『バーフバリ 伝説誕生』と『バーフバリ 王の凱旋』を手がけたインド映画界の巨匠S.S.ラージャマウリ監督による最新映画『RRR』が2022年10月21日に公開予定だ。本稿では試写会に参加したレポートと、監督インタビューをお届けする。
まず、インド映画というジャンルについて。筆者は話題作はなるべく劇場で鑑賞してきたインド映画ファンだ。なじみのない方にインド映画の魅力を紹介するとしたら、「名作インド映画を観ると、エネルギッシュな物語を浴びてポジティブな気持ちになって劇場を出られます。栄養剤みたいな感覚でぜひ!」といった感じで勧めている。
この『RRR』に関しては、インド映画史上最大の製作費7200万ドル(約97億円)がかかった超大作なだけあって物語のスケール、歌唱パート、アクションなどの情報量は圧倒的。作品にエネルギーが満ちすぎていて栄養摂取どころか、脳が胃もたれ(?)してしまった。
舞台は1920年の反英独立運動の炎が各地で燃え上がるイギリス植民地時代のインド。英国総督に連れ去られた幼い少女を奪還するために、南インドの森からデリーにやってきた男ビームと、ある大志を持って総督指揮下の警察官となったラーマのふたりが主人公。友情や対立を経て、インドの歴史が自由と独立に向けて大きく動きだしていく……というのがあらすじ。
※以降ネタバレ注意!!!
以降は筆者の感想や監督インタビューで多少のネタバレがあるため、まっさらな状態で鑑賞したい方は一度劇場に足を運んでから記事に戻ってきて頂きたい。
好感度MAXで“肩車スクワット”イベント!?
本作は森から来た男ビームと、警察官ラーマのW主人公。どちらもヒゲで恰幅のよい青年。このふたりに加えてほかの恰幅のいいヒゲの男性がいるので冒頭は少々混乱した。
ストーリーは進み、筆者もパッとふたりを判別できるようになった。森の男ビームはおちゃめで人懐っこい、彼に兄貴と呼ばれるラーマは頼りがいのあるタフガイ。境遇は違うが互いに尊敬しあうふたりの関係をみているだけで幸せになった。
ふたりの関係性という点で、私はあるシーンに度肝を抜かれた。それは、音楽とともにふたりの日々がダイジェスト的に描かれる場面だ。食事する、楽しそうに語り合う、ビームがバイク、ラーマが馬に乗り並走。ここまではなんとなく理解できる。
シーン的に最高潮。アドベンチャーゲームでいう好感度MAX状態になると、小高い丘の上でビームがラーマを肩車して、スクワットをはじめた!
なんだこりゃと突っ込みたいが、ふたりはニコニコ笑顔。絵面はインパクト大だが、“ふたりの絆が強固”であることへの説得力はすさまじかった。疑問は湧きつつも不思議とこちらの口角が上がった。
ちなみに、ふたりは実在の人物A.ラーマ・ラージュ(Alluri Sitarama Raju)と、コムラム・ビーム(Komaram Bheem)がモデルとなっている。どちらもインドの独立運動の英雄として今も人々の尊敬を集める存在なのだが、実際にはこのふたりは出会うことはなかったという。 本作は、“ふたりがもし出会ったら?”という大胆な発想から誕生したフィクションなのだ。
超現実アクションを体感せよ!
本作の大きな魅力のひとつにアクションがある。まずは下記の写真をご覧いただきたい。
静止画であってもスケールのデカい何かが起こっていそうなことは察しがつくだろう。ハエが主人公という斬新なアイデアを映画にした『マッキー』をヒットさせたS.S.ラージャマウリ監督だけあり、フレッシュなアイディアを見事に映像表現に落とし込むVFX技術や演出が随所に光る。
いちばん関心したのが前述のなかよし肩車がアクションシーンにも応用された場面だ。肩車をして戦うのだからパッと見では、出オチ感があって思わず笑ってしまった。しかし、肩車アクションはめちゃくちゃ強い! 見応えがあった。超現実的ではあるが、リッチなVFX技術と「ふたりの主人公はマッチョだからできそう」などと妙に納得してしまった。肩車アクションが気になる方は是非本編で確認して頂きたい。
対照的に敵を組んで制して打撃を加える地味めなMMA的体技が披露される箇所もいくつかあった。こうした緩急があるため派手な場面がより強烈に印象づいているのだろう。
『RRR』はドカ盛りのエンタメ
キャッチーなシーンばかり紹介したが、それらに加えて植民地時代の暗いハードな描写から、ピュアな恋愛もあり、コミカルなシーンも多く、明るく楽しいダンス・歌唱パートも用意されている。
「そんなたくさんの要素を1本の映画で描けるの?」と疑問に思われるかもしれないが、安心していただきたい。上映時間は約3時間だ。演出と演技にやや暑苦しさを感じるが、ケレン味たっぷりで、筆者には間延び感はなく楽しめた。今年見た映画のなかでいちばんパワフルだった。気になられた方は栄養補給気分で『RRR』を鑑賞してみてはいかがだろうか?
「肩車で“ひとりの巨人”を表現した」S.S.ラージャマウリ監督インタビュー
試写会の後日、オンラインにてS.S.ラージャマウリ監督にインタビューする機会があったのでその模様をお届けする
S.S.ラージャマウリ
テレビ・ドラマ演出を経て、『STUDENT NO.1』(01)で映画監督デビュー。代表作『バーフバリ 伝説誕生』(15)、『バーフバリ 王の凱旋』(17) は、2作合計で世界興収3万7000 万ドル(約418億円)を達成。『RRR』では監督と脚本を務める。
ーー『RRR』見応えたっぷりでした。さっそく質問なのですが、VFX技術を用いたアクションは超現実的すぎると荒唐無稽すぎたり、違和感を感じてしまうことがあります。監督が考えるVFXを使う上での実在感を持たせる為の演出の工夫などがあれば教えて頂きたいです。
ラージャマウリ音楽や脚本、カメラなどすべての技術は映画のストーリーを伝えるための手段です。なのでVFXはあくまでもそのひとつの道具という認識です。そこを理解したうえで撮影時はあまりVFXの技術に囚われ過ぎないような現場づくりをこころがけています。
現場で走らせた車が動物になったり、LEDライトがトラの頭に成り変わったりします。ただ、役者さんには技術的な部分は詳しく説明しません。「こんなすごいテクニックを使っているのか」と圧倒されてしまうからです。なので、そういった技術に気を取られないで、落ち着いて貴方はやることをやればいいですよと伝えています。もしその場にトラがいたら、逃げたり恐れたりしますよね。まずはそういった表情を撮影することに集中します。
――肩車アクションに度肝を抜かれました。このアクションシーンについて詳しく教えてください。
ラージャマウリ作中では、ラーマとビームの友情が育まれてから対立となります。観る側はまたふたりがいっしょになることを期待しますよね。
負けることを知らない規格外の強さを持つふたりの再会。彼らが力を合わせたことを印象付けるために“ひとりの巨人にしたい”と思ったのです。手が二本、足が二本の巨人を描きたいとアクション監督に伝えてふたりで活躍するシーンを作ってもらいました。
――最後に、掲載する媒体がゲーム情報サイトファミ通.comということで、監督個人のゲームにまつわるエピソードなどあればお聞きしたいです。
ラージャマウリすごい昔の話ですがはじめてゲームをしたのは『スーパーマリオブラザーズ』で、大好きでした。あと、アラビアンナイト風のアクションゲーム『プリンス・オブ・ペルシャ』もプレイしていました。また、1ヵ月前に甥っ子がNintendo Switchを買ったので、親戚で集まってプレイしてたのしい時間を過ごしています。
ゲームの話でいうと、ゲーマーから神のように尊敬されているゲームクリエイターの小島秀夫さんが私の作品についてツイートをしてくれて、応援してもらえてとてもうれしかった。来日した際はぜひお会いして感謝を述べたいです。
「バーフバリー」のS・S・ラージャマウリ監督の最新作!!!これは観るしかない!長くても観る https://t.co/HRbECOqKzE https://t.co/FcROAPiuWZ
— 小島秀夫 (@Kojima_Hideo)
2022-06-18 11:16:06
『RRR』作品概要
- 監督・脚本:S.S.ラージャマウリ
- 原案:V.ヴィジャエーンドラ・プラサード
- 音楽:M.M.キーラヴァ―二
- 出演:NTR Jr./ラーム・チャラン
- 原題:RRR/2021 年/インド/テルグ語、英語ほか/シネスコ/5.1ch
- 日本語字幕:藤井美佳
- 字幕監修:山田桂子
- 応援:インド大使館
- 配給:ツイン