『なつもん! 20世紀の夏休み』(以下、『なつもん!』)は、2023年7月28日にスパイク・チュンソフトから発売されたNintendo Switch向けソフトで、『ぼくのなつやすみ』シリーズの綾部和氏がゲームデザイン・脚本などを手掛ける完全新作のアドベンチャーゲームだ。
海の見える緑豊かな田舎町“よもぎ町”を舞台に、主人公の少年サトルが神社でのラジオ体操や海水浴、お祭りなどなど、自分だけの夏休みを体験する。
『なつもん! 20世紀の夏休み』(Nintendo Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp)今回の企画では、世界を股にかける昆虫ハンターとしてテレビやラジオなど多くのメディアで活躍する牧田習氏が、『なつもん!』の昆虫採集を体験。専門家の視点から、本作の昆虫採集の作り込みのすごさを、自身の体験を交えながら語ってもらった。
牧田 習(まきたしゅう)
1996年10月14日生まれ。兵庫県出身。
幼少のころに祖父が捕まえてきたミヤマクワガタをきっかけに昆虫に魅了され、昆虫博士を志す。北海道大学を卒業後、東京大学大学院に進学。海外の研究者と協同で昆虫研究を行い、新種を発表している。
2023年4月には、自身が執筆した書籍『昆虫ハンター・牧田 習のオドロキ!!昆虫雑学99』が発売された。
主人公のサトルはプロが認める昆虫ハンター
――牧田さんは、ふだんゲームで遊びますか?
牧田ゲームは小学生のころからニンテンドーDSやWiiで遊んでいますが、最近は昆虫採集や研究に没頭しているので……(苦笑)。
――ですよね(笑)。それでは、最初にゲームの簡単な説明から行いますね。『なつもん!』は夏休みを体験するゲーム。サーカス団の団長の息子となって、8月の1ヵ月のあいだに昆虫採集や魚釣り、ラジオ体操、夏祭りなどを楽しみます。
牧田へぇ~。設定が細く決められているんですね。
――そして、そんな夏休みの遊びのひとつとして、こんなふうに虫あみを使って昆虫採集ができるんです。
牧田ムラサキシジミですね! 羽の黒い部分もリアルに再現されている。
――専門家として見ても、昆虫の再現度は高いですか?
牧田そうですね。テレビの映像だと色味が変わっちゃうことがありますし、イラストで描いても違う色になりがちなんですけど、ゲームでは色味がそのまま再現されていると思います。
――採取した虫は、サイズや日付、採取場所を確認できます。
牧田リアルで昆虫を採取して、標本を作るのといっしょですね。
――昆虫を採集したときは、基本的にサイズを測るんですか?
牧田カブトムシやクワガタムシは測ることが多いですね。
――確かに大型の甲虫はサイズが気になりますよね。本作では、手づかみでも昆虫を捕まえられるんですが……。
牧田(必死にチョウを追いかける姿を見て)チョウも手づかみで捕まえられるんですか?
――うまく条件が合えば……。あ、いけた!
牧田モンシロチョウですね。
――虫を捕まえるときは、やっぱり虫あみを使うことが多い?
牧田チョウの場合は虫あみを使いますが、クワガタムシやカミキリムシなどは、とっさに手で捕まえちゃうことのほうが多いです。虫あみはいつも持ち歩いているのですが、すぐに出せないこともあるので。
――手づかみのときは素手で?
牧田状況によって変わります。たとえば、木の穴にいる昆虫を探すときなどは、安全に配慮して軍手を使うこともありますが、軍手をつけていると虫を捕まえたときに力加減がわかりにくくて……。安全なときは素手で捕まえることが多いですね。
――番組で拝見したのですが、牧田さんが持っている虫あみは大きいので、小回りがきかなそうですもんね。
牧田そうなんですよ(苦笑)。
――ちなみに、あの虫あみは特注なんですか?
牧田特注のものもありますし、専門店で購入したものもありますね。あみのサイズが大きいほど捕まえられる確率は上がるんですけど、小回りがきかなくなるので、なるべく可動式のものを使っています。お見せしましょうか?
――見たいです!
※牧田氏がカバンから虫あみを取り出して組み立て始める。
――へぇ~、組み立てられるんですね。
牧田はい。この虫あみは専門店で買ったものになります。
――虫あみの振りかたのコツってあるんですか? テレビ番組で虫あみをめちゃくちゃ早く振り回す姿が印象に残っていて。
牧田チョウなどすぐに逃げちゃう昆虫を狙うときは、捕まえる瞬間だけ早く振るようにしていますね。
――野球のバッティングみたいですね。ちなみに、主人公の虫あみを振る速度はどうですか? 10歳の少年なんですが。
牧田10歳の少年としては十分早いです(笑)。
※虫あみを振っていると偶然、昆虫が……。
牧田あ、すごい! オナシアゲハは日本だと激レアな昆虫です。数例しか発見されていなくて、20世紀にはほとんど採取されていないと思います。僕は今年の4月にフィリピンで出会って、めちゃくちゃ感動しました。
――町中にいたのに、そんなにレアなんですね。
牧田フィリピンなどの東南アジアにはたくさんいるんですけどね。日本だと与那国島(※日本最西端の島)で発見されています。
――与那国島!
牧田それにしても、(本作は)よくオナシアゲハをチョイスされましたね。センスがすごいなあ。
――本作には200種類の虫が収録されているので、ほかにも牧田さんが驚く種類がいるかもしれませんね。生息場所や活動時期などもリアルに再現されていて、たとえば民家の軒先にあるレンガブロックを持ち上げると……。
牧田クロオオアリがいましたね。昆虫が家の庭や玄関で捕まえられるのもリアルです。虫採りは森で行うイメージがありますが、町中のちょっとした草むらでも捕まえられるので。
――ほかにも木に登ったり、木にハチミツを塗ってカブトムシやクワガタムシをおびき寄せたりすることもできます。
牧田木に登れるのはうらやましいですね~。じつは、人生で初めてヘラクレスオオカブトを見つけたときに、木登りしないといけない高さにいて、悔しい思いをした経験があるんですよ。
――高いところにいる昆虫はどうやって捕まえるんですか?
牧田柄の長い虫あみを使いますが、それでも難しいときは木を登ることもありますよ。僕はあまり登れませんが、東南アジアの先住民は10メートルもの高さを登ることもあります。
――10メートルの木を登れるのはとんでもないですね。『なつもん!』では、高い場所にいるセミなどの昆虫は、グリ鉄砲というおもちゃの銃で気絶させて捕まえることもできますよ。
牧田へぇ~! じつは、昔の人は大きな昆虫を採取するとき、鉄砲を使ったという逸話も残っているんですよ。
――主人公は昆虫採集のプロかもしれませんね(笑)。ゲーム内の時間が夕方になってきましたが、本作では時間帯によって採取できる昆虫が変化します。リアルだと、昆虫を捕まえやすい時間はありますか?
牧田ゲームと同じく、昆虫によって捕まえやすい時間帯は変わります。日中はチョウ、夕方はトンボ、夜はカブトムシやクワガタムシが捕まえやすいですね。
――時間帯だけではなく、場所によっても出現する昆虫が変わるのですが……。眼の前を飛んでいるのはモンキチョウかな?
――あれ、違う。ミヤマモンキチョウでした。
牧田えー、すごい! ミヤマモンキチョウもかなり珍しい昆虫です。“ミヤマ(深山)”の名前の通り奥深い山や標高の高い山などに生息していて、通常のモンキチョウと違って羽の黒い部分が大きいんですよ。
牧田こうして見ると、本作に収録された昆虫は、“推しポイント”を強調するようなデザインになっていますね。昆虫の“推しポイント”に目が行くように、かわいらしくデザインされていると思います。
――なるほど。ちなみに、ゲームなので誰でも簡単に昆虫を採取できるように作られていますが、牧田さんのたいへんだった昆虫採集の思い出は?
牧田ヘラクレスオオカブトの採集は記憶に残っています。南米のエクアドルで捕まえたんですけど、採集場所に行くまでに4日かかりました。
――4日!
牧田しかも、エクアドルの空港って標高2400メートルの場所にあるんですよ。機内アナウンスで「着陸後は具合が悪くなることがあるので気をつけてください」と言われて(苦笑)。
――気をつけようがない(笑)。
牧田2400メートルから4000メートルの場所まで登ってから、1000メートルの場所まで下るんですが、整備されていない道を進むので、自分がどこにいるかもわからないんです。
ヘラクレスオオカブトの生息地にやっとたどり着いても、見つけられるかどうかは運次第。僕は運よく見つけることができましたが、発見したときはものすごい達成感がありました(笑)。
希少な虫の数々に牧田氏も興奮
――ここからは、本作に収録された200種類の昆虫をご覧になっていただこうと思います。まずはチョウがズラリと並んでいますね。
牧田(たくさんのチョウを眺めながら)あ、ウスバキチョウ! これ天然記念物なんですよ。
牧田ゲームなので主人公は捕まえていますが、リアルでは採集禁止の昆虫です。大雪山系(※北海道中央部にある、旭岳などの山々からなる巨大な山塊の名称)や十勝岳の一部にしか生息していません。
――へぇ~! 与那国島に生息するオナシアゲハがいたので、本作の舞台は温かい地方なのかなと思いきや、ここにきて謎が深まりましたね……。
牧田そうですね(苦笑)。あ、キベリタテハもなかなか見つけにくい。
――200種類の昆虫の中には、博物館に寄贈できるレアな昆虫も設定されているんですが、キベリタテハはレアなものになります。現実でもやっぱり珍しいんですか?
牧田信州や北海道に生息しているんですが、警戒心が強いうえに、飛ぶのが速くて見つけてもなかなか捕まえられないんですよ。
――チョウのスピードは、モンシロチョウがイメージしやすいと思いますが、モンシロチョウと比べてどれくらい速いんですか?
牧田キベリタテハのほうが圧倒的に速いです。モンシロチョウの3、4倍は速いんじゃないかな。小学生でキベリタテハを捕まえるのはかなりすごいですよ(笑)。
――そうなんですね。サトルすごいな。
牧田シジミチョウもいっぱいいますね。あ、ルーミスシジミも、生息地が天然記念物に指定されている場所もあるほどの珍しい種類です。
――ルーミスシジミはゲーム内でもレアなものです。
牧田ルーミスシジミは奈良県の春日山原始林に生息していたのですが、この地では全滅したと言われています。
――リアルでは採取できない昆虫を発見できるのも、ゲームならではの魅力ですね。
牧田モルフォチョウモドキやヘラクレスオオカブトモドキが捕まえられるのも、ゲームならではかもしれません。
牧田モルフォチョウとヘラクレスオオカブトは実在しますが、“モドキ”という昆虫はいないので、おそらく、海外に生息する昆虫を日本が舞台のゲームに登場させるにあたって、“モドキ”と名付けた架空の昆虫として登場させているのではないでしょうか。
――なるほど、そういうことだったんですね。ちなみに、モドキという名前の虫では、ほかにアゲハモドキがいますが、これは……。
牧田アゲハモドキは実在しますよ。チョウに見えますが“ガ”の仲間なので、“モドキ”とついています。“モドキ”のほかに、“ダマシ”と名付けられた昆虫もいます。
――アゲハモドキにしてみたら失礼な話ですよね(笑)。ほかにも見ていただいて……。
牧田すごい! ニシキキンカメムシがいる!
――ニシキキンカメムシも博物館に寄贈できます。
牧田こいつはめちゃくちゃレアな昆虫です。僕も生で見たことはありません。
――そんなにすごい昆虫なんですか?
牧田ニシキキンカメムシは、日本でいちばんきれいなカメムシと言われているんです。これが収録されているのはすごいなあ。
――牧田さんのような昆虫好きの方がときめく内容になっていると。
牧田そうですね。昆虫が好きな人って、種類やサイズにこだわる方が多くて。本作は200種類の昆虫が収録されていますし、僕も生で見たことのない、レアな昆虫とも出会えるのはうれしいですよ。
サイズも記録されますし、大きなサイズを見つけると“銀冠”や“金冠”がつくのもうれしい。収集欲が刺激されるので、コンプリートしたくなると思います。それに、採集した昆虫をいろいろな角度から観察できるのもいいですね。
――本作をプレイして、新たな昆虫博士が生まれるかもしれませんね。ところで、よもぎ町はどの地方にあるかがはっきりとは明かされていないんです。生息している昆虫から、しいて言うなら日本のどの辺だと思いますか?
編注:よもぎ町の周辺は製薬事業が盛んで、豪雪地帯であるなどと純子ちゃんが教えてくれるので、北陸地方をイメージしている可能性がある。
牧田そうですね……。(しばらく考えて)このマイマイカブリを見てください。
牧田マイマイカブリは、東日本と西日本に生息している個体で色が変わります。西日本のマイマイカブリは胸が黒っぽくなるのに対して、東日本のマイマイカブリは胸が青っぽくなります。
――ゲームに登場するマイマイカブリは胸が青いですね。ということは、よもぎ町は東日本のどこかにある……?
牧田ただ、そうするとウスバキチョウなど、北海道に生息している昆虫の説明がつかないんですよね……。
日本は西から東に風が吹いているため、ごくまれに台風などで飛ばされた沖縄の昆虫が北海道で見つかることもあります。そこからやや強引に考えてみると、よもぎ町は北海道のどこかにあって、南方の昆虫はすべて風で飛ばされてやってきたと考えるのが、いちばん現実的かもしれませんね(笑)。
商品情報
- 商品名:なつもん! 20世紀の夏休み
- ジャンル:アドベンチャー
- CEROレーティング:A
- プラットフォーム:Nintendo Switch
- プレイ人数:1人
- 発売日:2023年7月28日(金)
- 価格:6578円[税込]