2023年9月21日~24日開催中の東京ゲームショウ2023(TGS2023/21日、22日はビジネスデイ)。開催3日目となる2023年9月23日にレベルファイブブースにて、小高和剛氏と日野晃博氏の対談“心に残る推理ゲームの作り方”が開催された。
『超探偵事件簿 レインコード』や『ダンガンロンパ』シリーズなど、数多くの推理ゲームに携わるトゥーキョーゲームス代表の小高氏をゲストに迎え、レベルファイブ代表取締役社長/CEO日野氏とクリエイターどうしの“初となる対談”が実現。
対談では6つのテーマをもとにお互いが手掛ける推理ゲームについて語り合ったほか、小高氏や日野氏が手掛ける最新作のエピソードも。
本稿は対談の模様をリポートするが、『レインコード』や初代『レイトン』のネタバレが含まれるので、読み進める際は注意してほしい。
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最初のトークテーマは“最新作へのこだわり”。これは、小高氏の最新作『レインコード』をプレイした日野氏から小高氏に聞きたいことがあるということで、テーマに加えられたという。
日野晃博氏(以下、日野)『レインコード』は登場キャラクターが魅力的だし、謎解きもバランスのいい本格的な内容で、すごく楽しかったです。どういうところにこだわって『レインコード』を作ったのか、お聞きしたいと思いました。
小高和剛氏(以下、小高)海外には『Life Is Strange(ライフ イズ ストレンジ)』や『Detroit: Become Human(デトロイト ビカム ヒューマン)』といったタイトルがあると思いますが、僕は日本発の3Dのリッチなアドベンチャーゲームを作りたかったんです。背景や街並み、キャラクターのお芝居などは、とくにこだわりを詰め込んでいます。
また、日野氏が衝撃を受けたというトリックやシナリオの話題も。
日野トリックはどのように考えているんですか?
小高『ニューダンガンロンパV3』のころから、小説家の北山さん(※)といっしょに考えています。僕が作ったプロットに対してトリックのネタを提供してもらい、ディスカッションしながら作り込んでいます。
※小説家・推理作家の北山猛邦氏。『ニューダンガンロンパV3』や『レインコード』のトリック作りに協力しているほか、『ダンガンロンパ霧切』のノベライズを担当。
小高ただ、新作の『レインコード』は謎迷宮と呼ばれるダンジョンを攻略しながら謎を解いていくのですが、シナリオを書いていくときはそれがどういった形になるのかわかっていませんでした。手探りでシナリオやトリックを考えるのはたいへんでしたね。
日野シナリオやトリックを考えるときは、どうやったらお客さんが驚くかもしっかり考えているんですか?
小高そうですね。プレイヤーを驚かせることは、僕がやらなきゃいけないことになっているので。
日野『レインコード』の0章もね。
小高ああ、0章。
日野これ、どこまで言っていいのかわかりませんが……。
小高たぶん大丈夫です。
日野(登場した超探偵たちが主人公を除いて)いきなり全員死ぬっていうね。
小高言ってしまいましたね!
日野大丈夫ですか?
小高大丈夫です(笑)。
日野あの衝撃というか……。前代未聞だなって。
小高じつは『ダンガンロンパ』のときからやりたかったネタでした。これが登場するメンバーだと紹介した後、1話目でキャラクターが全員変わるっていうのをやりたかったんですが、どう考えても無理でした。でも『レインコード』だったら、犠牲になるのはメインキャラクターが複数人いる中の何人かではあったので、できるんじゃないかと思いトライしてみました。
日野驚かせたいというのは、(小高さんの作品の)コンセプトとしてあるんですか?
小高僕自身、ミステリー小説が好きで、ミステリーで裏切られた瞬間の気持ちよさや驚きを自分が手掛けるゲームでも実現させたくて。そういった感情を体験できるのも、ファンの方たちが僕のゲームを買ってくれる理由のひとつかなと思います。
日野『レインコード』でいちばん表現したかったのはどこなんですか?
小高推理ゲームをやったことがない人も遊んでもらいたいという気持ちが強くて。推理ゲームやアドベンチャーゲームっていうと、あまりゲームをやらない人からすると字が多い、画面が地味と感じている人が多いと思っています。そこで『レインコード』では、遊園地のアトラクションを進みながら謎が解けるように、謎迷宮を考えました。謎迷宮は、プレイしても楽しい、見ていても楽しいものになればいいなと思って作っています。
心に残っている推理ゲーム
続いてのテーマ“心に残っている推理ゲーム”では、小高氏は『クロス探偵物語』、日野氏は『ポートピア連続殺人事件』をそれぞれ挙げて思い出話に花を咲かせた。
小高『クロス探偵物語』は残酷なんですよ。斧が落ちてきて死体がアジの開きのようになったり、熱湯シャワーで大火傷したりして。めちゃくちゃ爽やかな絵柄で、音楽もピチカート・ファイヴの爽やかな感じの曲で青春モノっぽい感じがしますが、事件はすごく怖いんです。僕はもともと江戸川乱歩の怖い推理モノが好きだったこともあって、『クロス探偵物語』はハラハラしながら謎を解くのが好きでしたね。日野さんは?
日野PC版でプレイしましたが、『ポートピア連続殺人事件』はおもしろかったです。意外な犯人で。
小高僕はファミコン版を遊びましたが、ファミコンのアドベンチャーゲームで結末が驚く内容だったのは、『ポートピア連続殺人事件』が初めてだったかもしれません。あと、僕は『さんまの名探偵』もすごく好きで。キャラゲーと思いきや、『さんまの名探偵』もけっこう怖いんですよ。
日野『さんまの名探偵』も話題になりましたね。僕もさらに言うなら、小島秀夫監督の『ポリスノーツ』が好きです。推理モノではないかもしれませんが、すごくよかったです。
小高時代ごとにアドベンチャーゲームの金字塔がありますが、『レインコード』は2020年代の金字塔になりたいなという思いで作ったのもあります。
シナリオの作り方
つぎの話題はシナリオの作り方をテーマに、(1)キャラクターとストーリー、(2)結末と全体像に関してトークがくり広げられた。
これらのテーマも、小高氏と対談するなら日野氏が聞いてみたかったものだという。
(1)キャラクターとストーリー
日野僕も『デカポリス』や『レイトン』シリーズなど、ストーリー性の高いゲームのシナリオを作っていますが、僕はキャラクターデザインを見るとシナリオを直したくなるんです。こういう顔をしているやつだったら、こんなことをしゃべらせたいなと、シナリオができた後にがんがん修正するんですね。それで小高さんはどうなのかなって。一度書いたシナリオを、ほかの情報から壊して直すことはありますか?
小高僕はゲームを作るとき、組んでいるキャラクターデザイナーが『ダンガンロンパ』シリーズのときからずっと仕事をしている小松崎(※)になることが多いのと、彼は年代も近いこともあり、阿吽の呼吸になっていて。小松崎とのディスカッションで、シナリオを膨らませたり、固めたりすることが多いですね。
※小松崎類氏。トゥーキョーゲームス所属のイラストレーター。
小高プロット、キャラクターの順に考えて、シナリオをある程度書いてから小松崎にキャラクターデザインをお願いするのですが、小松崎はそこまでに書いたシナリオを全部読んだうえで、こういう服はどうか、こういう一面を加えるのはどうかといったアイデアをキャラクターデザインに落とし込んでくれるんです。
日野シナリオを作る段階から、キャラクターデザインも考えているのですね。
キャラクターに関して、小高氏から日野氏に質問するひと幕もあった。
小高日野さんが手掛ける作品はキャラクター数が膨大じゃないですか。
日野多いですね。5行ぐらいのキャラクター設定が書かれた資料だけでも、ものすごい量があって。
小高キャラクターを作るときにかぶりは気にしますか? 前に作ったキャラクターに似ちゃったなあって。
日野もちろん気にしますけど、むしろそれを利用しますね。こいつは過去作のあのキャラクターみたいなやつだからって。キャラクターはすごく大事なので、キャラクターありきでストーリーかなって思いますね。小高さんは魅力的なキャラクターをたくさん生み出していますけど、スパッと殺しちゃいますよね?
小高ただ、僕は死んでも終わりじゃないかなって思っていて。
日野死んでもじつは……って展開が多いですしね。
小高それもありますし、キャラクターが死んだから無くなってしまうわけではなくて、お客さんの心に残っていればずっと生きていると思っているので。
日野死んでから生かされるキャラクターもいますからね。
(2)結末と全体像
日野小高さんは結末と全体像のどちらを先に考えますか。つまり、順番に作っていくのか、それとも結末重視なのか。
小高物語を考えるときは、やりたいことをすべて箇条書きにして、これらを実現させるためにはどういう入り口にして、どういう結末にしようと考えますね。自分のやりたいことを最優先して入れていく感じです。
日野断片的なやりたいシーンを考えて、それを組み立てていく感じ?
小高『レインコード』で言うと、超探偵という探偵特殊能力を持った探偵たちが活躍する、テロ組織が登場するといった要素をまずは並べていく感じです。
日野結末は、やりたいことを組み立てていくときに考えるんですか?
小高組み立てながら、結末でなんとかお客さんを驚かせないと、みたいな感じで。物語の入り口と結末には、とくに時間をかけますね。
日野そうですよね。僕も入り口、結末の順に考えて、真ん中を考えるようにしています。
小高『レイトン』の1作目をプレイしたとき、まさか結末で驚かされるタイトルだとは思わなくて。絵本のようにストーリーが進んでいくのかなと考えていたので。
日野『レイトン』の結末は、ざっくり言うとひどい話ですからね。
小高(笑)。
日野でも、(驚きという意味では)お互い作った作品の結末が似ているところがあるので、ぜひ『レインコード』と『レイトン』を遊んでほしいですね。
小高両方遊んで、どこが似ているのか確かめてください。
ここだけはゆずれないゲーム作りのポイント
続いてのテーマ、ここだけはゆずれないゲーム作りのポイントは、日野さんが小高さんに質問をする形でトークがスタート。
日野ゲームを作っていると、自分が意図しないものが入ろうとしたり、納得していないけど進めないといけなかったりすることがあると思います。そんなときに、これだけはゆずれないというものはありますか?
小高僕は予算がない中でゲームを作る経験が多いのですが、こだわるところとこだわらないところを見極めないと、予算内で作りきれません。新しく仕事をする方たちからは、「すべてにこだわるタイプの人だと思っていました」と言われることが多いのですが、実際はこだわるところ以外はこだわらないタイプです。
日野小高さんは、めちゃくちゃこだわりそうですけどね。
小高こだわるところにはとことんこだわりますよ。でもユーザーさんにとって優先度が低いところはいいやって。
日野とくにここは譲らなかったっていうのはありますか?
小高ゲームを作るときにスタッフ全員に伝えているのは、ゲームプレイはシナリオの演出の一環だからというのは伝えています。プランナーがゲームプレイにこだわるのはいいことだと思いますが、それがシナリオの邪魔をするならいらないと。
日野お話をみせることが大事なんだと。
小高はい。それがいちばんだと伝えています。
日野ゲームクリエイターとしてはすごい発言ですよね。
小高この作り方をしているのはほかには聞かないと思います。でも、『ダンガンロンパ』でいうと、あいつが犯人だと自分のボタンで押すことがゲームだと思っているので、そのシーンを盛り上げるために精一杯、ゲームを作ってほしいですね。
日野ゲームもシナリオを盛り上がるためのひとつの要素だから、邪魔をするなと。
小高システムもカメラアングルなどと同じで、シナリオを最大限おもしろくするためのシステムを入れてくれと伝えています。
日野すごいですね。僕がそれをレベルファイブで言ったら怒られちゃう(苦笑)。
小高逆に日野さんはどこにこだわるんですか?
日野エンディングまでプレイしてほしいですが、たとえ10時間しか遊んでくれなかったとしても、その時間を濃密なものにしてあげたいというのがあって。前半のゲームの世界観に入るまで、世界観を好きになってもらうまでの展開は大事にしています。
また、世界観にこだわりのある作品を手掛けている両氏だからこそ、作品のイメージを開発スタッフに共有する苦労や工夫もあることが明らかに。
小高新作の世界観をスタッフ間で共有するのは難しいと思いますが、日野さんはどうやって共有していますか?
日野『デカポリス』の場合は、お客さんには見せない社内用のPVを作りました。
小高それは公開しないんですか?
日野いまのところ公開の予定はありませんが、そのPVがベースになって本当のPVが作られたりします。でもイメージの共有がすごく重要ですよね。開発スタッフが100人、150人となったときに、その全員がコンセプトを理解しているかどうかは、ものすごく大事なので。ひとりひとりに説明するよりも、社内向けに作ったPVを見て理解してもらうほうが早いですから。
小高僕もイメージの共有には苦労しています。『ダンガンロンパ』のときは、作品のイメージを伝えるために“サイコポップ”という言葉を作ったのですが、なかなか伝わらなくて。『レインコード』では、リアリティーレベルや世界観を開発スタッフに説明するとき、これは“ダークレイトン”だと言っていました。
日野光栄です。
小高「ダークな『レイトン』なんだよ」と伝えると、ファンタジー要素も『レイトン』くらい入っているのかと、わかりやすいので。
日野キーワードは大事ですよね。僕は『レイトン』シリーズの世界観を作るときに、“異世界ロンドン”と言っていました。あれはロンドンではない。“異世界ロンドン”なんだと。
小高作品のリアリティーレベルを共有するのもかなり大事ですよね。
日野ちなみに、新作の『レイトン』(※)のキーワードは“異世界アメリカ”なんですよ(笑)。
※『レイトン教授と蒸気の新世界』。
これから作ってみたいゲーム
また、これから作ってみたいゲームのテーマでは、日野さんが小高さんに新作情報のポロリを要求し、小高さんがたじろぐ場面も。
日野小高さんは、いま何を作っているんですか?
小高スパイク・チュンソフトを独立したときに、タイトルを4本発表しました。その中には打越(※)との共作もあり、6年ぐらい音沙汰がない状態なのですが、いまはそれを全力で作っています。
※打越鋼太郎氏。トゥーキョーゲームス所属のクリエイター。代表作は『極限脱出』シリーズや『AI: ソムニウム ファイル』シリーズなど。
日野それはどんな作品なんですか?
小高僕と打越がやってきたことを凝縮したような……。
日野推理があったり、トリックがあったり?
小高あまり推理、トリックというのはなくて、サスペンスというか、ジェットコースターのようにつぎつぎ展開するのが醍醐味の作品になります。僕自身は、その作品のシナリオを書き終わっているので、そんなに遠くない未来に出るのかなと思っています。
日野タイトルは?
小高タイトルはさすがにまだ言えませんが(笑)、前代未聞のゲームを作りたいなと思います。
日野楽しみですけど、また前代未聞ですか(笑)。
小高逆に日野さんはどんなゲームが作りたいんですか?
日野僕は幸せなことに、いま作っているタイトルが、自分がやりたいことだったりするので。まずはいま発表しているタイトルを集中して作りきりたいと思います。
今後の目標や次回作について
最後のテーマは、今後の目標や次回作について。小高氏の質問に答える形で、日野氏が手掛ける最新作『デカポリス』のCEROに関する情報が飛び出した。
小高『レインコード』で3Dのリッチなアドベンチャーゲームを作るという夢を叶えることができたので、僕の目標はそこで終わってしまっていて……。逆にどういうゲームを作ればいいと思いますか?
日野それじゃあ、この後に裏で話しましょうか。
小高(笑)。
日野でも、僕も自分がやりたいことはけっこうやりましたが、「よくこんなものを作ったな」という海外の作品を見ると、日本のゲームメーカーも力を合わせてがんばりたいなと思いますね。
小高興味本位で聞いちゃいますが、レベルファイブさんは全年齢のゲームが多いと思いますが、Z(18歳以上対象)を作りたいと思ったことはありますか?
日野それで言うと、いま作っている『デカポリス』はかわいいゲームに見えますが、因縁や復讐といったドロドロした要素があって、中身はZなんじゃないかと思っていて。発売するときのCEROはまだわからないんですけど、かなりヤバい内容になっています。「この国では絶対に発売できません」と言われるかもしれませんが、コンセプトのズレた作品は作りたくない。その要素が本当に必要なら、CEROが上がっても仕方ないかなと思っています。
小高氏と日野氏の最新作の話題が出たところで、初となる対談は終了。良質な推理ゲームを生み出し続ける、両氏の今後の活躍にますます期待したい。
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