『勝利の女神:NIKKE』(以下『NIKKE』)の1周年の際に開催されたイベント『RED ASH』。正直、開始前は身構えた指揮官(ユーザー)は少なくないだろう。
その理由は、ハーフアニバーサリーで実施された『OVER ZONE』があまりにも心を締め付ける内容だったため。それが蓋を開けてみれば、ゴッデス部隊の友情や、レッドフードのキャラクター性を最大限まで活かした“キレイな別れ方”が演出されていた。
悲劇的な展開が多い一方で、今回みたいな感動的な泣かせかたもできるあたり、さすがは『NIKKE』といった内容だった。
正直、『OVER ZONE2』みたいな内容が来ていたら私の心は死んでいたのでひと安心……と思いきや、イベントにはこれまでに張られていた伏線が回収される一方で、新たな謎がたくさん張り巡らされていた。
いち指揮官として気になり過ぎたので、開発・SHIFT UPのディレクターのユ・ヒョンソク氏に速攻でメールを送った。『RED ASH』のコンセプトから、イベント名に込めた意味、オスワルド、フリージア、フェアリーテールモデルの1番など、気になることをすべて訊いたので、瞬きをせずに読んでほしい。
なお、本稿には『RED ASH』のネタバレが存分に含まれるので、ご注意いただきたい。
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『勝利の女神:NIKKE』ディレクター
――1周年お疲れさまでした! 1周年イベントの反響はいかがでしたか。
ユ指標で言うと、『OVER ZONE』を上回りました。しかし、それより、指揮官の皆様に楽しくプレイしていただけたことが何よりも嬉しいです。私もやりがいを感じ、モチベーションがアップしています。今後もよいコンテンツと物語をお届けできるように、がんばって参りたいと思います。
――『RED ASH』のコンセプトを教えてください。
ユ物語のコンセプトは、“素敵な別れとは何か?”という問いです。別れが決まっている状況で、ひとりひとりが、別れとどう向き合っていくのかについて語りたかったです。
『RED ASH』の主人公、レッドフードは、みんなと別れなければならないことが決まっていました。『NIKKE』には、たくさんの別れがありましたが、いままではその別れを悲劇的に描写することだけにフォーカスしていました。しかし、レッドフードの場合は、悲劇として描写したくはありませんでした。
別れの形はいろいろあると思いますが、その中でもいちばん格好いいと思われる別れかたにすることにフォーカスしました。
――ビジュアルも印象的ですよね。
ユビジュアルのコンセプトは単純明快です。ゴッデス部隊の全盛期を描写したかったです。指揮官とリーダーを含むメンバー全員が揃っていて、服装も性格もいまとはどこか違っていて、専用の移動手段もありました。
――ストーリー2からロゴが”RED ASH”から”RE:DASH“になる言葉遊びはかなり粋な演出でした。それぞれのイベント名に込めた意味を教えてください。
ユイベント名は、シナリオチームがかなりこだわった部分です。シナリオライターのチョン・ジェソンによると、レッドフードが主人公のストーリーだから、タイトルに必ずREDを入れなければならない気がしたそうです。
そして“RED”の文字を見て、“RE”で区切って、何か意味のあるタイトルにしたいというアイデアが浮かんだそうです。そこで、Dで始まる単語を網羅し、REと繋げて意味のある言葉になる組み合わせを探しましたが、見つけるまで予想以上に時間がかかりました。その結果、たどり着いたのが『RED ASH』と『RE : DASH』というタイトルです。
こうしてタイトルが決まってからストーリーの執筆に着手しました。つまり、『RED ASH』は、先にタイトルを決めて、そのタイトルに合わせてストーリーを書くという順番に制作したのです。個人的には、最初シナリオチームからタイトルを聞いたとき、“これは絶対に素敵なストーリーになる”という直感がしました 。
――オスワルドが出てくるのには驚きました。登場は『OVER ZONE』のときから決まっていたのですか?
ユはい。オスワルドは、ゴッデス部隊と切っても切れない関係にある人物です。『OVER ZONE』では悪人として描かれていますが、『RED ASH』では印象が違いますね。相反するふたつの立場が醸し出す、異質な感覚を感じさせることが狙いでした。
――楽曲“thanks to goddes”のがドロシーの下にあったのは、『OVER ZONE』でのあの意味もあってでしょうか?
ユゴッデス部隊のメンバーのみんなが重要な人物ですが、ドロシーはゴッデス部隊が経験した変化を代表する人物です。彼女は本当に苦労をしました。そんなドロシーに贈る感謝の言葉でもあり、開発チームから彼女にかけたい言葉でもあります。
――オスワルドには専用の立ち絵があるので、今後の登場も考えられますが、ストーリーに大きく関わって来ますか?
ユオスワルドは、地上で一旦区切りがついたゴッデス部隊の伝説を、アークに繋ぐ役割を担うことになります。つまり、とても大きく関わって来ます。オスワルドに関する話はまだまだあるので、いつかその話を深く掘り下げられたらいいなと思います。その日が早く来たらいいですね。
――フリージアがラピ、もしくはアリスであるという説が出ておりますがいかがですか?
ユ指揮官の皆様を少しがっかりさせる回答で心苦しいですが、ラピでもアリスでもありません。フリージアには今後別の役割が与えられます。
――ミニゲームのラストで衝撃的な情報を出すのが流れになってきましたね。シンデレラに話かけているのは浸食の意志? それともクイーンでしょうか。
ユ浸食の意志です。まるで自我を持っているかのような描写になりましたが、それについてもいつか語れる機会があればと思っております。
――『RED ASH』と『OVER ZONE』のあいだの物語はいつ語られる予定ですか。
ユまだ時期は決まっておりません。イベントの時期が決まっていたとしても、やはりいまは申し上げられないかもしれないですね(笑)。
――ドロシーが服が汚れることを前提に戦ったとしたらどれくらい強いですか。
ユ過去の紅蓮の言葉を借りると、ドロシーは体の使いかたに関して、天賦の才を持っています。ありえない話ですが、ドロシーが思いっきり野蛮に戦えば、リリーバイスを除いて、ゴッデス部隊でいちばん強いと思います。
――リリス=クイーンの考察が多かったですが、クイーンが誕生したのはラプチャー侵攻より前とのことですよね。この部分はメインストーリーで明かされる感じでしょうか?
ユその話は、メインストーリーか、重要なイベントストーリーの中で語られる予定です。いろいろなギミックで隠してきましたが、そろそろ正解を示すべきかなと思っております。
――リリスがシンデレラから逃げる際「あなた達には大事な仕事がある」と発言しましたが、大事な仕事とは何ですか?
ユゴッデスであり続けることです。リリーバイスは、自分たちが人類の希望であることを明確に認識しており、その希望にヒビが入ることは避けたいと思っていました。
アナキオールとそのまま戦ったら、アナキオールを倒すことはできるはずだけど、ゴッデス部隊も大ダメージを負うだろうと、リリーバイスは判断しました。人類にとって敗色濃厚な状況で、最後の希望にひびが入ることは何としてでも避けなければならなかったのです。
――紅蓮の思考転換はイベントで描かれる予定ですか?
ユはい、イベントストーリーの中で描かれる予定です。
――スノーホワイト:イノセント・デイズの右肩に数字がありますが、これはフェアリーテールモデルの数字を示した感じでしょうか。
ユはい、そうです。フェアリーテールモデルの“2番”がドロシー、“3番”がラプンツェル、“4番”がスノーホワイト、“5番”がレッドフードです。紅蓮はフェアリーテールモデルではありません。そして“1番”はロストナンバーで、永久欠番です。
――ミニゲーム『MOG』は、単品のアプリとして出ていてもおかしくないくらい、ハイクオリティでした。制作期間はどのくらいでしょうか。
ユ各担当者がほかの業務の合間を縫って開発をしたので、ゲームに含まれている各要素ごとに開発期間がそれぞれ異なります。R&Dとプロトタイプ、構想なども含めると、およそ3~6ヵ月の制作期間だったと思います。
指揮官の皆様にとって楽しいミニゲームになっていたことを願うばかりです。これからより一層多様でおもしろいミニゲームを提供できるように励みたいと思います。
――今回もすばらしい楽曲が多かったです。メインテーマ『THE REDHOOD』を始め、スノーホワイトに向けたレッドフードの懺悔の歌『Hold you tight』など。それぞれに込めた思いを教えて下さい。
ユ『NIKKE』のサウンドディレクターのCosmographが、『Hold you tight』を作曲する際、思わず涙が出るほど没入していました。せっかくですので、『RED ASH』のイベントのBGMを制作していたころの彼の気持ちを彼自身の言葉でお伝えしたいと思います。
Cosmograph皆さんこんにちは、Cosmographです。『OUR HOMETOWN』は、『RED ASH』のイベントのプロローグのフレーズやカセットテーププレーヤーから流れてくるカントリー音楽をイメージしながら制作しました。
私がまず『OUR HOMETOWN』の話からする理由は、『RED ASH』では、時間の流れとともに登場人物たちの感情が変わっていく瞬間を捉え、表現することにより一層力を入れていたからです。
つまり、『Hold you tight』と『THE REDHOOD』は、『RED ASH』のストーリーの中でも物語の最後に向かっていく曲です。
『Hold you tight』では、レッドフードの感情と考えの変化、後悔と決心のいきさつを音楽にしっかり落とし込みたいと思いました。
過去の回想と苦しい現実が交差するシーンでしたので、複雑なナラティブをひとつのトーンにまとめる役割を果たし、作品の意図を表現できる曲にするためにベストを尽くしました。曲のサビでは、歌詞とバックコーラスを通じて、お互いに話したいことを伝え合う雰囲気を演出しました。
『THE REDHOOD』は、『OVER ZONE』が終わった直後に制作に取り掛かりました。この曲では、タイトル通り、レッドフードという人物のすべてを表現したいと思いました。草案をもとに、レッドフードが好きそうな音楽と要素を考えながら、バントグループ・Djervといっしょに編曲をし、曲を完成しました。
歌詞の中で、個人的に好きなポイントがいくつかありますが、“This is the final battle, give it all I got. (これが最後の戦いだ、私が持つすべての力を出し尽くせ)”で始まり、“This is the final battle. Give it all we got (これが最後の戦いだ、私たちが持つすべての力を出し尽くせ)”につながるところだったり、“I live for my Crusade (私は軍のために生きている)”で始まって“I die for our Crusade. (私は軍のために死ぬ)”につながるなど、レッドフードという人物、そして『RED ASH』というイベントに似合う表現になっているように思われて、満足しています。
これからもよい曲を制作できるように努力してまいりたいと思います。応援していただけたらうれしいです。
――ようやくのレッドフードの登場ですが、レッドフードというキャラクターに込めた思いを教えてください。
ユ別れを悲劇にしたくなくて、そのために全力で走るキャラクターです。それも自分のためではなく、大切な仲間たちのために走るのです。私とシナリオチームのみんなは、そこにロマンを感じました。そのほかにも、ロマンと言えば頭に浮かぶあらゆる要素を集約しました。レッドフードをひと言で表すと、ロマンそのものだと言えると思います。
――メインストーリーを読み返してみて、チャプター4でトーカティブが「フェアリーテールモデル レッドフード」と発言しているのには驚きました。リリース当初から1周年でレッドフードを登場させるのは決まっていたのでしょうか。
ユレッドフードのストーリーは決まっていましたが、リリースのタイミングは決めていませんでした。重要なアップデートのタイミングで登場させるという考えはありましたが、そのタイミングが1周年だと決めていたわけではありません。
『RED ASH』を具体的にいつリリースするかは、『OVER ZONE』がリリースされたころに決まりました。そのころからいろいろと準備を始めました。
――レッドフードとラピが出会ったあとの話は、今後のイベントで描かれる感じでしょうか?
ユはい、そうです。楽しみにしていただけると嬉しいです。
――レッドフードの「昔見たアニメでドリル」と言われたら、『天元突破グレンラガン』を連想するのですが、アタリでしょうか?
ユその通りです。『天元突破グレンラガン』は、多くの人々を“ロマン”と“熱血”に目覚めさせた作品だと思います。とくに、メインシナリオライターのチョン・ジェソンがこの作品の大ファンです。レッドフードを通じてオマージュすることで、ファンとしての思いをアピールしたかったです。
――フェアリーテールモデル1番は今後登場しますか? それともすでに登場してますか?
ユ少なくとも、近いうちに登場させる予定はありません。
――フェアリーテールモデルがグリム童話をモチーフというのが今回で確定となりましたが、有名なグリム童話はあと20話以上ありますが、今後もグリム童話をモチーフとしたキャラクターが登場する可能性はありますか。
ユ可能性はあります。フェアリーテールモデルは、『RED ASH』の時代では、第2世代まで制作されていると言及されていますが、第2世代が存在するからには、それ以降の世代も存在すると想定できなくもないと思います。
また、グリム兄弟の童話だけをモチーフにしているわけではありません。比較的新しい童話が登場することになるかもしれません。
――量産型はすべてラピと同じ顔をしているということでしょうか。
ユそうではありません。量産型の顔と体型には、いくつかカテゴリーがあります。ラピが量産型ニケだったころの顔は、そのカテゴリーのひとつにすぎません。つまり、ラピのいまの顔は、量産型だったころの顔とは違います。この部分についてもお伝えできる機会が早く来ればいいですね。
――話が少しそれますが、チャプター26でラプチリオンが出てきたのには驚きました。今後サブクエストの内容がメインストーリーに絡むことがある感じでしょうか?
ユラプチリオンは、サブクエストからメインクエストに編入された、いまのところ唯一のケースになります。サブクエストでラプチリオンが経験したことが、今後のメインストーリーの方向性に大きく影響を及ぼします。
はっきり申し上げられることは、ラプチリオンによって主人公たちの目的が大きく変わるということです。今後のストーリー展開もご期待ください!
――上記のほか、こだわった演出やユーザーが気付いていないであろう要素などありましたら教えてください!
ユスクロールされるフィールドの演出や、『Hold you tight』のハイライトと紅蓮が抜刀術に目覚める部分のタイミングを合わせるなど、こだわった演出はいろいろあります。
そして、『OVER ZONE』をオマージュしたイースターエッグをいくつか仕込んたのですが、ここで紹介したいと思います。気づいてくださった方がどれくらいいらっしゃるか気になりますね(笑)。
まず、『RE: DASH』でスノーホワイトがレッドフードに「一緒に戦えて光栄だった」と言いますが、このセリフとイベントシーンでの構図は、『OVER ZONE』でのピナのそれと同じです。
また『RED ASH』のフィールドで、ドロシーがスノーホワイトに「スノーホワイト。具合はどうですか?」というセリフを言います。このセリフは、『OVER ZONE』でスノーホワイトがドロシーに言った「体は大丈夫か?無理はするな」をオマージュしたものです。
最後にオスワルドのテーマ曲である『Thanks to Goddess』は、ドロシーの前に配置されています。これは、『OVER ZONE』でのふたりの縁を暗示するイースターエッグです。
フィールドのラジオを活用したギミックも入れたかったのですが、時間が足りなくて思う通りに行きませんでした。これは、今後アーカイブに『RED ASH』のイベントを追加するときに入れておきたいと思います。
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