アクワイアは、2023年7月14日(金)~16日(日)に京都で開催中のインディーゲームの祭典“BitSummit”に初めてブース出展し、6月27日に発表したばかりの新作『XALADIA: Rise of the Space Pirates X2(ザラディア ライズ オブ ザ スペース パイレーツ エックス ツー)』(略称:『ザラディア』)のプレイアブル版を展示している。

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『XALADIA: Rise of the Space Pirates X2』(ザラディア ライズ オブ ザ スペース パイレーツ エックス ツー)のキービジュアル。アクワイアから2023年秋リリース予定の新作ツインスティックシューターだ。

アクワイアの最新ゲームはインディーゲーム? そのワケを同社代表の遠藤琢磨氏らにインタビュー

 アクワイアと言えば『侍道』や『天誅』、『勇者のくせになまいきだ。』など、有名かつ名作シリーズをつぎつぎ生み出してきた老舗ゲームメーカーだ。そんな彼らが、インディーゲームが集うビッグイベント“BitSummit”に新作を引っ提げて参加している。その理由を探るべく、ファミ通グループ代表の林克彦がインタビューを行なった。応じてくれたのは、株式会社アクワイア代表取締役兼エグゼクティブプロデューサー遠藤琢磨氏。そして、出展している新作『ザラディア』のプロデューサー兼ディレクター山田真充氏のおふたりだ。

 また、『ザラディア』の紹介や製品情報は、こちらのリンクからご確認いただけます。

遠藤琢磨氏(えんどうたくま)

株式会社アクワイア代表取締役兼エグゼクティブプロデューサー

山田真充氏(やまだまさみつ)

『ザラディア』プロデューサー兼ディレクター

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今回の“BitSummit”出展のきっかけは?

――2023年3月に開催された“TOKYO INDIE GAMES SUMMIT 2023”では、『残月の鎖宮-Labyrinth of Zangetsu-』を出展されていましたが、続いてインディーゲームのイベントである“BitSummit”にも参加されるとのこと。まずはなぜ出展することにしたのか、そのきっかけからお話いただけますか?

遠藤ちょっと寂しい話ですけど、国内市場でパッケージソフトを売るのがきびしくなってきたというのが、いちばんのきっかけですね。そこで、アクワイアとして今後どうするかと考えたとき”少人数のチームで、アクワイアらしい企画重視のインディーゲーム開発に注力して、ダウロード販売で世界中のユーザーに届けていく”といったやりかたもありだと考えたんです。その準備を昨年夏くらいから始めていて、そうしたアプローチ(売りかた)をされているインディーゲームのメーカーさんに倣って、イベントにも参加させてもらおうと。我々は、いままでパッケージ販売に注力してきましたけど、方向を転換しようと決めました。

――アクワイアさんは『AKIBA'S TRIP』や『剣と魔法と学園モノ。』、あるいは和風アクションの『神業』という看板タイトルで国内市場をターゲットにしていたイメージもあります。

遠藤そういうイメージを持たれていると思うのですが、たとえば『AKIBA'S TRIP』は、販売本数の8割が海外なんですよ。でも、海外でパッケージソフトとして売る場合、現地のパブリッシャーさんにお任せするかたちなので、販売本数に対する利益は国内で売れたものより少なくなってしまう。いっぽう、利益が大きい国内市場のほうはというと、さきほどもお話した通りきびしい状況でして。さすがに、そのバランスが悪くなってきてしまった。そこで、パッケージなしのデジタル配信なら、自分たちが日本にいながらできるんじゃないかと思い、そうした取り組みを昨年の夏ぐらいから仕込んできまして、その第1弾のゲームが今回の“BitSummit”に間に合ったという流れなのです。

――アクワイアのファンからすると、さきほど挙げさせていただいたシリーズタイトルの今後の展開も気になるところだと思うのですが。

遠藤一部はまだ未発表ですけど、『剣と魔法と学園モノ。』シリーズなどは、Steam版を準備している段階です。ほかの過去作品も、タイミングを見ながらデジタル配信で世界展開していけたらなと思っています。

――このあと新しい展開の可能性がないわけではない、と。

遠藤はい。過去作そのままの内容で配信するのは難しいタイトルもありますが、そのあたりも踏まえながらユーザーが納得するものを出していきたいと考えています。

――では、これからはパッケージを中心とした売りかたではなく、ワールドワイドをターゲットにSteamなどで勝負していくわけですね。

遠藤そのとおりです。もちろんSteamだけじゃなく、PlayStation Storeやニンテンドーeショップ、Epic Gamesなどプラットフォームは限定しません。このビジネス方針に手ごたえが得られたら、いままで作って来たパッケージタイトルもどんどん提供できたらなと思います。

――ときにですが、『オクトパストラベラー』のような大型の開発案件もデベロッパーとして定期的に携わってこられたわけですが、そうしたものも継続していくお考えなのですよね?

遠藤そうですね、ウチは社員160名いるので(笑)。それに、『オクトパストラベラー』のようなハイエンドなタイトルを作らせてもらっているからこそ、技術力、開発力が培われ、自社タイトルを作るときのクオリティーアップにつながっているという面もあります。当然のことながら、開発案件も継続してしっかりと取り組んでいきます。

――つまり、そこで溜まるノウハウみたいなものがあって、それを自分たちのオリジナルゲームに活かすと……。たしかにやりやすいですよね。そうした大きい開発案件と、小中規模のインディー的なゲームを社内のチームで開発していくことになるわけですね。

遠藤そうですね、他社さんとの協業案件も増えると思いますが、基本的にはそうした二本柱になると思います。大きい開発案件がたくさん流れ始めると、なかなか自分たちが作りたいと思っているゲームが作れない面もありますが、スタッフたちにはその隙間を突いて、小規模だけど挑戦的なゲームを、目をギラギラさせて狙っていってほしいです。……ねぇ、山田さん?(笑)

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ツインスティックシューター『ザラディア』を解説

――では、山田さんに話が振られた流れで、『ザラディア』についてお聞きしますが、まずは自己紹介からお願いできますか?

山田今回『ザラディア』でプロデューサーとディレクターを担当しております 山田真充と申します。元々はアクワイアに新卒で入社しまして、いろいろとプロジェクトを担当させていただいたあと、一度アクワイアを離れることになったのですが。そこで経営だったり、プロデュースやディレクション業務だったりを学ばせていただいて……。昨年の6月くらいにまた戻らせてもらって、『ザラディア』を含め、今後展開する比較的小規模のプロジェクトをいくつか担当しています。

――『ザラディア』は、山田さんの企画なのですか?

山田いえ、これはもともとも遠藤さんが趣味で作っていたゲームが原案なんですよ。最初にこれを見させてもらったあと、ツインスティックシューターの市場を調べて伸びしろがありそうだと感じまして。それじゃあどうやってヒットさせようか、絵柄はどんなのがいいだろうとさらに調べてSF風味や、最近流行のローグライクなシステムを取り込んだり、ツインスティックシューターって俯瞰視点でカメラがスクロールしながらマップを探索していくゲームが多いのですけど、今回は1画面固定にしました。そんな感じで試行錯誤しながら企画を練っていったというかたちです。遠藤さんの企画原案に“昔の敵っぽいものを出したい”というのがあったので、レトロ感を残しつつ、それを現代のビジュアルに起こして新鮮さを感じさせられればいいかなぁと。昔のシューティングゲームがゲーム的に進化して、かつ現代のビジュアルになったらこういう感じになりますよ、っていうような見せかたで展開していくと面白いんじゃないかと考えたのです。

――確かに1画面固定はとても懐かしく感じます。ちなみに、遠藤さんの原案から山田さんのほうで変えたところなどはありますか?

山田コンセプトは同じです。1画面固定で上から来る敵を撃ちつつ、自機がある地上フィールドに特徴が異なる複数の砲台をリアルタイムで設置して、派手に弾幕を張って敵を迎える感じです。砲台の設置にはコストが必要になります。クラフティングとシューティングの両方の要素があるゲームで、その基本コンセプトは変わっていません。ただ、遠藤さんが作っているバージョンはとにかく難しくて(笑)。

――そうだったんですね(笑)。

遠藤ゲームバランスはしっかり調整されて、ストレスなく遊べるようになっているのと、ローグライクってどんどん底上げしていって強くなっていく感じがあるじゃないですか。いわゆるインフレ感に心地よさを感じるような仕上がりになっています。
……触ってもらったほうが、わかりやすいですかね。

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――さっそくプレイさせてもらいましたが、敵を自機で攻撃しながら、並行して砲台を選択、設置するというマルチタスク感が新鮮です。最初はちょっと混乱しますし操作も忙しいですが、慣れるとスムーズにプレイできますね。

遠藤PCでの操作は、キーボードが移動で、マウスで照準を狙えるので、プレイヤーによってはこちらのほうが遊びやすいかもしれません。いまはNintendo Switchのコントローラーで遊んでもらいましたが、もちろんゲームパッドでもできますし、プレイステーション5にも対応しています。

――こちらは開発にどれくらいの時間が?

遠藤山田さんに引き継いでもらって、昨年末には完成していましたから、だいたい半年くらいでしょうか。そこから移植の準備とかを進めているかたちです。

山田開発チームは最初は3人くらいからスタートして、最終的には10人くらいのメンバーで仕上げました。

――ゲームのボリュームはどのくらいなのでしょう?

山田全部クリアーするまでのプレイボリューム感としては、10時間ほどです。倒されたら底上げされた状態(手に入れた装備などを引き継いでいる)でまたスタートっていうのをくり返すローグライクのようなシステムになっています。

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プレイアブル版では数ステージが試遊でき、1画面の中、敵は上空に。自キャラは画面下の地上に配置され迎撃。地上には砲台を設置して弾幕に厚みを持たせることができるが、敵弾を避けながの配置は忙しい印象であった。

これからのアクワイアは新作ラッシュが続く!

――『ザラディア』はPCとNintendo Switchとプレイステーションで、今年の秋にリリースされるわけですが、それが去年の6月に開発が始まって、約半年でPC版を作り、その後移植の作業をして、1年半も経たずにローンチするということですよね。とても順調に進んだ、ということでしょうか?

山田自分は一度離れた身なのでわかるのですが、やはりアクワイアの開発力があってこそ、できる技なのかなと思っています。皆さんひとりひとりのスペックがとても高くて、だからこそこの期間で開発を進められました。とても助けられました。

――山田さんのように、自分でディレクターをやりたい、この企画でよいゲームを作りたい、という方は社内にほかにもいらっしゃいますか?

遠藤いるはずなのですけど、これからですね。まだ自分が種まきしたものを育てているというタイトルが多いかなという印象です。

――ちなみにダウンロード版オンリーのタイトルってこれまでありましたっけ?

遠藤実はあるんですよ。『SCRAP RUSH!!』という4人対戦のゲームです。ですが、これが惨敗で……。当時の我々に販売やプロモーションのノウハウがなかったことも事実です。いまは市場の環境も変わってきましたから、『ザラディア』で再挑戦という思いです。

――ではある意味、そのノウハウを獲得することも含めた“BitSummit”出展であると。

遠藤そうですね。やはり、ゲームの売り方、買い方が根本的に変わってきていると思うんです。お店まで足を運んでゲームを買いに行くというところから、だんだんダウンロードで遊べるようになってきて、コロナの流行でさらにその需要が活発になって。いっぽうでプレイステーション5などのハードウェアがなかなか買えないという状況もありました。そういった環境の変化やトレンドに合わせて、ウチらしいゲームを提供していきたいですね。

――“BitSummit”ってフィジカルな場じゃないですか。もちろん配信もありますけど、いろいろな人たちが集まって、遊んで、そこから口コミで広がるみたいなこともあったりしますし。また、海外の出展社やメディアの比率が高いイベントでもあります。出展するいちばんの狙いというか、出展してどういうふうな火種が生まれてほしいというようなイメージはありますか?

遠藤“BitSummit”は、小規模ながら優秀なタイトルが集まる場所だと思うんですよ。その中で注目を浴びたいというのがひとつあるのと、おっしゃるとおり海外のメディアも来ると思うので、そういった人たちとのコミュニケーションも取れればなと思ってます。会場でプレイされた方には、ちょっと遊び心のあるステッカーやポストカードを配ろうと思っていますので、『ザラディア』を覚えて帰ってもらえたらなと思っています。また、9月にシアトルで開催される“PAX WEST”にも出展しようと検討中です。

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会場で配布予定のステッカーとポストカードのサンプル。カードは絵が浮いて立体的に見える遊び心が……。

――“PAX WEST”もファン中心のイベントですよね。

遠藤そうですね。チャレンジャーな気持ちで臨みたいと思います。“PAX WEST”では『ザラディア』と、もう1本の新作を出したいと準備中です。

――おお。『ザラディア』以外のタイトルを開発しているわけですね。いま、どれぐらいの本数を作られているのですか?

遠藤自社単体でやっているプロジェクトと、ほかの会社さんと協力してやっているものもあって、それも含めると7タイトルあります。

――7タイトル!? 多いですね。開発7ライン走っているってすごくないですか?

遠藤そうですね。いろいろ立ち上がってきているタイミングというのもありますが……。詳しくはまだ言えませんが、他社さんと組んで開発中のタイトルがあって、“PAX WEST”に出展するためにいま開発を進めているところです。

山田アクワイアの開発タイトルとしては、遠藤さんのおっしゃったもう1本の新作として、『ザラディア』とはまた全く違ったダンジョンクロウルのタイトルを準備しています。

遠藤見た目はかわいいけど、このゲーム、すごく難度が高い(笑)。

山田“東京ゲームショウ 2023”のころには、いろいろお届けできると思いますので、ご期待いただけましたらと思います。

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開発進行中の7タイトルのうち、まだ未発表のタイトルのキービジュアル。ダンジョンで目覚める古代兵器の少女の物語が綴られる……。

山田カードゲーム的なデッキ構築の要素を取り入れた新作も準備を進めています。このタイトルはβテストもやっているのですがすでに評価がすごくよくて。元々はダウンロードだけでやろうという話だったのですが、パッケージ版の展開も国内限定で検討中です。

遠藤うん、海外はさすがにパッケージにするのは難しいのでダウンロードオンリーでいきますけど、我々が売れる範囲によってはパッケージにもしていこうかなとは思っています。なので、9月のタイミングでは『ザラディア』と、この新作を“東京ゲームショウ 2023”などで展開する予定です。もちろん準備が整えば、さらに何タイトルか告知させていただくかと思います。あと冬ごろになれば、アニプレックスさんと我々が共同出資して作っている新作の情報が……。今回の“BitSummit”では、アニプレックスさんのブースでそのキャラクターだけ公開されていますよ。

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新作のデッキ構築の要素を取り入れたゲームのメインキャラクター。じつはここで初公開だったりする1枚。

――なんと、そうなんですね。会場でしっかりチェックします。たくさんの貴重な情報をお聞きできましたが、これら7タイトルの発表タイミングやリリース時期などを定めたロードマップみたいなものはあるのですか?

遠藤いや、もう全タイトルとも全力疾走ですよ。その7タイトルに含まれるもので、イザナギゲームズさんの仕切りで進んでいるタイトルも発表されましたしね。こちらは、企画がウチで、開発はイザナギゲームズさんというちょっと変わった座組になっています。

――珍しいですね。開発がアクワイアさんじゃないというのは。

遠藤ウチの開発がいっぱいで組めなかったんですよ。

――なるほど。でも本当に新しいシフトチェンジで、これだけ弾が仕込まれているというのは、ゲームファン的には当然嬉しいですし、とても楽しみです。……そして、来年はアクワイア創設30周年ですね!

遠藤そうなんですよ、そこに向けて何か仕込みたいのですが、先ほども話したとおりすべてを全力疾走、全力投球で進めているのでどうなることやら(笑)。いまのところ、これをやるぞ! という予定はありません(笑)。

――全力疾走の結果、30周年記念タイトルが生まれるといいですね。

遠藤ええ。30年の節目には新しいアクワイアになれるように、がんばります(笑)!

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