人間と仲よくしたいと思っている。悲しきモンスターみたいなことを書いてしまったが、本心である。
そこでセガの『サンバDEアミーゴ』だ。ゲームタイトルに“アミーゴ(友だち)”と入っているので、仲よくしたい人といっしょに遊べば晴れてアミーゴということだろう。
ちょうどNintendo Switch版の『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』が2023年8月30日に発売されたばかり。これで友だちを増やしなさいと天が言っている。
『サンバDEアミーゴ』で学ぶ接待もある。
『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』ほどハッピーなゲームはそうそうない。Joy-Conをマラカスに見立ててタイミングよく振る。基本的にはそれだけだ。何かおもしろくて笑えてくる。
はっきり言ってばかばかしいゲームだと思う。とはいえ、いっしょに笑いあったらもう友だち。つまりそういうこと。
さて。僕はふつうの会社員だ。会社員が仲よくしたい人といったらぶっちぎりでこの人だろう。
社長である。
この人はファミ通.comの運営母体KADOKAWA Game Linkageの豊島社長。「ゲームしませんか?」と社内チャットでメッセージを送ったら「いいよ。いつにする?」みたいな返信があった。
ところで、18年くらい前の話。専務をネタ記事に出したところ、当時の社長から「こういうことを役員にやらせるなよ」と悲しい顔をされたのを覚えている。どうやらふつうの会社員は役員をいじらないらしい。あれは怒られるより辛かった。
トラウマを乗り越える今日が新しい自分の誕生日だ。帰ったら少し高いワインを開けよう。
Switch版『サンバDEアミーゴ』を遊び、その様子を記事にすることは事前に伝えてある。報連相はビジネスの基本なので。
豊島社長は「おじさん同士で遊んでるところを撮ってどうするの?」と疑問を抱いていたので、「いまSNSでウケるのは仲のいいおじさんなんですよ」と説得する。僕は雇い主に何を言っているのだろう。

洋楽には詳しくないんだけど、大丈夫かな。
収録楽曲はノリノリの洋楽が中心。豊島社長のように、知らなくても楽しめるか気にする人はいるだろうが、まったく問題ない。
曲名は知らなくてもサビは聴いたことがあるみたいな名曲揃いだし、リズムに乗って体を揺らすだけでも気分はアガる。どう遊んだって楽しい。
とはいえ、始める前に不安を払しょくしておきたい。

大丈夫です! 社長と言えばこれ! という曲も入ってますから。

“マツケンサンバII”です(※)。
※マツケンサンバII、廻廻奇譚、KINGはDLC“ジャパンカルチャー ミュージックパックで利用可能。価格は550円[税込]。

僕のイメージについて話し合おうか。

たいへん申し訳ないんですけど、ぎらぎら和服の用意が間に合いませんでした。きっと楽しみにされていましたよね。すみません。

話を聞いてくれる?
迷う前にJoy-Conを振れ。それが『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』の鉄則である。踊れば不安も悩みも疑問も吹っ飛ぶ。会社の経営で何かあったらいったん『サンバDEアミーゴ』をプレイしてほしい。
たぶん豊島社長は「自分なんかよりタレントさんを撮影すればいいのに」と考えている。ぐうの音も出ない正論なので、冷静になる前に「とりあえずやってみましょうよ」と“マツケンサンバII”を選曲した。
なお、事前のルール説明はいっさいしていない。早くゲームをやりたいだろうという僕なりの気配りである。
それでも大丈夫なのが『サンバDEアミーゴ』だ。最初は「え? 何これ」でも、すぐに「あ、こういうことか」に変わる。誰でもすぐにおもしろがれる。
Joy-Conを振る。矢印に合わせてスライドさせる。指定されたポーズを取る。初見なのに迷うことなくついてくる豊島社長。「すごい! さすが!」と、褒めがナチュラルに口をついて出た。
これが接待プレイの本質ではないか。上っ面のご機嫌取りではなく、本心から褒めるのが大切。『サンバDEアミーゴ』で学ぶ接待もある。
あと、社会人のみなさんに本質情報をお届けしたいのですが、隣りで社長が“マツケンサンバII”を踊っているのは不条理マンガの1シーンのようでおもしろいです。
『サンバDEアミーゴ』は人が踊っているところを見るのもおもしろい。つぎは「人が踊っているところを見たい」と、豊島社長が貴族みたいなことを言い出した。
仲よくなりたいというのは本心で、できれば人事評価を上げたい気持ちもあり、ここは素直に従う。曲は『リズム怪盗R 皇帝ナポレオンの遺産』の“怪盗Rのテーマ(※)”。
※怪盗Rのテーマ、Go Go Cheer Girl!、ばかみたい【Taxi Driver Edition】はDLC“セガミュージックパック”で利用可能。価格は550円[税込]。

ここまで部下の満面の笑みを見ること、そうそうないな。

部下の笑顔を見られてうれしいでしょう?

「そんなわけないだろ!」ってツッコみにくいこと言わないで。

あ! 見てください!

佐藤[Satou]のSです(僕の本名は佐藤裕介)! 豊島[toyoShima]のSでもあります!

何のアピールだよ。
つぎはどんな曲がいいか。僕もそんなに詳しくないので、試聴してあれがいいこれがいいと言い合う。この時間が地味に楽しい。心の距離が近づいているのを感じる。雑談も増えてきた。

五十肩だからさ~、上(に振るの)がキツいんだよね。

これさ、横と下だけのモードがあってもいいよね。そしたらお年寄りも遊びやすいでしょ。

めちゃくちゃいいじゃないですか。セガさん、何とかしてくれないかな。

ところで、老後の資産形成について相談があるんですけど。

この流れで聞くことではないよね。
仲が深まったところで試したいモードがある。相性診断“ラブチェッカー”だ。要するに協力プレイモードで、動きがシンクロすると相性が高まっていく。
選んだ曲はアニメ『呪術廻戦』第1期のオープニングテーマ“廻廻奇譚”。僕の好きな『呪術廻戦』キャラ・東堂葵の言葉を借りれば、豊島社長とはすでに“超親友(ブラザー)”の関係のはず。

全然じゃねーか!
全然でした。ただ、“ふたりの関係には のびしろしかありません!”とのことなので、ことあるごとに「お酒おごってくださいよ」と言い続けることにする。
これにて取材は終了。片付けに入ろうとしたところ、豊島社長から、

もうちょっとやろうよ。
と延長戦を提案された。何だかんだで楽しいみたいだ。
僕はこの後に別件の打ち合わせがあったのだが、汗だくで出席するのも致し方なし。マブダチからゲームに誘われたのだから断るなんて野暮である。
ふたりとも体力がない方なのに、はしゃぐからこうなる。

これ、人事評価に影響しますか?

それとこれとは話が別。
sakoさんと踊った僕の中の真矢みきが目を覚ます。
社長と仲よくなった。「つぎの社長は……きみだ」と指名されるかもしれないので心の準備をしておこう。
さて。僕はコミュ障というほどでもないと思うが、生来、心の距離感を計るのが下手である。離れてちらちら見るかゼロ距離まで詰めるか。0か100の2択になってしまう。
“偉い人は部下から気安く接してもらいたい”という都市伝説を信じて(※)、社長には古武道の達人並みのスピードで接近した。だが、たぶんふつうは通用しない。
※実際はそんなことなく、「失礼なやつだな」と悪印象を与えることが多いらしい。気を付けよう!
そこで距離の詰め方がうまい人をお呼びした。この人とも仲よくなりたい。
FAV gaming所属のプロ格闘ゲーマー・sakoさんである。格闘ゲームは間合いのコントロールが大事なので。
少し前にsakoさんと僕は同い年(1979年生まれ)と知った。eスポーツ関係者には1979年生まれが多く、僕はこの集まりを“花の79年会”と称している。sakoさんは中心メンバーだ。僕が勝手にそう思っているだけなのだけど。
お互いに顔は知っている。だが、これまでにおしゃべりする機会は少なく、現場には「あ、どうも……」と会釈するだけの微妙な空気が流れ続けてきた。
『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』の力を借りれば、そんな関係とはさよならできるんだろ! なあ!
なお、直接sakoさんに連絡する勇気がなかったので、FAV gaming関係者を通して「踊っていただけますか?」と伝えた。
後から気付いたがこれはダンスパーティーの誘い方だ。また距離感を間違えている。
趣旨を丁寧に説明すると、大人なsakoさんはきっと「もう友だちですよ!」などと言ってくれるだろう。だが、僕がほしいのはそういう気遣いではないのだ。
めんどくさい彼女みたいで恐縮だが、やっぱり心の底からもれ出す本音を聞きたい。考える暇を与えることなくゲームを始める。

まずはsakoさんの好きな曲からいきましょう。

そうですねー。“KING”は好きですよ。子どもがうちでよく流してて。
Kanaria氏のボーカロイド曲“KING”は、適度にノリがよく、クセになるフレーズが多数。楽しく踊りたい意思表示と受け取る。

あ! KINGのKだ。

へぇー(はぁっはぁっ……)、凝って! ますね!(はぁっ……)

こういう! 細かいと! ころ! よくできて! るんですよ!(はぁっふうっ……)
おもしろい発見に盛り上がりたいが、ゲーム中は息が切れて会話にならない。ふたりして1曲目から全力で行ったので当然である。
そして、ままならなさすぎて込み上げてくる笑い。『サンバDEアミーゴ』かくあるべきと言いたくなる開幕だった。幸先がいい。
ここでsakoさんが気付いた。

けっこう脚に来ますね。
そう。腕を振るゲームというより全身運動なのである。
テンポの速い曲が多いので、軽くやろうとすると間に合わない。リズムに乗ると体の動きが大きくなり、自然と足を踏ん張るように。これが下半身の運動につながっているのだと思う。

ポーズ取るところあるじゃないですか。(Joy-Conの)位置と角度が合ってればいいので、全身で画面のポーズをマネする必要はないんですけど、

ここで本気出さないやつは信頼できないと思いませんか?

やけに好戦的なのは気になるけど、ちょっとわかる。
ゲームはよりおもしろく遊びたい。変なポーズを取ったほうがおもしろいのだから、そうする。
sakoさんに僕の感覚を理解してもらえてうれしい。好感度システム搭載ゲームだったら小気味のいい効果音が鳴っているところだ。
すぐにでも2曲目に行きたいが、このままだとアキレス腱が4本同時に切れるので、入念にストレッチする時間が設けられた。若くないので体は大事にしたい。

(格ゲーの)試合の棄権の理由が‟アキレス腱をやったから”だったら嫌ですね。

せめて手を痛めろよってツッコまれそう。
体が温まってきた。“Good Time”や“Get Busy”など、ノリのいい曲を中心につぎつぎと遊ぶ。すると現場のテンションが高まっていく。
当然のように僕らのHPは減り続ける。「sakoさんが全身筋肉痛になったら明日の練習に差し支えるのでは」と言いかけたが、気付かないふりをした。

僕の好きな曲いいですか。“Go Go Cheer Girl!”。『スペースチャンネル5 パート2』の曲なんですよ。

……チアガール? そんなにハツラツとしていいんですか? おじさんなのに?

いいんです。おじさんにもハツラツとする権利はあるんです。
何の会話だ。
そろそろやりたかったことを試してみる。難易度CRAZYだ。ほんとにたいへんなので社長には言い出せなかった。
『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』では曲ごとに4段階の難易度(NORMAL、HARD、VERY HARD、CRAZY)が用意されていて、CRAZYは特殊な扱いとなっている。難しいというよりずっと忙しい。
曲は“廻廻奇譚”にしよう。僕もこの曲のCRAZYは試したことがないので。

は? これ何やってんの!?

こ、い、つ……まじでふざけんなよー!
すごかった。開幕から高速でポーズとスライドの連続。ずっとおかしな動きを要求され続ける。犯人の要求が「CRAZYをやり続けろ」だったら人質を助けられる気がしない。運動量のレベルがこれまでと全然違う。
でも、これがいいのである。変な動きをさせるって、そうとう仲のいい友だちにしかできない行為だから。とくに意味はないのだけど変なことをさせる。自分もやる。中学生男子みたいな時間が流れている。

これやばく! ないですか!

諦めないで。
僕の中の真矢みきが目を覚ます瞬間もあった。
きっちり水分補給して体力を回復。最後にラブチェッカーで相性診断といこうじゃないか。曲は『ソニックアドベンチャー2』の名曲“Escape From The City”にした。
68%でした。スコアが低いように思えるだろう。よく見てほしい。
フロアが沸いた。完璧な結末である。
ストイック過ぎないからいい。適当に遊んでもいい。
sakoさんはもともとゲーセン勢で、音ゲーもたしなんでいる。雑食ゲーマーのsakoさんの目に、『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』はどう映ったのだろう。

パッと見、すごいわかりやすくていいですよね。適当にやっててもコンボがつながっていくから気持ちいい。家族でいっしょに遊べそう。

家族でゲームはいいなあ。いろんな展開をしてほしいんですよ。家族で遊ぶ。おじいちゃんおばあちゃんと遊ぶ。あとはeスポーツ展開とか。

eスポーツかー。

フィギュアスケートとか体操って審査員が演技を採点しますよね。そういうeスポーツを見たいんですよ。ポーズの美しさと観客へのアピールを芸術点として評価してほしい。

スコアを競うだけじゃないんだ。

やり方を自分で考えたり対策を練ったり、ぎちぎちじゃない“遊び(ゆとり)”の部分があったほうがおもしろいんじゃないかなって。

そう言えばそうか。音ゲーって突き詰めるとすごくストイックになるんですよ。譜面通りにやるものだから、ランダム要素が入り込む余地がない。

Swtich版の『サンバDEアミーゴ』はストイックになり切れないからなー。ランダムでハプニングが起きるし。

『サンバDEアミーゴ』はストイックすぎないのがいいですよね。たぶん判定も甘め。わざと甘くしてると思うんだけど、だから誰でも適当に遊べる。
音ゲーは完璧を追い求める方向に進化しやすいが、『サンバDEアミーゴ』はその道を歩んでいない。
ふつうの音ゲーだとアウトなところを「いいよいいよ。PERFECTにしておくからさ、とりあえず踊りなよ」と受け入れる。やさしいというか度量が大きい。大物である。

ゲーマーは運動不足になりがちじゃないですか。たまには体を動かした方がいいので、格ゲー勢で『サンバDEアミーゴ』大会やりましょうよ。

格闘ゲーム以外できない格ゲーマーはわりといるからなー。あ、でも『サンバDEアミーゴ』なら(判定が甘いから)やれるかも。
上の写真を見ればわかる通り、ダンスを通してsakoさんと仲よくなれた。もうマブダチだから、最後にあれ聞いてみるか。

今度、プリクラ撮りに行きましょう。
「OKでーす」
仲よくなりたい人と遊ぶなら『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』であると実証できて満足である。現場からは以上です。
sako家にサンバの波が訪れた。
後日、sakoさんの奥さんでありマネージャーのakikiさんから感想が届いた。以下、全文を掲載します。
以下、akikiさんからのメッセージを引用
sakoは先日の撮影が楽しかったようで、「リーグの練習で運動不足なんだよね。自宅で楽しく運動できるし、判定が甘いから子どもにもできそうだし、このゲームうちにちょうどいいなー」と、とてもさりげなく『サンバDEアミーゴ:パーティーセントラル』をねだられました。
たしかに楽しかったし、子どもとのコミュニケーションにもなりそうということで購入を決定。踊るのでうるさかったら困りものですが、手を振る操作がメインなので、とくにそんなことがないのもポイントが高かったです。
先日は家族全員がS評価を獲ることに夢中になり、最終的に全員腕が上がらなくなるまでやってしまいました。パパが高レベルでSを獲りまくり、娘が「パパすごーーーい!!」と尊敬の目で見ていました。
残念ながら、格ゲーではパパのすごさは伝わりにくいです。『サンバDEアミーゴ』のほうが方が尊敬されたまであります。
娘の感想
- パパやママと遊べて楽しかった
- ノーマルならAやSがとれて、私はゲームがうまいんじゃないかと思う
- ポーズがカッコよく決まって気持ちいい
- パパの動きがおもしろかった
sakoの感想
- 家族でいっしょにキャッキャと楽しめた
- 娘に尊敬された
- 子どもが遊ぶ用にリビングに古いゲーミングモニターを置いていたが、古くて見づらいし画面は小さい。大画面で『サンバDEアミーゴ』をやりたいからテレビをゲーミング対応の新しいのに買い換えようかという大きな話に発展した