オンラインゲームは多彩なアイデアでプレイヤーを楽しませてくれる。たとえばバレンタインやハロウィンなどの季節イベント。毎年やってくるのにネタ切れにならないのはシンプルにすごい。
とはいえ、毎年のように趣向を凝らすのはきっとたいへんだ。少しでも楽ができるように、イベント企画を提案したいと思う。自分のネタを売り込みたいだけ、とも言う。
※この記事はAimingの提供でお贈りします。
話を聞いてもらったのはこちらの3人。
矢嶋利規
株式会社Aiming 第二事業部 エンジニア二課 スペシャリスト。上がった企画をゲーム内に落とし込むエンジニア。『カゲマス』ではリードエンジニアを務める。文中では矢嶋。
西純平
株式会社Aiming 第二事業部 運営四課 セクションチーフ。『カゲマス』では運営リーダーを務める。文中では西。
水口雄夫
株式会社Aiming 第二事業部 企画四課 マネージャー。『カゲマス』では開発ディレクターを務める。文中では水口。
アニメ『陰の実力者になりたくて!』を題材にしたゲーム『陰の実力者になりたくて!マスターオブガーデン』(以下、カゲマス)の開発・運営者である。
『カゲマス』は2022年11月29日にサービスを開始したばかり。スマホでもPCでもプレイ可能な新作だ。今後のためにもネタはたくさんほしいはず。その気持ちに付け込む。
ユースケ 僕が提案したいのはこちらです。
ユースケ 5月の季節イベント“端午の節句”です。
西子どもの日か~。
ユースケ こういった行事は季節イベントのテーマになりやすいですけど、子どもの日ってあまり聞かないですよね。イベントにするとなると、浸透していることに加えて、キャラの衣装をデザインしやすいのも重要。鎧を飾るのでビキニアーマーをイメージできますし、金太郎の前掛けもセクシー衣装のモチーフにしやすいかと。いかがでしょうか?
西……。
「なるほど、いけるかもしれません」
西端午の節句は、たしか中国の故事成語が起源という説がありましたよね。とある偉人が川に身を投げたのが5月5日だったとか。そのあたりを紐解けば深い話になりそうですし、『カゲマス』にはそういった脚本を書くのに最適なキャラがいます。
ユースケ 思いのほか高評価だった。
水口5月は『カゲマス』のハーフアニバーサリー時期なんですよ。ただ、金太郎の衣装とは競合しないので、ハーフアニバーサリーがあるからやらない、という判断はしなくていいでしょう。衣装か……。もっとわかりやすく、鯉のぼりを人魚の衣装で表現するのもおもしろいかもしれない。
矢嶋金太郎モチーフを出すとしたら、どんなモーションが必要ですかね。……熊と相撲を取ったり? ホーム画面に鎧を飾ったら意外とかっこよくなるかも。
ユースケ その対応力、何なの?
こちらが知らない端午の節句の由来に触れつつ、ストーリー要素の案や想定外の別案が瞬時に出てきてしまった。人魚の衣装なんてふつうに実装されてもおかしくない。
この後、運営リーダーの西さんと開発リーダーの矢嶋さんはこちらを置いて詳細を話し始めた。話題を振っておいて何だが、そのフットワークの軽さはおかしいだろ。
『カゲマス』は『陰の実力者になりたくて!』のアニメ放送と同時期にリリース。解釈の乖離もなく、アニメファンや原作小説ファンからも好評だ。オリジナルゲーム開発よりも難しそうなIPものの開発現場ともなれば、柔軟な対応力にもうなずけるというもの。
このスピード感を真正面から受けて、『カゲマス』の開発環境に興味がわいてきた。Aimingはどのようにゲームを作っているのか。IPもの(原作付き)はオリジナルタイトルとどんな違いがあるのか。ふだんは聞けないところをいろいろと訊いてみた。
原作ありのゲームを円滑に作れた理由
――まずは基本的なところから。『カゲマス』にはどのような職種の方が関わっているのでしょうか。
水口大きく分けて企画、エンジニア、アートの人員がいます。サウンドやデバッグは協力会社さんに発注することも多いですね。他社さんと大きく違うところはないかと。
――たしかにふつうですね。
水口QC(クオリティーコーディネーター)チームは他社さんと少し違うかもしれません。定期的に開発状況やゲームのクオリティーを第三者視点で評価してくれるんですよ。
――名刺をいただいて気になっていたんですけど、企画二課と運営二課というように、イベントを考える部署とゲームを運営する部署が別々なんですか?
水口先ほどは“企画”とひとつにまとめましたが、正確には企画グループと運営グループに分類されています。前者は開発側の企画・実装を進めていくチームで、後者は売上・プレイヤー満足度に関する要素をメインに考えるチームですね。
――具体的に、ゲーム内のイベントなどを考えるのはどちらですか?
水口両者で相談して進めていきます。おもには運営チームからの提案がベースになりますが、実装(新仕様の開発)が必要な部分も出てきますので、企画と運営で協力しながら作っていくことが多いです。
西12月はクリスマスの衣装、1月であればお正月、夏であれば水着みたいな押さえたいポイントがありますよね。広報やプロモーションの面を加味して、このタイミングでこういうことをやりたい、といった計画を提案し、実際にできる形を模索していきます。
――季節イベントだけでなく、キャンペーンなども含めて相談していくわけですね。
西そうですね。直近ですと100日記念イベント(2023年3月中旬現在)。アニメの放送が終わって(2023年2月15日に最終回)しばらくのタイミングですし、盛り上がりポイントを作るべく、運営チーム発で仕掛けました。
――なるほど。何となく企画と運営は同じ部署なのかなというイメージがあったのですが、チームが分かれているとどんなメリットがあるのでしょうか。
水口作業が専門的になりますよね。ひとりひとりに責任感が生まれますし、クオリティーも上がっていくと捉えています。
西たとえば、3月はこれくらいの規模のアクティブプレイヤー数を維持したい、といった目標があるとします。それを維持するためにどうすればいいか考えたいわけですけど、企画チーム側は実装作業に手を取られているので、なかなか分析に時間を割けないんです。
――まったく別の作業になりますし、同時進行は難しそうですね。
西運営チームが分析や予測にたっぷり時間を費やせば、「これくらいの規模のことができればアクティブプレイヤー数を確保できるから、こうしていきましょう」という指針を立てられます。ほしい数字に合わせて、ほしい施策を運営から提案して詰めていきます。
――そういった企画がまとめられて、実際の開発やプログラミングの部署に話が来るわけですよね。どんな形でオファーされるんでしょうか。
矢嶋基本的には、企画チームから「今度こういうことをやりたい」という資料をもらいます。それをいつくらいまでに進めようかといった工数を出して、スケジュール的に間に合いそうならこれとこれを実装しよう、と取捨選択する感じですね。
――無茶振りはありますか? 無理じゃね? みたいな。
「全然ありますよ」
――あるんだ。
矢嶋ただ、「無理やりねじ込んでくれ」とは言われませんからね。無理なものは無理ですから。そうなったら相談して、これはズラそう、これは優先的に作ろうと(スケジューリングしていきます)。
――体感的には、無茶振りとスムーズの比率はどれくらいでしょう?
矢嶋9:1くらいじゃないですかね。無理じゃないほうが9、無茶振りが1です。
――よかった、逆だったら皆さんの関係値が気になって取材どころじゃなくなるところでした。
矢嶋工数を出す前はいろいろと振られます。たとえば、直近で水口からミニゲームを作ってくれと頼まれて、これはちょっと……がんばりました。まだ(時期的に)具体的には言えないのかな。
――ミニゲームって、ワンオフでゼロから作り起こすわけですよね。どれくらいの期間をかけて取り組むんでしょうか。
矢嶋いま挙げたゲームだと1ヵ月くらいかと。
――え、それって短くないですか?
水口ものによりますが、今回は短いスケジュールでお願いしたかな、とは思います。ほんとにすみません(矢嶋さんのほうを見ながら)。
西矢嶋さん、「もっと早くちょうだいよ」ってボヤいてましたね(笑)。
――ちなみに、いわゆる季節イベントはどれくらいのスケジュールで作られているのでしょうか。
西半年前には動き出していますね。2022年11月のリリース時点で、(2023年)3月末くらいまでは準備できている状態でした。1ヵ月単位でやりたい企画の大枠は、2024年分くらいまではすでに話を進めています。
――それで半年前から具体的な準備に入ると。素人感覚ですが、だいぶ早いような。
西我々も早めに動いているつもりです。早めに動いているからこそ、急なミニゲームの差し込みも相談しやすいのかなと思います。
――スケジュールは企画チーム主導で立てているんですか?
水口年間スケジュールといった大本の提案は、(運営側の)西の提案を基本として進めました。最初は年間を通してどんな風にやっていきたいか口頭で話しまして、「月一でイベントはやっていきたい」と。そこに季節イベントを当てはめていこうとなりました。
――年間のマイルストーンみたいなものですね。
水口季節にあてはめられない部分もあります。何が作れるか、プレイヤーさんにはどういうものが受け入れられるかを考えて、1年通しての計画を作りました。
西ちなみに、つぎは……
「女子高生イベントです」
――めちゃくちゃ溜めて言うじゃないですか。どういうことです?
西ビキニアーマーだの金太郎だのと衣装の話がありましたよね。やっぱりそういうのは大事なんですよ。このイベントでは日本の女子高生っぽい衣装が出てきます。まさに季節に合わないタイミングだけど、この作品独特ならではの要素をひねり出した結果ですね。
水口いきなり世界観を無視した衣装が出てくると、ファンからすると違和感がありますよね。でも、『カゲマス』はファンタジー作品なのに現代風の衣装も変じゃない。アニメのオープニングで制服を着てますから。
TVアニメ『陰の実力者になりたくて!』ノンクレジットオープニング:OxT「HIGHEST」
――そんな伏線回収ある!?
西アニメ放送直後に、ファンの皆さんのあいだでも「いったい何なんだ」と話題になっていたんですよね。せっかくだから使わせていただこうかと。
――とくに説明なく全話終わりましたからね。それをゲームで補完するのはすごい。許されるんですか?
西大丈夫です。原作者の逢沢大介先生やアニメサイドのスタッフさんとも相談して進めましたから。
水口ネタとして広げていきたいという形で提案しました。概要はアニメの監督さん(中西和也氏)に確認していただいたりもしています。
――ネタかと思ったら想像以上にオフィシャルな展開なんですね、女子高生イベント。
西幅の広さを見せたいという方針もありまして。“Rose of Garden”というイベントはガチガチに堅く(『陰の実力者になりたくて!』の)正史を描いていくような内容ですので、逆に振り切って“if世界“みたいなストーリーを作りたかったんですよ。本編とは交わらないような。
水口2ヵ月のあいだにまったく別軸のイベントを組むことになりましたね。プレイヤーさんに広く受け入れていただけるならこの方向で続編もあるかもしれませんし、受け入れられないようなら今回限りかもしれない。
――……ということは、金太郎衣装も実装の可能性があると?
水口それとこれとは話が別です。
原作サイドや各スタッフの声が作り上げた本作
――こうして見ると、アニメで描かれなかった部分をかなり補完していますよね。IPもののゲームでここまでやるのはあまり例がないように思うのですが。
水口『カゲマス』の場合は、原作者の逢沢先生のおかげでやりやすくなっています。補完の手法はふたつ。ひとつは、アニメでは描かれなかった原作小説の要素をゲームを通してファンに伝えるというもの。アニメには尺の都合がありますからね。かなり初期の頃からアニメや原作サイドと相談させていただいていました。
――それが“七陰列伝”やストーリーイベントになっていると。
水口もうひとつは逢沢先生からの提案です。開発中の段階で、アニメのスタッフさんや逢沢先生にプレイしてもらう機会があったんです。そこでご本人から「ここからバトルに入るつなぎがあったほうがいいと思います。僕のほうで書くので作っていただけませんか」とご提案いただきまして。
――そんなことあるんですか? 原作者本人が書いているから、ファンからすると違和感を感じようがない。
水口いやー、あったんですよ。おかげで導入部分はアニメの十分な補完となりました。連動しているというイメージも強く見せられたので、プレイヤーさんには“公式感”がより伝わったのではと思います。
――原作者サイドとのやり取りがうまくいったがゆえの成果ですね。これは主観でいいのですが、IPものとオリジナルではどちらのほうが仕事がしやすいですか。
水口やりやすさで言えば、こちらですべて決められるオリジナルかもしれません。ただ、ゲームとして目指す軸がはっきりしているという点では、今回の『カゲマス』では際立っていたかと思います。
――なるほど、目標がわかりやすくなるわけですか。
水口IPものは、“原作ファンの皆さんにどのように受け入れられるか”という部分が肝になります。「こういうゲーム体験をしてほしいから、こういう風にして届けていこうよ」といった意見は言いやすいですね。
――先ほど話に出ていた、原作者側からの提案といったサプライズもIPものならではでしょうね。
水口そう考えると、どちらも一長一短、ケースバイケースかと思います。
西プレイヤーにゲームを受け入れていただけて、なおかつ長く遊び続けてもらえるようにと考えると、IPがあったほうがやりやすいかもしれません。固定のファンが存在している状態なので、そのぶん運用はしやすいかと。
――そういえば、開発スタッフ内にも原作への愛が強い方はいらっしゃいますか?
西いますねー。ラノベ世代の若いスタッフも多いですよ。
――「ここはどうしてもやってほしい!」といったお願いをされたりするケースはあったりしますか。
矢嶋ホーム画面の演出でそういうことがありましたね。3Dでキャラがかなり動くようになっています。
水口「ホーム画面をちょっと違った見栄えにしたい」という課題が事業部によるチェックで出てきたんですよ。そのうえで、アートチームのモーション担当リーダーからの発案があってこうなりました。
――お偉いさんからの待ったがかかったということですか? お堅い話になりそう。
矢嶋事業部の部長から「せっかく3Dモデルでかわいい女の子がたくさん出てくるタイトルなのだから、これらをより魅力的に見せてあげられる手法はないか」という提案があったんです。
――逆だった。いい部長。
水口企画チームからも意見を出してもらって、最終的にアートチームから出たホーム画面の案がいいのでは、という結論になりました。デモを作ったら、これがまたよかったんですよ。熱量強く作れたからこそプレイヤーの皆さんにも受け入れていただけたと思っています。
――デモってレベルの代物じゃないですよこれ。こんな風に熱意をもって提案してもらえた実例はほかにもありますか。
西『カゲマス』ですと、ガチャの演出がかなり特殊なんですよね。プロデューサーの竹内の意見が根底にあるんですけど、もはや誰の意見を取り入れたものなのかわからない。それくらいいろいろな人の考えが入っています。
水口「ふたつを戦わせて抽選させたい」というのは竹内の意見ですね。
西どういう演出にしたらよくなるかという段階になってから、アート担当やエンジニアさんから「こっちのほうが気持ちいいと思う」と意見を多く出してくれまして。特定の誰かが作ったとは断言しにくいですね。みんなで作ったとしたか。
――あれはおもしろいアイデアですよね。ほしいキャラクターが負けると「あーっ!」ってなりますが。
西プレイヤーから反感を買ってしまうかもしれない要素だけど、それでもやろうとGOサインを出したのも竹内ですね。ならばとそれに乗っかって、ふざけ倒した案を方々からもらってねじ込んでいった成果です。途中で乱入してくる演出なども、アートの人が「このほうがかっこよくない?」と提案してくれたので即採用して、エンジニアと相談しました。
――それはもはや、企画が間に入る必要もなかったのでは。
西ほんとにそうです。企画を挟まずに作られていったようなものですね。意見が飛び交い、それを最終的には(開発側の)バランス感覚でまとめてもらう形になりました。
部署を超えて広く意見が集まる社風
――ホーム画面を見ると「動いてる、すごい!」と驚いてしまうんですよね。やっぱり実際に作るとなるとたいへんなのでしょうか。
矢嶋あれは地味にたいへんですね。プレイヤーさんが触っていないときに切り替わる点とタッチして会話パートになる点、そのつなぎの動きが少しでも変だと違和感が出るんですよ。うまくつながるようにモーションを自然に移行したりとか、細かいところに気を付けて作っています。
――アートチームの熱意が、いい成果物へとしっかりつながったんですね。
西アートチームがラフを作って持ってきてくれることは多いですよね。企画から出す以前に、アートから先にやりたいことの提案が挙がってくることも、このプロジェクトだと多々あります。
水口まず課題として挙げて、ああでもないこうでもないと議論したものを絵にしてもらうことも多いです。「こうしたほうがきれいになるよ」といった提案も多くもらいました。
西年間イベントの計画を組む際にも、アートチームに最終的な話し合いの場に同席してもらっています。そこでキャラに似合いそうな衣装の案をもらって、それがそのまま組み込まれたプランもすでに存在しています。
――運営チームが企画を主導してアイデアをクリエイターチーム側に渡していく、といったイメージがありますが、御社だとちょっと違うみたいですね。
西我々の間だけですと、凝り固まった順当な衣装(デザイン)になることもあります。だから、デザインの専門家から「こういう衣装のほうがいいと思うし作ってみたい」という意見をもらう。そのほうがプレイヤーにも喜んでいただけそうと思って採用しました。
――出てきた意見にその場で「いいね、採用!」と言えるのって、なかなかすごいですね。
西水口のトップダウンという感じではないですから。水口は最終的に取りまとめる立場ですけど、その前には方々に“意見シート”ものを回しまして。
――広くアイデアを公募したと。
西ほかのプロジェクトにいるエンジニアから「これをやったほうがいい」なんて意見をもらうこともあります。で、それを作業リストに載せすぎて、矢嶋から「それはさすがに無理」と言われるんですけど(笑)。
水口まずは好き勝手に書いてもらって、僕らのほうでいまの開発やプレイヤーの状況を見て優先度を決めていきます。いまのエンジニア側でできる作業の容量を10としたら、15から20ほど渡す。そこから工数を見繕って優先度を決めて、取り掛かる10を決める感じですね。
――エンジニア側から出た案にはどのようなものがありましたか?
矢嶋ダウンロードの処理については、リリース直後に開発スタッフから上がってきていましたね。あとはイベント内容について意見を出した人もいたかと思います。「ここはこうしたほうがもっと楽しめたのでは」と。
西社内でもめちゃくちゃ本作に課金して遊んでいる人がいて、「課金しすぎて今回のイベントは一周回って楽しめなかった」なんて意見をもらったりしました。
――社内からそんな意見が出るとは……。ヘビーユーザーが社内にいると心強い。
西まったくです。ほんとに助かってます。プロジェクト外からの意見も、どんどん取り入れる流れになっていますね。
水口チーム内のエンジニアさんで言うと、僕は矢嶋の平衡感覚はかなり優れていると考えていまして。矢嶋からもらった意見は基本的には取り入れたいと考えています。一般的に、プレイヤーさんが詰まる部分や、変だと思われるであろう部分を挙げてくれるんですよ。
――ゲームの開発現場では、エンジニアがプレイヤー目線で多く意見を出すのは一般的なことなのでしょうか。デバッグ的にミスを報告してくれる、というのはありそうですが。
矢嶋他社さんの事例はあまりわからないですが……デバッグ目的などでプレイするのと、一般的なプレイヤーとしてプレイするのとでは、感じかたはかなり異なります。エンジニアも自分が作ったものは気になりますからね。遊んでみて意見を挙げるというのは、やる人はやるとは思います。
――ふだんは依頼を請け負う側のエンジニアからも意見が出るというのはおもしろいですね。
西提案をエンジニアに持っていったときに「それって遊びづらくない?」と言われて、話しながら仕様を書き換えた企画もあります。運営チームとは違う視点なので参考になるんですよ。
水口そのパターンはむしろ多い気がします。さっき触れた矢嶋の平衡感覚ももちろんありますが、エンジニアさんから「仕様と違うけどこっちの方がプレイしやすくないですか?」といった提案をもらうことは、かなり多いです。
――社内以外からの意見についてはどうでしょう。原作のファンやスタッフから、ここはちょっと違うのでは、といった意見などは出たりしたのでしょうか。
西あまりないですね。(『陰の実力者になりたくて!』の)アニメ側の皆さんに感謝しかないと言いますか。IP系のプロジェクトはアニメ側の進行待ちでゲーム側の開発も止まったりする例があるんですが、今回はそういうことがほとんどなくスムーズに開発できました。
――開発中の時点で、アニメの内容についてすでに伝わってきていたわけですか。
西アニメと同時に開発をスタートできた結果、プレイヤーに本作はオフィシャルなものと捉えていただけたんだと思います。それもあってか「これは違う」という意見はあまりいただいていません。
水口監修でストップがかかったこともあまりないですね。アートチームが(アニメ『陰の実力者になりたくて!』の)ファンになっちゃったんですよ。
――なっちゃった。
水口なっちゃったというのも変ですね。ふつうに原作アニメが好きだからキャラの個性を理解している。だから、ちょっとした動きひとつ取ってもクオリティーが高い。
――そうか! だから解釈違いが起きにくいんだ! 「○○はそんなこと言わない」がないのはすばらしい。
水口開発がスタートしてから、毎月のように原作者の先生たちとミーティングをさせていただいて、関係をしっかり構築して。そうやって作りたいものを共有できたのも、スムーズに進められる大きな要因だと思います。
西開発にあたって、原作小説だけでなくアニメも早い段階から絵コンテなどを提供していただいたんです。開発チームもキャラクターの性格や動き、リアクションなどの共通認識を持てて、それが再現につながったかと思います。
――アニメさながらだと思ってはいましたが、なるほど。開発段階から、当時まだ未放送だったアニメの中身を参照しながら作ってきたんですね。
西ただ、そこにはIPものならではの難しさもあります。たとえばアニメと同時展開する場合、原作小説をもとにゲームを作ると、アニメファンの皆さんはアニメとのズレを感じるかもしれない。
――解釈違いは本当に悩ましい。『カゲマス』だとベータがかなりあざといじゃないですか。アニメのいち視聴者としては、この理解度はすごいと思っていました。皆さんの感覚だといかがですか?
水口僕は「やったな」と思っていました(笑)。思ったよりあざとかったかな、こういう路線でいくんだな、と。
西何だろう、キャラのぶれ幅の許容できる範囲だと思うんですよね。ギリギリのレベルを攻めた、みたいな。(参照するものが)小説しかないと人それぞれの解釈のブレが大きくなると思います。アニメのおかげでかなり小さく抑えられた。許容できるレベルのあざとさ。
水口アニメ本編ではカメラ目線でのピースまではしていなかったですよね。誇張表現かもしれないけど、これはこれでキャラと非常に合った表現にも思えます。
まだまだ案は尽きず。今後もこうご期待
――ゲームを展開していくうえで、原作に出ていないキャラクターやゲームでのみ描かれるストーリーも出てくると思います。原作側の許可取りはたいへんなのでしょうか。
水口オリジナル要素の出しかたは逢沢先生と話していまして。とある存在を擬人化し、女の子にして登場させるオリジナル展開案が出たこともあったんです。ゲーム側が望めばそれはもちろん可能なのですが、先生としては「段取りが必要」という判断でした。
――そのキャラが擬人化するまでの段取り、ということでしょうか。
水口まず認知を広げることが大切だなと。そのキャラクターを広く知ってもらい、人気が出てから展開していくならありなのでは、ということです。無理に進めるのはよくない。
――たしかに、急に擬人化されても違和感しかないでしょうしね。
水口僕はどちらかと言うと、原作ではあまり目立たないキャラクターに日の光を当てて、魅力を感じてもらうような展開がいいと思っています。ひとりひとりの話を広げたい。プロデューサーの竹内を含めてこちらの意見でまとまっているので、本作ではこの方向性を取っています。
――たしかに。ウィクトーリアなどがいい例でしょうか。
水口原作に登場している子ですね。“七陰列伝”で深堀りしています。
――七陰列伝のように、キャラクターを深堀りできるコンテンツがあるのはIPものとしていいですね。キャラクターに改めて思い入れが持てますし。
西キャラの深掘りと言えば、プロデューサーの竹内は「ホーム画面でゴルドー・キンメッキと交流したい」とずっと言っています。
――なんでトップがいちばんやんちゃなんですか。気持ちはわかるけど。
西本作は女の子との交流をメインコンテンツに据えている部分もあります。ホーム画面で交流するキャラクターの選定ラインはなかなか悩ましいですね。
水口僕はあまり冒険しないタイプなんですよ。どうしても安定したラインを取っていきたい。
西むしろ、そういうチームだからバランスがいいのかもしれない。アートチームやエンジニアの皆さんはけっこう冒険してくるんですよ。
――では矢嶋さんから冒険的な意見が出たりすることも……?
矢嶋自分も保守的ですね。
――そう言えば平衡感覚を頼られている人でした。
水口少しは冒険したい気持ちもあるんですよ。ですので、変わった意見が出ると西に相談することは多いです。
西たしかに、ときどき変なこと言ってくるなーと思っていました。
――そんな中で、いま現在出ている冒険的な企画はありますか。
西“ミニゲームをいっぱい作る”という案はありますね。Webの広告にある、ピンを抜いて財宝をゲットしろと言われるけど絶対クリアーできないやつ。あれを作ってみたいんです。
――矢嶋さんが困った顔をしそう。
水口前にミニゲーム企画案のコンペをやったんですよ。そのピンを抜くゲームは僕が最初に出した案のひとつです。ネタ的な案もたくさん挙がっておもしろいことになりました。全部やってもいいと思うくらい、いいアイデアが出ましたよ。
――たとえばどんなものが?
水口いやー、今後実装するかもしれないので。ちょっとここでは言えないですね。
矢嶋ご期待ください。作るのはたいへんそうですけど。
水口無理のないスケジュールで進行中ですので、大きめのアップデートを邪魔しないタイミングで実装していけたらと思っています。
――そうだ、せっかくナツメ先生(ベータが作家として活動する際のペンネーム)という作家キャラもいるんですから、アニメにも名前だけ出てきた“ロメオとジュリエッタ”と“紅ずきん”を何かに使ってください。
西いつか演劇をやりたいね、という話は出ていました。
水口あー、ありました。当初の計画ではあったけど、いまは薄れてしまっていますね。
西(イベント企画として)当初は20~30くらいのモチーフが出ていたんですけど、取捨選択するうちに立ち消えてしまったんですね。その枠に“Rose of Garden”が入ったような形ですね。
――これまでのお話からすると、こういう雑談からアイデアが出てくるのでしょうか。
西そうですね。たくさん出てきています。
水口自由に意見交換できていますから。夏に水着を作ろうという話になったときに、水着で見たいシチュエーションの案をチームの内外に公募することもあります。
――楽しそう。僕も企画書を送っていいですか?
水口いまは発注書を作っている段階なので、ギリギリ間に合うかも知れません。
西水着で出会ったときにどんなイタズラをしてほしい……
――女の子からしてほしいイタズラの案を募集するんですか!?
西食い気味じゃないですか。求めているのは願望です。女の子からのリアクションですね。男性スタッフもそうですけど、何ならアートの女性スタッフ陣の願望も殺到しています。
――そういえば、こういうアイデア出しは女性スタッフのほうがすごいと聞いたことがあります。遠慮がないとか。
西女性スタッフの意見、(キャラの動きが)きわどいんですよ。おじさん目線だってもう少しおとなしいんじゃないかな。その中からみんながいちばん喜ぶであろう願望を取り入れていきます。今後企画する季節イベントでは、女の子がいい感じにイタズラしてくれるはずです。
―― 業が深い……。
西僕としては、4月半ばに出てくる予定の強烈なものをすでに見ていますので、まずはそちらが楽しみで仕方がないですね。
――最後の最後にどうにかなってしまいそうな売り文句を放り込んできたな。
――ゲーム開発ってプロデューサーや一部のクリエイターが注目されますよね。それ以外でどのように作られているか興味があったんです。意見が出やすい環境とそれを受け止める環境、Aimingさんには両方あるということがわかりました。
水口それは当社の特徴だと思います。経験が浅い人にも意見を出してほしい。僕らとは違った感覚があるかもしれませんからね。いっしょに働いてくれる人材も募集中です。
――意見を出しやすい環境があって、エンジニアがそれを実現しやすい会社か……。
――……ツリ目のギャルが好きな人を採用するべきなのではありませんか?
水口たっぷり間を使って言うことですか。
矢嶋どういうキャラを実装してほしいかわかりました。
そう、じつはこの記事は求人広告だったのである。Aimingでは開発や運営に関わるスタッフを募集中。今回は『カゲマス』を題材に開発現場の話をうかがったが、ほかにも多数のタイトルを手掛けている。
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