アクションシューティング『オーバーウォッチ』シリーズや、アクションRPG『ディアブロ』、世界的MMORPGの『World of Warcraft』など、数々の人気タイトルを持つBlizzard Entertainment。そのファン向けイベント“BlizzCon”の会場で、同社プレジデント(社長)のマイク・イバラ氏と共同創業者のアレン・アドハム氏に話を聞いた。

 同社はマイクロソフトによるActivision Blizzard買収の一環として、マイクロソフト傘下になることが正式に決まったばかり。まだ具体的なことは今後の協議次第としつつも、買収後の感触や現状で考えているアプローチ、Blizzard側の哲学などについて語ってくれた。

マイク・イバラ

Blizzard Entertainmentプレジデント。前職ではマイクロソフトでXboxプラットフォームやGame Passなどを担当するコーポレート・バイスプレジデントを務めた。

アレン・アドハム

Blizzard Entertainmentチーフ・デザイン・オフィサー。Blizzardの前身であるSilicon & Synapseの3人の共同創業者のひとり。

ようやくBlizzConが帰ってきた

――まずはおふたりのBlizzardでの役割について教えてください。それぞれどのような部分を担当されているのでしょうか?

アドハム私は共同創業者のひとりとして、友人のマイク・モーハイムとフランク・ピアソンとともに32年と半年前にBlizzardを始めました。最近はチーフ・デザイン・オフィサーとして、我々の開発チームが既存のゲームの開発や新しいものに取り掛かるにあたってどう設計していくか助ける役割をしています。

イバラ私はマイク・イバラ、Blizzardのプレジデントです。幸運なことに、各チームを導くとともに、スタジオ全体を前進させる手助けをする役割を担っています。

――昨日のオープニングセレモニーはいかがでしたか? 単なる形式上の挨拶よりも結構長いスピーチをされていました。感傷的になられているような部分もありましたね。

イバラチームがやってきたことを非常に誇りに思いました。多くの大きな発表がありましたが、よくやってくれたと思います。

 私はよくチームに対して「これ(今回のBlizzCon)こそがBlizzardにとって新たな章の始まりだ」と言っていたんですが、ステージに登壇したみんなが、新章という言葉が意味するもの、より独立したBlizzardとなること、私達のカルチャーや価値や製品やビジョンを示していくんだということに積極的に取り組んでくれたと思います。

 あれこそが、よりポジティブでエキサイティングで機会の開かれたBlizzardになるんだという変化の証だったと思います。なのでみんながやったことを非常に嬉しく感じていますし、各発表もうまくいったと思います。スタッフを誇りに思っています。

アドハム私も同感ですね。少し付け加えるなら、これは4年ぶりのBlizzConということです。年間を通じて私達がやるものの中でもっとも楽しいもののひとつです。

 私達自身もコミュニティの一員であるゲーマーとして自分たちでこのイベントをやるわけで、そこにプレイヤーの皆さんと出会ったり、その姿を目にしたり、話したりする経験は欠かせません。オンラインで多少感じられるものはあってもそこで感じられる熱量は実際にやるのとは大違いです。

 BlizzConでそれを感じることが私達に活力を与えて、次のBlizzConまでやっていく力を与えてくれるんです。皆さんが私達が話したものやお見せしたものに歓声を送ったりしているのを見聞きして、「プレイヤーとともに素晴らしいものを世界に送り出すんだ」ということを思い出して私自身も感傷的になりましたね。

――かつて背景モデリングアーティストとして所属した鈴木卓矢氏に取材した時に「BlizzConのために一年間働いているようなもの」と聞いたのを今でも覚えていますが、そのBlizzConがようやく帰ってきたというわけですね。

イバラプレイヤーコミュニティからは非常に大きなエナジーを感じましたし、すべてのチームが彼らの予測を超えるために集中して取り組んできました。

 初日が終わったあとで興奮するメールを多分50通ほど受け取ったんですが、その内容は4年ぶりにちゃんとBlizzConをやれた、このためにやってたんだというものでした。BlizzConが示す関係性は、単にひとつのゲームやBlizzardという会社にとどまらない、一生続くような関係性です。信じられないぐらい素晴らしいですね。

アドハムプレイヤーのことを大切にし、開発者を大切にすればすべてがうまくいく、そのあらわれのように感じましたね。

マイクロソフト傘下として迎える“新たな時代”

――さて新章という言葉が出ましたが、Blizzardは新しい時代に入ろうとしています。コロナもありましたし、労働環境についての訴訟などもありました。そしてマイクロソフト傘下になりました。会社を率いる立場として、この新しい時代にどうアプローチしていますか?

イバラそうですね、まずチームからは職場文化の改善や製品への投資、あるいは方向性をちゃんと示せているかといった点について進歩を感じられると反応を得られています。

 ではマイクロソフトのことがここにどう繋がってくるかと言うと、オープニングセレモニーでフィル(・スペンサー氏。マイクロソフトのゲーム部門CEO)とも話しましたが、いかに開発チームに力を与えるかということにかかってくるかと思います。

 実際に「どうやってBlizzardを加速させるか」という話もしました。これまで以上に幅広く創造性を育くんでいくにはどうすればいいでしょうか? 私はそれこそがもっと多くのチャンスへの扉を開くと思うんです。

 (Activisionグループ傘下だった買収前と異なり)私は今のBlizzardを独立したスタジオと見ています。スタジオを運営していくにあたってアレンと私はそう意識共有していますし、このことは非常に大きなチャンスと捉えています。

マイク・イバラ&フィル・スペンサー
オープニングセレモニーにゲストとして登壇したフィル・スペンサー氏。イバラ氏が前職からよく知っている間柄ということもあってか、実際はより大きな会社に属することになったにも関わらず、Activisionの一部門からマイクロソフト傘下になったことで独立性を取り戻したと感じているのは興味深い部分だ。

アドハムBlizzardは非常にさまざまな時代を過ごしてきました。最初の頃は非常に小さな開発会社で、Blizzardという名前ですらありませんでしたからね(創業時の名前はSilicon & Synapse)。そしてウォークラフトとかディアブロとかスタークラフトといったゲームのボックス入りパッケージを売る時代があり、『World of Warcraft』で運営系のゲームという新しい時代を開いた。

 それぞれの時代で、私達は適応し進化して、会社として成長してきました。なので私達にとってこれが新しい時代の始まりだと思いますが、それまでの32年間で私達を導いてきたものは変わらないと信じています。

 それは私達のプレイヤーのために素晴らしいゲームを作ることに専念するということです。私達自らが好きで遊びたいと思うようなゲームです。マイクロソフトの存在は、それをもっとフレキシブルに、そしてもっと幅広いところへと展開するのを可能にしてくれます。これは私達にとって非常によいことだと思いますし、大変興奮しています。

――共同創業者として、Blizzardの本質とはなんでしょう? Blizzardがどのような存在としてあり続けてほしいと思っていますか? どのような伝統を残したいですか?

アドハム私達はかつて、素晴らしいゲームで世界を変えようと望んでいた少数の若い理想主義者でしたが、残したい伝統はそこから変わっていませんね。私達のゲームが世界中にもたらした何十億時間もの楽しみ、それがこれからも私を満足させます。

 これまでの32年間を通じてもっとも誇りに思っているのは、『World of Warcraft』のように世代を超えて楽しまれるようなゲームを生み出せたことです。そういったゲームへの愛やそこで学んだことを繋いでいけること、それが次の30年に私が期待することです。

 そういった伝統は形を変えてでも続いていきます。『オーバーウォッチ』や『ハースストーン』は『World of Warcraft』とは違う人々から生み出されましたが、そこの根幹にある愛は同じです。それが私達の一番の強みです。新しいIPやジャンルがそこから生まれてくる。

『World of Warcraft』Worldsoul Saga
『World of Warcraft』では今後複数のエクスパンションにまたがって展開される次の大きな展開“ワールドソウル・サーガ”が発表された。

Activison時代よりも大きな創造的自由を得られるという手応え

――Xboxファミリーの中でBlizzardが組織としてどう属するのか教えてください。従来どおりActivision Blizzard Kingという大きなくくりの中のひとつとしてなのか、それともBlizzardそのものが直接ひとつのスタジオとして属するのでしょうか?

イバラまぁ、まだ取引が確定してから2週間半しか経っていないのでね(笑)。ただそういった中でも、チームが今やっていることにすごく集中できているのは誇りに思っています。昨日ゲームをローンチしたばかりですし(『ウォークラフト ランブル』)、既存のタイトルは年内にいくつもシーズンコンテンツを展開する予定です。

 さてこの2週間半の間に、まだ組織的にどうなるかという点についての具体的な協議はできていませんが、フィルの元で8年、マイクロソフトでは22年、過去4年半はBlizzardで働いた身として言えることがあります。

 彼らはスタジオを獲得した時に、とても自由にやらせようとするんです。その上で「何か助けられることはある? どうすればスピードアップしてあげられる?」という感じですね。そういうことについては話しましたし、フィルと彼のチームが一週間ほど前にBlizzardを訪れた時にもそういった部分が強くあらわれていました。

 というのも、普通は会社を買収した人たちがやってくると「製品の計画はどうなんだ?」とかビジネスの話が出るものなんですが、その時はそういった製品やビジネスの話はありませんでした。まずはBlizzardの人間と会って、私達が何者なのか、どんな志を持っているのかを知るということに終始していた。

イバラそういったことを踏まえて、私はBlizzardの統合に関してさらなる議論ができることを期待しています。この統合は非常に大きなもので、現金による買収としては史上最大のものですので、統合完了には18ヶ月から24ヶ月ぐらいがかかるでしょう。

 これから先いろいろな物事を整理して進めていかなければなりませんが、私達が必要な創造的自由を得られるだろうと思っていますし、非常に楽しみにしています。ただ、まだ具体的な協議はしていないといったところです。

日本はもっと成長していきたい市場

――Blizzardの素晴らしいと思うところのひとつとして、スタジオレベルで各地域ごとのPRやコミュニティマネージャーをしっかり維持して、世界各地のコミュニティに気を配っているということがあります。これはぜひ続くといいなぁと思います。

イバラあなたが言ったとおりです。そもそもBlizzConも我々がグローバルに発信するイベントですしね。私達の基本的にすべて全世界を対象に考えています。組織面でのコミュニティマネージャーや各地のコミュニティへの投資もそうです。

 日本は私達がもっと成長していきたい市場ですし、フィル・スペンサーもよく日本に行って人々に会っていますので、私達も彼らを助けられるし、彼らも私達を助けられるでしょう。アメリカからもっと外に広げていくのは大きな機会を感じている部分です。

アドハム右に同じですね。あらゆる国の人々を繋げるというのは私達のミッションでもありますし。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、ともに遊ぶことでお互いを理解したり尊重できるようになることで世界がよりよい場所になってきたと思います。

今後のプラットフォーム展開について

――Blizzardのゲームはマルチプラットフォームに展開されているわけですが、その点について何か変化はありますか? 少なくとも既に発表されたものや発売中の既存タイトルの扱いは特に変わらないものと理解していますが。

イバラ製品の計画について特に変更は予測していません。まだそれらのことについて具体的な協議をしているわけではありませんが、アレンやその他のBlizzardに長く所属しているメンバーから学んだことはお話できます。

 Blizzardにとって、どんな環境でプレイしていても、世界中のあらゆるプレイヤーにサービスを提供することは本当に重要なことです。私たちは、デバイス、スクリーン、言語、国、あらゆるものにまたがるコミュニティを構築したいと考えています。それが常に私達の目標です。

 もしあなたが“Blizzardのゲームがどこかのプラットフォームで独占になるのか”間接的に聞いているのだとして、Blizzardでの私達の立場はいつも、私達のゲームが世界のあらゆる人に届いてほしいというものです。未来についてはわかりませんが、いまこの場で思っていることはそれですね。

Game Passを知り尽くす人物としてのGame Passへのアプローチ

――今日「BlizzardのゲームはGame Passにいつ来るんですか」と聞いても仕方がないのは重々承知なのですが、Game Passに提供する可能性についてあなたはどうアプローチしますか? あなたはマイクロソフト時代にもともとGame Pass担当のエグゼクティブだったわけで、多分それを検討する上で一番知り尽くしている人物なわけです。

イバラ皮肉なもので、その通りですね(笑)。それもまだ細かい話し合いがスタートしていない部分ですが、「いろいろやらなきゃいけないことがある」ということは言えるでしょう。アレンと私が指を鳴らしたら次の瞬間にGame Passにゲームが並んでいるというわけにはいかないですから。

 各チームは「これによってどんな価値を加えられるだろう?」といった感じに検討は始めていますが、まだ具体的なプランはありません。フィルとActivision Blizzardが投稿していたと思いますが、長期計画の中でどう機能するのか検討を進めているあいだ、少なくとも年内に動く予定はありません。

 でも私はGame Passが好きですし、消費者に素晴らしい価値とプレイする機会を提供できるものだと思います。ですから私達が物事を進めていく中でちゃんと考えていかなければいけない事項ですね。

――確かに、Blizzardには運営系のゲームも多いですしBattle.netという独自プラットフォームもありますから、Blizzardのゲームだけでなくサービスの設計なども再評価しないといけないでしょうね。

イバラそうです。まさにいまCTOと技術チームが「Game Passを入れるとなるとどこに影響が出るんだ? Battle.netはどうする?」と取り掛かっているところです。

――今夏、『ディアブロIV』が近々Game Passに出るのではという噂に対してあなたは「それは起こらない(This is not happening)」とXに投稿していました。その時点で何も決まってないということだったのだと思いますが、実際あれはどういう意味だったのでしょう?

イバラこの買収は24ヶ月というとんでもない期間かかったもので、その長い旅路の中では、規制当局から「我々はこれを阻止しますよ」と言われたこともありましたよね。

 そういったもろもろがあって買収が確定していない状況ではGame Passについての予定もありませんから、あのツイートは単に元の噂を見て「『ディアブロIV』が1週間後にGame Passに出るようだからそれを待とうか」と思った人に対して「それ(直後のGame Pass配信開始)は起きないですよ」と伝えたかったものです。

 買収が完了したいま初めて、私達は何をすべきか、どんな問題があるかについて議論することができます。

他スタジオとのコラボの可能性は「アイデア次第」

――他スタジオとのコラボレーションはどうでしょうか? id Softwareのチームが手掛ける一人称視点のディアブロや、かつて断念された『StarCraft: Ghost』(※)は? あるいはBlizzardがRTSの『Halo Wars』の新作とか“Halocraft”を作るのはどうでしょう?

アドハム具体的な話し合いはなにもないですが、ベセスダなどが大きなファミリーの一員としていて、さまざまなIPを共有していて、才能のある開発があちこちにいてということを考えると――まだ何も話はないですが――その可能性について思いを巡らせるのは楽しいですね。

 また買収が確定したからこそ、これからそういったことも話していけるわけです。さまざまな面白い可能性がありえますから、今後次第ですね。

イバラ同意ですね。何かあり得るかは私達のゲームデザイナーが答えてくれるでしょう。Blizzardではトップダウンでやらせるようなものはありません。ディレクターたちがいて、彼らは私達の作り出すものの心臓であり魂です。アレンは間接的にディレクターたちをマネージメントしていて、彼らとさまざまなやり取りをしています。

 「これとこれを組み合わせたら面白いことになるのでは?」と想像をめぐらすことはできますが、デザイナーたちが何かアイデアに導いてくれるか見てみましょう。

(※『StarCraft: Ghost』 かつて開発が中止された、RTS『スタークラフト』シリーズの世界を舞台とするアクションシューティングゲーム)

――では最後に、今年のBlizzConで発表されたものの中で一番興奮しているものはどれですか? 「全部」かもしれませんが。

アドハム同じ質問を娘にされたんですが、こう答えたんです。娘と息子の方を向いて「私はね、どの子供も公平に愛しているよ」と(笑)。

 ただ『オーバーウォッチ』や『ディアブロ』や『World of Warcraft』はずっとやってきましたが、『ウォークラフト ランブル』はこれまでと異なる層のプレイヤーに向けた、これまでと異なるプラットフォームやアートスタイルのゲームです。なのでBlizzCon会場や世界中のさまざまな場所で遊んだり人々がダウンロードしたりしているのを見るのは非常にうれしいですね。でもどの“子供”も大切なものです。

イバラ私も同じですが、『World of Warcraft』のチームは特に誇りに思っています。プレイヤーコミュニティに対してもっとコンテンツを多く早く届けようという思いは素晴らしいものがあります。

 でもアレンが言ったように『ウォークラフト ランブル』もエキサイティングですし、『ディアブロIV』もまだ始まったばかりで、いよいよエクスパンション(拡張)が出てくるところです。各チームがやっていることには満足していますし、ソフトをプレイヤーに届けられ、発表が喜ばれているのを見るのがうれしいです。