古今東西のインディーゲームを紹介するコーナー。今回お届けするのは、淡い空気感とともに描かれる緻密な2Dドット絵アニメーションが魅力の『GOODBYE WORLD』。“LIFE IS A VIDEO GAME”という、戸塚伎一がお届けします。
世界はゲーム制作者をやさしく包む
もし何かのきっかけで、アナタがこの文章を読むことになったとしたら、少なからず驚くだろう。「えっとこれ……インディーゲームの紹介記事、なんだよな? なのにどうしてぜんぜん関係ないプライベートな話を書いてくれちゃっているんだよ。ちゃんと与えられた仕事しろよ、ていうかやめてくれ!」と怒りだすまであるかもしれない。
だけど、我慢して読んでほしい。私が、アナタとの思い出をいたずらに消費しているわけではないことがわかるはずだから……こんな書き出しで始まっても作風的に問題ないと勝手に踏んでいるのが、この『GOODBYE WORLD』だ。
主人公は、ゲーム系の専門学校を卒業して好きなこと──インディーゲーム制作で生きていくと決めた、ふたりの女性クリエイター。コンビ結成のいきさつなど印象的な過去を振り返りながら、つぎつぎと押し寄せる現実的な問題に直面します。具体的には“芳しくない売り上げ”、“長続きしないバイト”、“気持ちのすれ違い”……といった、クリエイティブ系の若者が経験しがちなシチュエーションのオンパレード。
ISOLATION STUDIOのプログラマー。自作のゲームに強い自信とこだわりを持つ。
■熊手【右】
蟹井の相棒のグラフィッカー。性格は控えめながら、2Dドット絵の技術力は高い。
誰もが何かしら身に覚えがある“若気の至り”と言ってしまえばそれまでですが、断片的かつ心のデリケートな部分を的確にえぐるセリフによってそれらが描かれるものだから、プレイヤー個人の似た体験に、容易に結びつくのです。いままさに若気の只中にある人は、本作をプレイすると、共感性羞恥で悶えまくるか、あるいはとんだ茶番劇と一蹴するかの両極端に、反応が分かれると思います。
アナタに初めて会ったとき、私はシンプルに「カッコイイ人だな」と思った。20代前半当時出入りしていたゲーム雑誌編集部に、ハンチング帽+バトルスーツ姿でぶらりとやってきては、部署の端っこにあるMacintosh(Mac)をひたすらいじり続け、終電の時刻が過ぎたころにバイクで帰っていく……後にアナタがやっていたことがDTP(雑誌の入稿データ作成)や図版の制作と判明するのだが、当初はその佇まいに魅力を感じていた。
おそるおそる話しかけてみるとびっくりするほど腰が低く、1歳下の私に偉ぶるでもなく(若者にとっての1歳差は大きい)、当時の私の活動を茶化し交じりで褒めてくれた。その後、夜な夜な盛り場にくり出すいちばんの遊び友だちとなったわけだが、何より、ゲームの趣味が合うことがうれしかった。アナタはアナタで尖った感性があり、私も譲れない価値観を持っていた。しかし、その中間にあるおもしろさを感じとる範囲、おもしろさに対する心の跳ね具合が共通していたことで、私の中に広がっているゲーム世界に幅ができた。それが決して誰ともわかりあえないものじゃないと思うことができたのだ。
アナタは学生時代、地元埼玉のゲーム会社でグラフィッカーのアルバイトをしていたと言っていた。もし当時、近年のように個人レベルでのゲーム制作環境が整備されていたら、ごく自然な流れでアナタと何か作ることになっていただろう。
話を『GOODBYE WORLD』に戻すと、主人公のひとり“カニちゃん”の日常は、つねにゲームとともにあります。その象徴が、彼女がいつも持ち歩いている携帯ゲーム機。作中の時代でもすでにレトロハードとなっているその機種用に制作したパズルアクションをことあるごとに起動し、あまつさえ『GOODBYE WORLD』のプレイヤーが、実際にプレイすることになります(詳しい内容は末尾の記事を参照)。
ゲーム内ゲームのプレイ機会は、だいたい各章の冒頭。毎回異なるステージを、定められたチャレンジ回数内でクリアーすることを目指すわけですが、ここでの結果がメインのゲーム進行に何ら影響を及ぼさないことが、じつに特徴的です。ゲーム内ゲームとはいえ……むしろ、ストーリーパートの進行があまりに淡々としているぶん、ここでしっかり結果を出せば違う展開に分岐していくはず、いや、分岐しなきゃおかしい! と思うのがゲーマーの性。
そうした期待をこともなげに裏切り、「でもテレビゲームって、人生ってそういうものじゃないですか」というド正論を突きつけてくるのは、作品全体を通してひとつのテーマを貫ける規模感のインディーゲームだからこそ、効果的な手法たりえます。エンディング後のエピローグを“痛快”と感じるか否かは、テレビゲームのそうした表現の幅に対する理解と許容度によって変わってくる……と丸投げするのは、レビューの結論としてはズルいかもしれませんね。
アナタはけっきょくバイクの単身事故でさっさとこの世を去った。ひとり残った私は、当時の我々が「とんでもなくジジイ」と思っていた年齢になってから、ようやくゲームを作り始めた。心のどこか奥底では、あの日ふたりで見た、低解像度な地平線の先に広がる世界をいまだに追い続けているのかもしれない。
昨今のエモいインディーゲームは、そんなことにも気づかせてくれる、多様性に富んだジャンルなのだ。それらを十分に年齢と経験を重ねたうえでプレイできないなんて、アナタは本当に間の抜けた野郎だ。やーい、間抜け野郎!
カニちゃん(主人公)が作ったインディーゲーム『BLOCKS』について
壊したブロックを足場として生成し、ルートを開拓しながらゴールを目指す、全12ステージの横スクロールパズルアクション。敵に触れると1ミスとなり、計3ミスでゲームオーバーとなる。プレイ途中にやり直しできるが、1ミス扱いになるシビアさも。
GOODBYE WORLD
- プラットフォーム:Nintendo Switch、PC
- メーカー:フライハイワークス
- 開発:YO FUJII
- 発売日:2022年11月17日発売
- 価格:各1200円[税込]
- ジャンル:アドベンチャー
- 対象年齢:IARC 7歳以上対象
- 備考:ダウンロード専売