『東京クロノス』や『ALTDEUS: Beyond Chronos(アルトデウス: ビヨンドクロノス)』(以下、『アルトデウス: BC』)といった数々のVR作品を世に送り出し、ゲーム業界におけるVRの最先端を走ってきたMyDearest。

 代表取締役社長として同社を率いる岸上健人氏は、業界の現状に一石を投じるような「#メタバースくそくらえ」を標語に掲げたゲーム企画プロジェクトを立ち上げるなど、VR業界に対して熱い想いを抱いていることでも知られている。そんなMyDearestは、イザナギゲームズとアライアンスを締結し、最新作『ディスクロニア:クロノスオルタネイト』(以下、『ディスクロニア:CA』)を共同で開発中だ。

 イザナギゲームズといえば、代表取締役社長の梅田慎介氏のプロデュースで『デスカムトゥルー』や『冤罪執行遊戯ユルキル』(以下、『ユルキル』)といった独自性が強いアドベンチャーゲームを世に送り出してきたメーカー。新進気鋭の両社、両プロデューサーがどのようなゲームを作るのか、楽しみにしているファンも多いことだろう。

 そんな注目作『ディスクロニア:CA』は、 “遥か未来の犯罪捜査”を体感できるアドベンチャーゲーム。夢によって守られる楽園、海上都市“アストラム・クローズ”を舞台に、プレイヤーは“過去を書き換える力”を持つ特別監察官・ハルとして“起こるはずのなかった犯罪”の解決に挑むことになる。

 もちろん、Meta Quest 2で発売される本作では、MyDearestの十八番であるVRによるインタラクティブな体験が楽しめるとのことだが、一方でVRを使わないNintendo Switch版の展開も予定されている。VRとNon-VR。果たしてこの両立は可能なのか? 新たなチャレンジと言える展開だ。

 気になる要素が盛りだくさんの『ディスクロニア:CA』について、岸上氏と梅田氏にインタビュー。前代未聞の多機種展開やアライアンス締結のきっかけ、作品のオススメポイントなどについてもたっぷりと語っていただいた。

岸上健人氏(きしがみ けんと)

MyDearest代表取締役社長。VRゲームの開発を主軸にしたMyDearestを2016年に設立。会社を経営しつつ、自身もプロデューサーとして『アルトデウス: BC』や『東京クロノス』などに参加。(文中は岸上)

梅田慎介氏 (うめだ しんすけ)

イザナギゲームズ代表取締役社長。2017年に “突き抜けたゲーム体験を世界中に届ける”というコンセプトでイザナギゲームズを設立、自身もプロデューサーとして作品作りに関わる。代表作は、『デスカムトゥルー』や『冤罪執行遊戯ユルキル』、『ワールズエンドクラブ』など。(文中は梅田)

VRとNon-VRでそれぞれのよさを生み出す

――『ディスクロニア:CA』はMyDearestとイザナギゲームズ両社による開発作品です。まずは両社がアライアンス締結を行った意図や狙いを教えてください。

梅田『東京クロノス』や『アルトデウス: BC』を遊ばせてもらう機会がありまして、そのときにMyDearestという会社にも興味が湧いたんです。それでTwitterのDMを使って岸上さんに「ぜひ一度お話をさせてください!」とご連絡を差し上げました(笑)。

岸上僕もイザナギゲームズさんの『デスカムトゥルー』を楽しく遊ばせていただいていましたし、世界に向けてもっとも日本らしいアドベンチャーゲームを作っていたクリエイターのひとりが梅田さんだと認識していたので、どこかでお話をするタイミングがないかとはずっと思っていたんです。だから、まさか直接DMでご連絡をいただけるとは……ビックリしましたね(笑)。

梅田その後、オンラインでミーティングをしたらすっかり意気投合しまして。「ぜひともいっしょに作品を作りたいです」と切り出したところ、ちょうど岸上さんのほうで次回作のことを考えていると。

岸上2021年の初頭くらいだったでしょうか。ディレクターの末岡(青氏。原案とメインシナリオも担当)による本作の企画書がありまして、まさに企画が動くか動かないかくらいの、これ以上ないタイミングで梅田さんから連絡をいただきました(笑)。

――VR前提のMeta Quest 2版と、VRを使用しないNintendo Switch版の同時展開というのは画期的ですね。

岸上もともとVRだけ作るつもりだったんですけど「Switchでもリリースしませんか」というお話を梅田さんからいただき、ほかでは見られないような二刀流のチャレンジに興味が湧いたんです。これが成功したら業界全体にも可能性が広がるぞと。

梅田MyDearestさんの『東京クロノス』や『アルトデウス: BC』にはVRならではの魅力が詰まっていると思うのですが、そもそもストーリーやキャラクター性も含めておもしろいのがMyDearestさんのタイトルだと感じていました。

 当時VRを遊ぶユーザーはコアユーザーが多かったので、そうではないコンシューマーのライトなユーザーにもそのおもしろさを伝えたくて。その結果、VRに興味を持つユーザーも増える……みたいなサイクルを作れたら理想的だと考えています。

『ディスクロニア:CA』岸上健人氏×梅田慎介氏インタビュー。両プロデューサーがVRとSwitchの“二刀流”展開に託した想いとは!?

――開発は両社で分担を?

梅田はい。VRは岸上さんにお任せしつつ、僕らはそちらで開発されたものをSwitchに向けて最適化する作業を担っています。VRの体験というのはそれだけでもすごく価値がありますが、Switchに落とし込んだときにもSwitchならではの価値を出せればと考えていて。

 たとえば、同じ一人称視点でもSwitchだったらある程度俯瞰で見られるので、操作するおもしろさや画面としてのおもしろさがあるはず。さらに、プレイ中の画面をほかの人も見ることができますし、いわゆる“ゲーム的な楽しさ”に特化できるのがSwitch版のよさだと考えています。

岸上梅田さんがおっしゃられた点も踏まえて、『東京クロノス』や『アルトデウス: BC』のようにビジュアルノベルとしての側面を前面に出すという形ではなく、純粋なアドベンチャーゲームという形で制作しようということになっていきました。

――なるほど。ちなみに、作品の世界観は『東京クロノス』や『アルトデウス: BC』から地続きと捉えていいのでしょうか?

岸上はい。地続きの世界観です。とはいっても、『アルトデウス: BC』のさらに未来の物語ということでテクノロジーレベルも違いますし、舞台となっている場所も違います。全体的に大人っぽい雰囲気を感じてもらえるんじゃないでしょうか。

梅田MyDearestさんのファンは作品の歴史の流れも含めて楽しんでいらっしゃると思いますし、僕自身もひとりのファンとしてイザナギゲームズが関わったことでそこが損なわれるのは避けたかったんです。なので、“精神的続編”というか、進化したMyDearest作品をファンの方に届けるという意識は失わないようにしていました。タイトルに“クロノスオルタネイト”と入れたのもそういう意識からです。

岸上そう! あの部分の名付け親は梅田さんです。

梅田いくつか候補をいただいた中から選ばせていただいたという形ではありますけど(笑)。

岸上そんな『ディスクロニア:CA』について、改めて作品の大きな特徴を紹介させてもらうと、主人公が過去に宿った誰かの記憶を見たり、その過去を改変できたりもする“メモリーダイブ”という力を持っているという部分です。主人公は左手でこの能力を使うことで謎を解いていくのですが、Meta Quest 2、Switchともにコントローラがふたつあることを活かして、自分の手で能力を使っているような臨場感をユーザーの皆さんに味わってもらえるようにこだわっています。

――Switch版の場合はコントローラを本体から外してプレイすることで、より臨場感が増して楽しめるようになると。

梅田そうですね。もちろん、カジュアルに遊びたいという方に向けて、コントローラを接続したままでも遊べるようにしています。

岸上このメモリーダイブを発案したディレクターの末岡は「物語は誰かと視点を共有するためにある。それにおいて、他人の過去を体験できるゲームやVRというメディアは最強である。だからメモリーダイブをやりたい」ということをずっと言っていました。

梅田末岡さんのアイデアを聞いて、僕もおもしろいなと感じました。たとえば、メモリーダイブをしたときにその記憶の持ち主が少年だった場合、背も低くなるんですよ。するとユーザーの目線も少年に合わせて低くなる。これはVRならではの体験ですし、「そういえば、子どものころはこうやって大人を見上げていたなぁ……」みたいに自分の記憶ともリンクする部分があると思います。

岸上じつは『東京クロノス』でもそういう要素を取り入れている部分があって、まさにいちばん評判がよかったポイントもそこでした。手応えがあったので、僕自身はおもしろいシステムになるということはわかっていましたが、末岡は『アルトデウス: BC』の開発時からの入社なのでそのことを知りません。それなのに自然とそういうアイデアにたどり着いていたので「この人はやらなくてもそういうことがわかるんだ」と感心した記憶があります。

『ディスクロニア:CA』岸上健人氏×梅田慎介氏インタビュー。両プロデューサーがVRとSwitchの“二刀流”展開に託した想いとは!?

プロットを知っていても感動必至!? 奇才の手がけるシナリオ

――シナリオ全体の構築作業も、末岡ディレクターが中心に立っているという感じでしょうか?

岸上そうですね。ストーリーについては、僕も梅田さんもプロデューサー的な関わりかたをしているイメージです。逆に末岡は頭の中にものすごい世界観を持っているタイプで、日ごろからゲームに対する愛情を持っていることが伝わってきますし、それと同時に絶版になったSF小説を読み漁るような人物でもあります。毎週会社にSF小説が届くんで間違いありません(笑)。とにかくインプットの手法からして確立されたクリエイターなので、その世界観を否定せずにどうやってわかりやすく世に出すかを考えるのが僕らの役目だと思っています。

――岸上さんはその才能を高く買っているわけですね。

岸上それはもう。実際、僕も末岡が書いた『ディスクロニア:CA』のラストシーンのシナリオをカフェで読んでボロ泣きしてしまって……。プロットとかも知っていたのに嗚咽を止めることができず、店員さんに心配され、「大丈夫です。感動しただけなので……」と絞り出すのがやっとなぐらいでした(笑)。

 末岡はそれほどに稀有な才能の持ち主ですし、明確にやりたいことも持っているタイプなので、僕らはそれを支えるだけ。そのうえでゲームとしてロジックをつける必要が出てきたときにはSF考証の高島雄哉さんにお力添えいただいています。

梅田僕もこれまで日本の名だたるゲームクリエイターの方々とごいっしょさせていただきましたが、その経験を踏まえても末岡さんはすごい才能の持ち主だと感じましたね……。そもそもご本人が若くてミステリアスで魅力的な方なので、この作品を通じて才能が広くユーザーに知れわたったらいいなということを岸上さんとも話していました。ゲームクリエイターとして有名になったら、ふたりで「俺たちが育てたんだよね~」ってちびちびお酒を酌み交わそうと(笑)。

岸上そんな会話がいつも出てくる楽しい現場です(笑)。

――こちらにも楽しい空気感が伝わってきました(笑)。

岸上マジメな話に戻すと、MyDearestはVRの開発経験はあるけれどSwitchの開発経験がない会社なので、プロデューサーとして確固たるものを持っている梅田さんの視点からストーリーやゲームデザインの意見をもらえるのはありがたいんですよ。

 いまでもVRを遊ぶユーザーにはハードコアゲーマーが多いのに対して、Switchはライトなユーザーが多いので「ここ、わかりにくいんじゃないですか?」とか「さすがに難しすぎませんか?」と指摘していただけるのは非常に助かります。

梅田岸上さんたちがVRで作っているゲームも現段階で操作性がよくておもしろいんですけど、Switchに落とし込んだときにもっとわかりやすくできる部分もあると思っていたので、そういう部分は意見を出させていただきました。

――そのような形でいっしょに開発を進めていて、お互いのクリエイターとしての印象が変わった部分はありますか?

梅田岸上さんは“少年マンガの主人公”みたいにアツい方だとわかってきました。まさかこんなに濁りがなくてまっすぐな人がいるのかと。MyDearestに入社される方の気持ちがよくわかります(笑)。

岸上褒められすぎるのも恥ずかしいですね(笑)。逆に僕のほうから梅田さんに対して感じたのは、想像していた以上にクリエイターリスペクトがすごい方だいうこと。お互いにプロデューサーかつ会社の社長なので想いがぶつかることもあるんですけど、そういうときでも末岡の意見をしっかり尊重してくれますし、作品にとって何がイチバンいいのかもつねに考えていらっしゃるので。僕のような若手に対しても対等に接してくださるので、正直やりやすいです(笑)。たぶん皆さんが思っている以上に仲よくさせてもらっているんじゃないかと(笑)。

梅田岸上さんのほうから想いがぶつかるという話はありましたが、意見が真っ向からぶつかるということはほとんどありません。もちろん、プロデューサー視点で「こうしたほうがよりキャラクターが魅力的に見えるのではないか」といった意見は出させてもらっていますし、それに対して末岡さんから「いえ、こうしたいんです!」と説明を受けることはあります。そういうときは僕のほうが一度引くんですけど、つぎに来たときにそこがさりげなく修正されていたりもして(笑)。

岸上末岡もちゃんと話を聞いていますからね(笑)。

梅田こちらとしては絶対に調整してほしくて言っているのではなく、何がベストかを考えてもらえるキッカケになればいいのかなという感じなので。それで問題ありません。

岸上梅田さんのこういった姿勢がまさにクリエイターリスペクトなんです。意見がぶつかるにしてもクリエイター視点どうしだとケンカになりがちなのに対して、梅田さんはあくまでプロデューサーという立場からおっしゃってくださるのでありがたいです。あと、梅田さんはたいへんな時期にやってきてクリエイターを労わってくれるのも助かります(笑)。

梅田むしろ、それしかしていません(笑)。ちなみに、個人的にはMyDearestさんのクオリティーラインの上げかたが本当にすごいのでビックリしました。これは苦労されているだろうなと……。

岸上どの作品でもそうなんですが、よくも悪くも、短期間でのクオリティーの上げ幅はすごいと思います(笑)。

――短期間でそこまで劇的な変化が?

梅田はい。今回はVRの街並みを探索できるというのが本作の新鮮な体験だと思っていて、そのクオリティーがみるみる上がっていくことに驚きました。なかでも“拡張夢”の中で5000匹の魚群が飛び交うパノラマを実現したのはすごい。

『ディスクロニア:CA』岸上健人氏×梅田慎介氏インタビュー。両プロデューサーがVRとSwitchの“二刀流”展開に託した想いとは!?

岸上魚群に関しては、Meta Quest 2でできるグラフィック表現の中でも世界的に見て最上級だと思います。途中から参入してくれたグラフィックエンジニアがとにかく優秀で、不可能だと言われていた技術を、ハードウェアをめちゃくちゃ解析することで実現してくれました。しかも魚も自律的に動いていて、触ろうとすると逃げるんですよ。こちらからそういう仕様にしてほしいとは言わなかったのに、気がついたらそんなことになっていて驚きました。

――そんなことが(笑)。MyDearestの過去作品のファンにとって、作り込まれたVRの街並みを探索できるというのは期待感も大きい反面、「どうなるんだろう?」という不安感もあるかと思います。その話を聞くと期待しても大丈夫ということでしょうか?

岸上そうですね。かなり試行錯誤しながら開発しましたので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います!

海外を意識してインタラクティブに

――さて、ゲームシステムについてももう少しうかがっていきたいと思います。本作はアドベンチャーゲームという部分を強く押し出していますが、ゲームシステムを中心に俯瞰したときに『ディスクロニア:CA』の特徴はどんな部分にあると考えていらっしゃいますか?

岸上先ほど話したメモリーダイブの仕組みは、これまでに多くのゲームが取り入れてきた“ザッピング”システムと通じる部分があるので、“日本のアドベンチャーゲームの文法”っぽいとは思います。一方で本作はインタラクティブ性を重視する“海外のアドベンチャーゲームの文法”と混ざっているのも特徴なのではないかなと感じています。

梅田日本ではビジュアルノベルが好まれますが、海外ではたとえシナリオがおもしろくても、ゲームならではのインタラクティブ性がないとユーザー層が広がりづらい傾向があります。『ディスクロニア:CA』のメモリーダイブに関する操作感や、VR空間の探索、敵から身を隠す“ステルスアクション”などはその点を意識して作っていますね。

岸上梅田さんは『ユルキル』のシューティングゲームパートも海外ウケがいいっておっしゃっていましたよね。

梅田そうですね。『ユルキル』はアドベンチャーゲームとシューティングゲームを組み合わせた、まさにインタラクティブ性を意識したタイトルなんですが、じつは北米では日本の4倍か5倍ぐらい売れています。海外のマーケット自体も大きくなってきているので、そういった感じで海外のユーザーが楽しめるように意識しなければならないということを改めて実感しました。まぁ、あのシステムは行きすぎ感もありますけど(笑)。

岸上おもしろかったですけどね(笑)。

梅田『ユルキル』に関して補足するなら、最後まで遊ぶと「あぁ、シューティングゲームを組み合わせていたから、こういう演出ができるんだな!」と納得してもらえた部分があったのかなと……。それと同じように、『ディスクロニア:CA』でもステルスアクションをゲームに盛り込むこと自体にしっかりした意味を設けることが大切だと考えています。

――なるほど。一方で、インタラクティブ性が強い要素がゲームの根幹に関わるとなると、難度調整もたいへんそうですが。

岸上ステルスアクションもそこはすごく難しかったですね。開発段階では、プログラマーが余裕でクリアーできるのに、肝心の末岡がクリアーできなかったりもして(笑)。ゲーマーにとってはアクション性を楽しめて、一方で苦手な方でもクリアーできるような塩梅を模索しました。ちなみにVR版がエピソードごとの配信になっているのも、僕が海外のアドベンチャーゲームが好きすぎてその影響を受けたからで(笑)。社内では反対されたんですが「どうしてもやりたい!」と言い続けて、そこに梅田さんが賛成してくださったことでようやく実現できたので、ものすごく感謝しています(笑)。

梅田日本のユーザーの中には、エピソード配信に対してあまりいい印象を持っていない方も多いので。スケジューリングも含めてしっかりと説明する必要があると思いましたが、岸上さんくらいまっすぐな人が主導して、なおかつ章ごとに切り取ってもおもしろい作品になっているので「いける!」と感じました。Switch版は全エピソードを収録しての販売となりますが、そこも踏まえて全体を盛り上げていければいいなと思っています。

『ディスクロニア:CA』岸上健人氏×梅田慎介氏インタビュー。両プロデューサーがVRとSwitchの“二刀流”展開に託した想いとは!?
『ディスクロニア:CA』岸上健人氏×梅田慎介氏インタビュー。両プロデューサーがVRとSwitchの“二刀流”展開に託した想いとは!?

イケオジからマスコットまでこだわり抜いたキャラクターデザイン

――デザイン面では本作でもLAMさんによるキャラクターデザインが注目を集めていますね。LAMさんには今回、どのようなオーダーをされているのでしょうか?

岸上ありがとうございます。LAMさんには、『東京クロノス』や『アルトデウス: BC』に比べて、今回は年齢感を上げようというお話をさせていただきました。これは海外のユーザーに向けて意識した部分もありますし、LAMさんにも作風を大人っぽい感じにすることに共感いただきました。そして、末岡の手法も相まってこのような形になったんです。ちなみに梅田さんは“イケオジ”(※イケてるおじさん)にめちゃくちゃこだわっていて、「イケオジは作品にイチバン大事である!」というのが梅田さんの本作におけるもっとも強い主張だったような気がします(笑)。

梅田やっぱりイケオジがうまく効いている作品が僕も好きなので。LAMさんのデザインでイケオジが魅力的なキャラクターになっていたらユーザーも喜んでくれるんじゃないかと思ったんです。それ以外の部分に関しては、お任せしても絶対によくなるということがわかっていたので「イケオジはどうなってるの?」とひたすら言い続けました(笑)。

――梅田さんの考える“イケオジの魅力”とは?

梅田ただ年齢が上というだけではなく、経験を重ねてきたからこその深みがある点ですね。そこをうまく出せたらいいなと。

岸上そんな梅田さんのこだわりから生まれたのがケイス・トウザキ。ミステリーというジャンルで、素晴らしいデザイン、声が諏訪部順一さんという、すべてが調和したイケオジです(笑)。

『ディスクロニア:CA』岸上健人氏×梅田慎介氏インタビュー。両プロデューサーがVRとSwitchの“二刀流”展開に託した想いとは!?
ケイス・トウザキ

岸上そして、そんなイケオジとは対極的なポジションでいい味を出してくれているのが、マスコットキャラクターのリリィ。パズルや探索で迷ったときにもナビゲートしてくれますし、シリアスな作品の中でも唯一といっていいぐらい明るいキャラクターです。社内の人気もすごくて、僕が知らないあいだに勝手にアニメーションが増えていました(笑)。

 魚群に関する技術もそうですけど、僕らが知らないところで勝手にアップデートされている部分がこの作品は多いと思います(笑)。

『ディスクロニア:CA』岸上健人氏×梅田慎介氏インタビュー。両プロデューサーがVRとSwitchの“二刀流”展開に託した想いとは!?
リリィ

――ちなみにマスコットキャラクターを出すということは最初から決まっていたんでしょうか?

岸上末岡も最初からマスコットを出したいと言っていましたね。探索がメインとなる以上、ナビゲーター役のキャラクターはいっしょにいる時間がいちばん長くなるので重要なポジションとも認識していました。幸い、LAMさんはマスコットをデザインするのが得意で学生時代によくデザインされていたらしく、こんなにもかわいいキャラクターをスッと描いてくださいました。

梅田キャラクターについて言うなら、あとはやっぱりシステリアですかね。

岸上そう、システリア! ヒューマノイドということでデザインも尖っていて、今作ではもっともLAMさんらしいキャラクターかもしれません。

梅田物語的にもカギを握るひとりですし、儚さを感じるデザインの彼女がいることで紡がれるストーリーもあるので、ぜひとも注目してみてください。

『ディスクロニア:CA』岸上健人氏×梅田慎介氏インタビュー。両プロデューサーがVRとSwitchの“二刀流”展開に託した想いとは!?
システリア

――キャラクターに関しては、声優陣のキャスティングも豪華です。

梅田単純に顔ぶれが豪華というだけではなく、いざ声を聞いてみると「これはもうこの人しかいない」と感じるようなキャラクターに合ったキャスティングになったと思います。ハル・サイオン役の千葉翔也さんなんかは第一声を聞いた瞬間に「あっ、これはハルだ!」という空気が現場にできあがったので(笑)。

岸上梅田さんがおっしゃったように、そのキャラクターに合っているかどうかが第一。一方で、MyDearest的にはこれまで作品に出演してくださったキャストさんが揃っているので、オールスター感もあるかと思います。

 たとえば『東京クロノス』で櫻井響介役だった上村祐翔さんはノエル・ガネットを演じてくださいましたが、こちらはヒロインであるマイア・ガネットの弟ということで響介とはまったく雰囲気の違う役どころ。上村さんが演じてくださったことで少年らしさと弟としてのかわいらしさが同居するようになったといいますか。

梅田そこも魅力ですよね。

岸上彼もまた人気が出そうだなと(笑)。MyDearestでは中性的な作品を出しがちな傾向があるんですけど、LAMさんは中性的なデザインもすごく得意にされているのでそういう意味でもハマった気がします。

出演声優陣

  • ハル・サイオン:千葉翔也
  • マイア・ガネット:和氣あず未
  • ノエル・ガネット:上村祐翔
  • システリア:ファイルーズあい
  • アッシュ・シェパード:小林裕介
  • ケイス・トウザキ:諏訪部順一
  • アイリ・クローバー:芹澤 優
  • エレイン・コーディア:石川由依
  • アルバート:速水 奨
  • リリィ:鬼頭明里

――いままでインタビューでお話しいただいた要素以外で、おふたりから「ぜひここをチェックしてほしい!」という作品の見どころはありますか?

梅田サウンドディレクターの郡陽介さんによるサウンドの素晴らしさにもぜひ注目していただきたいです。星街すいせいさん(ホロライブ)による歌唱入りの曲も入ることで、魅力的な音を感じていただけると思います。

岸上こちらはまだ一切情報は出していないんですけど、VR内のオープニングがものすごくカッコいい仕上がりになっています。

――『東京クロノス』や『アルトデウス: BC』のオープニングもめちゃくちゃ評判がいいですよね? 自分自身、「VRでオープニング映像を作ると、こんなことになるんだ!」とものすごく感動したことを覚えていますが、それ以上であると?

岸上『東京クロノス』や『アルトデウス: BC』のOPも好評でしたが、それとはぜんぜん違う“ゲームらしい文法”で作られていますし、個人的にはいままででイチバンのクオリティーだと思っているのでそこもぜひ注目してください。

――楽しみにしています! 最後に、改めて本作への意気込みをお願いします。

岸上過去の作品と地続きのタイトルではありますが、イザナギゲームズさんと組ませていただいたことでMyDearestの作品が確実におもしろくなったということは間違いありません。世界中を喜ばせる作品を日本から発信したいという気持ちは僕と梅田さんで共通しています。VRもまだ黎明期ではありますし、ファミコンやプレイステーションのように再び日本のクリエイターが世界を席巻する時代を呼び戻せたらいいなと……。

梅田VRはあくまで手段であって、僕らの目的はひたすらいいコンテンツをユーザーに届けること。そういった想いから生まれた『ディスクロニア:CA』はいろいろなユーザーが楽しめる作品になっていると思います。

岸上SwitchとVRで同時に展開するという座組もおもしろいと思っていますし、これが成功すればまた可能性が広がると思います。どうかご期待いただければと思います。

『ディスクロニア:CA』岸上健人氏×梅田慎介氏インタビュー。両プロデューサーがVRとSwitchの“二刀流”展開に託した想いとは!?