『UNDERTALE』と『DELTARUNE Chapter 2』のアニバーサリーを記念してスタートした、作者トビー・フォックスさんの連載コラム“Toby Foxの秘密基地”。
月一回のペースで、トビーさん書き下ろしのコラムをハチノヨンさんの公式翻訳でお届けする週刊ファミ通とファミ通.com合同連載コーナー。今回はその第2回をお届けします。
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“Toby Foxの秘密基地”の新企画「トビーが訊く」Vol.01スタート!
……と、その前にすいません。けっこう大事な告知がありました(短いのですぐ終わります)。
じつは今回のコラムと連動して、トビーさんから「読者のみなさんに訊いてみたいことがある」とのことで、コラムの最後に簡単な質問募集フォームを準備してあります。もしお時間あるようでしたら、質問への回答をこのフォームから投稿してみてください。
集まった回答のいくつかには、後日コーナー内でトビーさんから直接お返事のコメントをもらって掲載させていただく予定ですので、よろしくどうぞ!
UNDERTALE - Switch (【永久封入特典】ストーリーブックレット 同梱)第2回“アメリカ製『聖剣伝説2』、『Secret of Evermore』”
僕は、まだろくに読み書きもできないころから、日本のRPGが大好きでした。ほかのアメリカ人の子どもたちがピーナッツバターとジャムのサンドイッチを食べているのを尻目に、『MOTHER2』や『ファイナルファンタジーVI』みたいなJRPGをむさぼって、栄養源にしていました。
おかげで骨や筋肉はどんどん弱って、代わりに、かっこいい魔法のアニメーションに萌える脳みそがきたえられたわけです。そんなふうにタンパク源をJRPGに頼っていた幼少期の僕にとって、ひとつ、困った問題がありました。
日本製RPGの大半が、アメリカではリリースされなかったんです。当時のアメリカのRPG市場はまだいまほど大きくなくて、スーパーファミコンの『サ・ガ』シリーズ全作も、『ライブアライブ』も、『ドラゴンクエストIV』も『V』も『VI』も……ほかにもたくさんのゲームが、海外では発売されませんでした。
『ファイナルファンタジーV』でさえ、海外版が出なかったんですよ!
でも……じつは、当時スクウェアが開発したスーパーファミコンのRPGで、“日本では”リリースされなかったものが、ひとつだけあるんです。
その開発を担ったのは、ワシントン州レドモンドに拠点を置くスクウェアソフトのアメリカ支社、Square Soft Inc.でした(ちなみに、任天堂のアメリカ支社、Nintendo of America Inc.の本部も、同じレドモンドにあります)。
Square Soft Inc.はおもにアメリカ市場へのゲームのパブリッシングを手掛けていて、たとえば、スーパーファミコンの初代『ブレス オブ ファイア』(開発したのはカプコン)の海外版なんかも、そのひとつでした。
この海外版ではなぜか、パッケージに描かれたリュウのルックスがバーバリアンみたいに変更されていたんですが、アーノルド・シュワルツェネッガーみたいな主人公じゃないと、アメリカの子どもは買ってくれないと思ったのかな……?
……でも! たった一度だけ、Square Soft Inc.が独自にRPGを制作したことがあったんです。彼らが受けた指令は、「『聖剣伝説2 』( のちに海外でも『SECRET of MANA』としてリリース)をベースにしたゲームを制作すること」。そうして誕生したのが……。
『Secret of Evermore』でした。
このゲーム、戦闘システムはほぼ『聖剣伝説2』そのまんまです。使える武器は剣とヤリと斧で、技も似ています。武器はそれぞれレベルアップできて、何段階かチャージして攻撃できました。リングコマンドを採用していて、オプションも大半が同じ。でも、逆に言えば、似ているところはそれだけでした。
まず、設定からしてもうぜんぜん違っていて、主人公はアメリカ人の生意気な少年です。架空のB級映画のセリフを引用したキメゼリフを連発するキャラで、いつも相棒のイヌを連れていて、オレンジ色のジャケットにブルーのズボンをはいた姿は、ほぼ映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティ・マクフライ(16ビット版)でした。
ゲームの冒頭、お気に入りの低予算映画を見終えた少年は、自分のイヌを追いかけているうちに、いまは無人になっている研究所に迷い込みます。
そこでナゾの機械を見つけて、「Evermore(エバーモア)」という異世界に飛ばされるんですが、そこは、いろんな時代が同時に存在する、もうひとつの地球なのでした。恐竜たちが闊歩する前史時代の沼地を抜け、青銅器時代でミノタウロスと戦い、中世のお城に捕らわれ、とうとう宇宙にまで飛び出します。
そうやって訪れたいろんな時代で、エバーモアに足止めされているほかの人たちと出会い、彼らと力を合わせて、もとの世界にもどる方法を探る……というゲームでした。
この“大昔の地球”という設定に合わせて、“魔法”の概念は“錬金術”に変更されていました。“MP”はなくて、代わりに原油とか水とか粘土とか、いろんな素材を集めて、それを組み合わせて錬金技を発動します。素材は買うこともできるけど、そこらじゅうにある見えない採取スポットでも手に入ります。
探すのがめんどくさそう?
でも実際は、仲間として連れているイヌのおかげで、意外とストレスなく採取できました。Rボタンを長押しすると、イヌが鼻を使って近くにある素材を見つけてくれるんです。
そう、このゲーム、旅の唯一の仲間は、イヌなんですよ。
このイヌは魔法も武器も使えないけどめちゃくちゃ強くて、訪れる時代が変わるたびに姿が変化するんです。最初に訪れる前史時代のジャングルでは、怖そうなでっかいオオカミ。つぎの時代に進むと、上品なグレイハウンドに変身します。
当時、プレイヤーキャラクターとしてイヌが登場するゲームの中では、『Secret of Evermore』は相当画期的でした。ほかに肩を並べられる作品は、『メタルマックス2』ぐらいだと思います(バズーカを背負ったポチくんのほうが、ちょっとだけイケてるかな)。
そしてこのゲーム、何が最高だったかというと、ゲーム内の雰囲気、とくに、序盤のそれが秀逸でした。
虫の羽音や鳥の奇声があちこちから聞こえてきて、本当に古代のジャングルで迷子になった気分を味わえるんです。
しばらくすると村に着くんですが、そこではトライバルな感じのシンプルなBGMが流れていて、なんとなく、「ここにいれば安心」という気持ちになります。村の中は、たぶん安全……でも、一歩外へ出れば、何が潜んでいるかわからない……。そういう演出をすべて、オーディオで実現していました。
当時わずか19歳だったジェレミー・ソウル氏が制作したサウンドトラックは、ほかのスーパーファミコンのゲームとは一線を画していました。
シンセサイザーのストリングス、ベルの音、クワイア、低い太鼓の音、効果音、途切れることなくバックに鳴り響く持続低音……こういった要素が、いろんな感情を刺激するダークな空気を作中に漂わせて、プレイヤーをゲームの世界に深く引き込みます。
ちなみにソウル氏は、のちに『Skyrim』などを始めとする『Elder Scrolls』シリーズのサウンドトラックを手掛けることになります。
(『DELTARUNE Chapter 1』と『Chapter 2』に登場する曲には、『Secret of Evermore』のサウンドトラックに影響を受けたものがいくつかあります)
とはいえ、残念な点もいくつかありました。このゲームの錬金術と武器には『聖剣伝説2』のレベルアップシステムが採用されていますが、レベルアップのペースが死ぬほど遅いんです。
それに、錬金技の発動に素材の採取が必要なせいで、あまり技を使いたくなくなるという難点もありました。バグもたくさんあったし、当たり判定も微妙で、ボス戦のゲームデザインも、難があるものが多かった。ステージも大半が迷路みたいでわかりにくいし、そして何よりストーリーも、いまいち練られていない感がありました。
それでも、序盤の先史時代のエリアは、プレイして損はないと思います。危険な世界をあてもなくさまよいながら、必死に脱出を試みるあの感覚!
それに、エンディングまでたどりつけば、相棒のイヌが無敵のトースターに変身するんですよ。それだけでも、プレイする価値、ありません?
そんな『Secret of Evermore』は、ファンもいる一方で、リリース当時はけっこうたたかれたりもしました。原因は、ゲームデザインに関することだけじゃなく、とあるウワサのせいでもありました。
『聖剣伝説3』も英語版が発売されなかったんですが、一部のスクウェアマニアたちが、それを『Secret of Evermore』がリリースされたせいだと非難したんです。スクウェアさんの公式発表によれば、まったく無関係ということですが……Nintendo Switchで『聖剣伝説3』の英語版が『TRIALS of MANA』としてリリースされたのは、つい最近のことです。
『Nuclear Fusion』を聴けるようになるまで、こんなに待つことになるなんて……!
そんなわけで、今日は『Secret of Evermore』のお話をしました。「アラもあるけど、ほかのスーパーファミコンゲームにはない雰囲気を持つ作品」です。
もし、無人の研究所に迷い込んで30年前に飛ばされることがあったら、レンタルショップで『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のVHSといっしょに借りてみてくださいね!
(……って、そっか! 日本では法律の関係で、ゲームのレンタルショップはないんでしたっけ!? その話はまた長くなるので、別の機会にでも……)
それと、もしスクエニさんがこれを読んでたら……僕を雇ってもらえれば、いつでも『Secret of "Inu"more』、作りますよ!
主人公の少年を2匹めのイヌに変えるだけだから簡単です。大丈夫、絶対売れますよ……1本は。僕が買うので。
読者のみなさんに質問! 海外のゲームで、「日本語版をリリースしてほしい!」と思ったものは、ありますか?
日本語版が出るのをさんざん待ちつづけた思い出のあるゲームは?
ぜひ、教えてくださいね!
''〜第2回 “アメリカ製『聖剣伝説2』、『Secret of Evermore』” おしまい〜
※本コラムは週刊ファミ通11月10日号に掲載された内容と同内容になります。
※“Toby Foxの秘密基地”第1回はこちら
しかし、ゲーム雑誌の編集者でありながらわたし(担当)は『Secret of Evermore』の存在をまったく知りませんでした……。いまでも海外でしかリリースされていないゲームって、あったりしますよね。
というわけですので、トビーさんから読者のみなさんに訊きたいという
“「日本語版をリリースしてほしい!」と思ったものは、ありますか? 日本語版が出るのをさんざん待ちつづけた思い出のあるゲームは?”
との問いかけに、心当たりのある方は以下の投稿フォームから、トビーさん宛ての投稿としてお返事をお願いします。日本でも発売してほしいゲームがあってやきもきしたことのある方は、ぜひ思いの丈をトビーさんに伝えてみてくださいね。
※ここに投稿フォームへのURLリンクが入ります(現在設置作業中ですので、完成次第後送させていただきます)
※収集する情報は「質問への回答文」と「ペンネーム」のみになります
募集期間:10月31日(月)18:00〜11月6日(月)23:59まで
集まった投稿のいくつかには、なんとトビーさんが直接コメントを返してくれます! 次回12 月15日号(12月1日発売)あたりの掲載回にて一挙掲載予定です(掲載号は変更になる可能性もあります)。こちらもどうぞ、お楽しみに!
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