『ドラゴンボール』や『ワンピース』など、数多くの人気アニメを手掛けることで知られる東映アニメーション。アニメ業界を代表する老舗のひとつである同社は、ここ数年ゲームを含むデジタルコンテンツ事業に積極的に取り組んでいる。東映アニメーションのデジタルコンテンツの取り組みについて、東映アニメーション 営業推進部 デジタルプロダクト推進室の室長兼プロデューサーの植野良太郎氏とプロデューサーの永田康弘氏に話を聞いた。

日本最大のアニメスタジオ東映アニメーションがゲーム事業に注力する理由。「強みであるIPを活かした展開を考えている」

植野良太郎氏(右)(うえのりょうたろう)

東映アニメーション
営業推進部 デジタルプロダクト推進室
室長兼プロデューサー
(文中は植野)

永田康弘氏(左)(ながたやすひろ)

東映アニメーション
営業推進部 デジタルプロダクト推進室
プロデューサー
(文中は永田)

“IPを育てる”、“IPを広げる”ためのひとつの方途としてのゲーム

――東映アニメーションでは、ゲームを含むデジタルコンテンツに注力しているとのことですね。

植野はい。東映アニメーションという会社は、熱意があればやりたいことができる風土があります。ゲーム事業に関しても以前から取り組んできたのですが、2年前にデジタルプロダクト推進室が立ち上がってからは、さらに積極的にゲーム事業を展開しようとしてきました。当初はモバイル中心で考えていたのですが、いまは、Nintendo SwitchやSteamなど、やれるものに関してはとにかく挑戦したいと思っています。

 一方で、ゲームだけではなく、昨今話題になっているNFTやメタバースなどにも大きな未来を感じていまして、積極的に挑戦していきたいと思い、いまいろいろと準備をしている段階です。

――デジタルコンテンツを展開するにあたっての注力ポイントを教えてください。

植野ゲームに関しては、当社の強みであるIP(知的財産)を活かした展開を考えています。キャラクターや世界観などをうまく活用して、勝負をかけていきたいです。

永田当社はこれまで基本的にはライセンシーさんありきの事業を展開してきたので、ゲーム会社様との直接的なつながりがあまりなかったんですね。いま積極的にお会いしているのですが、お話をしていく過程で見えてくることも多いです。

 当面はゲーム事業に関しては、パートナーさんになってくださる会社様と組んで……ということで考えていますが、その会社様が、私たちの持っている作品をすごく愛してくれて、その作品をいっしょに広げたいと思ってくださるような縁があるといいなと思っています。私や植野はゲーム業界経験者ですが、まだ会社としてのゲーム事業に対するノウハウは少ないので、まずは会社として勉強させていただくイメージで取り組んでいきたいです。

――すでに東映アニメーションが権利を保持しているIPのゲーム化作品は多数ありますが、それとは別に、さらなる展開を考えているのですか?

永田東映アニメーションには、いま現在サービスや販売されていない作品、過去ゲーム化されてこなかった作品がたくさんありますので、もっともっと広げていきたいという思いはあります。さらに言えば、“IPを育てる”、“IPを広げる”ためのひとつの方途として、ゲームもあるのかなと考えています。

――ゲーム事業に取り組みつつも、IPの広がりを大いに視野に入れているのですね。

永田もちろんです。私たちIPホルダーとして、IPを育てていくことは使命だと思っています。いまままではライセンシーさんありきでIPを広げてきたことも多かったのですが、これからは私たちもIPを広げられるということですね。

 東映アニメーションに入社してしみじみと実感したのは、他社様のIPをお借りすることはもちろんですが、オリジナルIPも作れる土壌があるということです。『おジャ魔女どれみ』しかり、『プリキュア』しかりですよね。その土壌にゲーム事業が乗ることで、さらに楽しいことができるのではないという期待はあります。

植野いずれにせよ、魅力的なIPの創出は私たちの命題ですよね。キャラクターを作って世に届けるだけではなくて、世に出したものを多くの方に愛していただけるようにするまでがIP創出だという認識でいて、最近そこまで皆さんに支持されるようなIP創出はできてないのではないかと個人的には思っており、その点で、やはり危機感は感じています。

 当社の作品は20年、30年と愛していただいている作品が多くて、それだけ息が長くお客様に支持していただけるのはとてもすごいことですし、引き続き愛していただけるように努力は継続していきますが、一方で新しいユーザーさんに愛していただけるようなオリジナルIPを生み出したいという気持ちも、スタッフそれぞれが持っていると思います。

――NFTやメタバースも積極的に展開するとのことですが、こちらの戦略はどのようなことを考えているのですか?

植野NFTやメタバースに関しては、まだまだこれからの市場でセオリーなども定まっていない状態ですので、あまりガチガチに戦略を定めないという戦略でいます。当社がまだ、「NFTやメタバースに参入した」というにはおこがましいくらい何もわかっていない状態なのですが、一方で、NFTの事業に取り組んでいる方たちとお話をすると、私たちならではの強みもあるのかなとは思っています。そういった自分たちの強みを活かして、新しい NFTの事業にチャレンジしたいです。

――東映アニメーションならではの強みを活かしたコンテンツですか?

植野はい。これは、いまNFTに取り組んでいるスタッフみんなにも話していることなのですが、NFTって何だかんだ言って敷居が少し高いですよね。お客様の参入ハードルが高いとは思っています。一方で、東映アニメーションは、生まれながらのアニメスタジオで、「アニメを作って、ひとりでも多くの方たちに見ていただきたい」とか、「生んだキャラクターたちに触れてもらいたい」という気持ちに溢れています。

 そんな東映アニメーションならではの気風を活かして、たとえば、「NFTには興味ない」とか「NFTはいい」と敬遠されないような、敷居を下げることができないかなとは思っています。それはとても意識しているところですね。

――メタバースに関してはどうですか?

植野メタバースも同様です。メタバースはスマホで気軽に楽しめたりするのですが、「どうやったらあの世界に入れるの?」といったように、具体的なことはまだまだ知らない方がたくさんいます。そんな中、「東映アニメーションがやっているんだったら、ちょっと気軽にやってみようかな」と感じてもらえるように、敷居を下げていきたです。

――IPというものが、ときにハードルが高いものに対して下げる効果を持っていて、それがまさに東映アニメーションの強みと言えそうですね。

植野そうですね。市場の中で少ないパイを取り合ったりするよりは、新しいユーザーさんにNFTの魅力を知っていただきたいです。“初めてのNFTがこのキャラクターの IP モノだった”という感じになるには、やはりキャラクターの力や世界観が重要なのかなと思っています。

日本最大のアニメスタジオ東映アニメーションがゲーム事業に注力する理由。「強みであるIPを活かした展開を考えている」

数年後には、「東映アニメーションと言えばアニメとゲームを手掛けている会社だよね」と言われるようになっているのが理想

――そんな東映アニメーションのNFTプロジェクトが先日発表されましたね。

植野テクノロジー・スタジオであるStrataさんとコラボしての『電殿神伝-DenDekaDen-』(でんでかでん)を1月に正式発表させていただきました。こちらは、最先端のブロックチェーン技術を活用したNFT対応のプロジェクトです。今後大型メディアミックス展開なども予定しています。

――『電殿神伝-DenDekaDen-』自体はオリジナルIPなのですよね?

植野そうです。当社のコンテンツは、20年、30年という長い歴史を誇るものが多く、息長くお客様に愛してもらえているのはもちろんすごいことだと思っています。世代が変わったとしても、キャラクターたちを引き続き愛してもらうような努力をしていますし、いまの人たちに受け入れていただけるようアニメの新規展開も行っています。ただ一方で、東映アニメーションのオリジナルコンテンツを自分たちで手掛けてみたいという気持ちもあります。ゲームから生まれたキャラクターがアニメになったりグッズになったりしたら、それはとてもうれしいことです。『電殿神伝-DenDekaDen-』は、そんなコンテンツになってくれたらと期待しています。

日本最大のアニメスタジオ東映アニメーションがゲーム事業に注力する理由。「強みであるIPを活かした展開を考えている」
StrataとコラボしてのNFT対応プロジェクト『電殿神伝-DenDekaDen-』。ユーザーが協力してキャラクターを成長させる体験を実現しているとのこと。
『電殿神伝-DenDekaDen-』公式サイト

永田ちなみに、デジタルプロダクト推進室と言いながら、当部署では小説も手掛けていたりするんです。電撃文庫さんから昨年2022年11月に刊行していただいた『サマナーズウォー/召喚士大戦1 喚び出されしもの』は、Com2uSさんとのコラボ作品になります。

植野これは小説として支持していただくことはもちろんですが、今後の展開を見据えてのひとつのモデルケースです。具体的に何をするかというのはまだ決めていないのですが、お客様に楽しんでいただいて、そのあとの展開をどうするか考えています。6月9日には、第2巻『サマナーズウォー/召喚士大戦2 導かれしもの』の発売を予定しています。

日本最大のアニメスタジオ東映アニメーションがゲーム事業に注力する理由。「強みであるIPを活かした展開を考えている」
デジタルプロダクト推進室で手掛けている小説『サマナーズウォー/召喚士大戦』。ユウゴ・ヴァーンズを主人公に召喚士たちの戦いが幕を開ける。2巻目となる『サマナーズウォー/召喚士大戦2 導かれしもの』は6月9日発売予定。
『サマナーズウォー/召喚士大戦1 喚び出されしもの』の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『サマナーズウォー/召喚士大戦2 導かれしもの』の購入はこちら (Amazon.co.jp)

――アグレッシブに展開していますね。では、今後東映アニメーションではどのようなゲームを予定しているのですか?

永田1月に開催された台北ゲームショウ2023では、『おジャ魔女どれみ』の新作ゲームを発表させていただきました。台湾のパブリッシャーHappyTukさんによるパズルゲームで、台湾、香港、マカオでのリリースを予定しています。日本展開などはまだ決まっていないのですが、デジタルプロダクト推進室が発足してから初めての大きなタイトルになります。

――なぜ『おジャ魔女どれみ』だったのですか?

永田HappyTukさんが、「『おジャ魔女どれみ』をやりたい」ということで、強力にプッシュしてきてくださったんですよ。

植野僕らの室では、受発注の関係ではなくて、「『◯◯◯◯』だったらいっしょにやりたい」と共同事業として展開してくれる会社さんと取り組みたいと考えてます。なので、永田も言ったようにHappyTukさんが「『おジャ魔女どれみ』でやりたい」とおっしゃってくれたからこそ動き出す運びとなりました。

――デジタルプロダクト推進室の方針のひとつとして、共同事業としてゲーム作りに取り組むというのがあるのですね?

植野現時点ではそうですね。開発会社さんに依頼して、自社でコントロールして……というのは、今後の目標になってくるとは思います。ただ、いまは扱うIPを私たちは伸ばしたいと考え、共同事業として取り組んでくだされる会社さんがIPに対し魅力を感じてくださることでプロジェクトが動き出し、成功する可能性が高まってくると思っています。お互いのよさを活かしていくことで相乗効果が期待できると考えています。

――IPに興味を持ってくれる人をパートナーとして探すというのは、お互いに理解し合うのもたいへんそうですね。

植野そうですね。当たり前の話ですが、協業ということは先方もリスクを負っていただいているので、お互いが深く理解し合うのは必須になりますね。

永田いずれにせよ、パートナー探しは始まったばかりです。これまで僕たちが、直接開発会社さんやパブリッシャーさんとお話をする機会というのは、あまりなかったような気がします。昨年の東京ゲームショウあたりから、機会があるごとに各社さんにご挨拶させていただいているのですが、「東映アニメーションと、そんな取り組みができるのですね」という驚きの反応がいちばん多かったくらいです。

日本最大のアニメスタジオ東映アニメーションがゲーム事業に注力する理由。「強みであるIPを活かした展開を考えている」
台湾でも人気の高い『おジャ魔女どれみ』の新作パズルゲームが、台湾のパブリッシャーHappyTukよりスマートフォン向けに開発中。箱庭要素もあるとのこと。

――まさにこれからということですね。とはいえ、『おジャ魔女どれみ』以降もプロジェクトは続々と予定しているのですか?

永田デジタルプロダクト推進室ができてから3年目になり、そろそろお話しできそうなタイトルも出てきました。夏や秋くらいには、何らかの形で発表できるのではないかなと思っています。

――それは、どのようなタイトルですか?

永田具体的なことはまだお話しできませんが、お客様の人気が高いタイトルだという思いはあります。いっしょに協業してくださっている会社様も、ものすごい熱量で開発されているので、ご期待いただければと思います。

――そのほかにも、複数のプロジェクトが動いているのですか?

永田そうですね。デジタルプロダクト推進室には全部で10人のスタッフがいるのですが、全員が何らかの形で複数の案件を抱えています。NFTやさきほどの小説なども合わせると、10以上のプロジェクトが動いています。

――いま取り組んでいるプロジェクトはすべてIPモノなのですか?

植野そうですね。オリジナルは先ほどお話した『電殿神伝-DenDekaDen-』くらいかな。

――展開するIPに何か特徴はあったりするのですか? あまたある東映アニメーションのIPから10のプロジェクトをセレクトした基準はどのような?

植野当社もそのIPでやりたい、パートナーさんもやりたいということで、両社の意識が合致したプロジェクトが10くらい動いています。一方で、僕たちもゲーム業界経験者が多いので、“このIPがゲームになりうる作品なのか?”というのを精査させていただいたうえで、各社様とお話はしています。

――ちなみにですが、東映アニメーションって、いくつくらいIPを持っているのですか?

植野一説には250くらいと言われていますが、正確には把握できていないかもしれません。

――いずれにせよ、とんでもない数であることは間違いなさそうですね。では、東映アニメーションの今後の目標を教えてください。

植野ゲーム会社様に営業に出掛けると、「東映アニメーションってゲームを作っているんですか?」と言われることが非常に多いので、まずは、“東映アニメーションがゲーム事業に取り組んでいる”ということを、積極的に周知していきたいです。もちろん、ゲームファンの皆さんにも積極的にアピールしていきたいと思っています。そのためにはコンテンツがないと届かないと思うので、積極的にリリースしていきたいです。どんどん事業を成長させていって、数年後には「東映アニメーションと言えばアニメとゲームを手掛けている会社だよね」と言われるようになっているのが理想ですね。

永田ゆくゆくは、パブリッシャーとして存在感を発揮できるようになりたいですね。

植野ゲーム事業を拡大させていくとなったときに、コンテンツホルダーかつパブリッシャーとして、開発会社さんといっしょにやっていくというのが僕たちの道筋になるのかなと思っています。

 僕は、パブリッシャーというのは、お客様に対して向き合う“責任”だと思っています。たとえば、Nintendo Switch向けのゲームを作って、ゲームショップの店頭に並べることに対して“東映アニメーション”というブランドとして、責任を持つことが重要だという認識です。運営に対しても同様で、今後そういった体制を少しずつ構築していきたいです。

――なるほど。ちなみにパッケージソフトも出したいといったことも考えているのですか?

永田もちろんです! いろいろと取り組んでみたいです。

――最後に、東映アニメーションの今後の展開に期待しているゲームファンに向けてひと言お願いします。

永田東映アニメーションはアニメ製作会社ではありますが、デジタル領域においてもけっこうチャレンジングな取り組みを開始しています。2023年は東京ゲームショウを始めとして、イベントなどへも積極的に出展したいと思っていますので、当社の取り組みをぜひ楽しみにしていてください。

 ちなみに、いま当部署では、仲間を絶賛募集中です。本日お話しした通り、当社はこういったデジタル領域においてもけっこうチャレンジングなことをしていける会社でもあります。これから事業を拡大させていくためには、この取り組みに賛同していただける同志が必要不可欠だと思っておりますので、もし興味が湧きましたら、ぜひお話をさせていただける機会があるとうれしいです。

植野私たちには、ゲーム会社様だけではできないようなIPを使った戦略や、アニメ会社だからこそできることがたくさんあると思っています。これから、そういった新しい取り組みにどんどん挑戦していくつもりですので、今後の東映アニメーションに期待していただければと思います。

日本最大のアニメスタジオ東映アニメーションがゲーム事業に注力する理由。「強みであるIPを活かした展開を考えている」
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