MyDearestとイザナギゲームズによって共同開発されているアドベンチャーゲーム『ディスクロニア:クロノスオルタネイト』(以下、『ディスクロニア:CA』)。VR対応のMeta Quest 2版に加え、Non-VRのNintendo Switch版もリリースされるという、異色の二刀流が話題となっている作品だ。

 そんな『ディスクロニア:CA』で、ディレクター、原案、メインシナリオを担当する末岡青氏へのインタビューをお届けする。

末岡 青氏(まつおか あお)

MyDearest所属。クロノスユニバースシリーズの前作『ALTDEUS:Beyond Chronos(アルトデウス: ビヨンド クロノス)』ではリードゲームデザイナーを担当。本作ではディレクター、原案、メインシナリオを担当している。(文中は末岡)

プレイヤー自身の行動によって物語が展開していくシナリオ

――本作は末岡さんの企画書からスタートしたとうかがっております。こちらのアイデアはいつごろ、どのような形で思いつかれたのでしょうか?

末岡『ディスクロニア:CA』のゲーム部分の土台は、前作『アルトデウス:BC』の開発終盤に思いついたもので、きっかけは当時、MyDearest代表の岸上健人から「次回作はどんな作品がいいと思う?」という雑談を振られたことでした。

 クロノスユニバースの作品はVRのインタラクティブストーリーであることが特徴のひとつですが、次回作についてはよりインタラクティブ性を増したい、という考えがプロデューサー陣にも自分にもありまして。それに探索オブジェクトに物語の断片を散りばめておき、プレイヤーが能動的に探索をすることで徐々に真相が明らかになっていくようなストーリーベースの探索型アドベンチャーを作りたいと個人的に思っていました。クロノスユニバースの文脈でこれらを実現するためにはどうすればいいかと考えた結果、生まれたのが『ディスクロニア:CA』です。

 ストーリーの大枠はじつは数年前から考えていたSFをベースとしており、世界観やメインキャラクターの一部はそのままに『ディスクロニア:CA』のゲーム性に合うようミステリー仕立てに改変しました。

――シナリオを書くうえで、とくに大切にしていることや気をつけていることはありますか?

末岡人によってシナリオへのアプローチは違うと思うのですが、わたしは「どのようなテーマの物語なのか」を最初に決めることをとくに大事にしています。テーマが決まればおのずと世界観や主人公の性質が決まると思うので。“どのようなテーマの物語なのか”を最初に決めることをとくに大事にしています。

 海外のストーリーベースのアドベンチャーを遊んでいると、最終的にプレイヤーが受け取ることになる“物語のテーマ”と“世界観”、“主人公の性質”の3つが密接に紐づいていて、不可分であると感じることがよくありました。ここで言う“主人公の性質”は、性格などのことではなく、おもにプレイヤーキャラクターとしてのロールやスキルといったゲームに直接関連するもののことです。

 物語のテーマを軸に世界観を構築し、その世界の中でプレイヤーキャラクターのロールやスキルが活きるような形のプロットを作ることで、プレイヤー自身の行動によって物語が展開していくシナリオを構築できると思っています。難しいですが、『ディスクロニア:CA 』ではそこに挑戦してみました。

『ディスクロニア:CA』ディレクター末岡青氏インタビュー。VRゲームでしか描けない物語を追求した先に

――シナリオの制作インプットのために、会社に絶版のSF小説がよく届くと岸上さんもおっしゃっていました。クリエイターとしての考えかたや作品作りに影響を与えた作品はありますか?

末岡高校生のころに読んだアーシュラ・K・ル=グウィンの『所有せざる人々』から受けた影響はとても大きかったです。

 このSFは二重惑星のウラスとアナレスを舞台としたユートピア小説です。荒涼とした大地の上ですべての住人が協力し合いながら生きている惑星ウラスと、その対極にある資源に富んで煌びやかでありながら貧富の差が激しい惑星アナレス。このふたつの惑星をつなげるために、主人公のシェヴェックが生まれ育ったウラスからアナレスにひとり旅立つという、そんな彼の半生を描いた物語です。

 この小説を読んで以来、私もシェヴェックが考え続けたように「ユートピアって何だろう?」と考え続けることになってしまいました。以来、ユートピア小説は好きな物語のジャンルのひとつです。『ディスクロニア:CA』にも確実に影響を与えていると思います。

――なるほど。そんな末岡さんは、原案・メインシナリオ以外に、ディレクターも担当されています。制作全体でとくにたいへんだった作業工程、逆にスムーズだった工程はありましたか?

末岡シナリオ制作とエピソード1の開発が並行して動いているときが、いちばんたいへんでした。シナリオはエピソード2、エピソード3とどんどん書き進めていくのですが、開発に顔を出すとエピソード1のゲーム部分について意見を求められるため、頭の切り換えがとにかくたいへんで……。

 『ディスクロニア:CA』はシナリオにさまざまな謎を散りばめている都合、ちょっとしたことで設定矛盾も起こりがちだったりするので、シナリオとゲームパートで齟齬が起きないよう調整するのがたいへんでした。

 逆にスムーズだったのはグラフィックまわりです。Meta Quest 2などのVRのHMDは、まず検証してハードの性能限界を知るところからスタートするので、グラフィックの調整には時間がかかる覚悟をしていました。ただ、アートチームに頼れるメンバーが揃ったおかげで想定よりもかなりスムーズに進みました。

VR特有の操作をJoy-Conで再現

――『ディスクロニア:CA』は、VRとNon-VRの両方での展開ということでも注目を集めています。Non-VRでリリースするにあたってイザナギゲームズの梅田さんが主導されているとうかがっていますが、これに際して末岡さんのほうから“こうしてほしい”という要望を出されたりはしましたか? また、これだけは譲れなかったという部分はありますか?

末岡岸上と私からは、Joy-Conを使った操作を組み込みたいという話はかなり初期のころからしていました。

 VRではごく当たり前に世界の中に没入して両手を使った探索ができるので、その体感をNon-VR版でも再現したいと考えていました。Joy-Conを使う話については、梅田さんもすぐ「それはおもしろい」とおっしゃられて、盛り上がりました。

――VRでのステルスアクションについて、末岡さんがクリアーできずに苦労していたというお話をうかがいました。こういったインタラクティブな部分の調整はたいへんでしたか?

末岡ステルスは本当にたいへんでした……。当初は瞬間的な判断力を求めるFPS寄りの調整になっていました。VRではシューターというのは人気があるジャンルですし、テストプレイでは「これはこれでおもしろい」という意見もありましたが、『ディスクロニア:CA』でそのような調整をしてしまうと、プレイヤー側が銃などの攻撃手段を持たないことに不満が出ると思いましたし、目指したい体験からも離れてしまうので、担当のゲームデザイナーやエンジニアと話しつつステルスとしてのおもしろさを追求する方向に振り切って調整を入れることにしました。

 従来のステルスゲームは三人称の俯瞰視点ものが多いですが、VRのステルスは基本的に一人称になるので、プレイヤーへの情報の与えかたを工夫しないといけません。敵がこちらを見ているとどうやって伝えるか、目標物にどのように気づいてもらうかなど、深夜までアイデアを出し合いました。おかげでVRならではの臨場感のあるステルスアクションになったと思います。ぜひ楽しんでいただけるとうれしいです。

『ディスクロニア:CA』ディレクター末岡青氏インタビュー。VRゲームでしか描けない物語を追求した先に
『ディスクロニア:CA』ディレクター末岡青氏インタビュー。VRゲームでしか描けない物語を追求した先に

――どんなものになっているのか楽しみです。VRの映像表現も注目を集めていますが、とくにこだわったポイントがあれば教えてください。

末岡動画も公開されている拡張夢については、海の中に沈んでいる感覚、心地よい眠りの中にいると感じるような空間になるようこだわりました。アートチームのこだわりも随所に盛り込まれていて、クジラが1日で実装されたり、まばらだった魚群がいつのまにか5000匹になっていたりと、各自のアイデアを生かして短期間でブラッシュアップしていきました。

 あと、もうひとつ、こだわった点としてリリィの動きがあります。リリィはつねにプレイヤーの側にいるキャラクターですし、かわいく飛び回ることでプレイヤーの視線をある程度誘導することができるので、VRにおいてとても重要でした。社内でもとても愛されているキャラクターで、リリィには新しい機能やモーションがどんどん追加されていきました。新しいロケーションに行ったときのリリィの動きにはとくにこだわっています。

『ディスクロニア:CA』ディレクター末岡青氏インタビュー。VRゲームでしか描けない物語を追求した先に
『ディスクロニア:CA』ディレクター末岡青氏インタビュー。VRゲームでしか描けない物語を追求した先に

――リリィ以外で個人的に気に入っているキャラクターがいれば教えてください。

末岡個人的にはノエルとアイリが気に入っています。詳細な理由はネタバレになりそうなので控えるのですが、『ディスクロニア:CA』のキャラクターたちは全員大なり小なり秘密を抱えていまして、ノエルとアイリも意外な情報をにぎっていたりします。なかなか本心を明らかにしないふたりですが、気になる方は探りを入れてみてください。

――ほかに「ぜひここを注目してほしい!」というポイントを教えてください。

末岡『ディスクロニア:CA』は7日間の物語です。都市の状況や各キャラクターの抱えている事情が時間の経過とともに変化していきます。見慣れたはずの場所や人が変化していく様子や、それぞれの抱えている秘密がプレイヤー自身の手によって明らかになっていく過程を楽しんでもらえたらと思っています。三章配信で2022年から2023年にかけてリリースしていきますが、エピソードごとに驚きを感じてもらえるように作っていますので、このゲームの始まりと終わりをぜひ見届けてもらえるとうれしいです!

『ディスクロニア:CA』ディレクター末岡青氏インタビュー。VRゲームでしか描けない物語を追求した先に
『ディスクロニア:CA』ディレクター末岡青氏インタビュー。VRゲームでしか描けない物語を追求した先に
ノエル・ガネット
声:上村祐翔
アイリ・クローバー
声:芹澤 優