『Her Story』や『Telling Lies』など、断片的な実写映像から謎の真相に迫っていく一連の作品で世界的に高い評価を誇るサム・バーロウ氏。その最新作である『Immortality』(イモータリティ)が日本時間の2022年8月31日より順次配信されます。

 今回本誌では同氏からPCのレビュー版を入手したので、その内容をご紹介しましょう。なお本作は日本語対応しており、Xbox Series X|SとPC、そして映像ストリーミングサービスのNetflixを通じてiOSとAndroid(※)でも配信予定となっています。(※Netflix会員なら追加料金なしでプレイ可能。またXboxとPCのGame Passにも対応する)

3本の未公開映画と、消えた幻の女優マリッサ・マーセル

 本作の中心となっているのは、消えた女優マリッサ・マーセルと、彼女が残した3本の未公開映画。あるCM出演から抜擢されて大スターとなることを期待されていた彼女ですが、なんと数少ない出演作品がすべて未公開に終わるという呪われた運命をたどっていたのです。

 そこでプレイヤーは、2020年に突如発見されたという下記の3本の(架空の)映画の素材群を閲覧し、その謎多きキャリアの真相に迫っていくことになります。それぞれ具体的にどういうストーリーの映画だったのでしょうか、そしてなぜいずれも劇場公開されずに封印映画となってしまったのでしょうか?

  • アンブロシオ(1968年)
  • ミンスキー(1972年)
  • Two of Everything(1999年)

 手がかりとなるのは、データベースに収録されている映像に本来なら編集でカットされる本番前後のやり取りが収録されていたり、台本の読み合わせやリハーサルの映像、宣伝のためのインタビュー映像やトークショーへの出演時の映像、さらにはプライベートショットまで雑多な断片が含まれていること。

 しかしそれらの映像での些細なやり取りや妙な場面から真相に迫るには、とにかく大量の映像を閲覧しなければなりません。そしてゲーム開始時に見られるのは、その中のたった1本の映像のみ。それ以外はプレイヤーが“発見”しなくてはならないのです。

イモータリティ
リハーサル映像しか残っていないシーンもあったりする。

映画の断片から断片へと飛び回る、新たな映像体験

 このように『Her Story』や『Telling Lies』と同様、本作もまたたくさんの実写映像を発見しながら全体像と大いなる謎の真相を探っていく形のゲームとなっています。

 これまでと大きく違うのは、検索ワードがないことでしょう。『Her Story』と『Telling Lies』では会話中に出てくる単語を検索してデータベースから新たな映像を発見するという形式を取っていましたが、今回は“映像言語による検索”とでも呼ぶべき新方式“マッチカット”を採用しています。

 発見した映像は自由に再生・停止・早送り・巻き戻しが可能なのですが、さらにその映像に写っているヒトやモノを選択することで、同一人物や同種のモノ(例えば“マリッサ”や“花”)が映っている別のシーンへとジャンプカットします。

 アンブロシオのマリッサからミンスキーのマリッサ、ミンスキーの背景の花からTwo of Everythingの背景の花……といった具合に断片から断片へと飛び移っていき、運が良ければ未確認の新映像にたどり着ける、という塩梅です。

イモータリティ
マッチカットの例。映像から映像へ飛び回るように移動していく。

最初はイメージに惹かれるがままのテキトーな進み方でいい

 このやり方は明示的な指定ができないので、最初のうちピンと来なかったり、そんなテキトーな進み方でいいのか不安になるヒトもいるかと思います。ですがこれは意図的にアバウトに断片から断片へと飛ぶ作りになっているので、ひとまずあまり難しく考えずに少しでも気になったものを追っていくといいでしょう。

 実はこの方式は小説家J・G・バラードの編み出した“濃縮小説”の技法が参考にされていて、それぞれあまり関係ないように見える断片を気ままに見ていくことで、受け手(本作の場合はプレイヤー)の中で次第にその作品全体を貫く何かが形作られていく……というものになっています。(※ちなみにバラードの濃縮小説作品は『残虐行為展覧会』にまとめられている)

 ちなみにシーンのジャンプ先はアルゴリズムが関与していて、毎回同じ場所に飛ぶわけではありません。プレイヤーの進行状態なども考慮しつつ、ある程度ランダムに選択されるようになっています。

イモータリティ
同じシーンの同じ対象でも常に同じところにジャンプするわけではない。

嘘と演技と編集の狭間、そしてふたつの時間軸に潜む真実

 さて本作で面白いのが、その“演技”が何重にも仕組まれていることです。マリッサ自身がマノン・ゲージという実在の俳優が演じる役で、カットがかかった後に素で喋っている体のシーンは全部演技なわけですが、3本の映画でマリッサが演じる役の中には俳優に近い役柄もあるので、“演技をしていない演技の演技”のような大変ややこしいことになっているシーンも多々あります。

イモータリティ
マリッサを演じるマノン・ゲージの“魔性の女”感がハンパなくてほんとスゴい。

 なのでゲームを進める手を一旦止めて、それまでに発見した映像から事態を整理するのが非常に楽しい。発見した映像は“台本順”と“撮影された日付順”で並べ替えられるので(※映画は台本順に撮影されるわけではない)、映画のストーリーを追う場合は前者、裏事情を追う場合は後者で並べ替えて見返すと、前後の映像との繋がりや逆に妙な部分が見えてきます。

 こうして「このシーンとこのシーンの間にこういう内容があるのでは」とか、「ここでカットがかかった後も異様に緊張感があるけど、この近辺で何か揉めてたのか?」といったように全体像を探っていけるわけです。

イモータリティ
「緊迫感があるのはサスペンス映画の終盤だからだろうな」と思ったりするのだが、本番前後のやり取りや別の日に撮影された台本上の前後のシーンを見ていくと、どうもそれだけではないらしい事に気がつく。

フィルムの隙間にさらなる深みが待つ。可能ならコントローラープレイを推奨

 それだけではありません。演技の合間に何かジャンプに使えるものが映っていたりしないか、スロー再生や巻き戻しなども駆使しながら映像を繰り返し再生していくと、それまでの仮説では説明がつかない一際妙な場面に遭遇することもあるでしょう。データベースにはブックマーク機能があるので、怪しげなシーンや妙に引っかかる場面に遭遇した時は登録しておくことができます。

 またPCではマウス&キーボード、スマートデバイスではタッチ操作でプレイする人が多いかと思いますが、可能であれば振動機能つきのコントローラーでのプレイを推奨したいところです。

 理由はいくつかあるのですが、基本的には謎を追いやすくなるからです。たとえばマッチカットする対象を指定する際に、コントローラーではスティックでの自由選択以外に十字キーで対象に選べるものを順に選択できたりもします。

性的表現・暴力表現はかなり多めなので注意

 ところで本作は大人向けのエンターテインメント作品として、そのテーマ上サスペンス映画で出てくるようなヌードシーンや性的なシーン、そして暴力描写などが非常にたくさん出てきます。

 日本での配信にあたって支障がないのか念のためサム・バーロウ氏に確認したところ、IARCレーティングを16歳以上の指定で通っており、問題なく配信できると認識しているとのことでした。

 とはいえかなりエグい描写が出てくるので、そういった表現が苦手な人は避けたほうがいいかもしれませんし、家族などがいる人はプレイする際の周囲の環境も注意した方がいいでしょう。なんせ、たまたま飛んだ先がねっとりとしたキスシーンということも普通にあるので……。

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メニューから確認できる注意事項。
イモータリティ
ええ、演技なんですけどね。

ゲームならではの新たな映像体験を実現した、人を選ぶ名作

 というわけで本作、『Her Story』などが気に入った人なら唯一無二の映像体験ができる非常に優れた作品となっています。

 先行して誌面用にレビューした海外Edge誌が10点満点を出したというのも驚きではなく、かなり人を選ぶピーキーな内容ではありますが、テーマの追求具合からもサム・バーロウ氏が手掛けた作品の中でも最高峰と言いでしょう。

 そして何よりシーンの設定に合わせて演技レベルを自在に操っている俳優陣の熱演も素晴らしいですし、ぜひじっくりと映像の山に潜ってみて欲しいところです。