長いことゲーマーをやっていても、すべてのジャンルに精通することはできない。

 苦手だったり、不得意だったり、興味がないゲームは誰にでもある。当然といえば当然だ。たとえば、悪魔をチェーンソーで一刀両断するFPS『DOOM』を愛する人が、スローライフな『どうぶつの森』を好きになれないとしてもあまり不思議ではない。ゲームの好き嫌いは、ごく単純な趣味嗜好の問題だ。

 けれど、“興味はあるしおもしろさも理解しているのにうまくなれない”ゲームとなると、ちょっと厄介だ。折に触れて手に取ってみるけれど、やっぱり上手に遊べないゲーム。うまく遊べたらきっと楽しいはずなのに、それができないがゆえの歯がゆさ。このもどかしい感覚は、一種のコンプレックスのようなものかもしれない。

 これを書いている俺にとってのコンプレックスは2Dシューティングゲーム、いわゆるSTGだ。

 これまで『ダライアス』や『斑鳩』といったSTGの有名どころを遊んでみたことはあるけれど、ワンコインでクリアーできたものはひとつもなかった。飛んでくる弾やステージ上の障害物の動きを予測しながら自機を動かして回避するという基本的な動作が、なんだか妙に苦手だったからだ。1面はらくらくクリアーできても、3面か4面にさしかかったあたりで弾幕を避けきれなくなり、敵に追い詰められる圧迫感が楽しさを追い越してしまう。残機があるとはいえ、一発食らったら終わりというのもこの息苦しさに拍車をかけていたようにも思う。

 そんなこんなでSTGにコンプレックスを抱えるようになった俺をクリアーまでやさしく導いてくれたのが、この記事で紹介する『NeverAwake』だ

 眠りから目覚めない少女“レム”が、悪夢の中でみずからのトラウマに立ち向かう。グロテスクとメルヘン、ホラーとファンシーが絶妙に入り混じった絵本のようなアートスタイルがまず目を惹くだろう。しかしながら、本作はインディーゲームにありがちな、ビジュアル先行アート偏重型の作品というわけではない。むしろ、『NeverAwake』は渋い職人芸が行き届いたゲームであり、STGを遊びやすくするためのこだわりや手触りのよさがとことん追求されている。

『Never Awake』(Switch)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『Never Awake』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp)

モダンなシューティング体験

 『NeverAwake』をひと言で表現すると、伝統的な強制スクロール型STGに現代的なツインスティックシューターの要素を織り交ぜたゲームだ。自機にあたるレムの移動は左スティックで行い、右スティックを倒した方向に向かって、360度どこにでもメインショットを発射できる。エイムがそのまま射撃になっているので単純明快だ。

1

 右トリガーで使える“ウェポン”はメインショットと異なり使用回数が限られているが、メインショットでは消せない弾を消したり敵を追尾したりとユニークな性能をしている。一般的なSTGにおけるボムのような奥の手に比べるとウェポンはカジュアルな位置づけで、火力の底上げのためにガンガン使っていくほうが楽しめるだろう。

 もう一方の左トリガーはというと、光の尾を引きながら短距離を高速で移動する“ダッシュ”となっている。このダッシュ中は無敵なので、横に広がる弾幕にあえて正面から突っ込むような形で強引に回避するような芸当も可能だ。

2
勇気を出して突っ込んでみよう。

 『NeverAwake』のプレイにあたって、使う指はたった4本となっている。ふたつのトリガーとふたつのスティックを動かす計4本であり、操作体系はかなりシンプルに仕上がっている。操作に対するレスポンスもすこぶる快適で、思ったとおりにキビキビと動く。ウェポンを当てたときのヒットストップや画面揺れといったエフェクトが派手に起こるのも爽快だ。

 触っていて純粋に気持ちいいという点で『NeverAwake』はAAA級のアクションゲームの多くを凌駕しているし、まさにこうした作り込みこそがインディーゲームの強みなのだと感じられる。

 『NeverAwake』の自由度の高い操作性はツインスティックシューターに由来し、従来のSTGとはかなり毛色が違っているものだ。けれど、強制スクロールのおかげか、STGを遊んでいるという実感はしっかり得られる。本作はむしろ、シューティングというジャンルそのものを現代風に磨きなおしたゲームという表現がふさわしいのかもしれない。

悪夢は巡り、そして終わらない

 『NeverAwake』はレムの抱えるトラウマごとにテーマ分けされた8つのワールドがあり、各ワールドは10ステージで構成されている。

3

 ユニークなのは、どのステージもループするという点だ。ステージの終わりに到達するとまた始まりへと戻され、敵の攻撃はループを重ねるごとに激しくなる。これはまさに悪夢を具現化したような構造に思えるが、実際には遊びやすさを高めるためのシステムと言える。どのループも一周およそ3分にも満たない短いものであり、プレイヤーが覚えなければならないステージギミックはかえって少なく済んでいるからだ。

 この終わりなきステージをクリアーするためには、敵を倒したときに放出される“ソウル”を集める必要がある。画面上部にあるパーセンテージが100%になるまでソウルを集めればクリアーとなる。敵を倒すことがそのままクリアーにつながるので、どんなプレイヤーでも自然にアグレッシブなプレイを心がけるようになるというわけだ。

4

 一回のループ自体も短いが、ステージをクリアーするためにかかる時間も全体的に短い。ロード時間もほとんど体感できないくらい短いので、クリアーしたらすぐつぎのステージへ、ミスしても即リトライというふうにサクサクと進むことができる。このスナック感覚のゲームテンポがとにかくよくできていて、気付いたときにはひとつのワールドをまるごとクリアーしてしまっていたほどだ。また、同じステージに挑戦しているあいだはゲームオーバーやリトライをしてもBGMが途切れないという仕様も、プレイヤーの集中と緊張を保つための工夫として秀逸だ。

5
1分以内でクリアーできることもある。

 プレイを進めていくと、“OMOIDE CHALLENGE”、そして“HIMITSU CHALLENGE”というモードが解放される。これは一種のやり込みモード、あるいは裏ステージにあたり、“最初のループでソウルを100%集める”とか“ソウルを100%にせずボスを完全に撃破する”といった特殊なクリアー条件が課せられる。こうした裏ステージはゲーム体験にひねりを加えつつボリュームを増やす工夫としてうまく働いているほか、ストーリーの核心に迫るという意味でも重要な役割を持っている。悪夢に囚われた少女の戦いを最後まで見届けたい人には、ぜひこのモードをやり込んでみてほしい。

6

個性が出るカスタマイズ要素

 本作には多くのカスタマイズアイテムが存在し、集めたソウルをマネーとして支払うことでいろいろなプレイスタイルを試すことができる。

7

 たとえば、右トリガーのウェポンは円状に散弾を放つ“サンフラワー”がデフォルトで設定されているが、メインショットと同じ方向に小さな弾丸を乱射する“シャワーヘッド”やレムの周囲にいる敵を自動で追尾して攻撃する“スキッピングロープ”などに切り替えられる。少女らしいかわいげのある名前に反してどのウェポンも尖った性能をしているので、ステージやボスに合わせた使い分けが肝心だ。

 もちろん、防御面もカスタマイズ可能となっている。レムの耐久力を増やすシンプルなアイテムから、レムの前後にバリアのように傘を設置して攻撃を防ぐアイテムが存在する。STGでは半ば様式美となっている一撃死に大きなストレスを感じていた俺としては、アイテムで守りを強化できるのはとくにありがたかった。

8

 それぞれのアイテムを組み合わせたシナジーを考えると、このカスタマイズはさらにおもしろくなってくる。

 仮に、前方に向かって散弾を放つウェポンである“トランペットガン”を最大限活用したいとしよう。トランペットガンを全弾当てるためには敵の間近まで迫らなければならないが、そうすると当然、攻撃を食らうリスクは上昇する。そこで、耐久力を増やすアイテムと、ダメージを負うとウェポンの使用回数を補充するアイテムも合わせて装備する。

9
防御を上げてトランペットガンで殴る。

 ……もうお分かりだろう。これらのアイテムを組み合わせると、耐久力にモノをいわせて敵の攻撃をあえて食らいながら、高火力のトランペットガンを至近距離で連射する凶悪なプレイスタイルが生み出されるのだ。さらに、集めたソウルで耐久力が回復するアイテムを加えることでさらなる高火力ゾンビスタイルへと進化し、もっとえげつないプレイが可能となる。『NeverAwake』では、敵の攻撃は避けるものだというSTGの常識さえ覆せるというわけだ。

 このカスタマイズ要素に難点があるとしたら、アイテムの組み合わせをプリセットとして保存しておく機能が存在しないことだ。とくに裏ステージではクリアー条件によって役に立つアイテムが大きく異なるため、つぎのステージに進むたびにアイテムをひとつひとつ付け替えるという手間がしばしば発生してしまう。このゲームの持ち味であるテンポのよさを保つためにも、今後のアップデートに期待したい。

やさしくないけれど、とてもやさしい

 『NeverAwake』には、STGが苦手な人や初心者を助けるために多くの工夫が凝らされている。悪夢という設定とは裏腹に、とてもやさしいゲームだ。

10

 たとえばオートエイム。右スティックを動かさなくても敵を勝手に狙い撃つこの機能を使えば、攻撃を避け続けるだけでも序盤はクリアーできるだろう。しかし、終盤のステージを効率よくクリアーするためにはオートエイムは心もとなく、プレイヤーは実際に自分の手で狙い撃つほうがいいことに気付く。つまり、オートエイム機能は単純な救済措置というより、むしろプレイヤーの成長を促すための補助輪としてうまく作用しているのだ。

11

 先程述べたカスタマイズ要素も、補助輪と難易度調整を兼ねた機能としてすばらしい。プレイスキルの不足を豊富なアイテムで埋めるというパズルゲーム的な楽しさを意識させることで、プレイヤーにそれが実質的に補助輪であるとは悟らせないからだ。また、ゲームオーバー回数に応じて新しいアイテムが解放されるという仕様も、プレイヤーにとってちょうどいい難易度を保つのに一役買っている。

 うまくアイテムを使えばかなり楽にステージをクリアーできるようになる一方で、その裏にはプレイヤーの試行錯誤と努力が存在する。『NeverAwake』ではこの構造が一貫されているのだ。

 どうしてもクリアーできない場合は、“オーバーソウル”を使うという手もある。オーバーソウルは、少量のソウルマネーを支払うことで強化状態でリトライできる機能だ。メインショットの火力やレムの耐久力、ウェポンの使用回数にいたるまで劇的に強化されるのでゲーム体験を損ないそうなものだが、ひとつのステージがゲーム全体に占める比重が軽いおかげか、カスタマイズの延長線のような感覚で気軽に使っていける。ゲームオーバーにならないと使えない縛りも踏まえると、オーバーソウルはこのゲームにおける真の奥の手とも言えるだろう。

12

 『NeverAwake』が従来のSTGに比べて難易度のハードルを大きく下げつつもプレイの歯応えを失っていないのは、ハードルを下げる前にプレイヤーの力量を十分に試しているからだ。そのため、プレイヤーは用意された補助輪に頼ることに無用な引け目や遠慮を感じなくて済む。

 アクションゲームとしての遊びやすさと、決してやさし過ぎない難易度、そしてあらゆるプレイヤーに最後まで寄り添うやさしさを兼ね備えた『NeverAwake』。STGに興味のあるプレイヤーなら、初心者から上級者にいたるまで、このゲームできっと素晴らしい悪夢が見られることだろう。

13

『NeverAwake』

  • プラットフォーム:Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、Xbox Series X|S、PC
  • 発売日:
    • PC版/2022年9月28日
    • Switch、PS5、PS4版/2023年1月19日
  • 発売元:Phoenixx
  • 開発元:ネオトロ
  • 価格:
    • PC版/1980円[税込]
    • Switch、PS5、PS4ダウンロード版/2480円[税込]
    • Switch、PS5、PS4パッケージ版(通常版)/4180円[税込]
    • Switch、PS4パッケージ版(Premium Edition)/7700円[税込]
  • ジャンル:シューティング
  • 対象年齢:CERO/15歳以上対象
  • 備考:プレイステーション5、Xbox Series X|S、PC版はダウンロード専売 Xbox Series X|S版は2023年夏配信予定
『NeverAwake』ニンテンドーeショップサイト 『NeverAwake』PlayStation Storeサイト 『NeverAwake』Steamサイト