国民的アニメ『ルパン三世』と、1980年代に一世を風靡したアニメ『キャッツ・アイ』がコラボした映画作品『ルパン三世VSキャッツ・アイ』が2023年1月27日からPrime Videoで世界独占配信される。
物語の時代背景は『キャッツ・アイ』連載当時と同じく1981年。昼は喫茶店を営み、夜は“怪盗キャッツアイ”として世間を騒がす泪、瞳、愛の美人3姉妹が美術館から1枚の絵画を盗み出した。
そして同夜、東京に姿を現した世界を股に掛ける大泥棒、ルパン三世の一味も武装組織を出し抜き絵画を盗み出す。
両者が盗んだ絵画は、どちらもミケール・ハインツの描いた三連作『花束と少女』の1枚。同じ“獲物”を巡り、キャッツアイとルパン一味の“怪盗×泥棒”の戦いが描かれることになる作品だ。
そんな、昭和世代にはたまらない注目の作品公開を前にして、本稿では『キャッツ・アイ』の原作者である北条司先生にインタビューを実施! 本作の見どころや舞台裏、さらに『キャッツ・アイ』連載当時の裏話など、さまざまな内容を北条先生に語っていただいた。
北条司 氏(ほうじょう つかさ)
1981年に週刊少年ジャンプに『キャッツ・アイ』を掲載し、連載デビュー。瞬く間に人気を博し、アニメ化される。その後、同誌で『シティーハンター』を連載し、そちらも大ヒットした。2000年には創業メンバーとしてコアミックスを設立し、『エンジェル・ハート』、『エンジェル・ハート 2ndシーズン』を2017年まで連載。(文中は北条)
アニメ『ルパン三世VSキャッツ・アイ』配信ページ(Amazon Prime Video)
北条先生のルーツはアニメにあり!
――今回の『ルパン三世VSキャッツ・アイ』に関して、かなりしっかりと監修をされたのでしょうか?
北条個人的に今回は“『ルパン三世』の作品に『キャッツ・アイ』のメンバーが出させてもらうという”感覚なので、そんなに口をはさまないようにしていました。
――なるほど。ちなみにマンガの『ルパン三世』が北条先生に与えた影響というものはありますか?
北条それはもちろんありますよ。いちばん大きな影響としては、それぞれの強烈なキャラクター性ですね。青年誌で連載されていたからという部分も大きいのでしょうけれど、メインキャラクターがおじさん3人なのにそれぞれ個性が際立っている。にも関わらず、チームとしてまとまっているのがすごいんです。ひとり欠けても物足りないですから。
――確かにそうですね。北条先生も『ルパン三世』のように、得意なことを各キャラクターに切り分けて設定する……なんてこともされるのでしょうか?
北条いちおうやりますけど、そんなに堅苦しく考えたりはしないですね(笑)。
――『ルパン三世』以外で、北条先生に影響を与えたマンガ作品というのはどんなものになるのでしょうか?
北条最初に好きになったのは、アニメの『鉄人28号』や『オバケのQ太郎』、『トムとジェリー』だった気がしますね。その後に藤子不二雄さんや川崎のぼるさん、ちばてつやさんの作品に夢中になりました。
ほかには、ながやす巧さん、松本零士さん、星野之宣さん、横山光輝さん。で、大友克洋さんもすこしかじって……プロデビューという感じです。改めて振り返ると、手塚治虫さんはあまり影響を受けてないかもしれませんね。『ブラック・ジャック』は読みましたけど。
――とても興味深いです! ラインナップを伺っていると、アニメ作品になったものが多い気がしたのですが、その理由は?
北条僕が小さいころ、家にはマンガ雑誌がなかったんですよ。だから、必然的に……当時はテレビマンガと言われていたアニメ作品を観るしかなかったんです。
逆に言えば、テレビで放送されていたアニメ作品はほぼほぼすべて観ていたと言っても過言ではないくらいです。女の子向けの『ひみつのアッコちゃん』や『魔法使いサリー』までしっかり押さえていましたからね。
――なるほど! となると、当然『ルパン三世』も入ってきますよね。
北条そうなんですよ。
自分の作品をほかのクリエイターが描く際はとにかく自由にやってほしい
――そんな『ルパン三世』側から、『ルパン三世VSキャッツ・アイ』のお話が来たとき、北条先生はどのような感想を持たれましたか?
北条正直、「畏れ多い!」という感じでしたね。「『ルパン三世』のような現役感バリバリの作品に、1980年代にちょっとヒットしただけの『キャッツ・アイ』が出て大丈夫ですか!? ちょっとだけ出演じゃないんですよ? 興行的に成り立ちますか?」みたいな(笑)。
――いやいや、『キャッツ・アイ』もすごいですから(笑)。ひと足先に拝見させていただいたのですが、『キャッツ・アイ』の面々は大活躍していました。すこし気になるのですが、北条先生はご自身の作品世界やキャラクターを活かして、ほかのクリエイターさんが異なる作品にすることについてはどう思われますか?
北条肯定派ですし、どちらかと言えば自由にやってほしいと思っています。とはいえ、いろいろな都合で出版社側から制限をかけることもあるのですが、個人的には「そんなに堅苦しく言わなくてもいいんじゃないの?」って(笑)。
――では、北条先生が「ここだけは守ってほしい」と思っている部分はありますか?
北条それもないんですよねぇ。だって、僕がおもしろがって考えた企画で「『シティーハンター』の男女逆転とかいいでしょ! 冴羽獠が女なんだけど女好きで、野上冴子は男でさ!」なんて言っているくらいですから。誰も相手にしてくれなかったけれど(笑)。
――あはははは(笑)。とてもおもしろそうですけどねえ。
北条僕が描いたものから変われば変わるほど楽しめるんですよね。逆に、自分の作品の世界観と近い形で作られると、すこし変えられたときに抵抗感が出てしまう。なので、どんどんハジけてもらったほうが僕としてはうれしいです。
――なるほど、そういうものなんですね。
北条例えば「実写化するのでオープニング用に描き下ろしの絵が欲しい」なんて言われるのはちょっと違うんじゃないかな、と思っちゃったりするんです。ご自身の作られた作品にもっとプライドを持っていただきたいというか。あくまでも“マンガを題材にした独自の作品”を目指してほしいんですよね。
――たとえばそれがアニメ作品だった場合、絵のタッチやキャラクターの雰囲気が先生の描くものと違っていても、それは構わない?
北条ええ。変われば変わるほど楽しいと思います。
――『ルパン三世VSキャッツ・アイ』の絵柄に関してはいかがでしたか?
北条いいと思います。ただ、もうちょっと『ルパン三世』に寄せてもらってもよかったかもしれないですね。
もともと「絵柄は『ルパン三世』の世界に溶け込むような形にしてほしい」というお願いはしていたんですが、『ルパン三世』側が『キャッツ・アイ』に寄ってしまった気もしていて。個人的には、「ファンは嫌がるかもしれないけれど、認知度の低い『キャッツ・アイ』が寄せるのは当然だろう!」みたいな感覚なので(笑)。
――『キャッツ・アイ』の認知度が低いなんて言われると世の中たいへんなことになってしまうので、そんなに謙遜しないでください(笑)。
北条ところで、『ルパン三世VSキャッツ・アイ』を観た感想としてはどうです? 違和感はありました?
――まさかの逆インタビュー! いえ、違和感はなかったですね。個人的には、キャッツの面々はもちろんですが、内海俊夫と銭形警部のタッグがアツかったです。
北条ああ、そこは観た後に制作側とも話していたのですが、俊夫と銭形の表情の演技がすこし大人しかった気がしたので「もっと崩したり、激しくしてもよかったかもね」なんていう話はしました。
北条先生が語る『キャッツ・アイ』連載当初のエピソード
――先ほどの絵柄以外で、北条先生から制作側にオーダーしたことはありましたか?
北条先方も同じことを思っていたようですが、「ルパンと絡むのは愛がいいのでは?」ということは伝えましたね。泪だとすこし生々しくなるし……ちょっと不二子とカブる危険性がありましたので。
――ああ(笑)。
北条瞳だと俊夫との関係がややこしくなって本筋からブレそうな気もするので、お互い本音が出せそうなキャラクターとしてルパンと愛の組み合わせがいいのかなと思いました。
――確かにそうですね。あとは、劇中に愛が作ったガジェットなども出てきてワクワクしました。
北条本家の『キャッツ・アイ』にはあまりないワクワク感ですよね。そもそもラブコメなのでアレですけれど。
――『キャッツ・アイ』連載当時はずっと「ラブコメを描いている」という感覚だったのでしょうか?
北条そうですね。あとからクラナッフ・シンジケートなんかが出てきたので訳がわからなくなってしまいましたが(笑)、『キャッツ・アイ』はずっとラブコメとして描いていました。
――そうなんですね。ちなみに『シティーハンター』でも獠と香の関係性が描かれますが、そちらもラブコメを意識している部分があったのですか?
北条当初、『シティーハンター』のほうはラブコメにしようとは考えていなかったですね。香は単純に助手として描いていました。香の兄の槇村が出てきたことで、ちょっと雰囲気が変わっていったところはありますけれど。連載開始の1ヵ月前に突然出てきたキャラクターなので……。
――では、それに合わせてネームを調整したり……?
北条調整どころか3話ぶんのネームが書き直しでした。 当時担当編集者だった堀江さん(信彦氏。週刊少年ジャンプ5代目編集長で現コアミックス代表取締役)の突然のアイデアで!(笑)。まあ、なんとか間に合わせましたけど。
――おお! 北条先生と言えば、締切を絶対に守る作家さんというお話もよく伺うのですが、それは筆が速いからなのでしょうか?
北条いや、本当に「なんとしても間に合わせるタイプ」ですね……たとえ作品のクオリティーを犠牲にしたとしても!(笑)。
――読み手からすると、クオリティーが落ちているなんてまったく思えなかったですけれど(笑)。
北条そうですかねえ。
いまは新作を描くための模索期間
――今回の『ルパン三世』とのコラボを機に、ほかにもこういった企画が持ち上がる可能性があると思うのですが、北条先生がご自身の作品とコラボしたい作品などがあったら教えていただけますか。
北条とくにコレという作品はないのですが、おもしろそうなコラボであれば食いつくと思います。ただ、ちょっと矛盾するかもしれませんが、『キャッツ・アイ』と『シティーハンター』がコラボするというような、自分の作品どうしでコラボするような企画はちょっと抵抗がありますね。あくまでも違う世界どうしのコラボだからこそ楽しいと思うので。
――ということは、2019年公開の映画『劇場版シティーハンター 新宿プライベート・アイズ』のコラボはかなり例外だったということですか?
北条個人的には例外中の例外ですね。ただ、一度許してしまうとなし崩し的にアリになってしまいがちなので、これから先はわかりませんけどね(笑)。
――期待しています。最後に伺いたいのですが、先生は連載を終えてそれなりに時間が経過しました。新たな連載作品を始めたりするような予定はありますか? 監修作業がお忙しいのでしょうか?
北条最近は監修作業がメインですね。ちょっとしたイラストを描いているくらいで。
――ファンの皆さんは連載を期待していると思うのですが、「こういうものを描きたい!」という熱い想いがあったりは……?
北条どうですかねえ……このまましぼんでいくんじゃないかな(笑)。
――ええ!?
北条それは冗談としても、目がかなり悪くなってしまって、細かい絵が描けなくなったんですよね。もともと目は悪かったんですけれど、『エンジェル・ハート』の途中からひどくなってしまって。なんとか自分らしく、それでいてそこまで細かくないマンガらしい絵で作品を描けないものかと模索しているところです。
――いちファンとしては北条先生にご無理のない形で、その答えが見つかることを祈っております!
作品情報
キャスト
- ルパン三世:栗田貫一
- 次元大介:大塚明夫
- 石川五ェ門:浪川大輔
- 峰不二子:沢城みゆき
- 銭形警部:山寺宏一
- 来生瞳:戸田恵子
- 来生泪:深見梨加
- 来生愛:坂本千夏
- 内海俊夫:安原義人
- 永石:麦人
- 銀河万丈
- 東地宏樹
- 菅生隆之
スタッフ
- 原作:モンキー・パンチ『ルパン三世』/北条司『キャッツ・アイ』
- 監督:静野孔文 瀬下寛之
- 脚本:葛原秀治
- 副監督:井手惠介
- キャラクターデザイン:中田春彌 山中純子
- プロダクションデザイン:田中直哉 フェルディナンド・パトゥリ
- アートディレクター:片塰満則
- 編集:肥田文
- 音響監督:清水洋史
- 音楽:大野雄二/大谷和夫/fox capture plan
- アニメーション制作:トムス・エンタテインメント
- アニメーション制作協力:萌
- 製作:ルパン三世VSキャッツ・アイ製作委員会