2023年2月9日、KONAMIより『パワフルプロ野球』シリーズ最新作となる『WBSC eBASEBALLパワフルプロ野球』がNintendo Switch、プレイステーション4向けに配信された。

 何より驚きなのはその値段。ダウンロード価格100円[税込]。

 100円だ。

 100円だよ? すごくない?

 インターネット経由での対人戦(チャンピオンシップ)を遊ぶには別途各プラットフォームのインターネットサービス使用料は必要なものの、ソフト購入自体は本当に100円ぽっきりなのだ。

 ネット対戦以外にも練習モードやローカルでの対人戦、CPU対戦モードも収録されていて、“対戦野球ゲーム”として成立している。それが100円なのだからまずは素直に驚きだ。

 その価格はどのように実現されたのか。狙いをKONAMIの『WBSC eBASEBALLパワフルプロ野球』担当者に訊く。

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――まずは本作の開発意図と、国際野球ソフトボール連盟(WBSC)と連携することになった経緯などを教えてください。

担当そもそものところをご説明するにあたり、ちょっと前のところからお話しますと、KONAMIでは2018年から“eBASEBALL プロリーグ”を開催したり、アジア競技大会でのデモンストレーション競技でのタイトル採用などeスポーツの発展に向けてチャレンジを続けています。

――『パワプロ』プロリーグは日本野球機構(NPB)との協業で、セ・パ12球団のチームごとにプロ選手を契約して行われていましたね。

担当そこで蓄積した経験も活かし「ゲームを通じて世界の野球・ソフトボールコミュニティの発展に貢献したい」という考えから、2021年にKONAMIとWBSCのパートナーシップを締結しました。

 その後、同年に国際オリンピック委員会(IOC)が初開催となる“オリンピック・バーチャルシリーズ”を開催。そのなかで野球競技では『eBASEBALLパワフルプロ野球2020』を使用し、多くの方に参加いただけました。

 本作もその延長線上にあるもので、KONAMIとWBSCが共通の目標をもった協業のもとで制作したというのがおおまかな流れになります。

――共通の目標と言いますと?

担当“eスポーツという新しい野球の楽しみかたを提供することで野球・ソフトボールファン拡大を目指す”ということですね。

――整理すると、2018年からKONAMIが『パワプロ』プロリーグをやっていて、WBSCもその実績を見ていたし、KONAMIとしてもその経験を活かしたいし、2021年にはIOCの“オリンピック・バーチャルシリーズ”もあって、その方向性でさらに発展させて行こうという考えのもと作られた、ということでしょうか。

担当そうですね。

――本作の100円[税込]という衝撃価格はどのように実現されたのでしょう? 税抜きだと91円ですよね。

担当やはりまずは「国内、海外問わず多くの人に楽しんでほしい」ということです。

 たとえばスポーツを始めようとするとバットやグローブなど道具が必要になりますが、eスポーツでも事情は似ているわけで、その参加コスト(ハードル)をソフトぶんだけでも下げたいという意図があります。

――本作は通信対戦ということでサーバー費用などランニングコストも掛かってくるかと思いますが、その点に関しては?

担当ご想像の通り諸経費等がかかっておりますので、この競技の場を長らく安定して提供できるよう、WBSCといっしょに新しい事業モデルを構築していきます。

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――本作のみでガッツリ収益化を目指すというよりは、本作によって世界的に野球の普及を目指して、そうなっていけばゆくゆくはKONAMIとしての利益にもつながる……というようなイメージでしょうか。

担当もちろんそのような考えもあると思いますが、KONAMIの野球タイトルを通して世界中のプレイヤーどうしが国境を越え、野球の楽しさやおもしろさを共有していただけることに意義があると考えています。

――本来フルプライスで販売している作品の(超)廉価版を出すことに抵抗などはなかったでしょうか?

担当そこはそれほどありませんでした。

 というのは、フルプライスで販売しているパワプロ(最新作でいうと『eBASEBALLパワフルプロ野球2022』)は、多彩なモードが搭載されて、多種多様な遊び方ができる作品です。

 ですが、本作はあくまでも野球の対戦に特化したタイトルとして海外市場に向けても多くの方々に提供したいという思いがありますから。

――ああ、なるほど。『パワプロ』をいつも売っている国内はともかく、海外に向けては“販売価格100円(0.99ドル)”というのはそれだけでひとつキャッチーな要素になりますよね。 2018年には似たような『実況パワフルプロ野球 チャンピオンシップ2018』が無料で配信されましたが、あちらと本作とはどのような点が異なるでしょうか。

担当『実況パワフルプロ野球 チャンピオンシップ2018』と本作は大きく異なる点がふたつあります。

 グローバルに配信するために本作では2ヵ国語(日本語・英語)に対応している点と、収録されている選手に能力に応じて0~15まで“コスト”が設定されていることです。

 本作の“チャンピオンシップ”モードで定期開催される大会では、ゲーム内選手の合計コストに制限があるため、『実況パワフルプロ野球 チャンピオンシップ2018』以上にユーザー間のチーム戦力が均衡すると考えています。

 また、合計コスト上限のレギュレーションは大会ごとに変わります。過去作でもコストをキャップする大会はありましたが、選手ごとのコストは0~3とレンジが狭くて、そういった大会も常設ではなかったですから、今回は大会ごとに最適なメンバーを選定してチームをアレンジする楽しさがより加わっているかなと。

――選手は実在の選手ではなくサクセスキャラクターのみになっていますよね。よりeスポーツ特化、対戦特化というところが狙いでしょうか。

担当そうですね。選手に設定するコストをコントロールするためにも12球団の実在選手は搭載せず、サクセスシリーズに登場する選手のみを多数収録しているのも特徴のひとつです。そういったさまざまな点で、オンライン対戦に特化した作品だった『実況パワフルプロ野球 チャンピオンシップ2018』の知見が活かされています。

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――大会1週目は約2.2万アカウント、2週目では約2万アカウントが参加していたかと思いますが、この数字は想定通りといったところでしょうか?

担当本作は英語テキスト搭載と価格の安さもあり、海外の『パワプロ』ファン(※)を含む数多くのユーザーにダウンロードしていただき、日本のみならずアメリカのデジタルストアでも連日ダウンロード数ランキング上位に入っています。

 ですが、総ダウンロード数に対しての大会参加者数をみると、やはり対人戦に対して「ハードルが高い」と感じているプレイヤーもいるのかなと思います。

※2007年に北米で『MLB Power Pros』(Wii、プレイステーション2)を発売。

――とくに初心者は何もできずに負けちゃったりするでしょうしね。

担当ですので、現在はそういった参加ハードルをどうすれば下げられるかを課題ととらえています。

 数字自体は当初想定より海外からの参加が非常に多くてうれしいですし、オリンピックeスポーツシリーズのような魅力的な大会を通じて現在の参加規模をじょじょに増やしていきたいと考えております。

――その“オリンピックeスポーツシリーズ”について、決まっていることなどありましたら教えてください。

担当先日詳細が公開されたIOC主催のオリンピックeスポーツシリーズ(OES)は本作で初の国際大会になります。

 本作はNintendo Switchとプレイステーション4で世界62ヵ国に向けて配信しているので、参加者の国・地域数という意味でも『パワプロ』史上最大規模の大会になると思います。

 決勝はシンガポールで開催されますが、日本人トッププレイヤーにとっては海外からの挑戦を受ける舞台とも言え、私たちも注目しています。

 また、アジア競技大会のようなeスポーツ大会と併設もしくはeスポーツを競技プログラムに入れるというマルチスポーツ大会の開催は、世界各地で行われてひとつの潮流になりつつあります。ですが、eスポーツ競技としての“野球”は海外でも前例をほとんど聞いたことがありません。

――となると、KONAMIと『パワプロ』が世界初!(たぶん)

担当はい(笑)。WBSCといっしょに歴史を作っていきたいと考えています。

――2023年2月27日~3月5日には、企業名を冠した初の大会“SSKカップ”が開かれました。こういった大会は今後も増えそうでしょうか?

担当『パワプロ』シリーズではこれまでも何度か企業や商品の名を冠した大会を実施したことがありますが、今回は野球用品で有名なエスエスケイ様にご協力いただきました。上位入賞者にはエスエスケイ製品“WBSC公式試合球”がプレゼントされます。

 ゲーム内の球場内看板にもSSKロゴが掲出され、毎週行っているオンライン大会とはまた違った気分でプレイいただけたかなと。SSKカップのような大会を通してプレイヤーの皆さまに楽しんでいただく一方で、企業にとってはゲーム内でブランド接点が生み出されることになりますので、今後もこういった大会を増やしていきたいと考えています。

――競艇や地方競馬のように、スポンサー料金を払えば個人・団体で大会名を買えたりするのでしょうか?(“ファミ通杯”も可能……?)

担当個人・団体の名を冠した大会も、実施ハードルはあると思いますが、チャレンジしていければと思います。今後もプレイヤーの皆様に楽しんで頂けるオンライン大会をお届けできればと思っています。ファミ通杯も、いつかぜひ。

――いいですね(笑)。ちなみに『パワプロアプリ』では多くのIPとコラボしていますが、本作ではそういった予定は?

担当現状は未定です。現在はコラボ方向を模索するというよりは、まず一度遊んでいただいたプレイヤーに何度も楽しんでいただけるよう継続的な大会開催などをWBSCと検討しているというような状態です。

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『WBSC eBASEBALLパワフルプロ野球』で勝てない……とお嘆きのあなたへ

――ここからはゲーム内容についてお聞きします。誰でも遊びやすい価格ではありますが、プレイヤーのレベルが高く、とくに初心者は「勝てない~~」となりがちな気も。勝つためにはまずどのようにすればいいでしょう?

担当“チャンピオンシップ”モードでは、前述の通りチームの合計コストに上限があり、投手コスト上限・野手コスト上限もあります。

 負けかたが“打撃が苦手で得点がなかなか取れない”という方は、打力の高い野手を多めに登録すると打ちやすくなるかもしれません。

 ロックオン設定可能な大会も頻繁に開催していますから、チャンピオンシップモードTOPにあるオプション設定からロックオンを事前に設定しておくと試合での打撃操作がアシストされて打ちやすくなると思いますのでぜひご確認ください。

 反対に、「対戦相手に打たれまくって大量失点してしまう」という方は、コストの高い投手(=対戦で強い投手)を多めに登録し、ストライクゾーンギリギリを狙ってボール球を振らせることを意識すると効果的です。

――打てないし、打たれる。そんな場合は?

担当本作には“練習”モードも搭載していますので、ご活用いただければと……。

――はい……。

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担当もうひとつ投球時で気をつけたいことは、ボール球を打たせることができればヒットにはなりにくく、アウトを取りやすくなります。

 たとえば「初球は必ずストライクから入って狙い打ちされていないか?」、「特定の球種やコースに偏っていないか?」などを意識すると効果があると思います。

――本当に現実の配球みたいなことを考えないと、すぐにすごく打たれますよね……(実感)。ピッチャーでは、オリジナル変化球である涼風希望の“ロゼルージュ”、木場嵐士の“爆速ストレート”が猛威を振るっている気がしますが、プレイヤー(バッター)が取れる対策などはあるでしょうか?

担当練習モードでは投手や球種・コースを自由に設定できますので、苦手な投手を設定して、実際の野球同様、練習に打ち込んでいただければと思います。

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――(練習しても打ててないんだよなじつは)。ネットゲームではよくある“弱体化”などの調整を行う予定は?

担当現時点で明確にお約束はできませんが、世界中の皆様の声があればバランス調整の目的で各選手に設定されているコストの見直しを考えることはあると思います。

――ああ、なるほど。変化球自体を変えるというよりコスト値の増減で調整する(かも)ということですね。ちなみに、本作はクロスプラットフォームの対戦でしょうか? PSとSwitchで表示される大会人数、現在対戦中人数は同一のものが出ているようですが。

担当数字は合算ですが対戦は各プラットフォームごと、という形です。

――それでは最後に、決まっている今後の予定がありましたら。また、『WBSC eBASEBALLパワフルプロ野球』を楽しんでいるプレイヤーにひと言お願いします!

担当今後も皆様にお楽しみいただけるような大会や企画をお届けしたいと思います! 皆様、『WBSC eBASEBALLパワフルプロ野球』をよろしくお願いします! というわけで、皆さん……“やきゅうしようよ!”