2023年7月1月よりTOKYO MXほかにて放送がスタートしたアニメ『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』(以下、『ライザ』)。コーエーテクモゲームスの同名のRPGを原作とするこのアニメでは、田舎の島での暮らしを退屈に感じている少女ライザが、錬金術と出会い、次第に成長していくさまが描かれる。

 『アトリエ』シリーズの中でも人気の高い『ライザ』がアニメ化されるということで、期待しているファンも多いはず。アニメでは、どんな“ひと夏の冒険”を楽しむことができるのか?

 本記事では、原作ゲームのメインシナリオを手掛け、今回のアニメではシリーズ構成を担当している高橋弥七郎氏のインタビューをお届け。ゲームとアニメにおける描きかたの違いや、アニメだから表現できたポイントなどをうかがった。

 なお、アニメ『ライザのアトリエ』は各種配信サービスでも展開中。dアニメストアとDMM TVではすでに第1話が配信されているほか、そのほかのプラットフォームでも2023年7月4日より順次配信がスタートする。詳細はアニメ公式サイトの“ON AIR”ページにてご確認を。

高橋弥七郎氏(たかはし やしちろう)

作家。代表作は『灼眼のシャナ』シリーズなど。アニメやゲームのシナリオ・脚本も手掛けており、ゲーム『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』、『ライザのアトリエ3 ~終わりの錬金術士と秘密の鍵~』ではメインシナリオを担当。

ライザの成長を、クーケン島の住民との日常エピソードを通じて表現する

――初めに、『ライザ』がアニメ化するという話を聞いたときのお気持ちを教えてください。

高橋『アトリエ』シリーズがアニメになるのは久しぶり(※)で、シリーズにとって記念作品のような位置づけになるとうかがったので、けっこうプレッシャーを感じました。

※『エスカ&ロジーのアトリエ ~黄昏の空の錬金術士~』が2014年にテレビアニメ化されている。

――ゲーム『ライザ』のストーリーを担当されたときにも、そういったプレッシャーは感じていたのですか?

高橋いえ、ゲームのときはあまり感じませんでした。私は『マリーのアトリエ』、『エリーのアトリエ』などはハマってプレイしていたんですが、その後は『アトリエ』にしばらく触れていなくて。その間に培われた、シリーズの雰囲気やお約束をあまり把握していなかったんですね。そのためか、プレッシャーもさほど感じずライティングできました。

――『アトリエ』のお約束とは、たとえばどういったものでしょうか。

高橋たとえば、マルチエンディングですね。『ライザ』のシナリオは一本道で、自分としては「仲間たちが出会って、途中で秘密が明かされて……」とふつうの物語として起承転結を組み立てたんですけど、後から「『ライザ』は例外的な作風だ」と言われて驚きました。

――では、ゲームのときはそんなに感じなかったプレッシャーを、アニメでは感じているのはなぜでしょう?

高橋アニメとなると、いまゲームで親しんでいる人以外の、多くの人の目に『アトリエ』として触れることになりますから。「例外的なシナリオを書いた自分でいいのかなあ」と、ちょっと感じたりしました。

――高橋さんがシリーズ構成を担当することは、どういった経緯で決まったのでしょうか?

高橋ゲームとアニメでは媒体の違いから、ゲームをそっくりそのままアニメにするのは難しいので、どうしても足し引きをしていくことが必要になります。それなら、ゲームのシナリオを書いた私に担当させるのが、もっとも雰囲気をゲームに近づけられる……という流れだったと思います。

――今回のアニメでは、クーケン島での日常にフォーカスしたお話が展開されると聞きました。日常に焦点を当てるという方向性は、どのように決めたのですか?

高橋『ライザ』をアニメ化するにあたって、視聴者さんが何を見たいかということを考えると……まあ、(ユーザーがよく知っている)ライザですよね。当初、さまざまな変更案もありましたが、キャラにせよ筋立てにせよゲームと別モノにしてしまうと、そのライザを見たい人たちを落胆させてしまうだろう、と思いまして。なるべく原作に沿って、収まりのいいところまでを丁寧に描こう、という結論になりました。

――ゲームの『ライザ』はRPGですので、錬金術でアイテムを作って、敵と戦って、未知の場所へ行って……というRPGらしい要素が多く、そこまで日常は描かれていませんでしたよね。

高橋ゲームだと、日常面はおもにサブストーリーで補完する形でした。なので、アニメではメインストーリーの流れ自体は変えず、その間にサブストーリーを元にしたエピソードをライザたちの日常として組み込みました。ゲームではサブストーリーにしか出番のない住人たちも、エピソードに応じて登場します。

 ゲームではレベルなどの指標で、キャラクターの成長度合いがハッキリわかりますが、アニメではそうするわけにもいかず、どう表現すべきかスタッフ皆で相談しました。結果、「錬金術に理解を示す知り合いが増えていく」という形でライザの環境の変化を描こう、という方針に決まりました。

――たとえばフレッサさんなど、村のサブキャラクターたちがしっかり絡んでくるということですね。

高橋そうですね。ほかのサブキャラクターでは、ロミィの出番が多めかな。ロミィは自分から動いてくれるので、話に絡めやすかったです。

アニメ『ライザのアトリエ』シリーズ構成・高橋弥七郎氏にインタビュー。人々との交流を通じて描かれる、ライザの成長が見どころ

――レベルではなくて、ライザの環境から成長を感じさせるというのは、アニメならではだと感じます。

高橋本作でライザたちをどこまで成長させるか、プロデューサーが作ってくれた表を見ながら話し合いました。このアニメにおけるライザたちの最終地点は、冒険者として成長が極まった状態ではありません。だからこそ、どのくらいの強さになるかをちゃんと決めておかないと、描写がチグハグになってしまう危険性がありました。表まで作って成長度合いを確認し合ったのは、それが重要な指標だったからです。

それと、アニメでライザの使う錬金術の道具が高度すぎるものにならないよう、コーエーテクモさんとも話し合いました。あくまでアニメ内での成長度合いに合わせた道具を登場させようと。そうすれば、ゲームのユーザーさんも「ああ、あれくらいか」とわかってくれるでしょうし。

――アイテムが映えるシーンと言えばやはりバトルですが、これもゲームとアニメでは表現のしかたがまったく違うと思います。

高橋日常を描く物語ではありますが、要所要所ではバトルが入るように、シリーズ構成の時点で配分を考えました。私はバトルシーンが好きなので、どうしてもカッコいい動きをさせたくなってしまうのですが、監督から「まだ成長途中のライザたちの戦いが、玄人っぽすぎる」と指摘をいただいて、もっと動きが稚拙になるように改稿したこともありました。

――タオやクラウディアは、『ライザ』初期のころは戦いなんてしなさそうなキャラクターですしね。

高橋タオは初期段階だと、どうしたってバトルでは目立てないんですよね。ものすごく極端な話をすると“バトルが終わってひょっこり顔を出すシーン”さえ入れれば、最低限タオの出番は成立するんですが……やっぱり“幼なじみたちがいっしょに冒険を体験しているシーン”は描きたかった。なので、タオも嫌々だろうとバトルには参加させて、「自分が冒険に出ることにも意味はある」と学ぶことを、大きな要素として入れ込みました。

――クラウディアについてはいかがでしょうか。

高橋クラウディアがパーティーに参加する前に何をしていたか、というのはゲームでは描かれていない部分です。バトルに限らずですが、アニメではクラウディアだけのシーンも映せるので、彼女がライザのいない場所で、どんなことを思い、どうがんばるのか、注目していただければと思います。

アニメ『ライザのアトリエ』シリーズ構成・高橋弥七郎氏にインタビュー。人々との交流を通じて描かれる、ライザの成長が見どころ
アニメ『ライザのアトリエ』シリーズ構成・高橋弥七郎氏にインタビュー。人々との交流を通じて描かれる、ライザの成長が見どころ
アニメ『ライザのアトリエ』シリーズ構成・高橋弥七郎氏にインタビュー。人々との交流を通じて描かれる、ライザの成長が見どころ
アニメ『ライザのアトリエ』シリーズ構成・高橋弥七郎氏にインタビュー。人々との交流を通じて描かれる、ライザの成長が見どころ

第1話は、1時間拡大スペシャル版に!

――本日1時間拡大スペシャルの1話が放送されましたが、第1話を拡大版にした理由などを教えてください。

高橋『ライザ』は序盤の切りどころが難しくて。ふつうに書いたら、ライザたちが島でなんやかやして「よし、出航だー!」ってところで終わってしまうんです。ライザにとって重要なターニングポイントである“錬金術と出会う”部分を見せ場にした構成にするなら、拡大版にするのがちょうどよい、という判断です。アンペルやリラが登場するあたりで第1話が終わるという。

――ちょうど、主要キャラクターが全員お目見えしますしね。

高橋そうですね。アンペルが錬金術の道具を使うシーンなどは、時間を使って描く必要もあるので、そうなるとやっぱり前後編レベルの長さになってしまいますし。

何より、ライザがどういうことに退屈しているかを、前提として描かないといけませんでした。ライザが島の生活の何を嫌がっているのか、どういう部分に退屈しているのか。「こういう現状から抜け出したい」というライザのモチベーションを最初に描かないといけない、という話を皆でしましたね。そこを飛ばしてしまうと、ライザが単に不平不満を言うだけの人間に見えてしまう。そうなってしまったら元も子もないですから。未来が不確かな若者らしい、平穏な日常へのそこはかとない反発心と閉塞感を「ライザがそう思ってしまうのもわかる、かも」程度の案配で描写しています。

――第1話はアニメの映像はご覧になりましたか?(※本インタビューは5月末に実施)

高橋完成形はまだですね。アフレコのときに必要なので、絵コンテとかはもちろん確認させてもらっていますけど。

――絵コンテなどを見て感じた、アニメならではの表現や魅力はどういうところにありますか?

高橋キャラクターの仕草でしょうか。ゲームだと制約があって表現できない何気ない動きを、生き生きと描いてもらっていると感じました。いい意味でゲームのフォローをしてもらっていると思います。ほかにも村の人たちが行き交うとか、そこにたたずんでいるとか、クーケン島で暮らす人々の様子を描くことで、ライザたちの日々により没入できる。視聴者の皆さんにも、そう感じていただけるんじゃないでしょうか。

――ゲームではファストトラベルを使いがちで、移動も一瞬ですが、アニメなら風景が移り変わっていくさまが見られますよね。

高橋移動シーンは多めですね。島をみんなでうろつきながら会話するシーンとか。ゲームでは、そういう表現が意外とできなかったりするので、それもアニメならではのおもしろいところかなと。

アニメ『ライザのアトリエ』シリーズ構成・高橋弥七郎氏にインタビュー。人々との交流を通じて描かれる、ライザの成長が見どころ

――ところで、高橋さんは収録には立ち会われたのですか?

高橋はい、基本的に立ち会っています。収録をしてみると、シナリオ作成時点で気づかなかった部分が見えてきて、現場でいろいろと調整することも多かったですね。具体的なところで言うと、実際に演じていただいたライザが、想定していたよりも未熟に感じられる場面があったり。「ドタバタすることもあるけれど、締めるところではしっかり締める子です」という注文が出ていたと思います。ライザはコメディもシリアスもいけるキャラなので、変化が楽しかったですね。演じられるのぐちゆりさんは大変だと思うんですけれども。

――のぐちさんにも以前、アフレコについてお伺いしましたが、「『ライザ3』のライザと混ざってしまって困った」ということを語っていましたね。

高橋そういうことは、けっこうありましたね。『ライザ』(1作目)のころなのにボオスがちょっとかっこよすぎる、って指摘とか(笑)。

――『ライザ3』のボオスは、めちゃくちゃかっこいいですもんね。

高橋「もっとワガママな、あのころのボオスで」と阿座上洋平さんにお願いしました。毎回、会話のシメが「行くぞランバー!」で終わるので、もうこれがボオスの決めゼリフでいいんじゃないかなと思ったり(笑)。

アニメ『ライザのアトリエ』シリーズ構成・高橋弥七郎氏にインタビュー。人々との交流を通じて描かれる、ライザの成長が見どころ

――(笑)。では最後に、ゲームファン、アニメファンの方に向けて、改めてアニメ『ライザ』の魅力をお聞かせいただけますか?

高橋『ライザ』は青春のお話です。青春とはなんだろう、という、わりと恥ずかしいテーマを真面目に考えると……くすぶっていた人間が目指すものを見つけて、それに向かって走る、というシンプルかつストレートな気持ちが答えなのではないかなと。目指してもうまくいかなかったり、周りに認めてもらえなかったり、という逆境があっても、なおがんばって成長していくという、力強くて痛快な流れは娯楽の基本でもありますね。個人的にも「少年少女にこうあってほしい」という希望を込めてシナリオを書いたつもりですので、ぜひ本作をご覧いただき、何かを感じ取っていただければと思います。