世界有数のエンターテインメント、スポーツ、カルチャーの拠点となることを目指し、サウジアラビアが計画するエンターテインメント複合施設“キディヤ・シティ”。サウジアラビアはその中に、世界初となる“ゲーミング&eスポーツ地区”を立ち上げると発表。年間1000万人の観光客が訪れるeスポーツとゲームの世界的中心地を目指す、とのこと。果たしてこれがどれほどスゴいものなのか? 2022年の“日本・サウジアラビアeスポーツマッチ”の出場選手として現地を訪れeスポーツ事情を体験してきたネモ選手にも話をうかがいながら、その桁外れのスケールを実感していきたい。

世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
キディヤ・シティの“ゲーミング&eスポーツ地区”全景。中央にあるのがeスポーツアリーナのようだ。

※本記事はキディヤ・インベストメント・カンパニーの提供でお届けしています。

キディヤ・シティ“ゲーミング&eスポーツ地区”公式サイト(英語)

近年はゲーム関連でサウジアラビアの名前、けっこう聞くよね

 たとえば『餓狼伝説』や『ザ・キング・オブ・ファイターズ』シリーズで知られるゲーム会社のSNKがサウジアラビアの資本によってさらに躍進する、だとか。

 あるいは『eFootball 2022』や『ザ・キング・オブ・ファイターズ XV』、『ストリートファイターV チャンピオンエディション』など5つの種目において日本とサウジアラビアが戦う“日本・サウジアラビアeスポーツマッチ”なる大会が開催されるなど……。

 近年、ゲームというジャンルにおいて、サウジアラビアの存在感を感じることが増えてきていると感じる人はそれなりにいるのではないだろうか? その中心には、日本のゲーム文化に対して深くリスペクトする同国の皇太子にして首相でもあるムハンマド・ビン・サルマン氏の存在がある。

 前述のSNKを買収したサウジアラビアの“MiSK財団”を設立したのが、まさにハンマド・ビン・サルマン氏。同国の首相でもある皇太子みずからがムーブメントの中心にいるのだから、それは何かと目立つニュースも増えてくるのは当然の話。

 さて、そのムハンマド・ビン・サルマン皇太子はいま、サウジアラビアの首相としてドデカいプロジェクトを推進している。同国の経済多様化を目指す“サウジ・ビジョン2030”だ。こちらは、サウジアラビアにおいて石油関連産業以外の経済活動を発展させるというもので、“世界有数のエンターテインメント、スポーツ、カルチャーの拠点を目指す”という“キディヤ・シティ”なる施設の建設がその中核をなしている。

 なんとこのキディヤ・シティに、“ゲーミング&eスポーツ地区”が建設されることが昨年2023年12月に発表された。もっとも、これだけ聞かされても、ぜんぜんそのスケール感なんて想像できず、「へぇ、そう?」なんて聞き流されかねないので、ちゃんと補足しておく。

 キディヤ・シティの一部でしかないこの“ゲーミング&eスポーツ地区”の広さは、じつに50万平方メートル以上におよぶ。これは東京ドームで言うところの“約11個分”にあたる。飲食店、小売店、エンターテインメントスペースといった商業施設エリアだけでも、10万平方メートル以上とのことだから、これだけで東京ドーム2個分以上だ。

 ではキディヤ・シティ全体ではどれくらい広いのか、というと360平方キロメートルにもなるそうだ。じつに東京ドームにして“約7700個分”。つまり“ゲーミング&eスポーツ地区”は、超広大なキディヤ・シティのごくごく一部でしかないわけだ。

世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
“ゲーミング&eスポーツ地区”内のテーマゾーンとして公開されているイメージ図。

 キディヤ・シティ内にほかに作られることが発表されているものとしては、F1世界選手権を誘致する予定のモータースポーツ用サーキット、国際大会規格のゴルフコースが2面、多目的スタジアム、シックスフラッグスやウォーターテーマパークなど、さまざまなテーマパークといったものが挙げられる。とくに、最先端のサッカースタジアムは、高さ200メートルのジャバル・トゥワイクの崖の上に建設され、キディヤ・シティの街並みとその先まで見渡せるとのことだ。すごすぎる。

世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
建設予定の最先端のサッカースタジアム。スケールが桁違いだ。

 キディヤ・シティは内に擁するこれら施設の建設によって、年間4800万人もの来訪者を見込むだけでなく、30万人以上もの雇用機会を創出。“遊びに特化した都市”を謳うけれど、あくまでも都市なので、6万棟ものビルが立ち並び、最終的には60万人以上が暮らす街になるそうだ。

 もうとにかく壮大すぎる!

世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
こちらもイメージ図。まるでゲーム内の世界をそのまま現実に持ってきたような街並みだ。

2024年からはeスポーツ・ワールドカップを毎年開催予定

 話を“ゲーミング&eスポーツ地区”に戻そう。

 前述のように東京ドーム11個分にもおよぶこのエリアの中心をなすのは、もちろんeスポーツ関連施設。5300席を収容し、超巨大なLEDスクリーンを備える世界でもトップ3に入る規模のeスポーツ会場を始めとする4つのeスポーツ大会専用会場と周辺施設により、ここではeスポーツイベントが1年を通じて開催されることになるとのこと。

 もっとも大規模なeスポーツ大会開催時には、この地区全体で7300人もの人々を収容できるそうだ。

 また、イベント開催時だけでなく、常時世界トップクラスのeスポーツチームを受け入れ、最大25のeスポーツチームがトレーニングや競技をしながら生活できるような環境も提供されるらしい。国際的なeスポーツトレーニングセンターとしての役割を持たせる意向である、ということだね。

 それだけでなく、ゲームやeスポーツ業界を代表する30社以上の地域本部を誘致。雇用創出や技術投資を促進する予定でもあるという。eスポーツとゲームに特化した特区的な側面も持たせ、世界的なゲーム開発拠点も目指しているということだろう。

 街並みのデザインも凝っている。発表されているイメージ図によれば、同地区内にはサイバーパンク風だったり、剣と魔法にSFがミックスされた世界観のものだったり、あるいはジャングルのなかの古代遺跡といったイメージだったりと、それぞれにまったく雰囲気の違ういくつものテーマゾーンが設定されている。

世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
キディヤ・シティ“ゲーミング&eスポーツ施設”内に作られる予定のeスポーツ会場イメージ図。

 イメージ図を見ている限りだと、現実世界に構築されたメタバースといった感じ。デジタルだからこそ実現できる空想世界を表現するのがメタバースなら、キディヤ・シティは膨大な予算を持って気合を入れてそれを現実世界に構築しようとしているようだ。

 じつのところ、キディヤ・シティのプロジェクトを持ち出すまでもなく、すでにサウジアラビアはかなりeスポーツに力を入れている。

 同国の政府系ファンドであるPublic Investment Fundは所有するeスポーツ関連企業Savvy Games Groupを通じて世界最大のeスポーツ運営会社の“ESL”やeスポーツプラットフォームの“FACEIT”を買収。“Gamers8”という国際的なeスポーツ大会をこれまでに2022年の夏、そして2023年の夏と2回開催してきた実績もある。

 さらにGamers8を引き継ぐような形で2024年夏からはリヤドでeスポーツ・ワールドカップを毎年開催するという発表も昨年2023年10月にあった。

 ちなみにGamers8の賞金総額は第1回が1500万ドル、日本円にして22億円以上。第2回はその3倍となる4500万ドル、つまり66億円(2024年1月時点)というから、すでに現時点で桁違いの本気度なのだ。

世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
こちらもeスポーツ会場イメージ図。このイメージをどう現実に落とし込んでくるのか、続報に期待したい。

実際にサウジアラビアでeスポーツ大会に参加したネモ選手に話を聞いてみた

 さて、そんなeスポーツ超リスペクトなサウジアラビアに実際に行き、そこで戦ってきたeスポーツ選手にお話をうかがうことができた。前述の“日本・サウジアラビアeスポーツマッチ”に出場した『ストリートファイター6』(当時は『V』)のネモ選手だ。

 ネモ選手によると、そもそもこれは東京ゲームショウ2018の会場で開催された大会で、上位3人が日本とサウジアラビアの親善大会に出られるという話だった、とのこと。ところが新型コロナウイルスの流行などの事情からそれが延び延びになり、2022年の日本・サウジアラビアeスポーツマッチとして結実したという。

世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
日本・サウジアラビアeスポーツマッチの会場として使われたサウジアラビアのリヤド市郊外にあるeスポーツ施設。(写真提供:ネモ選手)

 実際に大会会場に使われたeスポーツ施設に加えて、さらにもうひとつのeスポーツ施設が建設中。さらにリヤド市内のショッピングモールにも、すでに立派なeスポーツ施設があった、とのこと。

 「しかもどの施設も日本と比べると規模がでかい。日本のeスポーツ施設って、規模で言うとカフェやレストランくらいの感じじゃないですか? でも向こうのeスポーツ施設は巨大なスクリーンとひな壇、それに観客席が設えられていて、どこもeスポーツをショウとして多くのお客さんに見せるような作りでしたね。
 eスポーツの大会で海外にも何度も行っていますけど、サウジアラビアはそれらのどこよりも“先”を目指しているんだろうな、と感じさせられました」(ネモ選手)

 2022年の段階でもこの勢いである。キディヤ・シティがどれだけスゴいものになりそうか、だんだんと実感が湧いてくる。

世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
eスポーツ施設の入口から、ちょっと後ろを振り返ったところ。砂漠の中に新たな施設をいろいろ作ろうとしているようだ。(写真提供:ネモ選手)

 ネモ選手としては、ゲームをより多くの人が見られる機会が増えることはとても大事なことなのだという。確かに野球やサッカーを考えてみれば、実際にプレイする人が応援するだけのものではない。プレイするより遙かに多い“見る専門の人”がいるからこそ、産業の規模として大きなものへと育っている。

 その点、キディヤ・シティの“ゲーミング・eスポーツ地区”に関しては、かなり期待しているとのこと。

 「イメージ図を見ると、まるでゲームの中に入り込んだような体験ができそうですよね。いろいろな施設の待ち時間にeスポーツの試合が観戦できるようになっていたりとか、そういう工夫がありそうで、そこに期待したいですね」(ネモ選手)

 当時のネモ選手は、とくに会場となった砂漠の中のeスポーツ施設を見て、「ラスベガスみたい」と感じたそうだ。砂漠の中に突然と現れるeスポーツ施設。言われてみれば確かにラスベガスとイメージとして通じるものがある。

 カジノをゲームとeスポーツに置き換えたラスベガス。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子がリヤド市の郊外に作ろうとしているのは、まさにこれなのかもしれない。ネモ選手の話を聞いているうちにそんなことを思った。

世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
これはリヤド市内で2022年当時すでに稼動していたeスポーツ施設。日本では東京ゲームショウなどの大きなイベントにおける特設会場でもあまり見られないレベルの、大きく立派な施設。(写真提供:ネモ選手)
世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷
これはネモ選手が市内観光をしているときに撮影したという1枚。ひとつ前のeスポーツ施設にしてもそうだけれど、光りの色使いや空間の使いかたが、キディヤ・シティのイメージ図とけっこう近く感じられる。(写真提供:ネモ選手)

ネモ選手(根本直樹)

世界初のゲームとeスポーツの“街”がサウジアラビア“キディヤ・シティ”に2024年に誕生。“ゲーミング&eスポーツ地区”は、まさに砂漠の中に生まれる桃源郷

 『ストリートファイター6』をメインに活動しているプロゲーマー。
 JeSU認定プロライセンス所持者。“Saishunkan Sol 熊本”の所属選手。2018年~2021年3月まで世界有数のeスポーツチーム“Team Liquid”に所属しつつ、会社員としても働く“社会人プロゲーマー”として活動し、数々の戦績を残す。現在は、専業プロゲーマーとしての選手活動はもちろん、eスポーツ事業や後進育成など、活動の幅を広げて多方面で活躍中。

‐おもな実績

  • Capcom Pro Tour Online:Asia East スト5AE 優勝 (2019)
  • ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2019 準優勝 (2019)
  • ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2020 優勝 (2020)
  • Capcom Pro Tour Online:Asia East スト5AE 優勝 (2021)
  • 日本・サウジアラビア e スポーツマッチJAPAN ROUND ストリートファイターV部門日本代表 優勝 (2021)
  • ストリートファイターリーグ: Pro-JP 2021 (2021)