1990年代のPCゲーム制作が舞台のアニメが放送開始
1992年の美少女ゲームメーカーを舞台にした同人誌『16bitセンセーション』。
原案はアクアプラスのみつみ美里氏と甘露樹氏で、漫画は若木民喜さんが担当している。当初、同人誌版が頒布され、その後単行本コミックが発売された異色の展開を経ている作品だ。
そんな人気同人誌を原案としたテレビアニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』が、2023年10月からテレビアニメとして放送開始。同人誌版とは異なるアニメオリジナルストーリーで1990年代の美少女ゲームカルチャーをフィーチャーした物語が展開する。
放送開始記念企画として、若木民喜さんと高橋龍也さんにロングインタビューを実施。原作とは異なるオリジナルストーリーとして制作した意図や、制作現場の裏側の苦労話、原作とアニメ版の違いなど、たっぷり語ってもらった。
美少女ゲームやエロゲー、秋葉原、1990年代カルチャーが好きなすべての人に見てほしいテレビアニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』の作者インタビューをお届け!
※本記事は『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』の提供でお送りします。
若木民喜 氏(わかき たみき)
マンガ家。小学館『週刊少年サンデー』2006年1号~51号に『聖結晶アルバトロス』にて連載デビュー。その後、同誌で『神のみぞ知るセカイ』や『なのは洋菓子店のいい仕事』、『キング・オブ・アイドル』を連載。最新作『結婚するって、本当ですか』が『ビッグコミックスピリッツ』2023年28号にて完結した。単行本『16bitセンセーション』は2巻まで発売中。大阪府出身。(文中は若木)
髙橋龍也 氏(たかはし たつや)
アニメ脚本家。1995年にユーオフィス(当時/現アクアプラス)入社、製作に参加。1996年には『雫』、同年『痕』、1997年の『To Heart』には企画・脚本として参画する。その後数多くの企画、脚本を担当。2008年のテレビアニメ『かんなぎ』からアニメ脚本を手掛け、2023年は3本のアニメでシリーズ構成、本作『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』ではメインストーリーを担当する脚本家。(文中は髙橋)
マンガ版とは異なるストーリーが展開
――アニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』は、マンガと異なるオリジナルストーリーなんですね。
若木そもそもの話をすると、じつは『16bitセンセーション』のアニメは2019年にOVA企画として立ち上がっていたんですよ。そのときは3本ぶんのプロットを書いていました。
当時はアニプレックスに集まって打ち合わせをしていましたが、コロナ禍の影響で打ち合わせができなくなってしまったのです。それで「コロナで企画が流れてしまっちゃったのかな~」と思っていたんです。
――ああ、そういうことありそうですよね。
若木そうしたらじつは続いていて、打ち合わせが再開したと思ったらテレビアニメの企画になっていました。
――それは驚きますね!(笑)
若木そんな思いがけない展開もあって、打ち合わせの結果、マンガ版とオリジナルストーリーを混ぜながら進める企画になったんです。そして「作業的にメインライターが必要になる」となり、企画の途中から髙橋さんに入ってもらうことになりました。
髙橋だから僕が参画したときはテレビアニメとして企画が動いていて、若木先生が就いてオリジナルストーリーを書いていたので、僕は脚本の取りまとめをするために加わったんです。
――ということは、時期的に若木さんは『ビッグコミックスピリッツ』でマンガ『結婚するって、本当ですか』を連載しながらアニメ企画も進めていたので?
若木はい。週の5日がスピリッツの作業で、2日がアニメの仕事という生活でした。それが半年くらい続いたと思います。
――過酷! 若木さんはアニメには原作兼シリーズ構成としてクレジットされているのですかね?
若木僕はマンガ家なのでアニメの仕組みはよくわからず……どういう立場なのかなぁ?(笑) 立場がどうあれ、途中から髙橋さんが参加してくれたので、頼りにできてよかったです。
髙橋今回の仕事のお話をいただいた時点で、おおまかなストーリーをいただきました。
それを見たときに原作とあまりにも違うので、「若木先生、原作からこんなに変えちゃって大丈夫ですか?」と聞いたのですが、まさか若木先生自身が変えたのだとは思っていませんでした(笑)。
――オリジナルストーリーにしてよかった点はありますか?
若木当初の企画だったOVA用に書いた3話ぶんを読み返したとき物語に終わりがあったので「こっちのほうがマンガ版より見やすいな」と思いました。
というのは、同人誌は僕が知らないことを聞いていくという形で進んで、編年体で書いていました。それだと物語の始まりはあるけど終わりがないんですよね。ストーリーがずっと続いていく作品でした。
――確かにテレビアニメの場合は最終話が必要ですね。
若木それともうひとつ、みつみさんと甘露さんがオリジナルストーリーを希望したんですよ。
テレビシリーズにするにあたって、みつみさんたちは以前から「オリジナルストーリーがいい」と言っていました。なので僕はオリジナル支持にまわったのですが、現場の人からは「なんでオリジナルなんですか?」と聞かれましたね。
――原作マンガがあるから不思議に思ったのでしょうね。
若木僕としては原作通りでもオリジナルでもよかったのですが、みつみさんと甘露さんがオリジナル寄りの意見だったので今回のようになりました。結果的にはこれでよかったと思います。
――みつみさんと甘露さんが「オリジナルがいい」と思ったのはなぜでしょうか?
若木僕の想像なので真相はわかりませんが、あまり自分に寄せたくなかったのではないかと思います。
原作マンガの読者の中にも、「これはみつみさんたちのお話だ」と思っている人がけっこういるんですよね。たびたび「これは別物で、イマジナリーイラストレーターのお話です」と説明しているんですけどね。
もちろん、原作で書いている内容はみつみさんと甘露さんから直接聞いている話なのでデタラメを書いているわけではありませんが、脚色はしています。なので、すべてがみつみさんたちの体験談ではないんです。
――テレビアニメ版はオリジナルストーリーと断っておけば、そういった誤解は生まれないでしょうね。
若木1992年の美少女ゲーム業界の人たちは、いま秋葉原がこんな状況になっているなんて誰も知りません。当時の人たちに、「今後、秋葉原が美少女でいっぱいになる」と言っても信じてもらえなかったでしょう。
そういう人たちに、いまのアキバの状態を伝えてあげたいな、という想いがあります。なので、原作には登場しないVtuberみたいなキャラクターを作って、2023年の、いまの状況を伝えるシーンを入れました。
テレビアニメ版の要注目ポイントはココ!
――いまお話に挙げていただいたような、原作にはなくてアニメ版で加わった要素のなかでの見どころはどこでしょうか?
若木それは僕が髙橋さんに聞いてみたいです(笑)。
髙橋第1話から最終話まで、原作とはまったく違う視点で描かれているところです。もちろん原作を知らずに見てもおもしろいアニメになっていると思いますが、原作を知っている方はさらにおもしろいのではないかと思います。
――公式サイトを見てみると若木さんと髙橋さんは“アナザーレイヤー・メインストーリー”という変わった肩書でクレジットされていますね。これはどのようなお仕事でしょうか?
髙橋すべてのストーリーは、若木先生がプロットの状態まで作ってくださいました。脚本家陣は、そのプロットを脚本に落とし込む作業をしたわけです。なので、ほかのアニメでいうところの“シリーズ構成”の仕事は若木先生と監督の佐久間貴史さんにあたると思います。
――では、髙橋さんはどのような役割だったのでしょうか?
髙橋僕の仕事は、それぞれの脚本家が書いたものを取りまとめる仕事でした。
今回参画してくださったライター陣は、いろいろなジャンルのゲーム業界で活躍している方々なんです。視聴者のみなさんがお名前を知っているような方が多数参加していると思いますよ。僕は彼らが作った脚本のバランスをとる役割でした。
――脚本をまとめる際に気をつけた点は?
髙橋若木先生からいただいたプロットには、「セリフにディテールを加えてください」といった指示が書かれていました。そういう指示を反映する際には気をつけましたね。
――実際にはどのようにディテールを加えたのですか?
髙橋各ライターが当時の体験談を思い出しながら自分のカラーで書き上げてくれました。
――ゲーム業界にゆかりのある方々の体験が活きたセリフが多数登場するのですね。
髙橋そうですね。それ以外の部分は、「このまま脚本として使ってもいいのでは?」というレベルまで若木先生が作ってくださいました。
なので、我々脚本チームはフォーマットを整えたくらいです。というのも、若木先生はみんなの意見を取り入れてプロットを作成していたから、ほとんど書き直す作業がなかったのです。
第1稿ができたら打ち合わせでスタッフの意見を聞いて、第2稿、3稿と、何度かプロットを書き直していました。もちろん、僕も感想を言わせていただきました。
――髙橋さんご自身の経験談もアニメに含まれているのですね。
髙橋もちろん僕と脚本家陣が経験してきたことは入れさせてもらいましたが、大前提として主人公のコノハはイラストレーター側の人間です。しかし脚本を書いている僕を含めた脚本家陣はライター側の人間です。ゲーム開発業界で働いていても、職種がまったく違います。
――ああ、確かに。
髙橋似ているようで業種が違うため、脚本陣が経験してきたエピソードを使えないこともありましたが、そういうときは、イラストレーター側で働いてきたみつみさんと甘露さんにお話を伺って盛り込むようにしました。
若木当時のゲーム開発者の空気感というか生活感的なものについて、髙橋さんたちにちょこちょこ足してもらったと思います。
髙橋ですね。当時の時間外労働が当たり前だった様子とか……でしょうか?(笑) 仕事半分、遊び半分といいますか、みんなで作っているのが楽しいという空気は入れています。
いまの時代だと「ブラックだ!」とか言われちゃいますが、当時のみんなは文句を言いつつも楽しんで働いていたんです。そういう空気感を出したいと思って作りました。
――ちなみに……髙橋さんが初めて勤めていた大手ゲーム会社の勤務環境は?
髙橋僕が初めて就職した家庭用ゲームメーカーは当時もホワイトでした!(笑)
このアニメに入れた空気感は、僕がその後に勤めたPCゲーム業界の話なので誤解なきよう(笑)。あのころはガレージメーカーがプロを名乗っているような感じでしたね。代表作もほぼなく……。
――いまで言うインディー開発者的な。
髙橋そうなるのでしょうか? マンションの1室でゲームを作ってたのに4年後にビルが建つのを経験してました。そういう当時のイメージをアニメに投影しています。
若木マンガ版を読んだ髙橋さんが、「アルコールソフトはLeaf(リーフ)の初期のイメージと似ている」と言っていたのを覚えてます。僕は“大学の部室”というイメージで作っていたんだけど、大差ないってことですかね。大学のコンピュータークラブの部室もプロのゲーム開発現場も、ほぼいっしょの空気だったという……。
一同 (笑)。
髙橋当時のPCゲームメーカーは、売れる1本を出すまでは、“どれだけコストを削れるか”という点が勝負でしたからね。
若木みつみさんたちが所属していたF&Cは環境がちょっと違うんでしょうね?
髙橋F&Cのゲームはすでにたくさん売れてましたしね。
若木ちゃんとした企業だし、ちゃんと給料をもらっているし。
髙橋なので、原作版のアルコールソフトの雰囲気はマンガ家さんの作業場に近いのかなって思います。マンションの一室にアシスタントさんといっしょにこもって作業している雰囲気です。
若木うんうん。仲間内で始めて、そのまま軌道に乗って仕事して……という感じですね。以前、髙橋さんが言ってたけど、「なぜかじょじょに人が増えてくる。理由は謎」みたいな職場です。そういう制作環境がPCゲーム開発業界には楽しかったんでしょうね。
――髙橋さんは『雫』や『痕』、『To Heart』などのヒット作を手掛けてきましたが、若木さんはそれらのゲームを作ってきたご当人の髙橋さんにどのような印象を持っていますか?
若木改めて思い返すとあの3本のインパクトはすごかったなと思います。『痕』も傑作ですが、やはり『To Heart』は衝撃でした。
これは原作マンガの中で書いていますが、この3作品は現代の美少女モノの雛形を作ったのではないのでしょうか。いまだに成立しているフォーマットです。物語が内側に入っているというか、あれをきっかけに女の子がなんでもできるようになったというか……。
『To Heart』の時点ではまだだったけど、その後に出たKeyがあの雛形を使っていろいろなものを詰め込んだゲームを出したんだと思います。それを切っ掛けに、「美少女ゲームに何の要素を入れるか」の戦争に発展したのかなと。
当時、あの3本があったから、後の美少女・エロゲーのブームが起こったと言ってもいいくらじゃないでしょうか。
雑談が発生しないオンラインミーティングの弊害とは!?
――髙橋さんは『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』プロジェクトに途中から加わったとおっしゃっていましたが、髙橋さんが加わってから現場の雰囲気に変更はありましたか?
若木髙橋さんが加わってからは、すべての打ち合わせに参加してもらいました。ですが、毎週行われていた打ち合わせはリモートだったので少し困りましたね……。
――リモートでの打ち合わせはやりにくいですか?
若木う~ん。リモート会議って、雑談があまりできませんよね? 発言した内容はすべて正式な意見になってしまう空気があって、誰も“余計なこと”を話してくれないんです。僕としては、みなさんにもっといろいろな意見を出してほしいのに(笑)。
――ああ、わかります。我々の編集業務でも似たような感じがありますね。
若木「おもしろい」でも「おもしろくない」でもいいので、打ち合わせでみんなの発言を聞いて、そこから広がった話を取り込みたいと思っていたので歯がゆかったんですよ。そんな状況でしたが、髙橋さんはずっといろいろなツッコミとか話題提供をしてくれました。
――たとえばどのような?
若木そうですね、たとえばタイムトラベルの理屈とかです。僕はそれを聞いて、何度も「なるほど!」と気付かされることがありました。髙橋さんが打ち合わせに出席してくれている緊張感が、僕を最後までたどり着かせてくれました。
髙橋ありがとうございます。プロットの感想を言い合う打ち合わせなのに、「おもしろかったです。つぎの話も気になります」だけで終わってしまっては、建設的ではありませんからね(笑)。
若木誇張ではなく、髙橋さんがいてくれたからこそこのアニメは完成しました。髙橋さんが打ち合わせの席にいてくれると本当に頼りになります。
――信頼関係がとてもよく伝わってきます!
髙橋若木先生は褒めてくださいましたが、先ほど例に出されたタイムトラベルに関しては、若木先生の考えてることを知りたかっただけです。
設定的にパラレルワールド、“並行宇宙”なのか、映画で言う『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のように時間の経過で世界が変化していくのか……とかですね。
なので、僕は「どのパラドックスを採用していますか?」とお聞きしたんです。それが不鮮明なままだと脚本をまとめられませんからね。「世界にどのような変化が起こるのか?」とか「登場人物の記憶は?」と設定を確認していったんです。
そういう打ち合わせの結果、しっかり設定が固まったんじゃないかなと思います。
若木さんの担当編集者のような立場の髙橋さん
――いまのお話を伺って、髙橋さんはマンガ制作で言うところの編集者のような役割もあったのでしょうか?
若木そうですね。髙橋さんは編集者に近いと思います。これはみつみさんも言ってたのですが、ふだんから編集者のような目線を持っている方だなと。
たとえば何かを見るとき、物語だけではなく全体を俯瞰して見ているような感じがします。作り手にも回れるし、読者側にも回れるとても器用な方です。
――おお、べた褒め。
髙橋(笑)。
若木マンガ制作では、マンガ家と編集者は一心同体なので、打ち合わせをするときは「そもそも、なんでこの話を書くの?」とか、作品の根本から話を始めることが多いんです。
でも、アニメの現場はマンガとは違うので、僕がふだんマンガで行っているような「この話は何のために書いているのか?」というディスカッションは行われませんでした。
――マンガとアニメの作りかたはかなり異なるのですね。
若木そうですね。マンガ制作のような深い部分での打ち合わせは、僕は髙橋さんとだけ行ったという感覚です。そういう意味でも髙橋さんはマンガ家の編集者的な立ち位置でした。
髙橋さんとは「なぜこの話を書かなきゃならないのか?」とか「秋里コノハは、なぜ存在しているのか?」とか、かなり深い部分まで話し合いました。それまでこのアニメの現場ではそこまでの深い話し合いが行われなかったので、「すべて自己責任だな」と感じていました。
本当はもっと率直な感想や雑談を切っ掛けにして、どんどん深い話に進んで行きたかったのですが、そこは僕の思惑通りには行きませんでした。おそらく、すべてはオンラインでの打ち合わせによる弊害だと思いますね。そんなこともあって、すべてのプロットを僕が自己責任のもとで書き上げました。
そうそう、こんなことがありました。打ち合わせでまったく雑談が出てこないことにしびれを切らして、一度アニメ会社に出向いたことがあるんです。
――リモート会議が嫌すぎて直接乗り込んじゃった!
若木率直な意見が知りたかったんですよね。それで行ったらスタッフの皆さんが不安そうな神妙な顔つきで出てきて、「あのう……何かまずいことありましたか?」と。
僕が怒って、怒鳴り込みか殴り込みに来たのかと思われちゃったんですよね(笑)。
――アハハ。そんな怒気を含んだ、怒った雰囲気で行かれたのですか?
若木いやいや(笑)。僕はただ、みんなと顔を合わせて打ち合わせをしたいだけなのに。アンタッチャブルというか……そういう雰囲気がちょっとありました。
――ネーム(※)制作から打ち合わせでボコボコに話し合って作り上げていくマンガ作品と、版権を預かって制作するアニメ現場の流儀の違いというのがありそうですね。
※ネーム……マンガの設計書。下書きの前段階。マンガ制作の打ち合わせはマンガ家と編集との戦いである、と、よく言われる。
若木今回、髙橋さんがいてくれて本当に助かりました。髙橋さんは『神のみぞ知るセカイ』で知り合ってから10年以上の付き合いで、何でも気兼ねなく話してくれる貴重な存在です。
髙橋原作があるアニメでは、「どこまでやるのか?」とか「アニメではどの部分を強く表現するか?」などを決める程度だと思います。
ですが、オリジナルストーリーのアニメの場合は、最初に「この企画はどこに向かって作るのか?」や「いちばんのウリはなにか?」といった話をします。でも、今回僕が加わったタイミングではそれらの話は終わっていたので、参画したばかりのころは僕も改めて質問から入りました。
若木ですよね。僕が何を書いてもいいことになっていましたから、ほぼフリーハンドです(笑)。マンガだったら僕ひとりなのでフリーハンドでもいいですけど、アニメの場合は、このプロットで何10人が動くので恐怖すぎる……と。
一同 (笑)。
髙橋自分が担当する冒頭のシーンが、プロットを見たら謎が多かったんです。お話自体はわかるんだけど、どういう映像に落とし込んだらいいのかあまり想像できない状態でした。これは言葉で説明しても伝わらないかなぁ。見てもらわないと通じないと思います(笑)。
若木もしかしたら、髙橋さんが書いた冒頭のシーンは、視聴者は最後まで謎のまま終わっちゃうかもしれない。プロットではちゃんとフォローして書いてあるんだけど、絵コンテを見たらなかったような気がします。全話通して見たら、ものすごく不思議な話になっている可能性もあるな(笑)。
これもアニメの困ったところで、視聴者がどのあたりまで理解してくれているのかが、プロット段階ではまったくわからないんです。
――連載マンガでは可能な読者の反応を見て展開を変えるということも、全話のプロットを用意してから制作ラインが走るアニメでは難しいですよね。
若木最後までプロットと絵コンテを見てくれたスタッフさんたちは「まとまってます」とは言ってくれていたけど……完成してオンエアを見るまで、まったくわからないです。
――若木さんは完成した映像をまだご覧になっていないのですね。
若木オリジナルストーリーなので、後半は原作に登場しない絵だらけなんです。
そうなってくると、僕はすべてマンガにできないので、後はスタッフのみなさんに描いてもらいました。だからいまの時点では、どのようなアニメになっているか想像がつかないです。オンエアが恐くもあり、楽しみでもあります(笑)。
マンガの仕事とアニメの仕事の違いは大きい!?
――マンガとアニメプロット制作はやはり異なりますか?
若木異なる部分も多いと思います。何より、僕がアニメの脚本を書くのは初めての経験だったので不安な部分はありました。ただ、尺感はマンガを描くのとあまり変わらないので大丈夫でした。
――似ている部分とそうでない部分があるのですね。
若木アニメでは制作現場の作画カロリーを1話ごとに考慮するとか、アニメ脚本ならではのノウハウが必要だなと思いました。「自由に書いてもらっていいです」とは言ってくれていたけど「ほんとに大丈夫かぁ?」と不安なことは多かったです。
髙橋いきなり脚本で「ここで100人くらいのモブが乱入して大暴れする……」というシーンを書かれても、アニメーターが困ってしまいますから(笑)。
若木そうですよね?(笑)
ですが、最終的にはけっこう好き勝手に書かせてもらいました。「これはイラストレーターの話なの?」みたいな話数がいくつかあると思いますが、どうやってアニメを完成させたのか僕自身がわかりません。放送が楽しみであり、不安もあります。
一同 (笑)
――作画カロリーが高いシーンが多いのでしょうか?
髙橋本作は主人公のタイムスリップから始まるのですが、アニメを作っている我々からすると作中の時代を変えるなんてことは一大事なんですよ。
――というと。
髙橋時代が変わると背景が変わります。歩いている人々の服装も髪型も変わります。クルマの種類も変わります……。想像するだけで震えるものがあります。
「これは本当にアニメにできるのか!?」という(笑)。なのに、今回はそれを大胆に要求されているので、アニメ制作の現場の心配をしてしまいました。
若木原作マンガ通りにアニメにしていたら、作画のカロリーに加えて、ありとあらゆる会社に改めて許可を取るという作業も出てきてしまいますからね。あれだけ多くの著作物の許可をとるのは相当たいへんだと思います。
そういう点でもオリジナルストーリーでよかった部分と、苦労した部分があったと思います。結果的にどちらがよかったか現時点ではわかりませんけど。
――お話のメインとなる舞台は1990年代の秋葉原ということになるでしょうか?
髙橋はい、1990年代のアキバです。アニメ化にあたり、設定考証のスタッフとしてRetroPC Foundationさんに入ってもらっています。
若木具体的には、RetroPC Foundationの森瀬繚さんですよね。
髙橋森瀬さんにはたくさんのツテから「このときってこうだったよね」と言質を取ってもらったり、膨大な資料も集めてもらったりしました。1990年代の秋葉原を再現するためたくさんの人間の手が集約されていると思います。
若木当時のガジェットとかPCに関しても、森瀬さんから交渉してもらうこともありましたね。
とはいえ、時代考証的に難しいのは現代と違ってデジカメが普及していませんから、いくら世界に冠たる電機街・秋葉原でも1990年代の街並みの写真収集は難しかったです。欲しい写真に限って、見つかりにくいものなんですよねえ……。
――カメラ付き携帯電話の普及が2000年ごろで、1990年代はまだブログブーム前夜という感じで、いまみたいにみんなが写真をネットにアップしているという時代ではありませんからね。
髙橋それに当時、私は兵庫在住だったので、実際は当時の秋葉原を知らないんですよ。若木先生も関西ですよね?
若木上京してきたのが1999年なので、1992年の秋葉原はぜんぜん知りません。(大阪市)恵美須町ならわかるんですけどね(笑)。
そういうこともあり資料集めにはそうとう苦労していました。なので……アキバ通のみなさんには、やさしい眼で見てほしいと思います。
――アニメを観ながら「アキバは本当はもっとこんな感じだった」という話をする視聴者は確実にいそうですね(笑)。
若木だから当時の写真をお持ちの方はオンエアを見てから補填してほしいくらいです。
「当時のアキバはこうでしたよ~」と、SNSでやさしくツッコミを入れていただけると、僕らの参考にもなります。アニメを見ながら、みなさんが当時の思い出話をしていただけたらうれしいです。
――「バスケットコートがあった」とか、そういう話ですよね(笑)。
髙橋どこまで当時のアキバの風景に近づけているかも楽しめると思います。もちろん本作はドキュメンタリー作品ではなくフィクションですので限界があるということはご了承いただきつつ、リアルな風景に近づくように極力がんばりましたので。
原作のみつみさんと甘露さんのこだわりはエンディングと美術設定
――原作マンガでは原案としてクレジットされているみつみ氏と甘露氏は、アニメにどのように関わっているでしょうか?
若木みつみさんと甘露さんは、お話に関してはほぼノータッチです。
マンガの方もそうだけど、基本的には「自由にやってください!」という姿勢なんです。だからたまに意見をしてくれるくらいでした。
みつみさんたちは否定的な意見をおっしゃられず、基本的に僕を信じてくれて「うーん、これとこれなら、こっちがいい」くらいなんです(笑)。でも、おふたりはキャラクター的な部分ではけっこう関わっています。
――キャラクターデザインでしょうか?
若木とくに女子のデザインや服装は、みつみさんたちがめっちゃ関わっています。私服もみつみさんが考えました。すべてではないかもしれませんが、相当お忙しいのに大部分を指摘していたと思います。
――若木さんも週刊連載と並行してのアニメプロット制作作業は、かなりお忙しかったのでは?
若木まぁ……たいへんでしたよね。ほぼほぼタダ働きみたいな仕事でしたし。途中から「これは趣味だ!」と思い込んでやってました。
一同 (笑)。
若木僕の趣味なのに髙橋さんに毎週会えて、こんな好き放題に書いてるのにそのままアニメにしてもらえるなんて、これはもう、役得というものです。
――いやいや、立派な仕事です(笑)。プロット制作ということは、若木さんの作業はすでに終わっているということですか?
若木一昨日くらいまでは絵コンテを見ていましたけど、いまは一段落したので何もしてません。
――あとは完成版を待つだけ?
若木そうですね。先行上映会があるんですが、その日がちょうど同人誌イベントで、僕もそちらに出展しているものですから、先行上映を見られないんです。だからオンエアを楽しみにしています。みなさんと同じ視聴者です。
※2023年10月1日に先行上映会が開催された。
原作の同人誌と合わせて見たら楽しさ倍増! 美少女作品とアキバ好きに見てほしいテレビアニメ
――そろそろ最後の質問とさせていただきます。現在から1990年代当時を振り返ると、改めてどのように感じますか?
若木当時、こんなにゲームが、また美少女ゲームが一定のカルチャーとして地位を得ている未来が訪れるなんて、誰も想像できなかったと思うんです。
僕もこういう状況になっているのは信じられません。それは個々のゲームがすぐれていたこともありますが、それだけではなくて、もっといろいろな要素が関わって、いまの時代があると思います。
テレビアニメ『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』は、そういう事実を念頭に置きながら、当時の時代をインスパイアして作った作品です。原作マンガでは当時の様子を1年ずつ区切って描いている作品ですが、アニメは業界全体をインスパイアした話になってるのかなと思います。
つまり、同じ事象を別の結論から描いています。マンガの読者もそうでない方も、そういう観かたで視聴していただいて、原作マンガの読者の方々には、「マンガとアニメとぜんぜん違うじゃねーか」とか言わず、楽しんでいただければと思います。
髙橋いまから振り返ると1990年代ってPC性能もぜんぜん低いですし、現代の技術レベルを当時に持って行ったら注目されるかもしれないですが、ゲームを作る人って、当時は当時で最先端を求めて切磋琢磨していました。
けどそれはもちろん現代も同じくで、時代は違えど人間のマインドは変わっていないのかなと思って書いていました。
アニメは完成したゲームとかハードも違うんですけど、根底は同じなのかなと思っています。それがちょっとしたテーマでもあるので『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』を観て、違うところ、逆に根底に通じているところ、どちらも楽しんでいただければと思います。
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#16bitセンセーション ANOTHER LAYER
エンドカード紹介✨
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毎話放送後、エンドカードを公開‼
第1話のエンドカードを描いていただいたのは…
#赤松健 さん‼
コノハ、メイ子、かおりを描いていただきました
公式サイト
https://t.co/3S7mdAu8AD
#16bitAL https://t.co/NCQtuR11rv
— TVアニメ 16bitセンセーション ANOTHER LAYER 公式| (@16bit_anime)
2023-10-05 00:58:34