“WELL GAMING”(ユーザーの幸福なゲーム体験)を合言葉に東海理化が立ち上げた新ゲーミングブランド“ZENAIM”(ゼンエイム)。2023年4月27日、東京都内にて新製品発表会が執り行われた。
ZETA DIVISIONが監修し、実際に競技シーンでも使用したことで話題を集めた『ZENAIM KEYBOARD』が発表。その開発におけるさまざまなエピソードがお披露目された。
ZENAIMによる新たなデバイス『ZENAIM KEYBOARD』の性能とは
ZENAIM KEYBOARDの価格は4万8180円[税込]。2023年5月16日20時から発売となる。まずは本製品のスペックと実際に触った手触りを、ZENAIMプロジェクトマネージャーである橋本侑季氏の説明もあわせてお届けする。
ZENAIM KEYBOARDは、全高の低いスイッチを利用したいわゆるロープロファイルキーボード。搭載されている“ZENAIM KEY SWITCH”は業界初の“無接点磁気検知方式”で、東海理化が自動車部品メーカーとして培ってきた“磁気センシング”技術を応用して独自開発したスイッチだという。
この技術を使うことで、アクチュエーションポイント(キーが反応するまでの深さ)を0.1mm単位で設定できるほか、各キースイッチの個別交換にも対応している。
キーストロークは1.9mm。これはZETA DIVISIONの選手やストリーマー陣による徹底的な監修のもと、誤爆(押し間違い)のリスクを極限まで抑え、かつもっとも物理的な反応が早いベストなストローク量を突き詰めた結果だそうだ。
アクチュエーションポイントおよびリセットポイント(押したキーが再度反応するまでの高さ)は0.3mm~1.8mmの間でカスタム可能。現状は固定値での変更になるが、販売開始後から3ヵ月から半年後を目処に、押し込み量に応じて自動で可変する機能も実装予定とのこと。
キーには遊びやガタつきがなく、“キーのどこを押しても一定に反応する”ように設計されている。キーの隅でもふつうに押すことができ、引っかかりによる操作ミスや反応の遅れを感じさせない操作が可能。
筆者が実際に触った感想としても、この反応のよさはしっかりと感じることができた。たとえば横長のスペースキーであっても、端と中央の押し心地はあまり変わらず、レスポンスのズレのようなものを感じさせない仕上がりとなっていた。
ハード面以外も様々な工夫があるという。オリジナルのソフトウェアである“ZENAIM SOFTWARE”もそのひとつだ。
このソフトウェアではキーごとのアクチュエーションポイントの設定や無効化、マクロ機能などが設定できる。基本的な部分は一般的な管理ソフトとあまり変わりがないものの、UIは直観的で扱いやすくなっている。橋本氏によると“必要な機能に2クリックで到達できる”ことを意識して開発したらしい。
“プロ設定” と“キルクリップ”機能も搭載。開発に協力したLaz選手やcrow選手が実際に行っている設定を、手軽に再現可能だ。キルクリップ機能では、ゲーム中に起こったできごとをすばやく動画として保存できる。画質やフレームレートなどはソフトウェア側で設定可能で、キーボード上にはキルクリップ用のキーも用意。お気に入りのキルシーンを共有したいときや、自身のプレイを見返したいときなどに重宝するだろう。
「高性能な部品を搭載してポーリングレート(デバイスがPCに情報を送る頻度)を引き上げたとしても、人間がキーを押す速度には限界がある。いまのゲーミングデバイスは人の能力を超えた性能が備わっていることを高性能とうたっているが、それを使いこなせているわけではない」と橋本氏は語る。
人間の能力値を超えるものではなく、ユーザーにとって必要な機能とは何かを突き詰めて『ZENAIM KEYBOARD』は開発を進めたとのことだ。
筆者としても、操作に対しての応答の速さと正確さやガタつきを感じないキーの手触りなど、“使った感覚”としての品質の高さは十分に感じることができた。『ZENAIM KEYBOARD』は決してカタログ上のスペックだけでは測れない“実体験としての高品質さ”を感じさせてくれるデバイスということだろう。
日本の技術を世界のデバイス業界へ――東海理化が持つ75年の歴史を受け継いだ、新たなブランド“ZENAIM”
発表会では代表取締役社長の二之夕裕美氏が登壇。なぜ“車の部品”から、“ゲーミングデバイス”という、まったく違う分野へ挑戦するに至ったか。その経緯が語られた。
二之夕氏によると、これは長年続いた“自動車部品メーカー”としての殻を破る、ブレイクスルーを目的としたプロジェクトだという。ゲーミングデバイスというまったく違う分野に挑戦することで、東海理化の新たな価値を提供していきたいと述べた。
また、これまで企業へ向けての商品展開(BtoB)がおもな業務であったこともあり、新たにユーザーへ商品を直接届けること(BtoC)に挑戦したい、という思いもあるとのことだ。
その後に行われたトークセッションでは、ZETA DIVISION運営プロデューサーの佐橋明氏も登壇。本来なら試作を終わらせないといけない段階であっても、選手から出た要望に対して即座に応えていただけたと、東海理化への感謝を述べる。
トークセッションは“外資系企業が大きくシェアを占めるゲーミングギア市場をどう見ているか”という話題へ。ここでの二之夕氏のひと言が熱かった。
「海外の車しかなかった時代に、国産車の時代を切り拓いた人たちがいる。ZENAIMはそういった存在になれるんじゃないかと思っています」
マウスにしてもキーボードにしても、その大半は海外製品。この現状をかつての車業界に照らし合わせたうえで、その先を見据えていた。たしかな技術を持つメーカーだけに説得力がある。
ZENAIMはZEN(禅)という日本の心を持って、世界をAIM(狙う/目指す)するという意味を持っているとのこと。ゲーマーの想いを汲んだ製品を作り、世界的に認められるようになりたい、という思いが込められている。
佐橋氏としても、日本的な作りのデバイスが世界には少ないという現状に思うところがあったという。日本独自のゲーム市場や文化的な側面を反映させた製品を作ることができれば、それだけで世界に認めてもらえる付加価値になるはずだと、頼もしいメッセージを発信してくれた。
ストリーマーやプロ選手たちも絶賛 鈴木ノリアキ氏「僕の中ではLazモデルみたいなイメージ」
つぎのトークセッションでは、ZETA DIVISIONよりKOHAL氏、鈴木ノリアキ氏、すでたき氏が登壇。発売に先駆けて練習や配信で実際に『ZENAIM KEYBOARD』を使っていたとのこと。
お三方の意見に共通していたのは、とにかく“反応が速い”という部分。いままで使っていたキーボード以上に直観的に動かすことができる、という意見が多く見られた。左手の操作がダイレクトに反映される操作感に、明らかに“いままでのキーボードとは違う”と感じることが多かったそうだ。
反応が速すぎて、逆に慣れるまではたいへんだったという意見も。鈴木ノリアキ氏は、自身の手癖などを直しつつ、1週間ほど慣らしの期間を作ったという。「いままでキーボードを変えることはあっても、こんな経験は初めてだった」と舌を巻く。
なお、鈴木ノリアキ氏によると、「ほぼLazさんのオーダーメイド品」、「擬キーボード化したモデル」のようなもらしい。
初期から開発に携わっていたすでたき氏によると、“自身のパフォーマンスを最大限に発揮できる”デバイスを目指して、さまざまな意見交換を行ったとのこと。デバイスは自身のパフォーマンスに直結するアイテム。ストレスなく扱えることも意識していたという。
また、鈴木ノリアキ氏からは「僕の中では“Lazモデル”みたいな感じのキーボード」という意見も。ムダがそぎ落とされ、洗練された操作感や外見などから“Lazさんらしさ”を感じたという。
「そういった意味でも、将来的に高いレベルでプレイしたい人にとっては非常にいい選択肢になるのではないか」というのが、『ZENAIM KEYBOARD』に対する鈴木ノリアキ氏の所感だ。
佐橋氏への個別インタビュー 開発メンバー選出の意図などを聞いた
以上で発表会は終了。その後にZETA DIVISIONの運営プロデューサー・佐橋明氏に個別インタビューの機会をいただけた。
プロのチームがここまで製品開発に関わるのは珍しい。佐橋氏によると、最初は「ヒアリングしたい」程度のご依頼だったとのこと。何度か東海理化とやり取りをくり返していくうちに「これはいままでにない、新しいものになるぞ」と感じ、本格的に関わっていくようになったという。
今回の開発に携わったメンバー(Laz選手、XQQコーチ、すでたき氏)の選出理由について尋ねたところ、「デバイスへのこだわりを持っていて、かつ言語化がうまい人。理論派と感覚派をちょうどいいバランスにしたかった」と、佐橋氏。
全員が感覚派だと伝えるべき部分が損なわれるかもしれないし、かといって全員が理論派だと細かいフィーリングを拾いきれないかもしれない。根底にあったのはこの考えだ。
また、監修によって大きく変わった点として、“キートップが限りなくフラットに近くなった”と語ってくれた。「どこを押しても変わらない感覚にするためにもフラットがいい」という意見が出たのだそうだ。
ただし、完全なフラットだと手指が滑ってしまうため、最終的には少しだけ丸みを帯びた形になっている。開発段階では摩擦係数の高い塗料を使用したり、1mm単位で深さを変えたパターンを複数用意され、徹底的に研究をくり返したという。
日本の心をその身に宿し、世界を狙う新たなゲーミングブランド“ZENAIM”。今回発表された『ZENAIM KEYBOARD』は、カタログ上のスペックだけではない、“使い心地としての高品質さ”を感じられるデバイスであった。
キーボードとしては少し高価なことは否めないが、その特別な使い心地を一度試してみる価値は十分にあるだろう。
本体スペック概要
- 製品名:ZENAIM KEYBOARD
- 価格:43,800円[税別]
- 製品サイズ:幅 380.8 mm / 奥行 139.2 mm / 高さ 24.5 mm
- 製品重量:723g
- キーボードタイプ:テンキーレス
- キー数:93 キー
- キーレイアウト:日本語 JIS 配列
- ライティング:RGBLED バックライト( 1680 万色)
- スイッチ方式:無接点磁気検知方式
- キーストローク:1.9 mm
- アクチュエーションポイント:0.3 1.8 mm 可変
- リセットポイント:0.2 1.7 mm 可変
- 押下荷重:50g
- チルト角:0度/4度/ 8度