マーベラスから2023年1月26日発売予定のNintendo Switch用ソフト『牧場物語 Welcome!ワンダフルライフ』。開発も佳境に入りもうひと踏ん張りの中、注目してもらいたいポイントや、その魅力を語ってもらった。
新しい要素や、ずっと変えずに守っているもの、本作への思いを感じながら、新春の発売を待とう。

『牧場物語 ワンダフルライフ』のNintendo Switchへのリメイクが決まった経緯
中野 魅氏(なかの ひかる)
マーベラス所属。『牧場物語 Welcome!ワンダフルライフ』プロデューサー。(文中は中野)
星名 利佳氏(ほしな りか)
マーベラス所属。『牧場物語 Welcome!ワンダフルライフ』ディレクター。(文中は星名)
――まずは、『牧場物語 Welcome!ワンダフルライフ』(以下、『Welcome!ワンダフルライフ』)におけるおふたりの役割を教えてください。
中野本作ではプロデューサーとして初期の企画立案から関わっていて、各所との調整を行っていました。プロジェクトを立ち上げた後も、取引先とのやり取りやプロジェクト全体の調整を行っています。
星名本作ではディレクターとして、ゲームがどうやったらおもしろくなるのかなど、コンテンツの内容をチェックしたり、どの情報をどの順番で公開していくかなどを管理したりしています。
――まずは、『牧場物語』シリーズの作品が数多くある中で、今回『牧場物語 ワンダフルライフ』(以下、『ワンダフルライフ』)のリメイクを行うことになった経緯を教えてください。
中野『牧場物語』シリーズはどの作品にもそれぞれの特徴があるので、私たち制作者としては、“全作品それぞれを楽しんでいただきたい”という想いを持っています。
ただ、『ワンダフルライフ』は、ユーザーさんから思い出の作品として挙げていただくことが多いのです。いまですとSNSなどでたくさんの方が発言してくださいますが、SNSがない時代からお手紙でも同じ意見を数多くいただいておりました。
ですから、今回『ワンダフルライフ』のリメイクが決まったのは、そういったことも大きな理由のひとつになりました。
――長いあいだリメイクが望まれていたんですね。どのあたりがユーザーさんに支持されたと思いますか?
中野原作は、当時からゲーム性に対してすごくこだわりを持って作っていた作品だったんですよ。わすれ谷の生活感だったり、この村に住んでいる感覚みたいなものだったりをすごく大事にしていて。
そこでの人生を章立てにして展開させたことが『牧場物語』シリーズの中で『ワンダフルライフ』をとくに個性的にした要素だと思っています。
――開発側としても『ワンダフルライフ』のリメイクをしたいという想いがあったのですか?
中野そうですね。当時は技術的な問題や制約でうまく実現できなかった要素もあってなかなか実現できなかったのですが、僕としてもどこかでリメイクをできる機会はないだろうかとうかがっていました。
『ワンダフルライフ』は海外でもすごく売れた作品だったので、今回はマーベラス本社だけではなく、海外グループ会社のスタッフから賛同を得られたというのも、リメイクに踏み切れた要因のひとつかなと思います。
――リメイク版の制作が決定したのはいつごろだったのでしょうか。
中野話自体は2020年の春くらいには始めていました。ただ、開発が実際に動き始めたのは2020年の秋ごろですね。「やりたいね」という話を始めてから実現されるまでは時間がかかってしまうので。
――2023年1月に発売ということで開発も大詰めを迎えているかと思いますが、現在の進捗は何%程度ですか?
星名すでに99%はできていて、現在さらなるブラッシュアップのために鋭意制作を進めています。

リメイクにより、変わるもの、変わらないもの
――本作で今回いちばんの売りとなるのはどんな部分でしょうか。
星名これはリメイク前の原作にも言えることなのですが、『ワンダフルライフ』は『牧場物語』シリーズの中でも人生を描くことにとくに力を入れている作品です。
集落の様子だけでなく、キャラクターの見た目や考えかたなどさまざまな部分で明確に時間が流れているのを感じられるので、ほかのシリーズ作品に比べても人生の疑似体験が濃いんですよね。ここはリメイク版でも変わらずに、すごく大きなポイントになっています。
――今回のリメイクにあたり、原作から大きく変化しているのはどこでしょうか。
星名今回のリメイクは初期の段階から“家族と歩む人生”をテーマにして進めてきました。
原作では自分の人生として家族と過ごしてもいいしひとりで過ごしてもいいというスタンスでしたが、もうちょっと家族と寄り添うことを意識し、いっしょに歩んでいくところを強化しています。
なので、家族とのイベントが増えていたり、家族が牧場の仕事をする部分を強化したり、独身期のパートナー候補とのイベントも増やしました。ここは大きな変更を加えた部分ですね。
中野イベントはいちばん足したところだよね。
星名本当に! あとは2023年に発売するとなったときに、当時のままの仕様では遊びにくい部分や原作より後の『牧場物語』シリーズで築かれた流れとかけ離れてしまうことでストレスを感じさせてしまいかねない部分などは調整を加えてより遊びやすくしています。楽しい部分だけを楽しめるように心がけました。
――では逆に、あえて変更を加えていないのはどういった部分でしょうか。
星名私自身が『牧場物語』シリーズの中でも『ワンダフルライフ』がいちばん好きなんですよ。なので、原作のよかったところは極力そのまま残したいと思っていました。
とくに人生の疑似体験はゲームの核となる部分なので、遊んだ後に「いい人生だったな」と振り返ることができるところは絶対に変わらないように、と心がけて作っています。
――本作に限らず『牧場物語』としてシリーズを通して大切にされているポイントというのはありますか?
中野これはすごく難しい話で、長くシリーズを続けていくと、時代によって大切にするポイントも少しずつ変わっていくんですよね。
ただ、その中であえて変わらずに大切に思っているのは、新しい土地にやってきた主人公が牧場生活を送りながら、その土地のコミュニティに受け入れられていく様を描く、という部分ですね。
――『ワンダフルライフ』に限らず、シリーズでは土地になじんでいく感覚が味わえますよね。
中野そうですね。結婚して子どもができて長い時間を過ごしていって、地域の人たちと仲よくなっていったりして、最終的にはコミュニティに受け入れられた納得感というか、そういう収まりを感じられることが大事なのかな、と思っています。
そのコアとなる部分は原作のときから感じられますよね。
星名わすれ谷にも、最初かなりそっけない人たちはいるんですよ(笑)。
でも当たり前じゃないですか。引っ越してきてすぐにみんながフレンドリーに接してくれるわけがないですよね。だからこそ、よそよそしいところからいかに仲よくなっていくか、みたいな部分が醍醐味でもあります。
――今回のリメイクを行って、改めてよかったなと思えるのはどんなところでしょうか。
星名私個人が好きな作品ということもあって、いまの人たちに『ワンダフルライフ』を遊んでもらえるというのはそれだけですごく素敵なことだと思います。
“推し活”ではないですけど、いまの世代の人にもぜひ楽しんでほしいです。私は入社したのが2020年の秋ごろで、ちょうどリメイク版の開発が始まるころに合流したんです。
――すごい! タイミングばっちりですね。
星名入社して3日目くらいに『ワンダフルライフ』がリメイクされることを知って「え!? ぜひやらせてください!」みたいな勢いでした(笑)。
中野本当に、タイミングが合ってとてもよかったですね。
――原作の大ファンである星名さんがリメイクに携わるにあたり、とくに意識されたのはどんなことでしょうか。
星名いまの時代に『ワンダフルライフ』をどう広めようかと考えたとき、原作はやり込まないとおもしろさが見えにくい部分があって、遊んでいてもそこに気づかない人もいたんです。
なので、なるべくわかりやすく遊びやすくすることを心掛けました。知ってさえもらえれば好きな人はすごく好きになれると思うので、その間口を広げて、改めて遊んでもらえる機会を得られたというのはリメイクできてよかった部分ですね。
――逆に、リメイクにあたって苦労したのはどんなところですか?
星名苦労したのは、私自身に原作ファンとしての感情があり、バランス感覚が難しかったところですね。
原作のここがよかったと思う部分を、最近の『牧場物語』を遊んでいる人たちに聞いてみたのですが、「わかりにくい」、「難しい」とか「雰囲気が重い」といった感想が出てくることが多くて感覚の差がけっこう大きかったんです。
原作をそのまま再現したいという気持ちと、最近『牧場物語』を知った方に遊んでもらいたいというところで、どう折り合いをつけるかには苦労しました。
中野『ワンダフルライフ』って、もともとがけっこう難しいゲームなんです。
動物を育てるのもたいへんだし、全体的にプレイの難易度が高めに設定されていたので、ある程度遊びやすくしようということはもちろん話していました。
でも、初見でプレイした場合、遊びやすく調整したつもりでも難しい、みたいなことが起こります。そのあたりの調整は本当に難しいです。
星名手間になる部分があるからこそ好きという気持ちもあるのですが、それだけではどうにもならない。だからいろいろな部分で原作の維持と変更のバランスをとるのが本当にたいへんでした。

新たに追加・変更された要素で、より牧場生活が自分のことのように体験できる
――ここからはリメイク版で変更、追加された要素について具体的に伺っていきたいのですが、まず、主人公のキャラメイキング時の選択が幅広くなった経緯を教えてください。
星名これはシンプルに「世界中の幅広いお客さんに楽しんでほしい」という気持ちで作っています。
『ワンダフルライフ』は人生の疑似体験ですから……いかに主人公を自分だと思えるかということを考えると、パーソナルな部分の選択は増やしたいと思ったので、ここは海外グループ会社にもヒアリングしつつできる限り力を割きました。たくさんの方に楽しんでほしいです。
――『牧場物語 再会のミネラルタウン』と同様に、結婚式についても性別の制約がなくなっていますね。
星名そうです。性別は3種類から選べるようになっていて、性別に関わらず結婚ができるようになっています。ここも他者から認識される性別に制限を設けることで、没入感が薄れてしまわないように、という意図からです。
――キャラクター面の追加や変更についてもお聞かせください。
星名キャラクターについてはまず原作にいたモイというキャラクターの設定と外見が変更されて、プイという新たなキャラクターになっています。
設定の変更によってモイの核となる部分、わすれ谷にいる理由や生きている目標などがすべて変わってしまうので、完全に別の人格として扱うためにプイという名前にしました。
彼はすごくポジティブで、夢に向かって緩く進んでいくような感じの人です。
――芸術家のゴーディは原作にも同名のキャラクターが登場しますが、外見が大きく変わっていますね。
星名ゴーディの外見を変えることは、リメイクをするとなった段階で決まっていました。ただ、彼の核となる内面部分はまったく変えていません。
あくまでも見た目が変わっただけなので、彼に関しては名前を変えずに登場させています。ゴーディはつねに頭を回転させている賢い人なので、いまのデザインをまつやま先生(まつやまいぐさ氏:本シリーズのキャラクターデザイン担当)にご提案いただいたときに、鉄を殴るのに最適な格好だなととてもしっくりきました。
――そのほかのキャラクターについては大きな変更はありましたか?
星名基本的にはみんな原作の設定を引き継いでいます。細かい変更で言えばルミナの年齢を18歳にしたので安心して恋人関係になって結婚もできるようになりました。
ただ、彼女が精神的に成長する過程は残しています。ほかのキャラクターについても核となる部分は残しつつ、バックグラウンドなどでいまの時代に反映したときにどうしても共感できないような部分は調整を加えています。
――調整を行った部分について、具体的なキャラクターを挙げることは可能でしょうか。
星名たとえばマッシュですね。彼は数年前まで都会でバリバリ働いていてそこからわすれ谷にやってきたという設定なのですが、原作では当時の人がちょっと古いと感じるくらいの昭和っぽいオールバックだったんです。
もちろん私は原作のマッシュも大好きです。ただ、いまの世代の人が初めて見たら「ちょっと前まで都会で働いていた人がそういう髪型をしているだろうか? 彼は周りを気にしない自信家なのか?」と想像し、彼の堅実で内向的な性格と矛盾する可能性があったので、髪型を変更しています。
――逆にここは変えていない、という部分はありますか?
星名結婚候補になっているロックは、ずっと独自の世界観を持っているので、20年経っても変わらずに自分のセンスを貫いているということで、そこにはとくに変更を加えていません。時代に合わせて調整した部分もあればキャラクターの核として残している部分もあるという感じですね。

――本作では動物たちの寿命がなくなっているとのことですが、こちらについてもお話を聞かせてください。
星名寿命は『牧場物語 オリーブタウンと希望の大地』などでも設けていないので、その流れで今回も同じようにしました。
ただ寿命をなくした代わりにより多くの種類の動物の赤ちゃんが生まれるようにしています。これまでは動物が寿命を迎えることで命というものを表現していたのですが、リメイク版ではもう少し明るい方向に振って、動物が生まれることで命を表現したいと考えました。
――赤ちゃんが生まれてくると単純にうれしいですよね。
星名そうなんですよ。やっぱりかわいいじゃないですか。原作でも牛は繁殖していましたが本作では羊やヤギなどの赤ちゃんも生まれるようになっています。
――なるほど(笑)。ほかにも、ミッション(おつかい)の要素も追加されていますが、こちらはどういった理由で実装されたのでしょうか。
星名先ほどお話ししたように、原作ではすごくおもしろいのに知られていない要素があったので、それを可視化できるようにしたのがミッションです。
住人たちからのおつかいみたいなものですね。これも事務的にならないように「夕飯のスープに使いたいからトマトが欲しい」みたいに生活感を出しています。
――公式サイトでは“70種類以上のイベントが追加”と書かれていますが、こちらはどういったものになっているのでしょうか。
星名イベントは“家族と歩む人生”というテーマをベースに追加しているものと、やり込んだ先のご褒美的なものを追加しています。
たとえば、釣りをすごくがんばると最後にイベントが用意されている、みたいなものですね。何かをがんばった先に人生の思い出ができるようにという構造を意識しています。
――“家族と歩む人生”というテーマをベースにしたということは、家族でのイベントで生活感がより増えているということでしょうか。
星名そうですね。家族の団欒や何気ない日常みたいなところを深掘りしたいなと思って、家族のイベントを追加しました。
あと、牧場の住人に、主人公のお父さんの親友であるタカクラさんという人がいます。彼は主人公が牧場に来るきっかけにもなっているのですが、主人公と同じ敷地内に住んでいまして。
原作ではあまり主人公一家には干渉しすぎない絶妙な立ち位置だったのですが、きっと主人公の子どもなんかは、生まれたときから同じ敷地に住んでいるおじさんということでもっと懐くと思うんです。
――確かにそうですね。
星名タカクラさんを含めて“家族の輪”とまではいかないですけど、血のつながりだけではない家族みたいなものもあると思ったんです。本作ではタカクラさんが主人公の人生の近くにいるように描かれているので、そのあたりのイベントも増えています。
――お祭りも原作から様変わりしていると聞きました。
星名お祭りはすべてリニューアルしています。
原作では受け身なイベントばかりだったので、リメイク版では自分がお祭りに参加している感を出そうと心がけました。
そこで、『牧場物語』シリーズ名物の収穫祭を入れています。デッカい鍋に好きなものを放り込んでいくお祭りですね。あとは花火大会や星空祭といったものも今回追加しています。
――そちらはどういった内容になっているのでしょうか。
星名花火大会は1章ではデートイベントですが、2章以降は家族で花火を見るものになっていて、子どもの成長に合わせて同じ花火でもぜんぜん違ったやり取りが見られるようになっています。
星空祭のほうは、どんなに年を重ねてもパートナーとのデートイベントになっていて、年代ごとにパートナーどうしのやり取りみたいなものがあったりします。同じお祭りでも毎年ちょっとずつ変化があるのでここでも時間の流れを感じられることでしょう。
――お祭りで完全新規の要素はありますか?
星名新規ではないのですが、お祭りに関しては流れをすべて変えています。
原作にも収穫祭はあって、モチーフとしては同じですがお話の流れがまったく違うので別物に感じられるかもしれません。あと、星空祭でグスタファはちゃんとギターを弾いています。これだけは絶対に弾いてほしかったので(笑)。


さらに充実した『Welcome!ワンダフルライフ』をお楽しみに!
――『Oh! ワンダフルライフ』と同様に、本作でも本編クリアー後、やり込みに集中できる7章が用意されているそうですが、こちらはどのように楽しんでもらいたいと思っていますか?
星名7章では6章までのような人生における時間の流れがないので、のんびりと牧場生活を送っていただいて、やり残したことを自由に、好きなだけやってもらえればと思います。
そのためだけではありませんが、種まきや収穫などをまとめて行えるような便利な要素が入っています。逆に、時の流れを感じたいなと思った方は、改めて1章から6章を遊んで別の人生を歩んでいただければと。
そういう風に楽しみたい部分に合わせた遊びかたをしていただけたらいいかなと思います。
中野やり込み的な意味で言えば、品種改良などもやりがいがあると思いますよ。
星名そうですね。変わった作物、かわいい作物をたくさん追加していますし、料理の種類も増えています。
原作を遊んだ方がリメイク版を遊ぶとき、そのあたりがまったく同じだと発見がなくて寂しいじゃないですか。皆さんが「この組み合わせでこれができるんだ」と、新鮮に楽しんでいただけたら嬉しいです。
――楽しみにしています。では最後に、『Welcome!ワンダフルライフ』を待ちわびているファンへのメッセージをお願いします。
中野原作を遊んでくださっていた牧場主の方はもちろん、本作から新しく遊んでいただく牧場主にも楽しんでいただけるような作品になっていると思いますので、ぜひ発売をお待ちください。
星名先ほど開発の進捗が99%と言いましたが、現在最後の詰めを行って、少しでも高いクオリティーでより満足していただけるものをという想いで最後まで作っていきます。よろしくお願いします。
