ソニー・インタラクティブ エンタテインメントより2023年2月22日に発売が予定されているプレイステーション VR2(以下、PS VR2)。そのローンチに合わせて、『グランツーリスモ7』が無償アップデートによりPS VR2に対応する。

 今回、編集部が特別に、発売に先駆けて事前プレイの機会をいただいた。本記事では、そのプレイをもとにしたレビューと、“グランツーリスモ”シリーズの生みの親である山内一典氏へのインタビューをお届けする。

※記事内で掲載している画像はプレイステーション VR2で撮影されたものです。

『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー
PlayStation VR2(Amazon.co.jp) PlayStation VR2 "Horizon Call of the Mountain" 同梱版(Amazon.co.jp)

PS VR2版『グランツーリスモ7』国内最速レビュー

 “グランツーリスモ”シリーズにおいて、VR対応の作品は『グランツーリスモSPORT』に続いて2作品目となる。同作では制約もあり、限定されたVR体験となっていたものだが、なんと『グランツーリスモ7』のVR版では、無償アップデート配信時点でPS5版『グランツーリスモ7』に実装済みとなっているすべてのモードやレース(オンライン対戦含む)、車種が、PS VR2に対応するとのこと。また、VR専用の“VRショールーム”も追加され、さらに楽しみが広がるというのだからすごい(ただし、オフラインでの2P対戦(画面分割になる対戦)のみ、VRには非対応となる。これは1台のPS5にはPS VR2を1台しか接続できないため、しかたのないところだ)。

 そんな太っ腹仕様なPS VR2版『グランツーリスモ7』だが、実際に体験してみて、PS VR+『グランツーリスモSPORT』での体験と比較して最初に感じた大きな差は“解像度の大幅な向上”だ。これはソフトというよりも、PS VR2やプレイステーション5というハード自体の性能によるもの(PS VR2はPS VRの4倍もの解像度を持つ)だが、あまりに劇的に変わっていたので、ヘッドマウントディスプレイを装着して焦点を合わせた瞬間に、思わず声が出たほど。

 そしてさっそくプレイを開始。まずは新機能である“VRショールーム”を体験する。こちらは、メニューの“ガレージ”に新設されるもので、さまざまなロケーションを背景に、愛車を鑑賞できるモードとなっている。ロケーションはサーキットのガレージのようなものから、日本庭園に臨む和室の中、森の中の瀟洒なカフェなど、じつに多彩。

『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー

 鑑賞時のカメラの位置は、水平方向にも垂直方向にも自由に変更が可能で、クルマによっては、タイヤのシャフトやエンジンのシリンダーといった細かいパーツまで覗き込むことができる。

 さらに、コックピットに乗り込んだ視点にも切り替えられるのだが、本作では外装だけではなく、内装や計器類までも細かく作り込まれており、そんな車内を眺めていると、あたかも本当に試乗したかのような感動を覚えてしまった。なお、450以上の車種ひとつひとつ、きちんと作り込まれているとのこと。

 ちなみに、メニュー操作はDualSenseで行っているのだが、PS VR2では“シースルービュー”という機能があり、ヘッドマウントディスプレイについているボタンを押すと、自分の視線と同じカメラによってヘッドマウントディスプレイを外すことなく周囲が見られるようになっている。もしコントローラーから手を離してしまっていたとしても、これを使えばすぐに見つけられるのでとても便利だ。

 あまりにリアル過ぎて興奮し、文字通り舐め回すようにクルマの鑑賞に励んだ結果、30分の試遊時間の約半分をクルマ鑑賞に割いてしまった記者であるが、「そろそろ走行のほうも……」とうながされ、ようやく実際にコースを走行してみることに。まずは都心を走る高速道路風のコースである“東京エクスプレスウェイ”を、オープンカー(マツダのロードスター)で走行した。

 すると、通常版(非VR版)と同じDualSenseでの操作なのに、VRになるだけで感覚がまるで違う。とくに奥行きの距離感がより掴みやすくなっていて、「そろそろブレーキをかけないと曲がれないな」とか、「右コーナーのあと、すぐに左コーナーが来るからアクセルは踏まないようにしよう」など、リアルに運転しているかのように感覚が研ぎ澄まされるのだ。

『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー

 とくに強く印象に残ったのが、高低差の表現。上り坂を走っていると、上りきった先のコーナーが見えなくなっていたりして、なかなかコワい。また、路面に合わせてカメラの角度も変わるのか、まっすぐな姿勢で座っていたはずなのに、体が後ろに傾くような感覚を味わえた。下り坂ではその反対。思わず安全運転をしてしまう。

 ふつうに走っていたら気にならないのだろうが、周囲の風景もえらく作り込まれていてついつい視線を向けてしまう。VR版『グランツーリスモ7』では“視線トラッキング”の機能を活用しており、プレイヤーの視線の先にあるものを高解像度で描いてくれる“フォビエートレンダリング”という技術が採用されている。

 そのため、通常走行時にはぼんやりと見えていた景色が、視線を向けるととてもハッキリと見えるようになる。すると、細かく描き込まれた看板があったり、工事現場の人が作業している姿が見えたりと、場所によってさまざまな“遊び”が確認できるのだ。クルマの造型だけではなく、背景もとことん細かく作り込む。それが“グランツーリスモ”なのだ。

『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー
『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー
『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー
『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー

 背景やコースレイアウトの作り込みに関しては、森林、山岳コースでも同様である。たとえばディープフォレスト・レールウェイでは、切り立った崖でしぶきを上げて水が流れる光景が観られたりするし、時間や天気によってもコースの様相が大きく変わってくるので、とにかく飽きない。むしろ、つい気を取られてウォールに激突してしまったりも……。

 クラッシュしても頭に衝撃が来ることはないが、特殊な視覚効果が発生して「あぁ、事故った……!」と思わせる瞬間的な“酔い”が起こった(※こちらは調整中らしい)。背景を見たいときは、よそ見しても大丈夫なくらいゆっくり運転することをオススメする。

『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー
『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー

 またサーキットでの走行では、よりテクニカルな要素が楽しめた。先述したように、高低差の表現によってかなり走行感覚が変わっているので、ラグナ・セカのコークスクリューやスパのオー・ルージュからのラディオン、鈴鹿の130Rなど、これまで何度も走ってきて、どう切り抜ければいいのかわかっているコースでも、ついスロットルを緩めたりステアリングを切りすぎたりしてしまう。

 ちなみに、レーシングカーで走行中に手元に視線を落とすと、テレビ中継のオンボード映像でおなじみの計器類やシフトチェンジの動作が見られる。記者は「これ、テレビそのものじゃん!」と、またしても大興奮し、鈴鹿のデグナーで曲がりきれずに吹っ飛んでいってしまった……。

 なお、グラベル(砂地)などで走行するとタイヤに砂がついて白くなる。その状態で舗装路で走行すると、徐々に砂が取れてもとの黒い色に戻るのだが、そんな細かい変化もグラフィックに反映されているのだ。ついついよそ見してしまうのも、やむなしである。

『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー

 まずはグラフィックの美しさ、ディテールの細かさに驚かされ、次にコースの背景や各車種の造型に興奮し、さらに大きく変わった走行感覚に、ドライバーとしてのモチベーションをかき立てられた。既存の作品のアップグレードなのに、加わった要素のいずれもがこれまでにないもので、気持ちが昂ぶりっぱなしだった。PS VR2は決して安い買い物ではないが、新しい『グランツーリスモ7』がもたらしたのはまさに新時代のゲームの姿。この興奮を、多くの人々とわかち合いたいものである。

『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー
『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー
『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー

山内 一典氏インタビュー

 続いては、“グランツーリスモ”シリーズの生みの親である山内一典氏へのインタビューをお届けする。今回のPS VR2への対応における技術的な説明や、PS VR2プレイ時の見どころなどを語っていただいた。開発中には、想定外の効果もあったようで……。

山内一典氏(やまうちかずのり)

“グランツーリスモ”シリーズ クリエイター。ポリフォニー・デジタル 代表取締役 プレジデント。ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)在籍時に“グランツーリスモ”をプロデュースする。その後、独立してポリフォニー・デジタルを設立し、現在に至る。2001年からは、日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員も務めている。

『グランツーリスモ7』PS VR2版・山内一典氏インタビュー

――『グランツーリスモ7』をPS VR2に対応させていく中で、苦労した点はありましたか?

山内PS VR2への対応については、じつは『グランツーリスモ7』の開発を始めるときから視野に入れていたものでした。つまり、もともとVRへの対応を前提にして制作していたというわけです。

 これはあくまで僕の想像ではありますが、多くのタイトルが、後付けでVRの対応を行っていると思われます。しかし、僕らも『グランツーリスモSPORT』で苦労しましたが、既存のタイトルを後からVRに対応させるのはとてもたいへんなことなのです。

 そこで、『グランツーリスモ7』はあらかじめ“VRネイティブ”として制作しました。これは、4K60p(※)でゲームを動かすこととほぼ同義だと考えてください。その画質、速度で画を動かすためには、データを相当軽く作っておかなければいけません。

 ですから、開発でもっとも苦労した点と言えば、画を動かす際の負荷を上げずに画質をキープすること、ということになるでしょうか。ただ、そのおかげでPS VR2への対応もスムーズに進められました。

※解像度が4K(3840×2160ピクセル)相当で、映像出力の走査方式がプログレッシブ方式かつフレームレートが秒間60コマというもの。ざっくりまとめると“超高画質”で“超滑らか”な描画、である。

――『グランツーリスモ7』はPS VR2の専用コントローラーであるPS VR2 Senseコントローラーには非対応となっていますが、その理由は?

山内クルマの運転の仕方を想像していただければ、僕らがあえて対応させなかった理由がわかるかもしれません。基本的にクルマは、シートに座ってアクセル、ブレーキとステアリング、あとはシフトレバーくらいのものだけで運転ができるものです。ですから、もともとDualSenseの持っている性能だけで十分だったと判断しました。

 また、PS VR2においてもステアリングコントローラーには対応しています。“グランツーリスモ”ユーザーはステアリングコントローラーを使って本機でプレイされる方がけっこう多いんですね。

 VRとステアリングコントローラーの親和性は非常に高く、まさにリアルにクルマを運転しているような感覚を味わえるようになります。これらのデバイスで十分に楽しむことができるため、“DualSense”と“DualSense+ハンドルコントローラー”の対応としました。PS VR2 Senseコントローラーに対応させる必要はなかったというわけです。

――『グランツーリスモSPORT』でも初代のPS VRに対応をしていましたが、当時できなかったことで、今回実現が可能になったものがあれば教えてください。

山内PS VRの初代機は解像度が低かったので、きちんとレンダリングしても、解像度に起因する酔いや、遠方が不明瞭になる不自然さといった問題が解決できませんでした。

 それが今回、ヘッドマウントディスプレイのパネルの解像度や、PS5のパワーによって描画能力が上がったことで、解決できるようになりました。通常時で60fps出力できるだけでなく、パンやティルト(※1)に関しても、リプロジェクション(※2)で120fpsで描画できるようになり、画質が大幅に向上したのです。

 あとは、とにかく酔わなくなりましたね。連続して30分とか1時間も運転することは、以前では到底考えられなかったのですが、PS VR2と『GT7』の組み合わせならそういったプレイも可能になっています。

※1 パンはカメラの向きを左右(水平方向)に振ること、ティルトは上下(垂直方向)に振ること。
※2 VRコンテンツ側のフレームレートが低下したときに、前のフレームの映像を、その時点でのヘッドマウントディスプレイの向きや位置に、つじつまが合うように加工して応急処置的に表示する仕組みのこと。ここでのフレームレートが高いと残像が出にくい。

――PS VR2版を初めてプレイされる方へ、まずはどういったところに注目してプレイしてもらいたいと考えていらっしゃいますか?

山内まず、レースゲームはVRと親和性が高いと思っています。自分が座った状態で、自分の操作によってクルマが動く。クルマの動きはおもに前後方向で、左右方向の動きは制約されています。

 たとえば、静止状態から真横に動くなんてことはできませんよね。基本的には前に進むものだと考えていいでしょう。ステアリングを切ったときに、クルマはゆっくり回頭していきますよね。それは自分の意志でそうなっている。レースゲームでは、そういった要素が組み合わさって、酔いにくいジャンルになっていると言えます。

 VRというと、すぐ酔ってしまうという悪いイメージを持たれがちではあるのですが、PS VR2と『GT7』の組み合わせでは、そういった悪い点がかなりすくなくなっている、と考えています。

 また、僕らは“グランツーリスモ”の歴代作品を通じて、世界中の美しい景観やリアルのサーキットを表現してきましたが、どんなに作り込んだとしても、テレビモニターを介して表現することには、どうしても限界があったんです。それが今回、PS VR2を通じてニュルブルクリンクや筑波サーキット、そのほかさまざまなコースを走行することで、本物の景色をまさに“体験”できるようになりました。僕自身、現状で得られる最高のVR体験が実現できたと考えています。

――その中で、とくに注目してほしいコースや背景があれば教えてください。

山内いくつかありますが、まずは東京エクスプレスウェイのような、周囲を立体的な構造物で囲まれているコースですね。VRならではの楽しみかたとしては、オープンカーで周囲を見渡しながらゆっくり流す(走る)とおもしろいですよ。

 あとは、ニュルブルクリンクのようなアップダウンの激しいコース。“壁”のように感じる上り坂や、崖から落ちていくような感覚に陥るような下り坂など、これまでは画角の関係もあって表現しづらかったのですが、VRによって自然な距離感で認知できるようになりました。

 また、僕らも実際に制作する中で気付いたことなのですが、ブレーキングポイントを探すのも、とてもラクになりました。VRで表現される距離感だと、リアルと同じ感覚でコースを認識できるんです。これは僕らにとっても大きな発見でした。

――VR版を制作した狙いや効果は?

山内VRを使うことで、ようやく本来の、完全なレースゲームになった気がしています。たとえば並走してのバトルをしているときに、横を見ればライバルのクルマが見られたり、コックピットを見渡せばスイッチや計器があったり……。本来のレースゲームがしなければならなかったことが、ついに実現できたな、と思いました。

――各車種のモデルを作成する際に、VRで遊ぶことをどれほど想定していましたか?

山内“グランツーリスモ”シリーズでは毎回、使用可能なレンダリングリソースの多くをクルマの表現に注ぎ込んできました。現行のPS5世代でも遥かにオーバースペックなディテールで作り込んでいます。PS5よりも未来のハードウェアにも最適な作りにしたつもりです。

 今回、“VRショールーム”で各車種のかなり細かいところまで覗き込むことができるようになっていますが、間近での鑑賞にも堪えうるものにあらかじめ作り込んであったので、こういったモードが活きる結果となりました。

――そのほか、今回のアップデートを機にユーザーに気付いてほしいポイントはありますか?

山内“VRショールーム”でしか見られない、個々のクルマの作り込みのすごさは、“グランツーリスモ”にしかないものですので、ぜひ確認していただきたいですね。

 もうひとつ、レース体験、走行体験そのものが根本的に変化して、クルマに乗っている感覚そのものになっているので、レースゲームがようやく次のステージに行ったということを体験してほしいと考えています。

――ゲームの開発に入る前、PS VR2の仕様が届いたときに、スペックについてどう感じましたか?

山内じつはPS VR2の仕様を決める段階から、ハードウェアの担当者と話はしていました。おおむね、現在求められるスペックはすべて満たしていると感じています。

――最後に、ユーザーの皆さんへコメントをお願いします。

山内レースゲームとしての新しい時代が始まったと思います。走行体験、運転体験そのものが本物と同じものができるようになったというのは大きな進歩と言えます。

 また、VR=酔うというイメージもあるかもしれませんが、きちんと作れば酔わないというのも、伝えたいことのひとつです。「いまVRはこういうことができるんだ」ということを、実際に『グランツーリスモ7』をプレイして、体感していただければと思います。

『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー
『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー
『グランツーリスモ7』PS VR2版試遊レビュー