しはできず、倒れるとすべてを失い、丸裸の状態で宿場浜(拠点)に戻る。そしてまた初期状態からダンジョンへと挑む……これが基本のプレイサイクルであり、幾度もくり返すことで知識と経験が蓄積されていく。
知識と経験が増えるにつれて、敵の倒しかたや逃げかた、道具の使いかたなどが身につき、潜れる階層も少しずつ深くなっていき、一連のプレイサイクルにも馴染んでいく。そう、本作の醍醐味は、主人公シレンが継続的に強くなるわけではなく、プレイヤー自身が強くなる(うまくなる)ところにあると言える。
人の心境とはおもしろいもので、トライ&エラーのプレイサイクルが身に付くと、倒された際の自分の迂闊な行動やどうしようもないシチュエーションを悔いるよりも、「まあまたつぎがあるさ」くらいの軽い気持ちでリトライできるようになる(とてつもなく凹むときもあるけど)。
本作において“倒されること”は“普通のこと”だと認識して、まずは気楽に(とはいえ行動は慎重に)プレイしてみてもらいたい。
『シレン』歴が長いプレイヤー視点で本作の感想を述べると、「原点回帰をテーマに掲げながら、ユーザーがより楽しく、より快適に遊べることに注力している」と感じる。そしてその試みが成功したからこそ、高いユーザー評価とセールス(シリーズ最速で国内出荷本数20万本突破!)につながっているのだろう。以下に箇条書きで、個人的に感じていることに若干のアドバイスを交えながらまとめてみる。
- 全体にテンポがとてもいい。快適。リトライがしやすく、プレイが止まらない。
- Nintendo Switchだからどこでも遊べる。電車の通勤時間もあっという間!
- “夜ダンジョン”がなくなった、道具を倉庫に送るための手段が限定されているなど、全体的にシリーズ初期の『シレン』に近いゲーム設計。シンプルなローグライクに原点回帰していて、そのうえでさまざまな工夫が施されている。ゲームとしてわかりやすく、ダンジョン攻略に集中できる。
- シナリオに紐づく各ダンジョンは難度高めの仕様だが、『シレン』のイロハを学べる作り。エンドロールを見たあとからが本番なので、まずは水龍の洞窟のクリアーを目指そう。水龍の洞窟は持ち込み不可。ほかとは異なる異質な仕様で、狐渇シレンの特技を有効に使うことが大事になる。
- 水龍の洞窟クリアー後には各地のイベントを展開していくことでさまざまなダンジョンが開放される。自由に挑もう。最難関は99階の踏破を目指すとぐろ島の神髄。持ち込み不可で道具は未識別。道のりは険しいがたまらなく楽しい。『シレン』をするならこのダンジョンをクリアーしたい!
- とぐろ島の神髄にチャレンジする前に、少なくとも杖と巻物の領域はクリアーしておくことをオススメする。とぐろ島の神髄ではねだやしの巻物がとても有効なのだが、これも杖と巻物の領域でほぼ確実に拾うことができる。しっかり手帳に登録して、白紙の巻物に書ける状態にしておくだけで安心感が倍増する。
- 過去作と比較して、シレンのHPの回復スピードが早い。一方で敵から受けるダメージ値も高め(とくに装備が整わない序盤から中盤がキツい)。シチュエーションや道具運によっては早々に倒されてしまうこともままある。そういうものだと割り切ってリトライしよう。
- 武器や防具は序盤から出やすい。おにぎりに困ることもそれほど多くない。
- 体感としては保存の壺が出にくく、道具のやり繰りに困ることが多い。使わないまま倒されてしまうことがいちばんもったいないので、危険なシチュエーションを回避することをつねに想定して、道具は有効活用していこう。
- 本作の秀逸な点は各種データ類がとにかく充実していること。敵のステータスと特徴、各道具の特徴と買値売値、印の特徴、各状態異常の説明と対策、罠の特徴が手記から選択できる手帳袋にカテゴリーごとにまとめられていて、それまでに戦ったことがある敵、識別したことがある道具といった条件付きではあるが、いつでも確認できる。各道具の異種合成の可否や、状態異常の解消方法もわかるので使わない手はない。
- “見渡す”はとても便利。部屋の状況をスクロールして確認できる。広い部屋に入ったときは確認する癖をつけたい。
- メッセージは流れやすいが履歴で確認できる。
- モンスターハウスもそれなりの頻度で発生する。部屋に入ったあと、唐突にモンスターハウスになることも。まずは部屋内のモンスターなど、状況を冷静に把握すること。罠の数も増えている。倒されないことを最優先に道具を駆使して切り抜けたい。
- デッ怪はスルーすること。相手にしてもいいことない。
- 泥棒は無理しない。したくなるけど無理しない。でも確実に盗めるときは盗む。
つらつらと書いてしまったが、強く伝えたいことはふたつ。“とてもテンポがよく、快適にプレイできること”と、“シリーズ初期の『シレン』と同様に、本来のローグライクな遊びが存分に楽しめること”だ。『シレン』経験者でまだ本作をプレイしてないなら、いますぐ買って損はない。嬉しいことに久しぶりのナンバリングの新作は、あのころの『シレン』の正統進化版だったのだから。
『シレン』未経験だけどちょっと気になっている方にも、ぜひ試してもらいたい。絶対にハマるとは言い切れないけど、ハマると抜けられない独特の魅力がこのゲームにはある。
最後に。じつはここまでこの原稿を書き進めるにあたって何度か本作を立ち上げたのだが、そのたびについついプレイしてしまってこれぞ本末転倒という事態に陥ってしまったことを白状しておく。締切も数日延ばしてもらった……。というか、こんなときに限ってとぐろ島の神髄の道具運がよく、識別も合成も首尾よく進み、わりと順調に35階まで来ている状況。
ただ、階段を降りたらご覧のあり様だったので、しかめっ面で中断して原稿に戻ってきた。持っている道具から考えると、バクスイの巻物を読んでしまうか、それとも隣接しているなよなよハニーに身代わりの杖を振るか……とか、こういったことを考えながら事態を打開していくのが本当に楽しい。
昔からのシレンジャーの皆さん、久しぶりのこの感覚、最高ですね。大小不満はなくはないけど、個人的には大満足です。本作の開発チームの皆さん、楽しい『シレン』を届けてくださってありがとうございます。大感謝です。
これから『不思議のダンジョン 風来のシレン6 とぐろ島探検録』を遊ぶ皆さん、ようこそ『シレン』へ。たくさん倒されると思うけど、どれもが知識と経験につながります。そしてきっと楽しくなります。皆さんに旅の神クロンの追い風を!
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