2022年11月9日に発売された、ソニー・インタラクティブエンタテインメントの『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』。世界中で大ヒットを記録した人気アクションゲームのシリーズ最新作で、クレイトスとアトレウスの親子が、世界に終焉をもたらすとされる“ラグナロク”に立ち向かう。
2022年にリリースされた、優れたゲームに贈られる “The Game Awards 2022”に、10部門でノミネートされるなど、発売後も話題沸騰の本作。進化したアクションはもちろん、クレイトスとアトレウスの親子の絆を描いたストーリーも人気を博している。
そこで本記事では、前作からクレイトスを演じる声優の三宅健太氏にインタビューを実施。どのような気持ちで収録に臨んだのか、演技をするうえで意識していることなどを訊いた。なお、ストーリーの重大なネタバレが含まれているので、気になる方はメインストーリーをクリアーしてから読み進めてほしい。
三宅健太氏(みやけ けんた)
8月23日生まれ。沖縄県出身。クレイトスのように渋いキャラクターから、コミカルな役まで幅広く演じる。おもな出演作は『僕のヒーローアカデミア』シリーズ(オールマイト役)、『オーバーロード』シリーズ(コキュートス役)、『アベンジャーズ』シリーズ(マイティ・ソー役)など。
ゲームの収録中は現場でも家でも『ゴッド・オブ・ウォー』状態!?
――三宅さんは前作『ゴッド・オブ・ウォー』からクレイトスを演じられています。前作のラストの展開から、続編があることは予想されていましたが、本作でもクレイトスを演じることは以前から決まっていたのですか?
三宅いいえ、前作の収録の時点では、本作の具体的なことは何も知りませんでした。ただ、前作をプレイされた方はわかると思いますが、トールが家に現れたシーンで終わっていましたよね。だから、「フェイの遺言を果たしただけでは親子の旅は終わらないぞ。もうひと波乱、大きな旅があるんだろうな」と思っていたので、お話をいただいたときは「ついにきたか!」という感じでした。
そういう意味では、前作の収録から時間が空いていても、クレイトスの役にすんなり入っていくことができました。ひと声出したら、自分の中からクレイトスが自然と湧いて出てきたと言いますか、再びあの地に戻れた、戻ってきたなという感覚でした。それにクレイトスというキャラクターは個性が強すぎて、簡単に忘れることはできませんからね(笑)。
――確かに(笑)。ちなみにクレイトスは、三宅さんにとって演じやすいキャラクターなのでしょうか。かなり寡黙なキャラクターなので、素人目に見ると演じにくそうですが……。
三宅クレイトスは、“演じにくい”というよりも、“難しい”キャラクターですね。『ゴッド・オブ・ウォー』自体、長い歴史のある作品ですし、ましてや彼は神に復讐するところから物語が始まっているので、人間である僕の想像を超えた思考を持ったキャラクターですから。
さらに、自分が担当させていただいた前作からは、息子のアトレウスが登場しています。クレイトスは戦いの神であると同時に、新米の父親でもあるのですが、その両立というか、心の置きどころを考えるのも難しかったですね。声色に関してはそこまで難しさを感じていませんが、葛藤し続けていることもあって、内面がとにかく複雑なんですよ。
――シーンごとに、クレイトスの心の置きどころを考えて演じていたわけですね。
三宅とくに前作のクレイトスは、息子のアトレウスに対する向き合いかたがわからない、ゼロからの状態で物語が始まっています。僕自身、クレイトスを初めて演じる戸惑いもあったので、悩みながらも、戸惑いや不安をシンクロさせて素直に演じたところはありました。
ただ、本作は前作から数年後の世界が舞台ですので、時間が経過したぶん、クレイトスとアトレウスの関係性も変化しています。前作と本作のあいだの、作中では描かれてないところで、ふたりの関係性がどのように変わったのか。しっかり考えたうえで演じなければならないので、そこは難しかったですね。
――最初に本作の台本を読んだときの印象も教えてください。やはりまず印象に残ったのは、そのクレイトスとアトレウスの関係性の変化という部分ですか?
三宅そうですね。子どもの成長って早いじゃないですか。実際にアトレウスも、この数年のあいだに急成長を遂げているんですよ。クレイトスはクレイトスで、前作の旅でいろいろあったので、ずっしりと重たい時間を過ごしていたはずです。さまざまな葛藤を抱えながら、大切な息子を見守り育てていくのはどんな気持ちなんだろう……と、自分自身も人の親ながら悩みました。
でも収録を進めるうちに、「この悩みには絶対に正解がないよ」って思えてきたんです(苦笑)。もちろん、ストーリーやキャラクターを考えれば、スタッフが求める演技プランがあるのはわかっているのですが、感覚として正解はないな、と。ですので、ひとりの男として、自分の道を歩み始めているアトレウスにどう向き合えばいいのか、リアルに葛藤し続けましたね。
――スタッフの方から、演技についての指示はあったのですか?
三宅それがないんですよ。もちろん、絶対に外せないキャラクターのイメージはあって、そのラインは守らなければいけませんが、本当に大丈夫なのかなって思うくらい、僕の演技に託してくれました。もちろん、「このシーンはもう少しこう演じてほしい」などとオーダーされることはありましたが、基本的には僕が自由に組み立てた演技を、スタッフの方たちがうまく作品に仕上げてくれた感じです。
――三宅さんがある程度自由に演技できたというのは、前作のときから?
三宅前作からですね。本当にスタッフの方たちの懐が深い現場だと思います。僕の演技を全部受け止めてくれたうえで、僕が用意した素材を、いい塩梅で使ってくれるので。
――三宅さんとスタッフとのあいだに、強い信頼関係があるからこそなんでしょうね。三宅さんもお子さんがいらっしゃいますが、ふだんの子育てが演技に活かされているのでしょうか。
三宅活かされているかはわかりませんが、アトレウスと息子がかぶっちゃう感覚はありましたね。うちの息子もだいぶ大きくなって、アトレウスの歳に近くなってきたので。もちろん、クレイトスとアトレウスのような重い設定はないですが(苦笑)、ふたりのように、自分と息子の考えかたの違いが見えてきますよね。僕がダメだと思ったことでも、息子はこう思う、と意見を主張するようになるので。そういう意味では、一時期は収録現場も『ゴッド・オブ・ウォー』、家に帰っても『ゴッド・オブ・ウォー』でした(笑)。
――気の休まる暇がない(笑)。
三宅つねにアトレウスがそばにいるような感覚でしたね。でも、僕はクレイトスほど強くないし、クレイトスみたいに頭ごなしに否定してもダメだよなって思います。アトレウスが何か言いかけても、クレイトスはすぐに「だとしてもだ!」で終わらせようとしちゃうので(苦笑)。クレイトスだからしかたがないと思いつつ、「自分も息子の意見を聞かないことがあるよな……」と反省しました。
子育てに関していろいろ気づかせてくれたという意味では、うまく相互作用していたのかもしれません。『ゴッド・オブ・ウォー』から父親としての振る舞いや子育ての方法を学んでいますし、実生活で感じた息子との関係が、『ゴッド・オブ・ウォー』での親子の関係に多少は活かされていたとは思います。
三宅さんが語るクレイトスが心を無にできた瞬間とは?
――本作は、メインストーリーのセリフはもちろん、道中の掛け合いや戦闘中の掛け声なども非常に多いと感じました。シーンごとにどのように演じ分けていたのでしょうか?
三宅ストーリーや設定がまとめられた資料や、情景までもが細かく書かれた台本を用意していただいたので、シーンの想像はしやすかったですね。とくに台本が丁寧に作られていて、セリフよりもト書き(※)のほうが、文量が多かったかもしれません。
クレイトスは非常に寡黙なキャラクターなので、シーンごとにシチュエーションや彼の気持ちがわらかないと、発する言葉がただの音になってしまいます。でも、台本にこのセリフは悩みながら、ここは何かを見ながらといった指示が細かく書かれていて、スタッフの方たちから情報をたくさんいただけたので、あとは想像を膨らませてセリフとして表現すればいい状態になっていました。
※ト書き……登場人物の動作や行動を指示する文章のこと。情景などが書かれていることもある。
――セリフの中では、道中のやり取りが印象的でした。種類が非常に多く、クレイトスの意外な一面が見られたりして。
三宅今回はセリフが非常に多かった(笑)。道中の掛け合いも前作以上に種類が豊富で、アトレウスやミーミルとのやり取りはもちろん、フレイヤやブロックなど、同行するキャラクターによってバラエティー豊かな掛け合いが楽しめるようになっています。
掛け合いの中には、「クレイトスはこんなことも言うのか!」というようなセリフもあって。これは僕が悪かったのですが、コミカルな掛け合いがおもしろくてつい調子に乗ってしまい、スタッフの方に「やりすぎです」と指摘されることもありましたね(苦笑)。
――(笑)。でも確かに、前作と比べて、クレイトスが少し親しみやすくなったように思いました。
三宅クレイトスは、前作から大きくは変わっていませんが、やり取りを通じて他者を信頼する気持ちが強くなってきたなと感じましたね。つねに他者とのあいだに壁を作っていた状態だったのが、壁がちょっと薄くなって、シーンによってはのぞき窓ができたぞ、という感じで。人間らしさが感じられて心地よく会話できるシーンは、楽しかった反面、ちゃんとしないと的はずれな演技になってしまうという怖さもありました。
というのも、ゲームの収録は基本的にひとりで行うので、現場にいない相手のセリフをどれだけ想像しながら演技できるかが重要になります。意識して演じていても、相手のテンションや会話の間などをうまく認識できていないと、自然な掛け合いになっていないことがあるんですよ。
――作中の活き活きとしたやり取りからは想像できないようなご苦労があるのですね。つぎに、本作にはたくさんの名シーンがありますが、三宅さんがとくに印象に残っているシーンを教えてください。
三宅すべてが名シーンなので、選ぶのは難しいのですが、とくに印象に残っているのは、ヘイムダルとの戦闘です。ヘイムダルはすごくイヤなヤツではあるんですが、そうだとしても、彼を攻撃するクレイトスがすさまじくて、悪魔のように見えてしまうんですよ。演じているうちに、僕自身もおかしくなって、拳を止められなくなってしまって……だんだん心が痛くなって、トラウマになりました。
クレイトスの暴走をミーミルが必死に止めようとするのも印象的でしたね。どこか悲しげで、重々しくしゃべる姿が、いつものミーミルじゃないんです。それでもクレイトスは、息子や友のために前に進もうとする……あのシーンは演じていてつらかったなあ。いま見ても、悲しすぎてつらくなります。
――確かに、ヘイムダルとの決闘は衝撃的なシーンでした。
三宅あとは、クレイトスたちが最終決戦に臨む前に、仲間に号令をかけるシーンも印象に残っています。このシーンは、スタッフの方たちが「感動しました」とお気に入りの名場面として挙げてくれたのですが、僕自身、演じていて胸熱でした。
さらにその後に、僕の大好きなシーンがあって。敵の盾にされた難民たちを見たアトレウスは、混乱する気持ちをグッと抑えて、父の教え通り心を無にしようとするんです。そのとき、クレイトスがアトレウスの心情を察して、息子の背中を押すんですね。
「私が間違っていたのだ。すまなかった。心を開け、苦しむ人々のために。母親もきっと、そう望む」と、アトレウスにやさしく語りかけて。
でも、以前のクレイトスだったら絶対に言わないセリフじゃないですか。この旅を経験する前のクレイトスなら、「心を無にしろ。戦え。敵だけを見ろ」みたいなことを言うんじゃないかな。
――以前のクレイトスなら、きっとそう言っていたでしょうね。
三宅でもね、言わないんですよ。アトレウスをクレイトス自身の考えで塗り潰すのではなくて、アトレウスの考えを尊重したうえで息子の背中を押してあげた。その姿を見たときにグッときて、泣けてきましたね、本当に。
クレイトスは、アトレウスに「心を無にしろ」と何度も言っているクセに、自分自身は無にできていないんですね。息子のためとは言え、隠しごとをたくさんしているし、仲間にも心の内を決して見せないようにしていて。でもアトレウスの背中を押したシーンで、息子を認めて心から向き合うことで、本当の意味で心を無にできたのではないでしょうか。
――長年、クレイトスを演じているからこそ、よりグッとくるシーンだと思います。ぜひ多くのプレイヤーに、親子の壮大な旅を体験してもらいたいですね。
三宅おそらくゲーム史上、もっとも重厚で濃厚な親子旅だと思います。ぜひ、たくさんの方に、クレイトスやアトレウスといっしょに旅をしてもらいたいです。すでにプレイされている方はもちろん、これから始められる方も、我々といっしょに旅立ちましょう! 今後も『ゴッド・オブ・ウォー』の応援をよろしくお願いします。
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