2023年5月24日、エヌシージャパンのMMORPG『リネージュM』は日本でのサービスインから4周年を迎えた。同時大型アップデート“Ep.exceed TRIGGER”が実装。さまざまなキャンペーンやイベントもスタートしている。
4周年というのは、昨今のモバイルMMORPGとしてはかなりのロングランとなる。一見するとクラシックなタイトルである本作の人気は何に支えられてきたのか。
そこで、日本運営プロデューサーの川南巌氏に加え、日本でのサービスインに多大な貢献を果たした大河内卓哉氏を招き、思い出やその魅力、昨今のスマホゲーム市場への見解など、さまざまなお話を伺った。
結果、『リネージュM』はファンの熱量に支えられてきたものだと思っていた筆者だったが、この両名をはじめとした運営陣の熱量もとんでもないことが判明した。そのパワーを今回のインタビューから感じ取っていただければ幸いだ。
なお、インタビュー末尾では大型アップデート“Ep.exceed TRIGGER”に関する質問にもご回答いただいているので、最新情報を確認したい人はこちらもご一読あれ。
大河内卓哉
『リネージュM』日本運営プロジェクトプロデューサー。ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン、バンダイナムコゲームス、ブシロードなどでさまざまなゲームタイトルに携わってきたほか、トレーディングカードゲーム『カードファイト!! ヴァンガード』では宣伝プロデューサーを務めたこともある(そのときの名前は“ドクター・オー”)。文中では大河内。
川南巌
『リネージュM』日本運営プロデューサー。PC版『リネージュ』からの生粋のシリーズファンであり、『リネージュ』愛は随一。今回、プロデューサーに抜擢された際の知られざる事実も判明するとかしないとか。文中では川南。
『リネージュM』日本上陸前から、大河内氏は(勝手に)動いていた
――ファミ通.comでは大河内さんのインタビューは初めてですので、自己紹介からお願いします。
大河内『リネージュM』チームのマネージャーを務めております、大河内と申します。おもにモバイルデバイスにおける『リネージュ』タイトル全般を兼任しています。
――『リネージュ2M』や『リネージュW』も含まれるということですか?
大河内そうですね。『リネージュM』に関してはプロジェクトの立ち上げや初期仕様、事業体制の構築などを担当いたしました。4年前の『リネージュM』リリース発表会以後は生放送などに出演したりしていましたが、以降は(ゲームの運営は)川南たちに託している形になります。
――役職について伺ったところで改めて教えてほしいのですが、大河内さんって何者なのでしょうか? 『カードファイト!! ヴァンガード』のドクター・オー……なんですよね?
大河内はい。伝道師として関わっています。
――『リネージュM』の立ち上げに関わった人が『カードファイト!! ヴァンガード』の伝道師……。混乱してきたので整理させてください。たとえば、ゲーム遍歴を教えていただけますか?
大河内何でも遊んできたので説明が難しいところはありますが、人生の方針が決まったという意味でいちばん影響があり、いまも好きなゲームをひとつ挙げるなら『MOTHER2 ギーグの逆襲』です。『MOTHER2』がきっかけでこの業界を目指したという部分はあります。
――『MOTHER2』のどういったところに魅力を感じたのでしょうか。
大河内“人の心に訴える”という、明確な方向性を定めたうえで完成しているという点がものすごく伝わってくるからです。プレイヤーの心を動かすゲームはほかにもありますが、『MOTHER2』からは“人生に寄り添う”気概が感じられました。こういうゲームもあるんだと、小学生ながらに感動した思い出があります。
――小学生の頃から、すでにそこまで見ていたとは。
大河内小学生の頃から将来に向けてプログラミングなども勉強し始めましたが、その頃にカードゲームというジャンルとも出会いました。当時、学校でグループが集まるきっかけになってくれたのがカードゲームだったんですね。
――人と人を結びつける、大事なコミュニケーションツールですよね。
大河内そうですね。PC関連で言うと、その頃はDOS/Vから入ってWindows 3.1、Windouws 95になるくらいの時代でした。オンラインゲームが広まり始めた時代。友人から誘われて『ウルティマオンライン』をプレイしてみたら、まぁ最初から斬られまして。
――いきなりロスト体験ですか。
大河内これはすごいなと。オンラインゲームの時代が来るだろうなと感じましたよ。すごく懐かしい。そうした体験をして、そのまま突っ走ってきたら、いまがある感じと言いますか。
『ウルティマオンライン』からは当時は言語の壁もあって離れてしまったんですけど、学生時代はオンラインゲームをやり込みました。いちばんやったのは『デカロン』と『巨商伝』。
――古参MMORPG勢からすると懐かしすぎるタイトル。たとえばほかに、「これを遊んでいろいろ変わったな」みたいなゲームはありますか?
大河内人生の転換期となったという意味では『セカンドライフ』を挙げてもいいかもしれません。言いかたはちょっとあれですが、大学生の時点で“ゲーム内でお金を稼ぐ”という体験ができたんです。ゲーム内で物を作って(リアルのお金と同等のゲーム内通貨で)販売できるというのが、すごいことに感じられました。
学生時代はオンラインゲームやデジタルデバイスに興味を持ちつつも、カードゲームに関するお仕事をいただいていた時期でもありました。
――『セカンドライフ』というと賛否はありますが、たしかに仕組みは画期的(※)だったように思います。学生時代からゲームの開発や運営側として携わってこられたわけですよね。貫いてきたポリシーはありますか。
※『セカンドライフ』の仕組み:衣服などを作ってゲーム内通貨で販売し、そのゲーム内通貨を現金に換金できた。
大河内TCG(トレーディングカードゲーム)とMMORPGは遠いように思われがちですが、私のなかではほぼ同じ領域に入っています。コミュニケーションを主体にした、エクスペリエンスデザイン(※)の領域。簡単に言えば、ゲームライフスタイルの提案ですね。
※エクスペリエンスデザイン:解決すべき問題を定義し、それを解決するにはどんな体験をプレイヤーに提供すべきかを考えること。
大河内専門的に言うと、TCGとMMOのどちらも事業としての根幹定義、その進行に合わせた再定義、さらにその実現に向けた専門組織を立ち上げ、サービスが存在する意義を捉えて一連の運営活動を通じてエンドユーザーの体験の改善を目指すわけです。この流れは変わりません。
――アナログとデジタルという違いは、そこに影響するんでしょうか。
大河内はい。これらを現実空間で行なうのがTCGで、仮想空間で行なうのがMMORPGですね。根本的にはいっしょなんですけど、体現の仕方や伝えかたが違います。ただ、この“ユーザー体験がいちばん大切である”という考えかたはずっと一貫しています。
――そうしたポリシーや活動も踏まえて、『リネージュM』はどのような魅力があるタイトルだとお考えでしょうか。
大河内(日本に来る前の)韓国サーバーバージョンの『リネージュM』の話をしていいですか? じつは私もプレイしていまして、本当にカオスだったんですよ。たとえばエヴァの王国ダンジョン(通称ハイネケイブ)はプレイヤーが多くてイモ洗い状態。まともにモンスターを狩れなくて、ほかのプレイヤーから攻撃を受けたりする。端的に言うと、ものすごく熱量が高いんですよ。いちプレイヤーの立場から感心させられました。
――そこまでの状況はなかなか見ませんよね。
大河内強く思ったのが「このサービスは絶対に日本に持ってこないとダメだ」ということ。そこで、企画書を書いて(エヌシージャパンに)提出したんです。
――『リネージュ』関連モバイルゲームの責任者として、これは日本のゲーマーに遊んでもらうべきであると。
大河内あ、いえ。当時の私は別の業務に関わっていた人間なんですよ。単純に『リネージュM』がおもしろかったので。
――つまり、勝手に……?
大河内ははは。誰かから命令されたわけではないので、そうとも言えます。『リネージュM』はプレイヤーの熱量がゲーム中から伝わってくる。遊べば遊ぶほど人やIPにその影響が広がり、ゲーム内の歴史を作るというゲーム体験の構造が、非常によくできていると考えています。グローバル化が進むなかで、日本のMMORPGファンが存在を知らない、言語の壁で体験できないというのはもったいないと思ったんです。体験のロスはよくない。
大河内日本に本作を持ってくるための企画書を書いて、それがいったん保留になって、という流れがあったんです。企画書というか事業計画書ですね。
――『リネージュM』のプロジェクトプロデューサーになったのも、その持ち込みがきっかけだったんですか?
大河内きっかけとしてはそうかもしれませんね。だいぶ渾身の計画書を書いたんですが、すぐに「やろう!」という話にならなかったのにガッカリしたのを覚えています。
――川南プロデューサーにはどのような形で話が伝わってきたのでしょうか。
川南その話はぜんぜん知らなかったです。
大河内そんな気はしていました(笑)。
川南もちろん韓国で『リネージュM』が出たのは知っていましたし、そのうち日本にも来るだろうとは思っていました。大河内が動いていなかったら日本に来ることはなかったかもと、後から知ったんです。
大河内それからしばらく経った後に上層部から「あの事業計画書には実行のための組織図が書いてありましたよね。人員を選抜してください」と頼まれまして。
――唐突な始動。
大河内5年ほど前の話です。まだ社内ではモバイルMMOタイトルを扱っていなかったので私が作った組織図は穴だらけ。社内のみならず外部からもリクルートしたり、人員の確保に走りました。そのなかでも川南の存在は重要。『リネージュ』の生き字引であり、PC版『リネージュ』の系統を正式に受け継いだモバイルタイトルを国内で展開していくうえで、絶対に立ち上げに必要な人材としてお願いしました。
――川南さんが招かれたのは、会社の決定というより大河内さんのご指名だったんですね。
大河内いまでも覚えていますよ、一覧のなかに太字で書きました。あまり話したことはありませんし、おそらく社内でも知られていない事実です。
川南いまその話を聞いて、それがなかったら僕はここに来ていなかったかもしれないと驚いています(笑)。
『リネージュ』愛あってこその“安心感”がロングランの秘訣
――モバイルMMORPGが浸透していないなかでリリースを迎えるにあたり、初期の思い出や苦労話などを教えていただけますか。
川南とにかく家に帰れなかったですよね。
大河内まったくその通りで、本当にすみません(笑)。
川南モバイルアプリってこんなに不具合が出るものなんだと、戦慄していました。
――そのひと言でいろいろと伝わりました。
大河内エヌシージャパンはPCタイトルの運営がビルドも含めて非常に安定していますからね。PC事業畑出身の川南にはショッキングだったかと思います。
川南PCオンラインゲームのクライアントは、ファイルの一部を引っこ抜いて入れ替えたり、わりと自由度が高いんですよ。アプリの場合はそれが難しくて、完成したビルドが(日本サービスチームに)来るという仕組み。ダメな点があった場合は一度ビルドをバラして修正し、またビルドを組みなおして完全な状態で持ってきてもらうことになるんです。
――となると、修正速度が段違いで遅くなりますね。素人目線だと逆かと思っていましたが。
川南僕も当初はそう思っていたんですが、PCゲームのほうが自由が効くなぁと実感しました。
大河内ほかに初期の話ですと、『リネージュM』事前登録の段階で、武器や防具の名称の違和感が大きいという意見が多かったのを覚えています。モバイルでの表示文字数や文字の大きさの都合上、PC版『リネージュ』からすべてのアイテムの名前をそのまま移植するわけにはいかなかったんです。
川南内部では違和感事件と言われています。
大河内ある程度は変更する前提で運営メンバーで名前を決めていたわけですが、名前を公表したところ、プレイヤーの皆さんの熱い反響をいただきました。「なるほど、この武器にここまで思い入れがあるのか」と。
ですので、リリース直前ではありましたが、一度翻訳したものをすべて見直しまして、可能なかぎりPC版の原型が残るかたちで川南にリネームしていただきました。
――とんでもない依頼が飛び出しましたね。
大河内(アイテム類の名称は)ゲーム内の歴史みたいな話ですから。どこが重要でどこが重要ではないのか、数値では見分けられない。可能なかぎり忠実に、しかし文字数などのルールはこんな感じ。この状況でどれくらいできますかと、川南にはかなり踏ん張っていただきました。
――いまでもその成果は確認できるんでしょうか。
大河内いちばんわかりやすいのは“武官”シリーズですね、PC版では“ジェネラル”シリーズでした。「サービス継続のために一部名前を変更しますが、ご理解ください」とプレイヤーの皆さんにお願いした名残のひとつです。昔『リネージュ』をプレイしていたけど『リネージュM』はまだプレイしていないという人には、これらの名前の違いを探してもらうことでも楽しんでいただけるかと思います。
――いまのお話からですと、大河内さんから現場の川南さんたちへの無茶振りが多かったように思われますが。
大河内いやー、しましたね(笑)。
川南僕のほうでは、あまり無茶振りされたとは思っていなかったんですよね。やらなくてはいけない仕事だったと思います。気分でものをおっしゃる方ではないので、これは言われたらやらなくてはならないと、納得できる指示でした。
大河内それは川南が『リネージュ』が好きで、シリーズを見てきたからこそ言える言葉ですよ。ただ単純に仕事だからと携わっているだけでは、難しいところだと思いますので、私の立場からは感謝するばかりです。
プレイヤーの人生に寄り添う覚悟
大河内初期の話をしたところで、『リネージュM』の魅力について話したい点があります。立ち上げのときから目標にしていたことに、“人生に長く寄り添う”というものがありました。日本のゲーム文化には、ゲームをプレイしたらエンディングを迎えて、つぎのゲームに行くという流れが根強いかと思います。
――家庭用の買い切りゲームが多かったからでしょうか。そうして多くのタイトルに触れていく、と。
大河内その点、『リネージュM』、ひいていてはエヌシージャパンのいいところとして、「ずっと続けてください」、「このゲームのなかで生きていってください」という姿勢が存在するんです。ただ、2023年現在のモバイルタイトルの平均寿命はどんどん短くなっているんですよね。
――少し前は2年くらいだったのに、いまは1年以内に終了するのも珍しくない時代です。
大河内そういう時代になると想定はできていたんですが、先ほどのお話にありましたとおり、『リネージュM』はユーザー体験のデザインが非常によくできてます。このタイトルでプレイヤーの人生とどのように長く付き合っていくか、いかに売り切りで半年で利益を回収しましょうといった形にしないか、だいぶ各所と調整をこだわりました。
――プラットフォームを問わず、ほとんどのゲームに“やめがち”になる時期が来るのが当然になりつつありますよね。
大河内『リネージュM』にはオートプレイやログアウトプレイの機能もあるんですけど、実装時は賛否両論ありました。本当にゲームをやっていると言えるのか、と。ただ、現実に負荷なくゲームを続けられるという意味で非常に強力なツールです。
同時に、時間がなくてもオートプレイでゲームを続けておくことで、いざゲーム内の(多人数でプレイする)勢力戦などに本腰を入れるときに戻りやすいという、ひとつのゲーム体験の構築そのものにも関わる要素だったんです。
――利便性だけでなくゲーム体験全体をもサポートできるツールだったと。
大河内そのようにひとつひとつの要素について、皆さんのゲーム体験とともに歩んで来られたこともまた『リネージュM』の魅力になっているのではと考えています。
――モバイルタイトルが短命になりつつあるいま、『リネージュM』が4周年を迎えられた理由としては、やはりそうして長く寄り添ってきたことが大きいということでしょうか。
川南ご要望の声を聞いて改善していくのは当然かと思いますが、サービスを提供する側が(プレイヤーに対して)お役に立てる点は、最終的には“サービスを継続する”ということだけであると考えています。MMORPGはゲームのなかでものすごく時間を使い、1日のうちの何割かを投資しないといけないジャンル。投資したものがすぐなくなるサービスではいけないということが大前提にあります。
――たしかに、要望にすべて迅速に応えられたとしても、サービスが終了したら元も子もありません。
大河内ずっと続く、という点については川南から大部分の話をしていただきましたけど、そこに私からテーマとしてひとつ加えるなら、“安心感”もあるかと思います。派手なグラフィックや斬新なシステムで売り出したとしても、オンラインゲームはサービスが終了してしまえば遊ぶ手段がなくなる。こういったどうしようもない部分もあるんですよね。
――そこはたしかに、オンラインゲームの怖いところです。
大河内日々そんな不安を抱えてプレイしたくはないでしょうし、それがMMORPGならなおさら。だからこそ、“続く”という安心感をどのようにして伝えていくかが大事だと考えます。過度に大丈夫ですよと言い続ける必要はないのですが、ちゃんとわかりやすい姿勢をお見せしていく必要があるわけです。生放送などの情報番組を今後も続けて、いまから始めても復帰しても安心して長くプレイできるよ、というメッセージをお届けできればと考えています。
――生放送などの情報発信には、そういった重要な意味合いもあるわけですね。
大河内アップデート情報もお伝えしていますが、大事なのは内容とは別の部分にもあります。あくまで“続く”からこういうアップデートが行われるということですから、続くこと自体が伝わるほうがはるかに大事だと思います。
――とはいえ、「あの新情報はまだか!」という声はけっこうありますよね。
川南プレイヤーの皆さんのほうでも実装タイミングがだいたいわかっているんですよね。朝方に「何でまだこのアップデートの情報が出ないんだ!」と言われたら、今日の夕方に出るんだよなぁ、と思ったりすることもあります。広報的な都合もあるので、その場ですぐにお伝えするわけにもいかない。
歴戦の方はだいぶ勘がいいんです。「このペースならこのお知らせは今日くらいに来るんじゃないか」とか。金曜に情報を発信することが多いので、「金曜の朝に告知欄を見たけどまだ出ていない、来週だと遅くない?」と言われて、すみませんそれ今日の夕方なんです、みたいな形で。
大河内おもしろいことに、それもひとつの安心感になっているんですよね。そろそろアップデートだからこの情報が来るでしょ? といった形で続くことが皆さんに伝わっているのは、私としてはよかったと思っています。行き当たりばったりでアップデートしていると思われているのではなく、ちゃんと定期的に、(アップデートが先行している)韓国版などから予想できるペースでアップデートが続くと信頼していただいているのは理想的かと思っています。
――そろそろアプデが来ると安心して待てるというのは、たしかに大きいように思えます。
川南エヌシージャパンのタイトルの場合、先行リリースされている韓国版がロードマップそのものになることが多いというのも安心につながっているかもしれませんね。
大河内“アンテナの高いプレイヤーには韓国版のアップデートが伝わっている”状況だからこそベストを尽くさなくてはいけない部分もあります。“すでに知っている”という前提でゲーム体験を作っていくわけですが、これが難しいんです。
――アンテナの高い方とそうではない方の違いが出そうです。
大河内たとえば全部のアップデート要素を伝えようとすると情報量が多くなるので、ライトな方は置いてけぼりをくらうかもしれない。わからないからおもしろくない、このゲームはやめる、という結論になりかねないわけです。
そこで「とりあえずこのイベントマップに行けばいい」くらいの感覚でお伝えするにはどうすればいいかなど、つねに考えています。
――韓国版の情報を仕入れるというのも一部のプレイヤーにとってはゲーム体験の一環になるでしょうし、そこも考慮するとなると提供は非常に難しいですね。
大河内情報を調べるか調べないかでプレイヤー間での乖離が起こりかねませんので、いまも調整や試行錯誤を続けているところです。
ゲームを再定義することで人気の理由も見えてくる
――いまのスマホゲーム市場は、昔以上に何がヒットするのかわからない状況だと思います。運営側として重視すべきと考える点を教えていただけますか。
大河内川南さん、どうです? ちょっと聞いてみたい。
川南エヌシージャパンが提供しているタイトルに欠けている部分でもあるかと思いますが、キャラクター性は大事な要素になっていますよね。
かわいいキャラ、かっこいいキャラであるというだけでなく、性格や設定、キャラ付けまで深堀りして楽しまれている。その熱量の高さは相当なもので、うちのタイトルではそこまでフィーチャーされているNPCなどはいないと思います。
――たしかに、『リネージュ』キャラには二次創作などのイメージはあまりありません。
川南ゲーム自体がよくできているのは前提として、キャラ立ちがしっかりしているタイトルがウケている印象はありますよね。
大河内私のほうの目線からですと、まずはゲームの定義について話をさせていただきたいと思います。
――急に?
大河内基礎的なデジタルゲームの定義として、自分で何かを動かし、原始的な結果を得て、感情が動く、という3段階があると思います。この定義は、日本で育ってファミコンやスーパーファミコン、プレイステーションといったゲーム機で遊んできた我々だからこそある共通体験に関連していますよね。
――たしかに、コントローラーでゲームを遊んできた我々にとってはその流れが原体験と言えそうです。
大河内ただ、昨今のモバイルタイトルという目線からすると、ゲームはあくまでアプリのひとつであり、サービスのひとつに数えられます。いまはゲームと呼ばれていますが、これが30年後にはどうなっているかというと、完全にサービスの一環になっていると思われます。ゲームとサービスの垣根が、いま現在もどんどん曖昧になっているわけです。
――モバイルデバイスのなかで、ゲームだけが特別な存在ではなくなっていると。
大河内そうですね。たとえば先ほどのキャラクターのお話にフォーカスすると、ゲームもキャラクター性という点においてはマンガやアニメと被りつつあると考えています。マンガやアニメと同じようにキャラクターに愛を感じられるほど、ゲームの表現技法が進化してきたとも言えるかと。
――マンガやアニメから人気キャラクターが誕生するように、昔以上にゲームからも人気キャラクターが登場する時代になっていますね。
大河内はい、その通りです。今後もゲームからそうしたキャラクターが生まれてくるでしょう。また『リネージュM』のように、現実世界とは異なる世界で自分がしたい生活をする形態は、枠組みこそゲームではありますが、それは突き詰めるとゲームなのかという話にもなってきます。“そういう生活ができている”という精神状態を提供する、デジタルサービスなのでは、とも考えられます。
――なるほど。今後人気が出るモバイルタイトルがどんな定義によるものなのか、揺らぎつつありますね。
大河内いまの段階では人気になりそうなものは“ひとつのサービスとして必要とされるゲームのような何か”という認識です。ゲームをきちんと再定義し続けることで、今後どんなゲームが求められるかがわかっていくでしょうね。
たとえばコロナ禍が鎮まりつつある昨今、“人と出会えるもの”がゲームの再定義に当てはまるかもしれません。これらを踏まえると、このゲームはこういうプレイヤーを目標にしているのではないか、そういった点がプレイヤー側からも見えてくるかと思います。
――ゲームの作りかたといった目線でも、定義の明確さは大事になるかもしれません。
大河内ですので、“期待を裏切らないこと”がヒットの理由につながるのではないかと思います。クオリティーの高さもそうですし、キャラクター愛を注げることもそのタイトルを選ぶ理由になるでしょう。運営側から「こういうタイトルを出します」、「皆さんはこういう体験ができます」、「ぜひ遊んでください」と、ちゃんと伝達することも大事ですよね。
近年は“おもしろい”というのは当たり前のスタートラインなんですよね。広告で「おもしろいゲームを作りました」と言われても首をかしげてしまう状態。その裏に何を隠したのかを、ちゃんと伝えないといけない時代になりつつあると思います。
プレイヤーの皆さんもいろいろなゲーム体験をしてきて目が肥えてきています。いいアプリ、いいゲーム、いい運営、いい事業が、見抜けるようになっているはずなんです。見た目がきれいなのは当然で、それだけじゃないとわかっておられるんですよね。
――そのお話も踏まえつつ、今後『リネージュM』が5周年以降を目指していくうえでの課題についてはどうお考えでしょうか。
川南これから先、『リネージュM』のサービスが成長して続いていくうえでは、ゲーム本体の出来に加えて運営側の占める領域がさらに大きくなると考えています。カスタマーサポートの質であるとか、有償商品の納得度ですとか。まだまだの部分も多いので精進していかなければなりません。
大河内『リネージュ』らしさを、とにかく忘れないこと、オンリーワンであることが大事かと思います。ロングランを目指すうえでは、いま遊んでくださっている人が喜んでくださるイベントを定期的に行ない、ご新規の皆さんにもキャラクター育成用の“グンター”サーバーを利用すればいまからでも大丈夫ですよ、ということを優しく発信し続けることがとても大事かと。
――さらにロングランな視点で、10周年を目指すとしたらどうでしょう。
大河内10年となると別途進めたいこともありまして、利便性を向上する機能も大事かと思っています。ログアウトプレイやオートプレイの話もありましたが、今後も内部で検討項目として挙がっておりますので、うまく進められましたらまた情報を発信できればと思っております。
――期待しております! 先ほどのお話からすると、それをきちんと伝えることも大事ということですよね。
大河内ここまで運営が続けられてきたのは、プレイヤーの皆さんの熱心なプレイがあったからこそです。皆さんの『リネージュ』愛がこれほどまでに続いていることを、たいへんうれしく思っているとこの場を借りてぜひお伝えしたいです。また、『リネージュ』での体験からしか得られない、“リネージュ成分”のようなものが本作にはあると確信しております。
さらに言えば、我々もまた海の向こうの開発チームとも過去の『リネージュ』体験を共有しつつ運営を進めています。運営と事業、そして私のようなマネジメントの分野と、それらも含め全員が『リネージュ』を愛する仲間として引き続き皆さんと歩んでいきたいと心から思っておりますので、ぜひ引き続き本作を楽しんでください。
“TRIGGER”から見る、今後の『リネージュM』の展望
――では続いて、“Ep.exceed TRIGGER”アップデートで気になった点について、川南さんに伺いたいと思います。大規模クラスケアの目玉として、銃士の火力面の強化が挙げられていますが、エルフなどの他遠距離職と比べてどれくらいの強化になるのでしょうか。
川南火力面ではこれまではエルフが有利だったんじゃないかと思います。今回のクラスケアで、エルフに追いついたか少し上回ったというところですね。
両者の違いとしては、エルフはエレメンタル(属性)の選択があってキャラビルドの難度が高めですが、銃士は選択制ではありません。スキルを覚えれば覚えるだけ強くなっていくという点が挙げられます。
――PVE、PVPといった側面からだと、両者の違いはどのあたりになりますか。
川南極端に言えば、銃士は対人向け。エルフはプレイスタイル次第で対人から狩りまでいろいろと幅を持たせられるタイプとなります。
――竜闘士と暗黒騎士にも大規模なクラスケアが入っていますが、どういった方向性の変更なのでしょうか。
川南『リネージュM』のクラスを大ざっぱに分けると近距離職、中距離職、遠距離職に分かれます。近距離職のなかでどのクラスをやりたいのか考えたときに、各クラスに個性がないと選びづらいですよね。最近は差別化を進めるアップデートが多く、たとえば暗黒騎士なら瞬間的ではなく恒常的な耐久力の上昇と、HP吸収攻撃の多彩さといったキャラクター性が突き詰められています。
――竜闘士の場合はいかがでしょうか。
川南固有の武器種“チェーンソード”の、鞭のようなイメージを具現化したスキルの実装が多いですね。行動を阻害したり、相手を引き寄せたり、ホールドしたりといったスキルが充実してきています。
――ほかにも幅広いクラスに対してクラスケアが実施されましたが、とくに注目しているものなどはありますか。
川南若干マニアックになりますが、魔術師の“メテオストライク”系列の範囲増加や消費MPの減少、神聖剣士の“セイントストーム”という範囲攻撃スキルがクイックスロットでの自動使用が可能になるといった点ですね。
本作では対人戦向けの調整が多いのですが、これらは対人用ではなく狩り用に多く使うスキルです。経験値を稼ぎやすくなるような、PVEや育成面をケアしたアップデートが今後も増えていくかもしれません。
――新装備“水晶”が6種類実装されました。装身具が一部位増えた、くらいの認識でよろしいのでしょうか。
川南そのイメージで間違いはないかと思います。ドラゴンをモチーフにした4大属性の水晶はダイヤで購入し、アデンとエスカロスの水晶はゲーム内のアイテムで製作するものになります。インゲームの素材も使用していくため、既存の装身具にたとえるとブレスレットに近いものになります。
――種類ごとに異なる効果を持っていますが、状況に応じて付け替えていく装備になるのでしょうか。
川南お金持ちのキャラクターならそれも可能かもしれませんが、どちらかというと自分の理想とするキャラクター像に近い水晶をがんばって鍛えていく形になるかと思います。強化についてはスクロールを使用していく、従来の装備品と同じ形式になります。
――続いて2023年6月14日実装予定のワールドダンジョン“エオディン城塞 ナグバスの礼拝堂”についてですが、毎週特定の曜日に開催されるという“タイムアタック”の仕様をより詳しく伺えますか。
川南エスカロスダンジョンのアーティファクトのシステムに似ています。ナグバスの礼拝堂でもアーティファクトごとに“守護者”が4体ぐらいずつ出現し、これらを倒してすべてのアーティファクトを活性化させるとボスの部屋への入り口が開きます。ボスの部屋に入ること自体は、実際に守護者を倒したりしなくても可能です。
――物陰でじっと待っていても、ボス部屋に入ることはできるわけですね。
川南各勢力の激しい取り合いになっているでしょうから、そばで見ていたら無事ではいられないかとは思いますけどね。
――ほかに今回のTRIGGERアップデートで、アピールしておきたい点などはありますか。
川南今回も期間限定の育成サーバー“グンター”がオープンします。新職業の実装がないので新キャラクターを作るモチベーションがいつもほどではないかと思いますが、より育成しやすいキャンペーンを併せて開催しておりますので、大規模クラスケアが入った銃士などをはじめ、まだ使ったことがないキャラクターをぜひ試してみてください。
――グンターもですが、新規プレイヤー向けの誘致キャンペーンもけっこうありますよね。以前取れなかった人向けに、英雄級の“変身”が獲得できるスタンプラリーがあったりとか。
川南そうですね。今日振り返ったリリース当初でしたら、いきなり英雄級の変身がお配りできるとか考えられないことでした。4周年にもなると配れるようになるんですね(笑)。
――まずは青い希少級の変身を目指すというのが、『リネージュM』世界の定石みたいなところがありましたからね。
大河内『リネージュM』を知らないご新規の方はもちろん、『リネージュM』を当時からプレイしている人には、とくにすごさが伝わるかもしれませんね。いまなら簡単にスタートできるということで、ぜひ遊んでみてください。グンターから本サーバーへとプレイヤーが増えていってくれれば、純粋に『リネージュM』仲間が増えることになりますから、うれしい限りです。
川南アイテム運などがなくて序盤で休止してしまったという人などにもぜひ、キャンペーンでいろいろと揃いますし、いままたプレイしてみてほしいですね。
――何年かぶりにフレンドリストに登録していた人が帰ってきてくれるとうれしいのはMMORPGあるあるですね。個人的には世代的に、就職活動や結婚、子育てなどでMMORPGから離れた友人が多いですけど、そろそろヒマになってるんじゃないかなと。
大河内MMORPGですとリアルで何かしらのきっかけがあってゲームから離れていってしまう人も多いかと思います。そういった皆さんが落ち着いてきて、昔果たせなかった目標にまた挑めるというのも、長期運営ならではの魅力だと思っています。