2023年春にNintendo Switchで発売される『超探偵事件簿 レインコード』は、『ダンガンロンパ』シリーズを生んだトゥーキョーゲームスの小高和剛氏、小松崎類氏、高田雅史氏が手掛ける最新作で、スパイク・チュンソフトとのタッグによる完全新作のダークファンタジー推理アクションだ。

 雨が降り続く奇妙な街“カナイ区”を舞台に、記憶喪失の探偵見習いユーマと彼に取り憑いた死に神ちゃんが、特別な力を持つ“超探偵”たちと協力しながら未解決事件に挑む。

 3Dのフィールドで調査を行い、現実世界で起きた事件の謎が具現化した“謎迷宮”で真相を解き明かすという、従来の推理アドベンチャーゲームとは一線を画した本作は、どのようにして誕生したのか。本作のシナリオを手掛けるトゥーキョーゲームスの小高和剛氏にインタビューを行い、開発秘話を訊いた。

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小高和剛氏(こだか かずたか)

『超探偵事件簿 レインコード』シナリオ担当。トゥーキョーゲームス所属のディレクター/シナリオライター。ゲームの企画やシナリオのみならず、小説やマンガの原作、テレビアニメの監修など、多岐にわたって活躍している。(文中は小高)

推理アドベンチャーゲームのエポックメイキングを目指して

――初めて『超探偵事件簿 レインコード』が発表されたのは、『ダンガンロンパ』10周年のイベントでした。このときのファンの反応はどうでしたか?

小高コアな『ダンガンロンパ』ファンに見せたくて、10周年のイベントで公開したのですが、インターネットやSNSなどのコメントを見ると好意的な意見が多いなと思いました。血がピンク色なところも、『ダンガンロンパ』っぽいという反応があって。ただ、会場のファンはキョトンとしていたと聞いています(苦笑)。当日、僕は現場にいなかったので。

――完全サプライズの発表でしたからね。

小高ゲームなのかもわかりにくかったようなので、もう少し丁寧に説明したほうがよかったなと。

――イベントで公開された映像は、イメージ映像に近いものだったのですか?

小高いえ、あれは実機のものをそのまま使って映像にまとめたものになりますね。

――去年の11月の段階で、ある程度形になっていたのですね。小高さんはどのような思いから本作を作りたいと思ったのか、本作の開発がスタートした経緯を教えてください。

小高思いとしては、2020年代を担う新たな推理アドベンチャーゲームを作りたいという明確な野望がありました。というのも推理アドベンチャーゲームには、『ポートピア連続殺人事件』や『逆転裁判』、手前味噌ですが『ダンガンロンパ』といったように、時代ごとにエポックメイキングとなる作品が存在したと思います。でも2020年代はそういった作品がまだ登場していない。「次世代の推理アドベンチャーゲームはどう進化させるべきか」を考えて、ライトユーザーからコアなゲームファンまで幅広く取り込むには絶対に3Dだと思いました。2020年代の推理アドベンチャーゲームは、3Dフィールドを自由に歩き回って捜査できたほうがいいですし、3Dなら演出もリッチに作ることができるので。

――3Dは時代に合っていると思いますが、そのぶん開発がたいへんだったのでは?

小高そうですね。本作の開発は『ニューダンガンロンパV3』の発売直後からスタートしているので、かれこれ6年ぐらい作っているのかな。誰もサボっていないのに6年経っているので時間はかかっていますね。ただ、スパイク・チュンソフトは3Dのタイトルを数多く手掛けているので、ノウハウ自体はあるんですよ。3Dだからたいへんというよりも、新しいことに挑戦していて、手探りで開発を進めているので時間がかかっている印象です。絵を作ってみて、シナリオを直してみたいな感じでクラッシュ&ビルドがとにかく多くて。どんな絵になるのか想像がつかないままシナリオを書くこともあったので、世界観をかためていくのにかなり時間がかかりました。

『超探偵事件簿 レインコード』小高和剛氏インタビュー。『ダンガンロンパ』制作陣が手掛ける最新作は2020年代を担う推理アドベンチャーゲーム!

――では、当初作っていたものから内容が変わったのですか?

小高内容というよりも、イベントシーンの見せかたを変えたことで、シナリオを調整した感じですね。3Dということもあって、当初は以前手掛けた『絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another_Episode』をイメージしながらシナリオを書いていたのですが、途中からイベントシーンをもっとシーケンスに作りたいなと思って。ようはテキストウィンドウで進めるのではなく、キャラクターが会話する形で進めたくなったのですが、そうするとテンポをよくするために、シナリオをもう少し削らないとダメだよねって感じですね。そういった細かい部分を調整しています。

 あと時間がかかった要因として考えられるのは、僕らが天井を考えずに原作の設定を作り始めたからかもしれません。開発がスタートして2年くらいはトゥーキョーゲームス主導で動いていたんですよ。シナリオやキャラクターデザイン、背景デザインを固めていったところ、これをすべて3Dで表現しようとするとけっこうな作業量になりそうで。途中からスパイク・チュンソフトも気づいたと思いますが、そのころには引き返せないところまで進んでいて(苦笑)。

――既成事実を作ってしまったと(笑)。

小高実績があったとはいえ、開発するスパイク・チュンソフトはたいへんだったと思いますし、実際に時間もかかっていますが、やりたいことを詰め込んで実現できているので、結果的によかったなと満足しています。

――本作は、ジャンルが“ダークファンタジー推理アクション”となっています。これは、『ダンガンロンパ』の“ハイスピード推理アクション”に通じるものがありますが……。

小高通じているだけですね(笑)。『ダンガンロンパ』を開発していた当時は、いまよりもっと強く感じていましたが、日本でアドベンチャーゲームというと、どうしてもテキストアドベンチャーがイメージされてしまいます。僕はいまだにアドベンチャーとは言いたくない気持ちがあるので、“ダークファンタジー推理アクション”というジャンルにしました。『ダンガンロンパ』のようなアクション要素も入れていますが、苦手な方でもクリアーできるように調整しています。

――『ダンガンロンパ』と言えば、タイトルにも仕掛けがありましたよね。本作のタイトルのロゴは一部の文字が反転していますが、やはり秘密があるのでしょうか?

小高そうですね……。文字が反転しているのは、怪しいことにしておいてください。

――あれ!? ということは、怪しくないんですか(笑)。

小高タイトルに関してお話できるのは、『レインコード』はもともと仮のタイトルだったということですね。企画書の段階から『レインコード』にしていて、舞台となるカナイ区は雨が降っているのと、主人公たちがレインコートのようなものを着ているので、『レインコード』にしたのですが、理由がシンプルすぎるからどこかで変わるかなと思っていました。でも、本作はタイトルがしっくりきすぎちゃって、後半になってタイトル案をいろいろ出したのですが、作品全体を表している言葉でもあるので、やっぱり『レインコード』がいいよねってことでそのまま決まった感じです。ただ、『レインコード』だけではちょっとさみしいという意見もあり、頭に“超探偵事件簿”を付けました。

『超探偵事件簿 レインコード』小高和剛氏インタビュー。『ダンガンロンパ』制作陣が手掛ける最新作は2020年代を担う推理アドベンチャーゲーム!
『超探偵事件簿 レインコード』小高和剛氏インタビュー。『ダンガンロンパ』制作陣が手掛ける最新作は2020年代を担う推理アドベンチャーゲーム!

セオリーを壊すために生まれた“探偵特殊能力”と“謎迷宮”

――主人公のユーマと彼に取り憑いている死に神ちゃんの特徴を教えてください。

小高僕の作品に登場する主人公は、最初は特徴があまりないように見せて、ストーリーを進めるうちに個性が強くなっていくようにしています。ユーマも同じように考えていて、当初のデザインはもう少し怖いというか、死神に取り憑かれているので目の下にクマがあったりしたのですが、もう少し特徴を抑えたくていまのようなデザインになりました。ちなみにユーマの髪型がおかっぱなのは、デザイン担当の小松崎が「おかっぱがいい」と提案してきたからです。

――ユーマの髪型には、小松崎さんの強いこだわりがあるのですね。死に神ちゃんは?

小高死に神ちゃんは『レインコード』を象徴するキャラクターなので、作品のコンセプトやプロットなどを見返したうえで、どのようなキャラクターにすべきか小松崎と相談しました。デザインには、『レインコード』でやりたかったことと、相反するいくつかの要素を詰め込んでいます。たとえば、かわいいけれど怖い一面があったり、シリアスな中にもユーモアがあったり、大人っぽいけれど子どもっぽさがあったりして。また、死に神ちゃんは謎を解くこと以外はけっこうズボラな性格で人間的な常識が欠けています。そんな彼女にユーマが振り回される、デコボコなコンビのバディモノになっていますね。

――彼女は名前が死神ではなく、“死に神”と名付けられているのもこだわりを感じます。

小高死に神ちゃんは謎迷宮に干渉する特別な力を持っています。皆さんが想像するような一般的な死神と差別化させるために、“死に神”ちゃんという名前にしています。

――死に神ちゃんは姿が変わるのも特徴的ですよね。

小高死に神ちゃんはユーマ以外の人間には見えないので、ふだんは魂のような姿になっているのですが、謎迷宮に入るときに人間の姿になります。謎を具現化して謎迷宮を探索するときに、本人も人型になるっていう感じですね。

『超探偵事件簿 レインコード』小高和剛氏インタビュー。『ダンガンロンパ』制作陣が手掛ける最新作は2020年代を担う推理アドベンチャーゲーム!

――キャラクターは、9人の超探偵も公開されました。彼らはユーマにとってどのような存在なのですか?

小高超探偵はみんな個性豊かというか、自由奔放な性格をしていて、ユーマにやさしく接するやつもいれば、冷たい態度のやつもいます。仲間であり、ライバルでもあるような存在なのですが、超探偵たちとの関係性もストーリーの見どころとなっています。

――超探偵と言えば、彼らが使う“探偵特殊能力”も気になります。詳細は今後明かされていくのかもしれませんが、どういった能力なのか、もう少し教えてほしいです……!

小高探偵特殊能力は、超探偵たちが鍛錬して身につけた事件を解決に導くための切り札です。あくまでも事件解決に役立つ能力しかないので、手を触れずに物体を動かすテレキネシスのような能力ではありません。実例ではないですが、嘘を見抜けるとか、小さな昆虫を操って情報収集を行えるとか、そういった能力を想像してもらうとわかりやすいかなと。

――仮に嘘が見抜けるとすると、推理モノとして成立させるのが難しいのでは……。

小高そういう懸念もあると思いますが、ユーザーを興ざめさせないように十分配慮してシナリオやトリック、能力を考えていますし、探偵特殊能力を活かした展開を生み出すこともできます。先ほどたとえに出した嘘を見抜く能力だと、容疑者が3人いてこの中に必ず殺人犯がひとりいたとします。でも、能力を使っても嘘をついている人はいない。それはなぜかというと、犯人すらも自分が殺したとは思っていないから、嘘はついていないんです。さらに、嘘を見抜けるキャラクターが嘘をついている展開も考えられますよね。

――確かに、嘘を見抜ける探偵特殊能力があるからこそ考えられるトリックですね。

小高あと、推理アドベンチャーゲームの捜査方法が毎回同じになってしまう問題も、なんとかしたいと思っていて。超探偵たちの探偵特殊能力の力を借りることで、事件のたびに異なる捜査が楽しめるようにしています。

『超探偵事件簿 レインコード』小高和剛氏インタビュー。『ダンガンロンパ』制作陣が手掛ける最新作は2020年代を担う推理アドベンチャーゲーム!

――ストーリーは街で事件を捜査するパートと、謎迷宮を攻略するパートをくり返しプレイしながら進行していくのでしょうか?

小高そうですね。舞台となるカナイ区は、東京23区プラスアルファぐらいの広さがあって、複数のエリアに分かれています。捜査パートでは、3Dで作られた街を探索しながら事件の捜査を行うのですが、ユーザーが迷わないようにする仕組みもちゃんと考えています。また、やり込み要素として事件の合間に超探偵と交流できるイベントや、多彩な依頼を解決するサブクエストもたくさん用意していますので、こちらもお楽しみに。

――推理アドベンチャーゲームにサブクエストがあるのは珍しいですね。カナイ区は、デザインも特徴的だと感じました。日本っぽさもあれば、海外っぽさもあって。

小高カナイ区のデザインは、小松崎や背景コンセプトを担当したうちのしまどりるといろいろ話し合いながら考えました。なぜかずっと雨が降り続いている街なので、排水パイプが特徴的なんですよ。排水パイクがゴテゴテとくっついている建物が多くて、そこにネオンを加えてみました。雨を降らせると街中が暗い感じになってしまうので、ネオンを追加して明るくしたいなって。ただ、アジアの雰囲気に寄りすぎて香港の九龍城砦というか、サイバーパンクな世界になるのは避けたくて、ファンタジーっぽさを加えてみました。そういった地道な調整を重ねていまのような街並になっています。現在公開されているのは、あくまでもカナイ区のほんの一部の地域だけなので、探索する場所によっては違った雰囲気が楽しんでもらえると思います。

『超探偵事件簿 レインコード』小高和剛氏インタビュー。『ダンガンロンパ』制作陣が手掛ける最新作は2020年代を担う推理アドベンチャーゲーム!

――謎迷宮ではどのような体験が楽しめるのか教えてください。

小高謎迷宮は死に神ちゃんが事件をもとに具現化したダンジョンで、ひとつの場所にとどまって事件を解決する構造を変えたくて実装しました。デザインや雰囲気、内部の構造は起きた事件によってガラリと変わるのも特徴で、たとえば密室がテーマの事件なら密室っぽいダンジョンになっていますし、車にちなんだ事件なら高速道路のようなダンジョンになるといったイメージです。言ってしまえば、事件ごとに謎迷宮を用意しているので、素材量はめちゃくちゃ多くなっていますね(苦笑)。このように構造は変わりますが、内部を進みながら凶器やアリバイ、犯人といった事件に関する謎をつぎつぎと解いていくという流れは同じです。

――なるほど。

小高謎が出題される形式はいろいろなパターンを用意していてアクション要素も入れていますが、バランスは調整していますし、スキルを装備して簡単にすることもできるので、アクションゲームが苦手な方もご安心を。謎解きの合間には謎怪人が何度も立ちはだかり、推理デスマッチを仕掛けてきます。そして謎迷宮を踏破すると、死に神ちゃんの何かしらの能力が発動して真犯人は罰を受けることになるという。

――謎怪人は、事件の真犯人になるのでしょうか?

小高いえ、事件の犯人が謎怪人として立ちはだかるわけではありません。謎怪人は、事件の真相を解明されたくない、事件の真相にたどり着いてほしくないと思っている人間が謎迷宮で具現化された存在です。カナイ区は、事件をすぐに隠蔽してしまうほどの巨大企業があるのですが、その企業の人間が謎怪人として登場するかもしれません。

――ユーマの前に立ちはだかるのは、事件の犯人だけではないのですね。

小高そうですね。謎迷宮の一連の流れに関しては、『ダンガンロンパ』ファンの方は、謎迷宮は学級裁判、謎怪人との推理デスマッチはノンストップ議論だとイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。ただ、同じ弾丸をモチーフにしてもつまらないので、本作では謎怪人の矛盾を“解刀”で斬るようにしています。ユーマが解刀を振るうシーンにも力が入っているのですが、9月13日に公開した動画にも収録していますので、まだご覧になっていない方はぜひチェックしてください。

超探偵事件簿 レインコード [Nintendo Direct 2022.9.13]

『超探偵事件簿 レインコード』小高和剛氏インタビュー。『ダンガンロンパ』制作陣が手掛ける最新作は2020年代を担う推理アドベンチャーゲーム!
『超探偵事件簿 レインコード』小高和剛氏インタビュー。『ダンガンロンパ』制作陣が手掛ける最新作は2020年代を担う推理アドベンチャーゲーム!

――推理デスマッチのユーマはかっこよかったです。3Dも力が入っていると感じました。

小高3Dだけではなく、超探偵の探偵特殊能力や謎迷宮を生み出すことで、『レインコード』は誰も見たことのない推理アドベンチャーゲームになったと自負しています。発売まで新しい情報を出していきますし、スーパーサプライズな施策も考えていますので、今後も注目してもらえるとうれしいですね。

――楽しみにしています! 発売日は2023年春となっていますが、現在の開発状況は……。

小高スタッフに60%ぐらいだと伝えろと言われました(笑)。

――(笑)。でも、この段階(※インタビューは2022年9月に実施)で60%ですと、けっこうギリギリな感じがしますが……。

小高そうなんですよ。ただ、RPGやアクションゲームと違って、アドベンチャーゲームの完成度を高めるのは演出なので、60%と言いながらも、調整していけば急激に上がっていくと思います。たとえば、謎迷宮で問題に入るときはもっとシームレスにしたいよねとか、会話シーンをもう少しドラマティックにしたいよねとか。ベースはほとんど組み終わっているので、今後はそういった調整の積み重ねをギリギリまで行っていく感じですね。『ダンガンロンパ』のスタッフで作っているので、今回も本当にギリギリまで作り込むことになると思います。たいへんではありますが、この時代に推理アドベンチャーゲームでここまでやれるのは、『ダンガンロンパ』を作ってきたスパイク・チュンソフトと僕らだからこそできることだと考えていて。『レインコード』をきっかけに、推理アドベンチャーをますます盛り上げていきたいですね。

『超探偵事件簿 レインコード』小高和剛氏インタビュー。『ダンガンロンパ』制作陣が手掛ける最新作は2020年代を担う推理アドベンチャーゲーム!