ファミ通.comの編集者&ライターがおすすめゲームを紹介する企画。今回はPCゲーム『8番出口』を紹介する。
【こういう人におすすめ】
- お手軽なプレイ時間&値段でホラーゲームをやりたい人
- ホラーゲームをこれからやってみたい人。ホラー初心者
- 観察力や注意力に自信がある人
友野辰貴のおすすめゲーム
8番出口
- プラットフォーム:PC(Steam)
- 発売日:2023年11月30日
- メーカー:KOTAKE CREATE
価格:470円[税込]
備考:ダウンロード専売
8番出口
見つからない異変。加速する疑心暗鬼
突然のスタンド攻撃や念能力者の奇襲、呪霊の生得領域、鬼の血鬼術、永遠の悪魔の仕業でもなんでもいい。とにかくあなたは怪奇現象に巻き込まれておりかなりヤバい状況。無限に続く地下通路に捕らわれている。
そんな不気味な場所から一刻も早く脱出しなくてはならない。それがウォーキングシミュレーター『8番出口』だ。担当編集者から「“2023年にやり残していませんか?”というテーマでゲームをおすすめするなら?」と聞かれ、これが思い浮かんだ。
配信界隈などでも盛り上がりを見せた本作。プレイする様子を観るのが楽しいのはわかるが、やはり自分でその“違和感”を味わってほしい。それほど感心させられるゲームだから。
ゲーム内容は非常にシンプル。地下通路をよく観察し、異変がなければそのまま進み、異変があれば戻る。ただそれだけ。異変ナシ→順行、異変アリ→逆行の○×ゲームみたいなものだ。
異変アリナシの判断が正解ならスタート地点にある指示看板の数字が変化する。0から始まり最後の8をクリアーするまで、連続で正解すれば脱出できるというわけだ。
異変があるのに直進したり異変がないのに戻ったりすると、出口の番号は0に逆戻り。なかなか進まない数字が「このまま出られないのでは?」という不安や焦りを呼び、不穏さの表現に一役買っている。
通路で目にするのは、出口の方向を指す指示看板をはじめ、広告やドア、禁煙の張り紙、点字ブロック、そして向こうから歩いてくるおじさんなど。何が異変になるのかは完全にランダム(だと思う)。注意深い観察力が試される。
詳細はネタバレになってしまうため明かせないが、「これ絶対異変だろ!」とすぐわかるものから「なんかおかしくない?」と違和感を覚える程度のものまで、異変の内容はさまざま。
とはいえ、絶対にわからないと諦めるようなものはなく、直感的に気付いた瞬間の気持ちよさを感じられるからおもしろい。見比べてもわからないサイゼリヤの間違い探しみたいにはなっていないので安心してほしい。
発見できた異変は完全クリアー(異変の全発見)まで出てこなくなる。結果として見つけづらい異変が残ることになり、それが本作の絶妙な難易度につながっている。
初見ではなかなか気付かないであろう異変もたびたび出現する。おかしな点が見当たらず「異変ナシ!」と自信満々に進んだら数字が0になってしまうことも多々あった。ありすぎて以下のチェックリストを作った。
□禁煙マーク
□点字ブロック
□広告
□ドア
□指示看板
□おじさん
□防犯カメラ
□防犯カメラ作動中!(の張り紙)
これなら安心。意気揚々と足を踏み出したのもつかの間、入念な準備を一瞬で突破してくるのが本作である。
筆者「広告ヨシ! おじさんヨシ! 防犯カメラヨシ! ドアヨシ! 異変ナシ! 進もう!」
↓
看板「0」
↓
筆者「は?」
何度この流れに苦しめられたことか……。
これが『8番出口』の魔力。完全に疑心暗鬼でなる。「おじさんのシャツが違うような気もするなぁ」とか「おじさんってこんなにハゲてたっけ?」とか、存在しない異変があるように思えて引き返してしまうのだ(とりあえずおじさんを見つめるのはあるあるだろう)。
もちろん異変がないのに引き返すのはNG。
結局、脱出に成功したのはプレイ開始から1時間後。Steam配信ページによると15分~60分とのことなので、少し時間がかかった(?)ぐらいだろうか。足りないのは注意力・観察力か、それとも自分を信じる心か、あるいは両方か。筆者にはどちらも足りなかったようだ。
不気味さ際立つリアルな風景
リミナルスペース(不気味さや奇妙さを覚える不思議な空間を指す言葉)や短編ホラー『バックルーム』にインスパイアされた本作。Steamでは短編ウォーキングシミュレーターと銘打っているが、ぶっちゃけホラーゲームだ。
よくありそうな地下通路にも関わらず、そこいるのは自分とおじさんだけ。ふつうなら大勢の人がいる場所に人気がなく、自分の足音と「ジジジッ……」という電灯の音だけが聞こえるあの雰囲気。夕暮れの学校でこんな不気味さを味わったことがあるような……と、漠然とした恐怖がフラッシュバックする。
Unreal Engine 5による映像表現が恐怖をさらに強調。実写のような情景だからこそ、ありえないことが起きると「いまなにが起きた?」と混乱する。
多少はプレイヤーをビビらせる異変も現れるため、プレイ中の緊張感は半端ない。めちゃくちゃ怖いということはない(かもしれない)が、恐怖が顔をちらつかせ、背筋を冷たい風がなでる。マウスを握る手には汗がにじみ出る。「プレイしないとわからない」と説明するのはライターとして少々恥ずかしいのだが、実際にそういうが不気味さが漂っているのである。
ゲームに集中しすぎたせいか、筆者は現実の地下通路を歩くのが少し怖くなった。『学校の怪談』を読んだ後に“使われてないトイレ”や“屋上への階段”の存在を意識するとぞわっとする、子ども特有のあの感覚と同じかもしれない。本作と似た場所に偶然立ち入り、そこに人がいなかったら、筆者は謎のおじさんを探してしまうだろう。
このリアルさこそが、“8番出口”という単語そのものがある種のネットミーム化した理由のひとつ。斬新でシンプルなゲーム性が功を奏して、ライトゲーマー層に広まったのも大きい。“脱出不可能な地下道『8番出口』は実在する”という都市伝説として広まる日もそう遠くないだろう。あるいはもうすでにあるのかもしれない……。
脅すように書いてしまったが、めちゃくちゃ怖いわけでもない。ホラーが苦手な筆者えもプレイできたほどであり、470円[税込]と価格もお手頃。怖いもの見たさでやってみたい人にはかなりおすすめだ。観察力、注意力、そして自分を信じる心が試される『8番出口』で、ぬぐえない不気味な雰囲気をぜひ味わってほしい(そして筆者と同じように地下通路が怖くなってほしい)。
『8番出口』Steamストアページ