オンラインゲームの企画・開発やゲームエンジンの提供を行うソフトギアが開発したPC向けメタバースプラットフォーム『neem』(ニーム)。3D空間内にマップなどのメタバース空間を作れるサービスで、2023年7月20日からαテスト版のサービスが開始される。
そんなαテスト版をひと足先にプレイすることができたので、その様子をプレイインプレッションとともにお伝えしていく。なお、今回掲載しているゲーム画面は開発中のものであり、実際のゲーム画面とは異なる場合があるので注意だ。
※本記事はneemの提供でお届けしています。
誰でも簡単にメタバースが作れる新サービス
『neem』は3D空間で誰もが簡単にメタバース(インターネット上の仮想空間)を作れちゃうPC向けのサービスだ。地形をイジったり、建物を配置したり、草木を生やしたりして自分だけの仮想空間を作れるうえに、その空間を自分のアバターで歩き回ることもできる。
しかも作成した3D空間をURLで共有でき、その空間に他プレイヤーや友人を呼んで、話したり、遊んだりすることも。ソフトギアの技術力が集結した、新たなメタバース時代を到来させる可能性を秘めたサービスなのだ。これを読んでいるユーザーの中には「マップを作るのに知識や技術がいるのでは?」という疑問を抱く人もいるかもしれない。そういった本作の操作感や作成の流れについてはつぎの項目で解説していく。最初に言っておこう、『neem』は滅茶苦茶簡単にマップが作れるぞ!
思い描いた世界がとにかく簡単に作れる!
まずはマップサイズの選択から。今回のαテスト版では5人のユーザーが入れるSサイズと10人のユーザーが入れるMサイズのマップが選べる。正式サービス開始時には100人が入れるLサイズや1000人が入れるXLサイズも用意される予定だ。マップサイズを選択したらブラウザ上でマップの編集を行う。編集できる内容は以下の通り。
▼αテスト版で行える編集内容
- グラウンド:地形を隆起させたり、陥没させたりしてマップの基礎を生成する
- ペイント:草、コンクリート、大理石、溶岩、氷、カーペットなど、多彩なテクスチャを地面や壁に塗れる
- ウォーター:溝を掘って川を作ったり、溝に水を入れたり、水を抜き取ったりできる
- 配置物:草木や建物、パーツなどを配置できる
- ファンクション:透明な壁やライトの設置、リスポーン地点の設定、マップで流れるBGMの選択、天気の変更を行う
- ショップ:配置物を購入する
上記の6項目を使ってマップを自分好みの空間に変えていく。たとえば、グラウンドで地面を盛り上げて山を作ったり、ペイントで緑を塗って自然っぽさを演出したり、建造物を置いて街を作ったりなど、とにかく何でもできるのが本作の強み。また地形を変化させる際に使うブラシツールは範囲や、変化時のスピードを変更でき、広範囲の地形を一気に隆起させたり、狭いスペースに水を流したりといったテクニカルなマップ編集が可能となる。
気になる操作性だが、見ての通り編集画面のUIはすっきりしていてわかりやすく、上記の編集内容の特徴さえ把握してしまえば、あとはマウスとキーボードで簡単に作れる。クリエイト系のゲームで街を作るのと同じような感覚でメタバース空間を創造できるのだ。そのため、専門知識などは不要! 「こんなものを作りたい」という気持ちさえあれば、あとは好き勝手に作れるのでとにかく楽しい。ただし熱中し過ぎると時間があっという間に過ぎるのでそこは注意。
すべての配置物はサイズの変更が可能で、自由に拡大・縮小できる。建造物をすべて小さくしてミニチュアの街を作ることができるし、草木を巨大化させて幻想的な世界も作成可能。さらに座標を変えることで配置物を重ねたり、空中に配置したりもできちゃう。これを応用して正方形ブロックのサイズを平べったくして、高さの座標を少しずつ変えればアクションゲームに出てくるような空中階段を再現することも。もちろん配置物の中には普通の階段もあるので、そこはお好みで。
作った世界をアバターで探索! マップを自動育成するニームくんにも感動
当然、作ったマップを自身のアバターで探索することもできる。ブラウザ上にある“プレイ”のボタンを押すと『neem』のアプリが起動(初回起動時にダウンロードが必要)し、そこからマップへ移動。初回起動時以降は、わずか数秒でマップの中に入れる。マップ作成をこだわる派は、アバター(人)から世界がどのように見えるかを大事する人が多いため、すぐに景色や見えかたを確認できるこの切り換え要素はかなり便利だし、大きなポイントだと思う。
アバターはジャンプや、水の中でクロールができ、これらのアクションを駆使することで直にマップの作りを体感できるのも魅力のひとつだ。このアクションを利用してアバターを操作して遊ぶアスレチックコースを作るのもおもしろそうだ。
アバターの見た目はボタンひとつで変えられる。性別、顔、髪型、身長などの身体的見た目に加え、ウェアやアクセサリーなどの変更にも対応。いずれもパパッと変えられるのでその日の気分に応じてさまざまなオシャレが楽しめるのもうれしい点と言える。
じつは、アバター操作中でもグラウンド、ペイント、ウォーターのマップを編集する機能が使える。実際にマップを歩きながら適宜調整することが可能だ。
さらにマップ上では、画面左上の“サモン”というボタンを押すことで黄色くて愛くるしいニームくんを召喚できる。彼らはマップを自動で成長させてくれるお助けNPC。解き放つと時間を掛けてマップに樹木や草花を生やし、自然を作り出してくれるのだ。また事前に生成不可エリアを指定すれば、そこ以外の場所に自然を生やさせることも。もちろん、ニームくんを使わず、自分で草木を配置して自然を演出してもいい。
コミュニケーションツールとしても使いやすい
本作の手軽さの一端を担っているのが、URLを使ったマップ共有。相手がneemユーザーであればURLを送るだけでそのマップに入ることができる。このURLで3D空間を管理するのは、ソフトギアの技術特許が成せる技で、かなりすごいことなのだ。その実、本作は100項目以上、8特許からなる技術特許が組み込まれており、まさにソフトギアの技術力を集結させたトンデモサービスと言える。
URLで気軽に人を呼べるので、友人や『neem』フレンドに新しく作ったマップをプレイしてもらうことができる。マップ内ではテキストチャットが標準で使えるのに加え、通話機能を有する配置物を設置しておけば、そこから音声通話やビデオ通話も利用可能。
ビデオ通話中はアバターの上に映像が表示されるため、誰がどのアバターを使っているのかもひと目でわかる。マップの作成にこだわらず、知り合いを呼んで会話を楽しむコミュニケーション空間として利用するのもありだ。正式サービスで予定されている1000人規模のマップを使えば、配信者や企業がマップを使ってユーザー・ファンと交流するイベントを開催することもできそうだ。
筆者もオリジナル空間を作ってみた
せっかくなので筆者も自分だけのオリジナル空間を作ってみた。正直なところ、筆者はこの手のクリエイト能力に乏しいため、作ったマップのセンスに関してはお察しいただきたいところ……。でもマップの作成はとにかく楽しかった。作成中、どんなものができあがるのだろうか、というワクワク感がつねに駆り立てられ、ずっと高いテンションでマップ編集をしていた。
結果的に山に掘られた謎オブジェクトを崇拝する、RPGにありそうな街ができた。オブジェクトの中はなんちゃって洞窟になっており、街から橋を渡ってこの中に入れるようにしている。個人的にグラウンドによる地形変化がこだわりのマップを作るためのキモになっている気がした。
筆者が作った世界はまだまだ作り込みが足りないし、配置物の並びが大雑把でクオリティーは低いが、個人的にやりたいことが形にできてけっこう満足している。作っている途中も、あれこれ試行錯誤するのに夢中なって時間を忘れて楽しめたのも印象的だった。
ユーザー次第で無限の可能性を秘めた『neem』
“誰でも簡単にメタバースが作れるサービス”と銘打っているだけあって、ホントに簡単な『neem』。操作やUIはシンプルでわかりやすく、マウスとキーボードだけで思い描いた世界をドンドン形にできるのは本当におもしろくて、いい意味で時間泥棒だった。マップの作成以外にも、マップ上でのプレイ、アバター変更、ニームによる自然生成など、どれもサクッとできるようにできていてストレスフリーだったのも大きい。「ユーザーにいろいろな世界を作って楽しんでもらいたい」という開発側のユーザーファーストな理念も見えた気がした。
インターネットでの交流が当たり前になった現代を色濃く反映させたコミュニケーション要素も本作の魅力のひとつだ。URLで3Dマップを共有したり、他プレイヤーとマップで通話したりなど、マップ作成以外の楽しみも内包しているのはすごいと思った。正式サービスで実装予定の巨大マップで配信者と視聴者がイベントを行う姿も早く見てみたい。また子どもでも簡単にマップが作れるため、親子間でのコミュニケーションツールとしても大きな話題を呼びそうだ。
自由度が高く、作り手の発想力が高ければ高いほど、できることの幅が広がる『neem』は、まさに無限の可能性を秘めた新時代のメタバース作成サービスと言える。
STRIXぬいぐるみプレゼント企画実施中!
ソフトギアでは、ファミ通.comの記事を読んでくれた方の中から抽選で100名様に“STRIXぬいぐるみ”をプレゼントします。応募方法は、neem公式サイトのお問い合わせフォームから、【1】neemユーザーID、【2】「ファミ通を見ました」と記載してご応募ください。応募締め切りは2023年8月31日(木)です。
【インタビュー】『neem』で“全世界の人をクリエイターに”
オンラインゲームの企画・開発はもとより、通信ライブラリやゲームエンジンなども提供し、業界でも高い技術力を持つことで知られているソフトギア。同社の新たなメタバースプラットフォーム『neem』について、代表取締役社長の青木健悟氏に聞いた。同社がメタバース事業に進出する目的とは?
青木健悟氏(文中は青木)
ソフトギア 代表取締役社長
いまのユーザーのインターネットでのUX体験を、そのままスライドできる状態を作ることが目標だった
――まずは、neemのプロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。
青木もともと僕自身は2000年くらいからオンラインゲームを作っていたのですが、当時から“仮想現実”というものに興味があって、未来に対する可能性を抱いていました。言ってみれば、仮想空間に“つぎのステージ”を感じていたんですね。当時から、新しい世界の構築に携わってみたいというのは、漠然と思っていました。
ソフトギア自体は2008年に設立しましたが、そんな僕の志向を反映してか、オンラインゲームやサーバー技術に強みを持つ開発会社ということで展開してきました。neemは、そんなソフトギアの強みを活かしたプロジェクトということは言えると思います。
――ソフトギアの技術力が結集したものということですか?
青木はい。ソフトギアでは近年は誰でも手軽にオンライン技術を利用できるサービスの構築を目指して、“Strix”というブランドでサーバソリューションのクラウド化を進めてきたのですが、2019年に提供開始したのが、オンラインゲーム開発向けサーバソリューションの“Strix Cloud”でした。その“Strix Cloud”の利用者の方のフィードバックを見ているうちに、当初はBtoB向きを想定していた“Strix Cloud”が、じつはBtoCにも大きな可能性があるのではないかと気づいたのです。
“Strix Cloud”というのは、簡単なライブラリで、サーバーのデプロイ(※)などは一切必要なく、ボタンひとつで自分のオンラインゲーム用のサーバーが作れるというものなのですが、意外と個人の方がずっと使われたりしていて、「これは思ったよりも個人のパワーが強いぞ」と感じたんです。それで、ユーザー層を広げたツールだったりサービスなりを展開できないかということで企画したのがneemになります。
※デプロイ…… 実行ファイルをサーバー上に配置して、利用できる状態にすること。
――“Strix Cloud”で好評だった敷居の低さを活かして、neemを作ろうと。
青木はい。『マインクラフト』でマップを作って楽しんでいるような方々が、Facebookで自分のページを作るかのような手軽さで、3Dの空間を作れるプラットフォームというのがneemのコンセプトです。
――とてもわかりやすいですね。
青木ひとつ言わせていただくとするなら、いろいろなオンラインゲームをずっと運営してきて僕が思ったことに、「ユーザーさんはクリエイティブでいたいんだな」というのがあります。たとえば、それまでの楽器が弾けなければ音楽を作れなかった時代から、コンピューターの登場により、楽器は一切弾けなくても、打ち込みなどで音楽を作れるようになりました。それと同じように、プログラムを書けなくても、本当は仮想空間を作りたいと願っているユーザーさんは世の中にたくさんいると思うんです。それを実現するひとつの方法が、neemであると考えています。“全世界の人をクリエイターに”というのは、neemの目指すポイントだったりします。
――クリエイティブでいたいというのは、人間の本質的な欲求であり、それをかなえてくれるツールのひとつがneemであると?
青木そうです。僕は、「モノを作りたい」という人間の気持ちは絶対だと思っています。自分自身はエンジニアではなかったので、「どうしたらモノを作れるのかな?」という思いが、会社を設立するきっかけのひとつだったということはあります。
――neemを開発するにあたって注力したポイントを教えてください。
青木技術的に配慮したことはいろいろあるのですが、それ以上にいちばん気をつかった点は、いまのユーザーさんのインターネットでのUX体験を、そのままスライドできる状態を作るということでした。これは当社が特許を持っている技術なのですが、neemは3Dの空間をURLで管理しています。これにより、Webサーフィンをしていろいろなサイトを見るのと同じ感覚で、neemの3Dの空間をどんどんサーフィンできるんですね。いままでの体験の延長上に仮想空間を作るというのは、非常に意識したところです。
――敷居が高いと感じることなく仮想空間が楽しめるということですね。
青木はい。さらに、“共同作業”できる点にもこだわりました。neemでは、ひとりではなくて、みんなでマップを作れるんですね。リアルタイムでひとつの仮想空間に集まって、たとえば「ここの壁をもうちょっと高くしよう」というのを操作して、リアルタイムにそれを表現できるんです。じつはこれもソフトギアの特許だったりします。メタバースに関しては、100項目以上、8特許からなる当社の技術特許が組み込まれています。
――冒頭でもお話ししていた通り、これまで培ったものがneemに結実したのですね。
青木そうですね。今回使っているエンジンもベースは“Strix Cloud”だったりするので、数千人がアクションゲームを同時に楽しめるくらいの通信処理能力を誇っています。これを作るだけでもなかなかたいへんなので、いままでの経験と知見が生かされています。“Strix”に関しては、長年オンラインゲームを開発していく過程で、後々自分たちの作りたいオンラインゲームを作るための基礎エンジンとして磨かれていったということはありますね。
――neemは既存のメタバースとはまたひと味違う仮想空間と言えそうですね。
青木メタバースに関しては、いまあるインターネットとは別のサービスのように思われがちですが、そもそもそれが違うのではないかという認識でいます。個人的には、Webが3D化されていく、“Web3D”が正しいのではないかと思っています。あと、メタバースを作られている企業さんは、自分たちが構築したデジタル空間にユーザーさんを抱え込んで……という発想が多いような気がします。ですが、そもそもネットワークの社会は、もうちょっと開かれたものであって、サービスを作るのはユーザーさんだと僕は思っています。
――言ってみれば、メタバースという言葉が独り歩きしているような感じでしょうか。
青木そうですね。僕は、メタバースの本来的な道筋であるのは、neemだと思っています。
複数のゲームメーカーとのコラボのプロジェクトが進んでいる
――それでは、今後のneemの目指すものを教えてください。
青木ひとつには新しいメディアとして構築していきたいというのはあります。ユーザーさんが情報発信してコミュニケーションをする場所としてですね。
――SNSのような位置づけということですね。
青木そうですね。あとは、これは個人的に思い描いていることなのですが、このコロナ禍もあって、徐々に生活のしかたが変わってきた中で、neemをいろいろな問題解決に役立てたいと考えています。
――社会活用ということですか?
青木たとえば、スタッフ間で話が出たのは、全国にある過疎の小学校の生徒たちに集まってもらって、neemの仮想空間で交流をしてもらうというものです。20〜30人規模のクラスを体験することで、友だちも作れますし、モチベーションアップにもつながる。集団における自分のポジションも理解できるでしょうし、自分の得手不得手も自分たちで学ぶことができる。
もちろん、これはあくまで仮想空間の中でだけかもしれないですが、いろいろな可能性が広がってきます。そういった仮想空間の特徴を活かした問題解決とプラスアルファの知見を広めることが、neemならできるのではないかと思っています。
――さらに有用なコミュニケーションツールとして機能するということですね。
青木実際のところ、こういったシステムはいままでも作ろうと思えば作ることができたと思いますが、とにかく費用がかかるものでした。そのためなかなか実現されていませんでしたが、このneemによって、大手メーカーさんが数億円かけて作っているメタバース空間を、小学生がローコストで、しかも10分程度あれば作れるようになるんです。その点からも、世の中の問題解決にも活用できるといいなとは思っています。
――ローコストというのも、neemの大きな特徴と言えそうですね。
青木そうですね。同じパフォーマンスで同じ仮想空間をひとつ作ってくださいとなったら、通常だと数億円かかるのですが、neemだったら極めてローコストで、さらに10分程度でできてしまいます。さらに言えば、それでSNSなどでURLを公開すれば、気軽にアピールもできるわけです。
――まったくもって敷居が低いですね。ところで、neemはゲームメーカーとのコラボも考えていたりするのですか?
青木はい。具体的にはお話しできませんが、複数のゲームメーカーさんとお話はしています。いまは、とくにIPのコミュニティー構築においてneemに魅力を感じていただけているようで、“ファンの皆さんに喜んでいただきたい”ということで、いろいろとアイデアを出しているところです。neemが“安価で早い”というところは、メーカーさんに有用性を感じていただけている点ですね。
――最後に、neemの利用を考えているユーザーに向けてメッセージをお願いします。
青木まずは皆さんにneemに触っていただきたいです。お父さんやお子さんがいっしょになって、家族だけが集まる仮想空間を作っていただいたりと、気軽に楽しんでいただきたいです。幅広い方に遊んでいただいて、ちょっとしたモノ作りの体験を味わっていただけたらうれしいです。