Valveは2023年11月9日、ポータブルゲーミングPC『Steam Deck』有機EL(OLED)モデルを発表した。HDR OLEDディスプレイを採用し、バッテリー持続時間が30~50%向上し、1TBモデルが登場するなどのアップデートがなされている。

 本モデルの発表にあたりValveで『Steam Deck』の開発に携わるピエール=ルー・グリフェ氏にインタビューができる機会があったのでその模様をお伝えする。

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ピエール=ルー・グリフェ

Valveのさまざまなハードウェアを手掛けるエンジニア。過去にSteamコントローラや、Steam Machineにも携わる。

最初から有機ELで出したかった

――今回さまざまな機能をアップデートした有機ELモデルを作ることになった経緯を教えてください。

ピエール最初から『Steam Deck』は有機ELモデルとしてリリースしたかったのですが、コストやスケジュールの問題で実現できませんでした。有機ELモデルとしてリリースするにあたっては、ユーザーからの要望が多かった点などもアップデートしつつ製品化しました。

――HDR対応は、もともとハイスペックPC向けのゲームを多く取り扱っているSteamならではの仕様でしょうか?

ピエールHDRに対応すること自体がメインではなく、よりよいディスプレイを提供するにあたって付随してきたというイメージです。既存のPCゲームが持っているHDR機能をサポートしていますが、それ以外のゲームでもキレイに表示されるディスプレイとなっています。

――この有機ELモデルで遊ぶにはどんなゲームがおすすめでしょうか?

ピエールどのゲームもキレイに表示されますが、個人的にはビビットな色合いの『Dead Cells』や、HDRでネオン輝くグラフィックを楽しめる『サイバーパンク2077』がおすすめです。

『Steam Deck』有機ELモデル開発者にインタビュー。在庫は潤沢? バッテリーの持ちは? 次世代機の発売はいつ?
ピエール=ルー・グリフェ氏。
『Steam Deck』有機ELモデル開発者にインタビュー。在庫は潤沢? バッテリーの持ちは? 次世代機の発売はいつ?
HDRに対応した『サイバーパンク2077』のプレイ画面。

X(Twitter)での日本のつぶやきも参考に

――ユーザーの声をもとにアップデートした点について具体的に教えてほしいです。

ピエールまず、バッテリーについては電力効率がいい有機ELを採用して、バッテリー容量が40Whrから50Whrに増加したことで、バッテリー持続時間が30~50%向上しました。実際にスタッフがアクションゲーム『Bastion』で試したところ、プレイ時間がそれまでの7.5時間から9.5時間になっていました。

 「充電器のケーブルが短くてソファに届かない」というフィードバックをいただいていたので、充電ケーブルを1.5mから2.5mに延長しました。

『Steam Deck』有機ELモデル開発者にインタビュー。在庫は潤沢? バッテリーの持ちは? 次世代機の発売はいつ?
1m伸びただけでこれだけ違う。

 また、「付属の専用ケースがゴツい」という意見も多かったです。製品を発送するときには役立つのですが、大きくてかさばりますからね。なので、ニ層構造で内側を外して薄いケースとして使えるようになりました。薄くなってもディスプレイなどはちゃんと保護されます。

 あと、アナログスティックの仕様が変わりました。指に触れる先端部分の素材が変更されています。液晶モデルは使っているうちに汚れが目立っていましたが、今回はツルツルとした質感の素材になったことで汚れにくくなりました。そのほかにも細かな点でたくさんのアップデートが施されています。

『Steam Deck』有機ELモデル開発者にインタビュー。在庫は潤沢? バッテリーの持ちは? 次世代機の発売はいつ?
上に乗っているのがハードカバーから取り外せる薄型のカバー。
『Steam Deck』有機ELモデル開発者にインタビュー。在庫は潤沢? バッテリーの持ちは? 次世代機の発売はいつ?
『Steam Deck』有機ELモデル開発者にインタビュー。在庫は潤沢? バッテリーの持ちは? 次世代機の発売はいつ?
左が液晶モデル、右が有機ELモデル。スティックの軸が黒くなっている。

――ユーザーの意見はどういったところで収集していますか?

ピエールさまざまな国のテスターや外部のゲーム開発者などに話を聞いて進めました。また、X(Twitter)などでの意見も検索しています。

 日本のコメントも翻訳してしっかりチェックしていますよ。購入を検討する際にサイズ感が気になっている日本の方が多かったみたいでした。なので、『Steam Deck』に触れることができる場所を作りたいと思い、日本の販売代理店のKOMODOと協力してヨドバシカメラやビックカメラの店頭で体験できるようにしました。

――液晶モデルとの互換性について教えてください。開発者向けの変更はないとのことですが、液晶モデルと有機ELモデルで互換性に問題がある部分などは一切ないということでしょうか?

ピエールSteamライブラリにあるものはどれも問題なく動きます。また、専用アクセサリーのドッキングステーションとも互換性はあります。

――米国では機能がアップデートされたにも関わらず、価格が据え置きになる理由はどこにあるのでしょうか?

ピエールふたつ理由があります。ひとつはこれまでの製造工程の中で効率化をしてコストを下げることができたからです。また、『Steam Deck』が成功したことでサプライヤーとの関係がうまくいくようになって各パーツの仕入れ価格が下げられました。さらに、パンデミックが落ち着いて、さまざまな経費の価格が安定したこともあります。

『Steam Deck 2』(仮)は最低でも2年後

――ボディが半透明の限定エディションが米国とカナダで販売予定です。日本で発売されない理由や、今後ブラック以外のカラーが展開されるのかについても教えてください。

ピエールまず2色作るのはとても大変です。今回の有機ELモデルで実験的に半透明のモデルを作りました。だから米国とカナダでの地域限定なのです。継続的に提供できるメドが立てば、グローバルで展開していきたいです。

『Steam Deck』有機ELモデル開発者にインタビュー。在庫は潤沢? バッテリーの持ちは? 次世代機の発売はいつ?
限定モデルのデザイン。赤の差し色がかっこいい。
『Steam Deck』有機ELモデル開発者にインタビュー。在庫は潤沢? バッテリーの持ちは? 次世代機の発売はいつ?

――液晶モデルのときは、日本は後発の出荷になりましたが、今回は11月16日の初回出荷に日本も含まれています。これは大量生産する体制が整ったからでしょうか? また、初回生産台数は十分にありますか?

ピエール最初の発売ではKOMODOとの正規代理店の契約ができていなかったので日本での発売が遅れましたが、今回は契約できているのでほかの国と同時に出荷できます。人気が出て需要が増えたとしても、それに合わせて増産できる製造体制も整えたので安心してください。

――さまざまなPCメーカーがポータブルゲーミングPCに参入していますが、『Steam Deck』の強みはどこだと思いますか?

ピエールほかのメーカーが参入しているということは、『Steam Deck』が成功しているということなのでうれしく思います。レノボが発表した『Legion Go』は、ディスプレイが大きくてコントローラーが取り外せます。同様に、各メーカーでそれぞれの強みがあります。各社が機能をアップデートしあうのとてもいい環境だと思います。『Steam Deck』はパワーの効率よさやPCとしても使えるバランスのよさが特徴です。有機ELモデルではバッテリー寿命、軽量さなどにも力を入れています。

――発表資料に「1代目『Steam Deck』の決定版」という記述がありました。先日の東京ゲームショウでファミ通がインタビューをさせてもらったときは、「メジャーアップデートには2年くらい様子を見たい」というお話がありました。それは今回の新モデルから2年という意味なのですか? それとも発売から2年経ったから今回の新モデルが出たということでしょうか?

ピエールまず有機ELモデルはあくまで最初に出した液晶モデルの進化版、決定版です。メジャーアップデートはまた異なるタイミングで用意しています。ただ、次世代となる『Steam Deck 2』(仮)は、PC市場を注意深く観察してバッテリーなどの技術向上を見つつ、つぎのレベルと思えるタイミングでそれらを取り入れて、作り始める予定です。なので、発表のこのタイミングから最低でも2年はかかると思います。

――最後に日本のユーザーにメッセージをお願いします。

ピエール有機ELのグラフィックに驚いてほしいです。あと、X(Twitter)などのSNSで『Steam Deck』に関する感想や、使ってみてのフィードバックをぜひ投稿してみてください!

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