2022年11月23日、エヌシージャパンが提供するMMORPG『リネージュM』に大型のアップデート“Ep.exceed OASIS 飛躍の泉”(以下、OASIS)が実装される。

“Ep.exceed OASIS 飛躍の泉”特設サイト

 本アップデートのとくに大きな要素をまとめると下記の通りとなる。

  • すべての既存職業への性能調整“クラスケア”
  • 各スキルをより強化できる“スキルエンチャント”の実装
  • 変身へのスキル覚醒の追加
  • マジックドールへの効果覚醒の追加
  • 新マップ“信念の塔2階”追加
  • 新ワールドダンジョン“アトランティス”追加
  • 育成サーバー“グンター”開設とキャラ育成キャンペーン
  • 9職業対象の“クラスチェンジ”を実施
  • 個人トレードの実装
  • スタンプラリーなど各種キャンペーンを実施

 筆者の感想は「新クラスとか実装しなかったんだ」。最近、大型アップデートといえば新キャラや既存キャラのかわいい新衣装などが鳴りもの入りで用意されるイメージがあるため、地味なアップデートに思えたわけだ。

 ところがこのOASISアップデート、韓国で実装したところ大好評だったという。

『リネージュM』アプデ大成功の秘訣はかわいい新キャラ追加よりも“普通におもしろくすること”。日本ローカライズ担当者が語る、あまりにもシンプルな判断の真意
勝手なイメージだが、韓国のヘビーゲーマーは日本のゲーマーよりアップデートへの評価が厳しい印象がある。『リネージュ』シリーズは韓国の国民的人気タイトル。そのなかで大好評とはなかなかの快挙では。

 この成功には、よほどの理由があるに違いない。そしてその理由がわかれば、ゲームにとって非常に大事なことが紐解けるのではないだろうか。

『リネージュM』アプデ大成功の秘訣はかわいい新キャラ追加よりも“普通におもしろくすること”。日本ローカライズ担当者が語る、あまりにもシンプルな判断の真意
イ・ジフン氏(文中ではイ)にはそもそも日本のゲーマーが韓国側からはどのように見えているのかも、ぶしつけながら訊いてみた。

イ・ジフン

『リネージュM』リードデザイナー。おもに日本へのローカライズを担当している。

OASISアップデート好評の理由は“丁寧さ”

――OASISのアップデート全体について、とくに重視したテーマや意図した目標、狙いを教えてください。

大規模なクラスケアを前提とした大型アップデートです。

――新クラスの追加は今回そもそも考えず、既存クラスの修正を主眼に置いたと。

新規職業ではなく、既存職業に対するきめ細かな整備が行われたアップデートですね。特定の職業に偏らないよう、全職業のアップデートを行いました。

――韓国でOASISアップデートは好評を博したとのことですが、プレイヤーからとくに喜びの声が多かったのはどの部分だったのでしょうか。

さまざまな職業へのクラスチェンジが可能だったことと、全職業を対象にアップデートが行われたことによるスキル実験、テストなどを経て、絶妙なバランスにさらに近づいたことにいい反応をいただけました。

――具体的に、韓国ユーザーからはどのような喜びの声が多かったのでしょうか。

通常、新規職業が実装されると、新しい性能と対処法の学習が必要なので、たくさんのプレイヤーが新規職業にクラスチェンジを行っていただくのですが、OASISアップデートを通じて「自分の好きな職業に復帰できた!」という理由でとくに喜ばれたようです。

――クラスチェンジが9職業で可能というのも初の試みですが、この形式に決定するまでの経緯や、君主と魔術師が対象から外された意図について教えていただけますか。

君主と魔術師は、育成から成長の流れが従来の職業とは明確に異なるため、クラスチェンジからは除外されます。君主と魔術師のアイデンティティを守るためです。

――なるほど。では実際に、どのようなクラスチェンジの傾向が見られましたか。

韓国のクラスチェンジでは、ほとんどの場合最新のクラスだった死鎌士のキャラクターがさまざまな職業にクラスチェンジしていました。

――先ほど触れていたとおり、もともと好きだった職業に実際に復帰したわけですね。

『リネージュM』アプデ大成功の秘訣はかわいい新キャラ追加よりも“普通におもしろくすること”。日本ローカライズ担当者が語る、あまりにもシンプルな判断の真意
アップデートのたびに強い新キャラに乗り換えて遊ぶのが、最近のオンラインゲームの主流に感じる。そのなかで、古くからのお気に入りキャラでも前線を張って遊べるのはたしかにうれしいだろう。

――全職業へのクラスケアを一挙に実施されました。大改修に踏み切った理由を教えていただけますか。

過去にはクラスケアを行った際に、ターゲットとなった特定職業の性能向上が多かったのがほとんどでした。

――当然といえば当然ですよね。その流れで、新クラス実装時のように、クラスチェンジでその対象クラス使用者が増えると。

従来とは異なる形になるOASISアップデートは、全職業のケアを目標に、すでに以前から長期間かけて準備してきたプロジェクトでした。

――では具体的に、全職業を改修するということで気を付けた点や、全体を通じて重視した点などを教えていただけますか。

全体のバランスが揺らぎかねない巨大なケアであるため、上述のとおり、かなり長期間準備していたプロジェクトでした。バランスを崩さず、さまざまな職業が再びフィールドを闊歩することを目標に! ですね。

――丁寧に、丁寧に進めた結果が功を奏したと。実際に韓国では、どのような環境変化が起こったのでしょうか。

実際、多くの職業が入り混じってPVPが行われ、PVEの場合ももう少し楽になったという傾向が多かったです。より高い上位狩猟場に挑戦できる踏み台が設けられたわけですね。

――君主、ダークエルフ、竜闘士、暗黒騎士といったクラスに強力かつおもしろそうな新スキルが追加されています。これらの新スキルを追加した意図を教えていただけますか。

職業の特徴を強調するための、スキルアップデート及びリニューアルを行いました。単純にひとつの職業だけ見たら、「そんなに大きな変化があるだろうか?」と思うかもしれませんが、さまざまな職業と混ざった際のシナジーは想像以上に威力を発揮することもあるでしょう。

――なるほど、新たな戦略要素なども増えたと。丁寧に時間をかけたアップデートだからこそ、ここまでしっかりした結果と好評が出せたんでしょうね。

 このお話について、インタビュアーである筆者から、とくに大きな感銘を受けたことを記しておきたい。既存のクラスへの丁寧な時間をかけたケアが好評だったという、極めてシンプルな事実がうれしかったのだ。

 どんなゲームでも、新キャラなどの派手さでユーザーを引っ張るアップデートは多い。そこで既存キャラやそもそものゲームシステム面の問題などが置き去りにされ、不評が集まるパターンを多数目にしてきた。この実例は、そこに一石を投じるものになり得るのではないだろうか。

日本のゲーマーは“横成長”要素が好き

――日本独自の仕様として、グンターサーバー(期間限定の新キャラ育成用サーバー)の狩場確保のために一部のボスモンスターをノンアクティブ化するとのこと。これも踏まえて、日本向けのローカライズでとくに気を付けている点を教えていただけますか。

『リネージュM』のエンドコンテンツは血盟、攻城戦、ボス狩りとPKになりますが、日本ローカライズの場合、より多様なルートを提供するために力を入れています。キャラクターの育成や上位狩場進出などの目的を持ったプレイヤーも多いので、この部分でもおもしろさを提供するためにいろいろと悩んでいます。

『リネージュM』アプデ大成功の秘訣はかわいい新キャラ追加よりも“普通におもしろくすること”。日本ローカライズ担当者が語る、あまりにもシンプルな判断の真意
グンダーサーバーで初心者が増え、序盤の狩場でボスに襲われて育成が邪魔されることを防ぐために、ジャイアントクロコダイルなど4体のボスが日本版でのみノンアクティブ化する。

――日本のゲーマーに対して、韓国の皆さんが持つ一般的なイメージはどういったものでしょうか。

韓国人を基準にすると、定義するのが簡単ではないですね(笑)。私見で言うと、日本プレイヤーは、より戦略的に行動するというイメージが強いです。

――コツコツ計画を練るイメージは強いですね。それを踏まえて、開発スタッフ側としては日本プレイヤーをどのような性質のプレイヤー層と定義しているのでしょうか。

自分で目標にしたものに対して、達成するためにゆっくりコツコツとプレイするスタイル、という感じがします。外柔内剛というんでしょうか?

――外見的にはものやわらかで、芯はあると。では、そんな日本ユーザーにOASISのどの部分が喜ばれると想定していますか。

先述のプレイスタイルに合わせるため、“横成長”を念頭に置いたルートを提供しております。日本の皆さんのプレイスタイルに、これらは十分な満足感を与えることができると思っています。

――たしかに、一気に一点に向けて育成を進める縦成長ではなくて、さまざまな要素に手を出して幅広く育成する横型の成長が好きな人が多いですね。今回のOASISアップデートだと“スキルエンチャント”などの育成要素がそこにあたるわけですか。

一気に完成させようとするとかなり難しいコンテンツなので、ゆっくり目標にしていけばおもしろい目標のひとつになると思います。OASISアップデートのほとんどは、横方向の成長要素が中核です。

『リネージュM』アプデ大成功の秘訣はかわいい新キャラ追加よりも“普通におもしろくすること”。日本ローカライズ担当者が語る、あまりにもシンプルな判断の真意
スキルエンチャントにより、特定のスキルの性能をより強化できる。ほかの要素を含めどこから手を付けていくか、キャラ育成の選択肢の幅がより広がった。

――変身にはスキル覚醒が、マジックドールには効果覚醒が追加されたことも、横成長要素になりそうですね。

そうですね。多様な成長ポイントを提供できるルートを追加した要素になります。

『リネージュM』アプデ大成功の秘訣はかわいい新キャラ追加よりも“普通におもしろくすること”。日本ローカライズ担当者が語る、あまりにもシンプルな判断の真意
変身やマジックドールのさらなる覚醒も、キャラクターをかなり強化してくれる。どこからどのように進めるか、育成計画の練り直しがまた楽しそうだ。
『リネージュM』アプデ大成功の秘訣はかわいい新キャラ追加よりも“普通におもしろくすること”。日本ローカライズ担当者が語る、あまりにもシンプルな判断の真意
今回の“TJのクーポン”キャンペーンでは変身とマジックドールのTJのクーポンがリニューアルされ、より望んだカードが手に入りやすくなっている。ほしいカードが手に入れば、さらに育成の選択肢が増えること請け合い。

――ローカライズの件でお聞きしたかったのですが、『リネージュM』は各国ごとのローカライズを重視したスタイルで、『リネージュW』などのグローバル型のスタイルとは大きく異なる印象があります。このふたつの形式それぞれの利点をどのように考えておられますか?

無限競争システムのグローバル型ももちろん魅力的な要素が多いですが、日本『リネージュM』サービスはとくに、多分ほかの地域よりもより多く、現地化にかなりの努力を傾けています。

――そうすると、どのような利点が生まれるのでしょうか。

グローバル型とは異なり、疲労度を回復できる余裕を提供するとともに、つぎの大きなコンテンツのための踏み台や戦略を用意する時間を確保します。これがローカライズのもっとも大きなメリットではないでしょうか。

――なるほど、時間をかけて横成長を楽しむ日本プレイヤーにピッタリですね。いろいろ嚙み合っていると納得がいきました。

横に幅広い各種キャンペーンや今後にも注目

――新マップとして、全サーバーのプレイヤーが集うワールドダンジョンの“信念の塔”に2階が、さらに同サーバーに新コンテンツ“アトランティス”が実装されるとのこと。それぞれの特徴を教えていただけますか。

信念の塔2階は入場しにくいダンジョンではありますが、逆にものすごいリワード(報酬)と経験値が獲得できる狩猟場でもあります。もう一度強調しますが、そもそも信念の塔2階のコンセプトは“入場しにくいダンジョン”です。

――入場しにくい。すごい売り文句ですね。

モンスターの難易度も最上級に近いので、信念の塔2階が現存する狩猟場の天国でありながら地獄のような感じです。信念の塔2階と比較すると、アトランティスはすべてのプレイヤーが賑わいながら楽しめる狩場だと言えます。

『リネージュM』アプデ大成功の秘訣はかわいい新キャラ追加よりも“普通におもしろくすること”。日本ローカライズ担当者が語る、あまりにもシンプルな判断の真意
こちらは信念の塔2階のボス、“強欲のベリエル”。2階は信念の塔1階で“信念の塔2階転移の巻物”を苦労して獲得しないと入れない階層であるうえに、ワールドダンジョンということで他サーバーのライバルも出現する。地獄を楽しみたい猛者たちが集う場所になりそうだ。
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アトランティスもワールドダンジョンのひとつ。いろいろな意味で賑わいそうだ。

――新規プレイヤーや復帰プレイヤーの目線で気になる話としては、英雄級の新たな変身とマジックドールがキャンペーンで入手できる点でしょうか。

日本でも同様に、韓国版からの性能調整は行われずに英雄級の新規変身とマジックドールを獲得することができます。もちろん各種覚醒もできます。

――こちらはアップデート記念のキャンペーンの一環でもらえるんですよね。

英雄級変身“ [変身カード]天上の守護騎士”が獲得できるという、初の試みが行われる“スタンプラリー”はサービスチームの推しだと聞いています。ゲームログイン、アカウント連携、セキュリティ設定、デイリークエストクリアなどの簡単なミッションをこなすだけで、英雄級変身が獲得できるので、ぜひ参加してほしいです。

『リネージュM』アプデ大成功の秘訣はかわいい新キャラ追加よりも“普通におもしろくすること”。日本ローカライズ担当者が語る、あまりにもシンプルな判断の真意
公式サイトにログインし、初心者にも簡単なミッションでスタンプを集めると、英雄級変身カード“天上の守護騎士”がもらえる。
『リネージュM』アプデ大成功の秘訣はかわいい新キャラ追加よりも“普通におもしろくすること”。日本ローカライズ担当者が語る、あまりにもシンプルな判断の真意
同じくログインで出席報酬を獲得していくと、画像右の英雄級マジックドール“九尾の狐”ももらえる。見た目も強さも一級品だ。

――今回開催されるグンターサーバーは、従来のものと異なる点はあるのでしょうか。

とくに異なる点はありません。獲得経験値最大+2000%など、恒例の仕様で楽しんでいただけます。グンターサーバーで血盟に加入することで得られる特典やキャンペーン、グンター卒業後に通常のサーバーへ移動した後に得られる特典なども用意されています。

『リネージュM』アプデ大成功の秘訣はかわいい新キャラ追加よりも“普通におもしろくすること”。日本ローカライズ担当者が語る、あまりにもシンプルな判断の真意
公式サイトではミニゲームもプレイでき、自分で報酬を選んで交換できるクーポンが獲得できたり、Twitterにスコアをシェアすることで豪華賞品の抽選に参加できるキャンペーンも開催。こちらもプレイしておこう。

――ほかにOASISのアップデートで、個人的に実現できて嬉しかった部分などはありますか。

“個人トレード”は、本来OASISアップデートで実装される内容ではなかったのですが、自分が(2022年の)年初から「どうしても年内に実装する!」と宣言していたこともあり、数多くの逆境を乗り越えてついに成し遂げられました。

――いいですね、ユーザーの利便性や交流の助けになる要素はぜひ今後も重視していただければ。最後に、日本のプレイヤーに向けてひと言お願いします。

もう2022年も終わりに向かっています。皆さんといっしょに『リネージュM』を通じて、同じ時間を過ごしていることが依然として嬉しく、いつも心から感謝しています。時間が経ったいまも、サービス開始時から持っていた初心は変わらずそのままにしています。日本のサーバー独自のオリジナルコンテンツ、ローカライズを通じてPVPコンテンツを超え、PVEでもさまざまなルートを提供できるよう、絶えず悩み企画開発していきます!

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今後もぜひ、このようにユーザーの声を聞きつつ待望の改善を実装していってほしいところ。

 最後に、筆者からもひと言。“新しいゲーム”ではなく“いいゲーム”にするという、考えてみればごく当たり前のことが好評を得たOASISアップデート。この実例についてはぜひ皆さんにも覚えておいていただきつつも、『リネージュM』ユーザーにはその好評だった内容の実装を楽しみに待ってほしい。

 オンラインゲームのユーザーには何が喜ばれるのか。それはシンプルに、“おもしろい”ゲームにすること。オンラインゲーム全体に通じる何かが、今回のアップデートには隠されている気がしてならない。

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