2022年2月10日にリリースされたスマートフォン&PC(Steam)向けRPG『ヘブンバーンズレッド』(以下、『ヘブバン』)。 “最上の、切なさを。”をキャッチコピーに掲げる本作は、個性豊かなキャラクターが織りなす切ないストーリーがいちばんの魅力だ。2023年4月28日には全ユーザー待望のメインストーリー第四章後編が配信され、大きな盛り上がりを見せた。
今回は第四章後編の配信を記念して、『ヘブバン』のキャラクターデザイン・原案を担当し、麻枝 准氏とともに作品の顔になっているゆーげん氏にインタビューを実施。キャラクターデザインに関するこだわりや『ヘブバン』との向き合いかた、第四章後編メインビジュアルのテーマなどを詳しくうかがった。


なお、本記事は週刊ファミ通2023年5月18日増刊号(No.1796/2023年4月27日発売)に掲載した『ヘブバン』特集内のインタビューに加筆・修正を行ったもの。特集では、インタビューだけでなくメインストーリーにスポットを当てた濃密な企画をお届け。ゆーげん氏が描いたビジュアル2枚を使用した両面イラストカードも付属している。こちらも要チェックだ!
※インタビューは4月上旬に実施しました。
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フリーのイラストレーター兼キャラクターデザイナー。おもな代表作は、コーエーテクモゲームスの『アトリエ』シリーズやYostarの『アズールレーン』など。
フリーランス独自の視点でデザインを見つめる
――“ファミ通・電撃アワード2022”にて『ヘブバン』は4冠を達成しました。すばらしい結果を残したのには、ゆーげんさんが手掛けたキャラクターやビジュアルの貢献も大きかったと思います。率直なお気持ちをお聞かせください。
ゆーげんありがとうございます! 『ヘブバン』はいまよりも高いところまで羽ばたくことができる作品だと思っており、我々はまだがんばっている最中です。名誉ある賞をいただいたことで、ますます気を引き締めないといけないと感じています。
――デザインにあたって、開発チームとはどのようなやり取りをされているのでしょうか?
ゆーげんアート面に関してお伝えさせていただくことが多いです。『ヘブバン』は開発チームのチャットツールに“企画”や“3D”といったスレッドがたくさんあります。企画に目を通してストーリーを確認し、ほかのアート面のスレッドを見つつ、ディレクターやアートディレクターとよく議論させていただいています。もしかしたら煙たがられているかもしれません(笑)。
――密にキャッチボールをされているのですね。
ゆーげんそうですね。僕はフリーランスとして活動し、他社さんの開発プロジェクトにも参加している関係上、『ヘブバン』を客観的に見られる立場にあります。そういった視点を持ちながら「ここをこうしたらどうか」といった議論をさせていただいています。
――キャラクターデザイナーがデザインを完成させた後も作品と深く関わり続けるのは珍しいケースな気がします。
ゆーげんキャラクターデザインというと、仕様書が回ってきて、仕様書通りにキャラクターをデザインするというのが通常のやり取りです。ですが、僕は『ヘブバン』に人生を懸けたかった……。この一作にすべてを投じる気持ちで携わっているため、キャラクターデザインが3Dではどうなるのか、アクセサリーは正しく表示されるのかなども気になり確認していました。
――デザインがゲーム内でどのように表現されるのかも気にされていると。
ゆーげんはい。現代のスマートフォンゲームはものすごく流れが早いです。『ヘブバン』で動いているキャラクターたちは3、4年先にリリースされることを想定してデザインしましたが、想定よりも早くデザインの陳腐化が進むのではないかという懸念がありました。
――目新しさも意識していたのですね。
ゆーげん麻枝さんのストーリーは絶対おもしろいので、そこに合わせて絵柄もいまの20代ぐらいの若い方々に注目してもらう必要があると感じていました。イラストやWright Flyer Studios(ライトフライヤースタジオ)さんの作る3Dの部分も含めた絵作りがとくに大切だったのです。ですので、これからもクオリティーアップに貢献していけたらという気持ちです。

――キャラクターデザイナーというよりアートディレクターのような立ち位置でしょうか?
ゆーげんアートディレクターの方は別にいらっしゃいまして、その方をうまくサポートできたらと思っています。デザインは一晩ぐらいで習得できるようなものではなく、本当に少しずつ少しずつ積み重ねていった結果、描いている途中にひらめいたりするものです。ですので、酸いも甘いも噛み分けてきたフリーの人間として、会社に所属する方とは違う目線でデザインの考えかたを伝えさせていただいています。
――ゆーげんさんがフリーであるということが、『ヘブバン』のクオリティーアップにつながっているのが伝わってきました。
ゆーげん柔軟なメンバーが多く、僕が培ってきたキャラクターデザインやイラストのノウハウなどを、アドバイスを通じて意欲的に吸収してくれています。ありがたい限りです。
――今後ゆーげんさんの考えかたが取り入れられてデザインやイラストが作られていくと思うと、楽しみでたまりません!
ゆーげんありがとうございます(笑)。『ヘブバン』は主人公の茅森月歌だけでなくすべてのキャラクターが愛されるようになっていかないといけないと思っています。Wright Flyer Studiosさんもすごく真摯に捉えていて、簡単にキャラクターを増やそうとしないですし、既存のキャラクターをどれだけ愛してもらおうかというところに主眼を置いて開発・運営しています。箸にも棒にもかからなかったキャラクターを見限ってしまう作品も多い中、ユーザーに愛してもらえるよう、すべてのキャラクターを押し出していくという方針は本当にすばらしいなとつくづく感じています。
――ほかに『ヘブバン』のデザインで意識している点があれば教えてください。
ゆーげんキャラクターに触れてみたいと思ってもらえるよう、デザインを随時アップデートしていかなければならないと考えています。そのためには、スタッフと喧嘩するぐらいの勢いの言葉の議論は絶対に必要です。週次で長時間の会議を行っていますし、麻枝さんを含めて全員で熱く議論しています。
――定期的に長時間の会議が行われているのですね。
ゆーげんはい。僕が『ヘブバン』を自分の人生と考えているのといっしょで、スタッフのみなさんもそれぐらいの気持ちでプロジェクトに参加しているはずです。
――イラストでこだわっている点はありますか?
ゆーげん絵柄に関しては、Wright Flyer Studiosさんから「ゆーげんさんの絵柄で」とオーダーされていることもあり、暗すぎる色は使わないように心がけています。たとえば、マントの裏側に少し赤いマントを羽織っていたとしても、黒くするのではなく、空気感を入れるために青をはさみ込んだりしています。
――細かい工夫があるのですね。
ゆーげん服のカラーはとくにこだわっていて、チーム内のスタッフに細かくアドバイスをしています。影を落としていく形でデザインしていくメンバーが多かったので、明るい色を乗せたり、別の色を乗せたりしながら、ひとつの色を豊かに見せていくようにお願いしました。
――そのぐらい色使いを大切にされていると。
ゆーげんはい。昔、ある方からいただいた言葉が教訓になっています。ふつう白を暗くしていけば濃いグレーになって黒になっていくと思うのですが、「白の影色は黒ではない。赤から反射して影が赤になっていたり、青から反射して青になっていたり……。さまざまな色で表現できるんだ」と言われたのです。
――明度の表現の仕方でしょうか?
ゆーげんそうです。明暗の度合いを明度と言うのですが、その明度を暗くするほど重たい絵になってしまって、ユーザーは見ていて疲れてしまいます。白の影色をただ暗くするわけではなく、赤や青などの鮮やかな色を混ぜて変化を持たせることによって、胃もたれを起こすことなく長く見られるイラストに仕上げています。

第四章後編がついに配信! ビジュアルに込めたメッセージ
――メインストーリー第四章後編が2023年4月28日に追加されます。こちらについてもお気持ちをお聞かせください。
ゆーげん「お待たせしました」というひと言に尽きます。麻枝さんの作り出す各章のストーリーをゲームに落とし込むのに、ひとつゲームを作るのと等しいような労力がかかっています。消費のスピードが早い現代でいろいろなコンテンツがある中、これだけ長い時間ユーザーの方々に待っていただけて、感謝してもしきれません。
――第四章後編のメインビジュアルは、どのようなテーマで描かれたのでしょうか?
ゆーげん麻枝さんの作品は濃密に作られたものなので、進んでいくほど盛り上がっていきます。メインビジュアルは、その盛り上がりをまだ始めていない方にも感じ取ってもらえるようにということも考えながら描いています。今回は後編ということで、第四章前編でユーザーが感じていた疑問の答え合わせや新しい31Aの一幕が描かれます。そのストーリーの中心にいる逢川めぐみと國見タマの関係性を主軸にした構成で、メインビジュアルを描かせていただきました。

――第四章前編のメインビジュアルで左端に描かれていた國見が、後編のメインビジュアルでは中央に大きく描かれているのがとても興味深く感じました。
ゆーげんストーリーでの役割を考えてこの配置になりました。『ヘブバン』のストーリーは、ひとりひとりが新しい壁にぶつかり、その壁を乗り越えて成長していく物語でもあります。そういった点もビジュアルに反映しています。

――ゆーげんさんのイラストは、ストーリーを読み進めると違った一面が見えてくるよう気がします。たとえば、第31A部隊ビジュアルの東城つかさが覚醒しているように見えたり……。
ゆーげん第四章後編のメインビジュアルにも自分なりのメッセージを込めたつもりです。『ヘブバン』のデザイナーとしてというだけでなく、いちデザイナーとしてきちんと引っかかりのある部分を作るように心掛けています。オーダーの少ないイラストでも、後から見たときにさらに世界観が広がっていくようなイラストになるように意識しています。

――第四章前編・後編メインビジュアルの注目ポイントを教えてください。
ゆーげん前編も後編も逢川と國見がポイントです。前編の逢川は情緒的に描いていますが、後編では何かを見つけたような表情で描きました。さらに、國見もいつもとは違う勇ましい表情やポーズになっています。ストーリーを読んでいただいた後に、改めて見て楽しんでいただけると幸いです。
――前編と後編で大きく印象が変わりますね。
ゆーげんそうですね。じつは逢川はキャラクターデザインが最後まで固まらなかった人物でした。31Aという大事な部隊のデザインは髪の跳ねのひとつが気になるとか、前髪の数ミリが気になるといった麻枝さんの強い想いが籠もっていました。僕らが目指していたのは麻枝さんの作品を世界に押し出すという部分であったので、最新版にカテゴライズされるような絵柄と、麻枝さんのストーリーをどうしても合致させる必要がありました。そのため、逢川のデザインにとても苦労した思い出があります。
――そうしてでき上がった逢川にも思い入れがあると。
ゆーげん思い入れは強いです。逢川のようなスパイスの効いたキャラクターがいるのはいいですよね。個人的にはすごく好きなキャラクターです。

――第四章後編のファイナルトレーラーで登場する謎の少女・ルミが個人的にかなり気になりました。こちらについても教えてください。
ゆーげん逢川たちがいままでとは違う場面に登場している映像が公開されますが、そういった部分にかなり絡んでくるキャラクターです。こちらもキャラクターデザインの中に引っかかりを作っています。

――ズバリ、第四章後編の見どころを教えてください!
ゆーげんひとことで言うと“成長”ではないでしょうか。先ほどもお話ししましたが、キャラクターをたくさん量産して切り捨てていくスマートフォンゲームも多い中で、『ヘブバン』は最初からメインの人数が決まっていて、“交流”イベントも含めてストーリーの中で彼女たちが成長していく姿が描かれています。とくに第四章は全体を通してその成長を肌で感じられるような内容になっていると思います。
大きな何かを残すために人生を懸けて手掛けていく
――ゆーげんさんはどのような気持ちで『ヘブバン』に携わられているのでしょうか?
ゆーげん難しい質問ですね(笑)。さまざまな賞を受賞して評価していただけたのはものすごく価値のあるものだと思っています。フリーの人間が6年以上も同じゲームの開発に入り込むというのは、本来はかなりリスクがあると思っていて……。結局は屋号商売で、僕よりも上手な絵描きの方がたくさんいらっしゃるので、名前を忘れられてしまえば、僕はすぐに仕事がなくなってしまいます。そのため、『ヘブバン』を日本だけではなく、世界中に届けられるような日本の屈指の作品として育てあげ、多くの人々に認知してもらおうと全力で取り組んできました。今年の2月に韓国語版と繁体字版がリリースされてその目標は達成されましたが、いまでは『ヘブバン』が自分の人生そのものだとすら思っています。
――今後の目標についてもお聞かせください。
ゆーげん正直に言うと、じつはいまものすごく危機感を覚えています。どんな名作でもストーリーは読み流されてしまうかもしれない時代になったなと……。
――現状を深刻に捉えていたのですね……。
ゆーげん『ヘブバン』を維持し続ける特効薬みたいなものはないと思いますが、自分が気づいた点をお伝えし、議論し続けていきたいと思います。開発メンバーから面倒な奴だと思われてしまっても、『ヘブバン』に携わり続け、麻枝さんの美しいストーリーを始めとした、大きな何かを残していきたいです。
――最後に『ヘブバン』を楽しんでいるユーザーの方々へメッセージをお願いいたします。
ゆーげん『ヘブバン』に出会っていただいてありがとうございます! 作品を通して仲間が増えたという話をうかがうこともあり、うれしいです。そういった人と人をつなぎ止められるものを目指して今後も作っていきたいと思いますので、応援をお願いいたします。
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