アクションゲーム『星のカービィ』シリーズの30周年を飾るタイトルとして発売された、『星のカービィ ディスカバリー』 と『星のカービィ Wii デラックス』。その開発の裏側について、ハル研究所の熊崎信也氏エグゼクティブディレクターと神山達哉エキスパートディレクターが講演を行った。
講演が行われたのは、サンフランシスコで開催中のゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス(GDC)。大きな発表が集まる3日目朝の中でも注目の講演として非常にたくさんの人が集まり、なんと列が会場の長い廊下だけでは足りずに屋外部分にまではみ出すという大盛況だった。
原点を見つめ直したがゆえの「ほおばりヘンケイ」と、そのゲームデザインから導き出された世界観
まず『星のカービィ ディスカバリー』では、メイン系のタイトルで初の3Dアクションとしてのカービィを実現するための配慮と工夫が語られた。
開発は『星のカービィ スターアライズ』後から。どうやったらカービィとしてふさわしい3Dアクション化が可能なのか、3D要素のあるモードやシリーズ作の開発で得た蓄積を経てようやく至ったものだという。
開発時に掲げられたふたつのテーマは、シリーズの中の1本としての「カービィについてあらためて見つめ直すこと」、そしてゲーム単体としての「誰でも遊べる3Dアクションにすること」。
そして、カービィという存在を見つめ直す中で生まれてきたのが、ディスカバリーの新機能である“ほおばりヘンケイ”だ。
何でも飲み込み、ゴムマリのように伸び縮みして変形し、引っ張っても潰れても元に戻る、不思議な存在。そんなカービィの特性を活かした直感的なアクションを作ろう、というアイデアから出てきたのだという。
もっと直感的に、三角のものを吸い込んだら三角に、四角だったら四角に、吸い込んだものの形に変形したらどうだろうか? しかも抽象的な図形ではなく、より共感が得られるような、現実にあるようなものだったら?
そうして現実のものを飲み込んでその形状に変化し、その見た目通りの形状や能力を活かしてアクションする。こうして“ほおばりヘンケイ”のコンセプトが固まってきたのだという。
ゲームデザイン本位の世界設定
ディスカバリーのもうひとつの特徴といえば、いわゆるポストアポカリプス(※文明が衰退した後を描く世界観のこと)の廃墟風の舞台である“新世界”。
この世界観も、“ほおばりヘンケイ”のために現実のものがありそうな世界として決まったもの。ああいうビジュアルや世界観にしたかったから現代的なものを取り込む“ほおばりヘンケイ”になったのではなく、あくまでゲームデザイン本位なのがポイントだ。
「ほおばりヘンケイや新世界という舞台も、変幻自在なカービィを活かした新しい3Dアクションゲームを生み出すために考えられたものなんです」と熊崎氏は語る。
誰でも遊べる3Dアクションにするために
もうひとつの軸となるテーマである“誰でも遊べる3Dアクション”として、そんな新世界を誰でも自由自在に駆け回って欲しい。それを可能にするための工夫が神山氏から解説された。
カービィシリーズは初心者でも楽しく遊べるものでなくてはならないが、3Dアクション特有の課題がそこに立ちはだかってくる。
球体モチーフでどっちを向いているのか角度がつかめない!→丁寧なホーミングの設計で対処
たとえばカービィのデザインが抱える問題だ。球体モチーフであるため、背中側が手前に向いている時には実際どういう角度で立っているのか見極めにくい。
これが大きな問題になるのが、遠距離攻撃である吐き出しアクション。正確な角度をつかめないと、プレイヤーが狙っている方向と実際に吐き出される方向がズレて外れてしまう。カービィの仕組み上、そうなるとプレイヤーはもう一度攻撃を放つために吸い込む敵を探さなければいけなくなるので大きなストレスポイントになる。
こうして導入されたのが、ホーミングによる補正。カービィの向いている方向だけでなく、近距離にいる敵やボスなどの脅威度に応じて内部的に加点していってプレイヤーが狙っていそうなものを割り出し、そこにホーミングしてぶつけるのだ。
ホーミング自体はよくある解決法だが、ホーミングによる補正が強すぎると自分で狙って当てた感覚が薄れてしまうという問題がある。そこで「ちゃんと外れたりもするホーミング」にしているとか。
これは、たとえばカービィが地上にいて相手が空中にいる時には上下のホーミング範囲を抑え、あまり追いかけていくようなことはせず“ちゃんと外れる”ことでプレイヤーに納得感を与える。逆にカービィが空中にいる時には距離感をつかみにくいため、ホーミングを強くして補う……という仕組みだ。
さらにホーミングの仕組みを2段階式に工夫して、まず攻撃の1フレーム目に大きく補正をかけ、その後のホーミングの軌跡をゆるいものにすることで見た目上のホーミングのかかりぐあいを低減し、狙って当たった感覚を維持しているそう。
奥行き方向の距離感がつかみにくい!→見た目通りに当たるように当たり判定を補正
次の工夫は、“当たっているように見えている時は当てる”補正。3Dでは距離感がつかみにくく、画面上は攻撃がヒットするように見えても、実は奥行きの軸がずれていて攻撃が当たらないようなことがある。
そこで奥行き方向にのみ当たり判定を伸ばし、見た目上で当たっているようならば当たったことにして処理しているんだとか。これもまた、プレイヤーのやろうとしていることが正しいならば、それを尊重して快適にプレイしてもらうための仕組みだ。
キャラを操作しながらカメラも操作するのはややこしい→カメラ操作を排除してレベルデザイナーが指定する形に
お次はカメラ。フル3Dゲームではカメラ操作がつきもの。ツインスティックでキャラの操作とカメラ操作を同時に行うのが一般的だが、これもまた初心者にも快適に遊んでもらうという目的の実現には障害となる。
初心者は慣れるまでカメラの同時操作が難しいし、そうなるとアクションゲームとしての周囲の状況確認にも支障が出てしまう。そこでディスカバリーではカメラ操作を排除し、レベルデザイナー(ステージを設計する職)がカメラ演出を指定する形に。
注視して欲しいものがカメラ内に入るように指定していくことで2Dアクションでの蓄積を応用でき、さらに建物に入る際にカメラがシフトして潜っていくなど、スムーズなカメラ演出ができるいうアーティスティックな副次効果もある。
もうひとつ、指定カメラで解決しているのがホバリングが抱える問題。「ホバリングで自由に動けるとどこまでも行ってみたくなる」(神山氏)が、実際はその先に行けなかったりするとやっぱりストレスになってしまう。
これに対して、その先に行っても仕方がない所ではカメラが止まるように指定することで、それとなくそちらには行けなさそうなことを伝えられ、納得感を与えられるのだという。
この仕組みについては、カメラだけが当たる“壁”をステージ内に設置し(主に自動処理)、カメラの注視点から画面に映したい範囲に放射状にカメラの当たり判定を伸ばし、両者が当たると中心がずれる、という設計になっているそう。
「初心者から上級者まで、間口が広く奥深い」という理想の実現のための創意工夫
そして後半のパートでは、『星のカービィ Wii』とそのリメイクである『星のカービィ Wii デラックス』を例に、2Dカービィにおける創意工夫が解説された。
オリジナル版となる『星のカービィ Wii』は、試行錯誤を重ねながらなかなか据え置き機でのカービィとして完成しない難産の時期を乗り越えた、シリーズの歴史を振り返る上でも欠かせないタイトルだと振り返る熊崎氏。
ここでカービィシリーズの目標として示されたのが、「初心者から上級者まで、間口が広く奥深いゲーム」であるということ。その上でカービィはヒーローのように奮闘し、敵に打ち勝つ存在であって欲しいのだそう。
“プレイヤーが入力した通り”ではなく、“プレイヤーの思い通り”に
そしてプレイヤーがカービィとしてヒーローになるためには、気持ちよく操作できることが重要だと熊崎氏。だが「気持ち良い操作とはなんでしょうか? キーを入力した通りに動くことだけではありません」と続ける。
本質は“プレイヤーの思い通り”に動くこと、それこそが本当の気持ちよさなのだ。
ディスカバリーでの補正にも現れていたが、多少誤った入力になっていても「プレイヤーはこう操作したかったんだろう」と予測し、その思いに沿ったアクションを実行する。そういった工夫の例が示された。
たとえば、着地間際のジャンプ入力。ジャンプ中のジャンプ入力は通常ホバリング操作になるが、本当は着地からジャンプしたいのであればそうなった方が気持ちいい。なのでキー入力通りのホバリングではなく、再ジャンプに移行させる。
あるいは崖の端などからジャンプする際に入力が遅れてしまった場合は、端から飛びたいのだろうという意図を汲み、落ち始めている空中からのジャンプ入力にする……といった塩梅だ。
ダッシュジャンプ時の“リーゼント判定”
こういった思想は、ダッシュジャンプ時の攻撃判定などにも現れている。
距離を微妙に見誤ってダメージを食らうということが起こり得るシチュエーションだが、進行方向に攻撃判定を少し伸ばす“リーゼント判定”を作ることで、この問題を軽減しているとのこと。
「プレイヤーをヒーローにする」という目標のために影でそれとなく支えるような機能はこのほかにも多数あり、開発チームで改良され進化しながら脈々と受け継がれてきたと熊崎氏は語った。
グラフィック面での視認性向上
次に解説されたのがグラフィック面。『星のカービィ Wii』ではグラフィックが進化した分、視認性が落ちてしまうことに。それによってアクションがやりにくくなってしまっては本末転倒だ。
そこでアートスタイルとしてアウトライン(輪郭線)が導入され、キャラの視認性は向上。だが単に入れただけでは記号的な表現になってしまう。
輪郭線の描画には背面法を使っていたが、キャラの内側の重なり合いの部分のアウトラインにノイズのような見づらい部分が発生。これに対して深度値を使い、深度値の差の大きい輪郭線部分ではブレンドを行うことで奥行きの感じられる表現にしている。
また背景や地形も視認性を高めるため、プレイをしながら気になった部分をリアルタイムに調整できるツールを開発。ゲームデザイナーがプレイしながら見づらかったらその場でパーツを動かすといった調整を行っていたそうだ。
より間口を広げるための新モード開発
ここからは、デラックスでの新モード開発について触れられた。オリジナルの“いつでもイン”の考えを発展させ、いつでも複数人で楽しめるようなモードとして考えられたのが“わいわいマホロアランド”。
これは最大4人でいつでも遊べるモードなのだが、おまけの別モードではなく、メインの攻略をしている際でも移行できて、遊んだらまた戻ってこれるようなものを目指している。
こうして形はテーマパーク的なものとなり、遊んだら“お土産”をもらってまたステージ攻略に戻るというイメージになっている。
マホロアができるまでの経緯
ここで『星のカービィ Wii』に一旦戻り、マホロアができるまでの過程も振り返られた。焦点となったのは、歴史あるシリーズに新たなキャラクターを生み出すことについて。
カービィの世界に新たにキャラクターを追加する際に大事にしているのが、その世界の一員となるための“らしさ”を持たせること。このためキャラクターデザインも他キャラクターにも共通する基本的な要素などを取り込みつつ、個性を表現するよう設計されている。
よく話し、守ってあげたくなるが、どこか怪しさも存在する……。そんなキャラクター像を実現するためにフードを被せてミステリアスさを表現し、ピンチになると一部が取れるといった演出も実施。その上で、会話が多いために口元を隠して(口元をアニメーションせずに)大量のシーンを作りやすくするという制作的な工夫もなされている。
こうした試行錯誤はマホロアランドの設計の際にも活かされており、マホロアランドの外見はさまざまなミニゲームが一望できるものとなっている。
さて、もうひとつの新モードである“マホロアエピローグ”はクリアー後のプレイ要素で、これもまた“奥深さ”を担うもの。
魔力ポイントを集めて強化していくモードとなっており、「力を失ったマホロアが復活を目指す」という物語にリンクさせたものにすることで、単におまけではない冒険の動機と導入への納得感が高められている。
だが実はそれは副次的なもので、真の目的は本編と違ったプレイ体験により、さらに奥深さを出すことなのだという。
しかしここでも間口の広さは考慮されており、シリーズ経験者を念頭に置きつつも、システムの設計によりプレイヤーが強化によって難度をコントロールできるようにしているそう。
そのひとつがコンボシステムで、これ自体はコンボが繋がることでポイントが多く手に入るという仕組み。なのだが、コンボ用の当たり判定と通常の当たり判定を用意し、1発目がすでに当たった敵に対してはコンボ用の当たり判定(こちらのほうが広い)を適用することで、繋がりやすく設計されている。
このように2Dと3Dの違いはあっても、その裏側には“間口を広く奥深くする”という共通する信念が流れていることがわかる、非常に素晴らしい講演だった。