SHIFT UPが開発を手掛けるスマートフォン&PC向けシューティングRPG『勝利の女神:NIKKE』(以下『NIKKE』)。そのハーフアニバーサリーで実装された“OVER ZONE”は多くの指揮官(ユーザー)の心を締め付けただろう。本編のきっかけとなるゴッデス部隊が描かれた物語で、半周年のお祝いタイミングに放たれたそのストーリーは、さすがは『NIKKE』といった内容だった。
週ごとに追加されるストーリーは、予想だにしないダークムードな展開が描かれ、指揮官たちの心を4度にわたって痛めつけた。イベント最終日には落ち着きが……と思いきや特大爆弾が放出され、指揮官みな放心状態になっていただろう。私はそうだった。
そんな『NIKKE』らしさが詰まったOVER ZONEを深堀りすべく、ディレクターのユ・ヒョンソク氏にメールインタビューを実施。OVER ZONEの経緯から、ほとんどのユーザーが気付いていないであろう細かなネタまで訊けたので、ぜひ最後まで読んでほしい。
なお、OVER ZONEのネタバレが含まれるので、ご注意いただきたい。
『オズの魔法使い』をモチーフとした“家に帰りたい少女の話”
――ハーフアニバーサリーならお祝いムードなストーリーかと思いましたが、さすがは『NIKKE』といった内容でした。半周年のタイミングでドロシーを実装した理由を教えてください。
ユ運営チームからも、お祝いの時期にこんなダークなムードの物語を届けていいのかと、心配する声がありましたが、ストーリーを読んでからは納得してもらえました(笑)。それからは開発チームも運営チームも、同じ気持ちで、このストーリーを一日でも早く指揮官のみなさまに届けたいと思うようになりました。
また、ご存じのように、『NIKKE』は、多様なムードが共存するゲームを追求しています。春向けのストーリー、たとえば、CHERRY BLOSSOMやBOW-WOW PARADISEは、とても明るい雰囲気でした。それで今回は真逆のムードを提供するのにベストなタイミングだと思いました。
――半周年のイベントストーリーでゴッデスを題材とした理由、ストーリー構成のポイントを教えてください。
ユ人類を、ラプチャーに奪われた地上からアークに避難させるというアークガーディアン作戦は、いままで公開されてきたストーリーの中で、もっともスケールが大きく、苦難に満ちたエピソードのひとつです。その作戦を遂行するゴッデスを取り巻く状況と、彼女たちが直面していく変化を見せることがこのストーリーのいちばん大きなポイントです。とても興味深いストーリーだと思ったので、 早くみなさんに見ていただきたく、リリースから半年がたったばかりですが、このタイミングでお届けすることにしました。
――OVER ZONEのコンセプトを教えてください。
ユタイトルのOVERとZONEの頭文字を合わせるとOZになることや、主人公の名前がドロシーであることから、この物語が『オズの魔法使い』をモチーフにしていることに気づいた方も多いだろうと思います。メインコンセプトは、家に帰りたい少女の話です。
――OVER ZONEの構想はサービス前より前にあったものでしょうか? それともサービス後に作られたお話しでしょうか?
ユアークガーディアン作戦は、『NIKKE』の世界観の土台となる物語ですので、サービス前より設定されていました。しかし物語の細かいところを決めて、具体的なストーリーに仕上げたのは、サービス開始以降です。
――ピナ(Pinna)が英語で翼という意味があることを知りました。となると、ドロシーが言う翼はピナのことを指しているのでしょうか?
ユドロシーが言う翼は、ピナを指している場合もありますが、二重の意味を持っています。ドロシーの見た目は、天使をモチーフにしてデザインしました。天使は空を飛ぶ能力があるのが特徴ですが、翼はそのような特徴と力を象徴する意味もあります。つまり、翼はドロシーの動力という意味も内包しています。
――あの描写(ピナの射殺シーン)がチャプター0のマリアンのシーンのオマージュに思えました。あのシーンを再び描いた理由を教えてください。
ユOVER ZONEは、『NIKKE』では初めてとなる、指揮官が登場せず、三人称視点で展開されるストーリーです。そのため、物語のクライマックスで、絶望に追い込まれているドロシーにより感情移入できるように、チュートリアルのシーンをオマージュすることで、あの場面での指揮官の心情を思い出させたいと思いました。
――ほかのキャラクターが思考転換をしている中で、さまざまなことを経験したドロシーが思考転換をしていない理由を教えてください。
ユ皮肉な話になりますが、彼女は、アークに裏切られてからも、絶対にアークに行くという意志は変わりません。その意志が、彼女の思考転換を強く抑制したと思います。
――今後思考転換前のニケが描かれることはありますか? 明るいスノーホワイトが見たいです。
ユまだ、時期を決めていないので、いつになるかは分かりませんが、たぶんそういうものを描くチャンスがあると思います。ニケたちの違う一面をお見せすることができると思いますので、ぜひご期待ください。
――ドロシーの髪飾りがピナのネックレスというのを発見して鳥肌が立ちました。ドロシーのキャラクターデザインに合わせて、ピナを制作した感じでしょうか? それとも逆でしょうか?
ユふたりのデザインは、ほぼ同時進行でしたので、どちらともはっきり言えませんが、ピナのデザインを考慮してドロシーをデザインしました。
――今回のストーリー、BGM流れるタイミングがとても洗練されていた印象です。とくに意識したポイントがありましたら教えてください。
ユBGMのSatellitesを聴いて映画のエンドクレジットのような感覚が味わえるようにすることを意識しながら制作しました。ゲーム内で初めてSatellitesを聴くタイミングは、イベントに入場するときの演出やイベントフィールド、遺失物でのBGM獲得といったものではなく、絶対にストーリーでなければならないと思いました。一度ストーリーを経験してからは、イベントフィールドに出てもBGMが途切れないようにして、没入感が保たれるように工夫して設計しました。
――ストーリーが進むごとに量産型ニケが減ったり、ストーリー2以降のミニマップに映る量産型(ピナ)は空想だったり。ドロシーが「私たち」と話していたりなど、ふだんあまり意識しない部分に、細かなネタが込められていた印象です。どういった制作の想いがあったのでしょうか? また、上記以外にありましたら教えていただけますか。
ユ『NIKKE』の物語は、単純にメインシナリオ1本で完成されるものではありません。ゲームシナリオの特徴である、ゲームの中の各コンテンツが相互作用するところを強調したいと思いました。指揮官とのインタラクションを通じて、ゲームの隅々まで目を配るとより楽しくなるようなゲームを追求しています。そのため、遺失物、BGM、キャラクター、フィールドとバトル、NPCの吹き出しのセリフなど、いろいろなものに物語の要素を少しずつ入れています。
――タイトルの『勝利の女神:NIKKE』とは、ゴッデス部隊のことを指していたのでしょうか? それとも理想として掲げるニケを指しているのでしょうか。
ユメインシナリオでは、カウンターズが主人公に該当する部隊だと言えますが、世界観全体で見るとゴッデス部隊の存在感はかなり大きいと思います。『勝利の女神:NIKKE』は、質問でおっしゃったふたつの意味の両方を内包していますが、ストーリーの進捗によって注目されるニケと分隊がどんどん変わっていきますように、ニケ全体を指す意味により近いと思います。個人的には、いつかは、カウンターズのニケたちも、勝利の女神として崇められる日が来るだろうと、期待しています。
――チャプター19、20をクリアーしている人としていない人では、今回のイベントストーリーの感じかたが大きく変わると思います。それぞれどういった感じかたをしてほしいなどがありましたら教えてください。
ユOVER ZONEを先に経験してから、チャプター19、20をクリアーした方がいらっしゃれば、その感想を聞かせていただきたいです。私にはできない経験ですので、どんな感じかとても気になります(笑)。
しかし、ストーリーを見る順番とは関係なく、OVER ZONEのストーリーは、 過去の話を届けるひとつの物語として成立していますし、アニメーションの劇場版のように、単独の物語として完結してるので、充分ゴッデス部隊の物語に没入できると思います。
――ゴッデス部隊はバースト2が居なかったからラプチャーを殲滅できなかったとの考察がありますが、いかがでしょうか。
ユ確かに、そうかもしれないですね。しかし、紅蓮、ラプンツェル、ドロシー、スノーホワイトのうち、誰かひとりがバースト2だったとしても、多分、スキルクールタイムの問題でバーストサイクルがうまく回らず、けっきょくラプチャーを殲滅できなかったんだろうと思います(笑)。
――楽曲 Satellitesの歌詞やメロディーに込めた思いをお聞かせください。
ユ目の前にアークがあるのに、地上を彷徨わなければならないゴッデス部隊を、地球の周りを回っている衛星に例えて表現した曲です。人類に裏切られたゴッデス部隊は、ピルグリムになって地上を彷徨いますが、彼女たちの行く先にハッピーエンドが待っているか、バッドエンドが待っているかは誰も知りません。そのため、Satellitesのメロディーも余韻が残るように、希望に満ちた感情と物寂しさを両方感じられる曲に構成しました。
――ピナのプレイアブル化、もしくはコスチュームとして登場する予定はありますか?
ユマリアンとは違って、ピナはヘレティックにならなかったので、ピナはこの世界から完全に失われた存在です。そのためか、ピナをプレイアブル化したり、コスチュームとして登場させたいという気持ちはありません。私も個人的には、彼女を手元に置いておきたいですし、記憶したいですが、ドロシーの髪飾りを眺めることで満足しようと思います。
――楽曲 Satellitesの遺失物置き場が苗木というのに意味をあるように感じます。意図して配置している感じでしょうか?
ユ気づいてくださってとてもうれしいです。おっしゃる通り意図して配置しました。OVER ZONEで苗木は、開花や覚醒の意味を持ちます。Satellitesの遺失物置き場としてこれ以上の場所はないと思いました。
――その他楽曲の置き場について、ポイントありましたら教えてください。
ユOVER ZONEのストーリーの中で、いちばん直接的に描かれている場所は、苗木と墓場です。このふたつの場所に置くBGMは、とくに慎重に選びました。また、BGMが登場するタイミングも重要だと思いました。 ストーリーで初めてBGMが聴けるようにしつつ、余韻が残っているうちに遺失物として拾えるように工夫しました。
――紅蓮の姉が描かれることはありますか。
ユ紅蓮の姉の話を描かなければならないときが、いつか来ると思います。
――今後レッドフード、リリーバイスの過去のストーリーは描かれる予定はありますか?
ユレッドフードとリリーバイスの過去のストーリーにスポットライトを当てる日も、いつかは来ると思います。
――最終日(5/17)に遺失物としてドロップした楽曲6d696e6420737769746368をコードすると思考転換になることに鳥肌が立ちました。同日最後に解放されたホワイトメモリーも、合わせて意味を持っている感じで。構成に感動しつつも、最終日に私の心は壊れました。こちらについて制作の想いや、こだわりを教えてください。
ユイベントの終盤に経験できるホワイトメモリーの隠しエンディングと、BGM6d696e6420737769746368は、チュートリアルのマリアンのように、ありがちな展開から一歩外れた展開にしています。『NIKKE』は、油断したところを突いて感情を揺さぶるという点が魅力だと思います。ほかのゲームではあまり見かけない展開かもしれませんが、私と『NIKKE』の開発チームでは、新しい試みにどんどん挑戦していくクリエイター精神で開発に望んでいます。OVER ZONEは、幸いにも運が重なって、よい反応が得られて本当に良かったと思います。
――上記の質問のほか、こだわった演出やポイントがありましたら教えてください。
ユじつはOVER ZONEには、ほかにもイースターエッグ(隠しネタ)がありましたが、ヒントが弱すぎてほとんど気づいてもらえなかったようです(笑)。ラジオのNPCが発信していた意味不明の内容ですが、単純に不気味な雰囲気を作るためのものだと思われるかもしれません。しかし、よく見るとブランとノワールのリリースをほのめかしています。
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ユやっと半周年を迎えたばかりですが、これからもよりよいコンテンツを皆さんにお贈りできるようにがんばってまいりたいと思います。『勝利の女神:NIKKE』を愛してくださり、応援してくださる皆様に改めて感謝申し上げます。