2023年8月23日から25日にかけて開催された、日本最大のコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC2023”。
本記事では、サウジアラビアやアラブ諸国のゲーム市場・産業について学べるセッション“アラブ諸国のゲーム市場・産業、2023年の現状と将来 ~何故サウジアラビアは日本のゲーム会社の株を買い、ゲームに5兆円超を投資するのか?~”の内容をまとめて紹介する。
講演者は、コンテンツビジネスの海外進出をさまざまな形でサポートする企業・ルーディムスの代表取締役社長・佐藤 翔氏。
サウジアラビアの政府系ファンド、Public Investment Fund(PIF)の子会社であるSavvy Games Groupは、2022年9月にゲーム・eスポーツ企業へ総額1420億リヤル(約5兆4700億円)の投資を行うことを発表。さらにPIFは、任天堂やカプコンといった企業の株も取得しており、同国のムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が設立したMiSKの傘下企業はSNKを買収したことでも知られている。
こうしたサウジアラビアの積極的なゲームビジネスへの投資や活発な活動にはどのような背景があるのか? 佐藤氏は、徹底した現地調査やヒアリング、最新のデータを元として、サウジアラビアを中心にアラブ諸国のゲーム市場・産業について詳しく解説。日本企業は今後、これらの地域とどのように付き合っていけばいいのかについて、知見を提供してくれる講演となった。
サウジアラビアのゲームビジネスへの投資の現状と背景
まずは導入でも説明のあった、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が設立したMiSKと、政府の公的な投資機関、PIFの活動内容の説明から。MiSKはSNKに8億1300万リヤルもの投資を発表。
一方のPIFは、世界最大規模のeスポーツ組織、ESL Gamingを10億ドルで買収するなど、ここ数年の活動内容についての解説がなされたほか、両組織はゲームだけでなく、漫画やアニメといったコンテンツを取り扱う子会社を多数抱えていることなども紹介された。
また、MiSK系、PIF系以外にも、サウジアラビアではさまざまな企業がゲーム産業に参入しているそうで、このたびの講演では、政府系、教育機関系、その他といった区切りで、いくつかの大手企業が紹介された。
国家プロジェクトとしてゲーム産業に取り組む
サウジアラビアでは、ゲーム産業は国家プロジェクトという枠組みで、国をあげてその活性化に取り組んでいるという。
2016年には同国の成長戦略として“サウジ・ビジョン2030”を発表。さらなる経済発展や、雇用機会の創出など、さまざまな目標が掲げられおり、サウジアラビアでのビジネスを考える際は、まずこちらに目を通すことを強く勧められた。
さらに2022年9月には、ゲーム関係の政策をまとめた“国家ゲーム・eスポーツ戦略”も発表。
こちらでは、「サウジアラビアをeスポーツイベントのもっとも有力な拠点にする」、「国内のゲーム会社の数を250社に増やす」、「2030年までにサウジアラビアが拠点のゲームスタジオから、30以上のヒットタイトルを生み出す」など、86の目標が掲げられている。
こうした展開に加え、同国は日本のゲーム産業にも期待を寄せており、2017年3月には“サウジ・日本・ビジョン2030”という政策も打ち出している。これらは和訳もされているので、気になる方はぜひ一度、チェックしてみてはいかがだろう。
アラブ諸国のゲーム市場の基礎知識
続いて佐藤氏は、50以上のゲーム会社をリサーチしたうえでまとめたという、サウジアラビアにおけるゲーム産業のデータを発表。ジャンル別に見てみるとFPSやレース、サッカーなど、言葉を必要としないゲームの売り上げが好調で、逆にRPGは伸び悩んでいることがわかる。
さらに、サウジアラビアにおける主なゲームスタジオや、国内で開発され、好調な売れ行きを見せているタイトルなどもピックアップして紹介。
同国の首都・リヤドが舞台の『Abo Khashem』や、宇宙人となって人間の誘拐数を競う『Nebulas Lasso』など、ユニークなアプローチのゲームが多く、佐藤氏も「ほかのアラブ諸国では、海外で流行ったタイトルを模倣して、似た作品をどんどん作る傾向が強いです。一方、サウジアラビアでは、自分たちが本当におもしろいと思う、ナラティブな要素を含んだタイトルが多く作られているので、そこに開発力もともなえば、日本のユーザーでも満足できるレベルの作品が誕生するのではないか……と、期待しています」といった見解を示した。
ちなみに現時点では、サウジアラビアのゲーム市場のプラットフォーム別内訳はモバイルが主流。
また、アラビア語は現在、全世界においてどれくらいの規模で使われているか……という点についても説明がなされ、日本のゲームメーカーもさらなる売り上げアップを目指すのであれば、「アラブ圏用のローカライズに注力するべき」との説明もなされた。
アラブ諸国のゲーム市場の特性
ここからは「アラブ諸国のゲーム市場の特性」として、さまざまな情報が一挙に公開される流れに。まずはサウジアラビアにおける「ゲームプレイのためのインフラの状況」を紹介。
eスポーツの発展を政策目標に掲げているだけあって、政府は四半期ごとにレイテンシーのデータを公開。インターネットのダウンロード速度は非常に早く、都市部では快適なゲームプレイが楽しめるという。
続いて壇上では、人気のあるSNS・ストリーマー、人気のある日本コンテンツ、アラブ諸国における主なゲーム関連イベントなどを立て続けに紹介。
日本のアニメコンテンツは、1980年代までの作品と2010年代以降の作品に人気が二極化しているそうで、アニメ関係のビジネスを考えている企業や個人はそうした点も考慮したうえで営業をかけるべきという助言もなされた。
サウジアラビアにおいて人気のあるゲーム、販売されている日本タイトル、eスポーツシーンの現状なども紹介。
同国でも『Fortnite』や『コール オブ デューティ』、『Apex Legends』といった作品が人気で、日本タイトルでは『ELDEN RING』や、『Ghost of Tsushima(ゴーストオブ ツシマ)』(※開発は米サッカーパンチプロダクション)などが売れているという。
モバイル市場についても一挙に情報が公開され、ジャンルごとのダウンロード比率や、前年比でのジャンル別売り上げ変動なども明らかに。
さらに、サウジアラビアのゲーム市場における販売店や、PCゲーム&モバイルゲームに特化した施設も紹介され、近年ではVOV(ゲームカフェ)や、アラブ圏全体をカバーするゲームユーザー向けのファンコミュニティWizzo、eスポーツのマッチングツールPlayheraなどが発展しているという。
締めくくりとして、サウジアラビアにおける審査制度についても触れ、現状、同国には視聴覚メディア委員会(GCAM)と、MiSK傘下の組織が発表した、ふたつのレーティング制度が導入されていることも紹介された。
サウジアラビアにおける、ゲームビジネスの今後
講演の最後には、まとめとして、サウジ・アラブ諸国のゲーム市場の現況が解説された。
サウジアラビアの場合、国家規模でゲーム市場の盛り上げに取り組んでいるため、同国でのビジネスを考えるのであればそれ相応のプランをしっかりと練る必要がある。また、アラブ諸国は日本のゲーム産業に注目しているものの、欧米や中国、韓国の企業にも同様に期待を寄せているとのことだ。
アラブ諸国では管轄の変更、担当者の変更、組織の改編といったことが頻繁に、なおかつ予告もなしに急遽行われるケースが非常に多い。そういった場合でも継続してコミュニケーションを取れるように、ひとつの組織に対して複数の連絡用のラインを確保しておくことが重要だと語った。
「サウジアラビアのゲーム市場には、こちらから乗り込むだけでなく、先方の興味を引くことで、大規模な投資を受けられるチャンスでもあります。まずは『サウジ・ビジョン2030』をしっかりと読み込み、彼らが何を求めているかを正確に理解する。そのうえで最適な戦略を展開することで道は開けるはずなので、ゲームビジネスの新たな可能性を模索されている方は、ぜひ一度、アラブ諸国での展開を真剣に考えてみてはいかがでしょう」
と、佐藤氏は結び、セッションは盛況の内に終了した。
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