2022年8月23日(火)から25日(木)の3日間にわたり開催となった、“CEDEC 2022”(コンピューターエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2022)。こちらの記事では、その3日目に行なわれたセッション“ゲームとミュージアム のオモテウラ~ゲーム資料をどう扱う?~”の内容をお届けしていく。

本セッションの講演者

  • 尾鼻崇氏(大阪国際工科専門職大学 工科学部デジタルエンタテインメント学科 准教授)
  • 小出治都子氏(大阪樟蔭女子大学 学芸学部化粧ファッション学科 講師)
  • 中林寿文氏(NPO法人IGDA日本/サイバーズ株式会社 副理事長/代表取締役社長)
  • 應矢泰紀氏(京都国際マンガミュージアム 学芸室 学芸室員)
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 ビデオゲームが世に出てからもはや半世紀以上が経ち、ゲームを取り巻く社会の動きも変化しつつある。また、ゲーム業界では自社資料の保存・管理、ならびに展示などへの注力が多く見られる。

 今回の講演では、ゲームの保存や資料としての扱い、それらが持つ公共性などについて、ゲーム研究者、大学教員、ゲーム制作会社、博物館学芸室員という、それぞれ異なった視点からの情報共有と議論が行なわれた。

文化庁の公的活動とデータベース編纂について

 まずは文化庁事業担当者でもある尾鼻氏から、2015年から進行している文化庁におけるゲームアーカイブ利活用のために行なわれている調査活動の内容が解説された。

 ゲームを保存するという活動はすでに進んでいるが、保存するだけでは持続性のある活動にはならない。そこで持続性の担保のために、資料としての利活用を進めるための先行事例の調査も同時に進行しているという。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
問題の発見と解決のため、パイロット展示での実践的な調査も進めているとのこと。これらの活動の詳細は、立命館大学ゲーム研究センターのホームページ上で公開されている。

 また、主に2000年以降に開催された比較的大きめのビデオゲーム展示についても調査を実施した。昨今まで首都圏を中心に、日本だけでもさまざまな展示が行なわれてきたことが見て取れる。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 こうした調査を踏まえ、文化庁と事業関連各所もまた企画・展示を推進、実施してきた。2011年以降、単にゲームを展示するだけではなく、これまでのさまざまなゲーム展そのものを紹介する展示会であったり、オンライン展示の課題を発見できる試行であったりと、さまざまな形態の展示を行なっている。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 また、この事業では蓄積された情報をできる限りデータベース化することで、さまざまな人に役立つ形にする活動も行なわれている。CEDECの資料アーカイブである“CEDiL”の資料など、さまざまな資料をまとめつつ構造化することで、ゲーム開発者や研究者の閲覧性を向上している。

 とくに博物館や美術館で、ゲームの非専門家がゲーム資料を扱う際のハードルはひとつの課題となっている。これらの問題の解決が、上記の資料化活動により実現できると考えているとのこと。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 こうした活動を通じ、日本が世界に対してアドバンテージを持つゲームという文化を発信するための、公的なミュージアムを作り上げることが最終的な展望とのことだ。

ゲーム展示が未来も成り立つために必要なものとは

 続いては博物館学などを専門とし、学芸員過程も担当する小出氏から活動報告が披露された。こちらの内容は、ゲーム企業によるアーカイブ活動が盛んになり、博物館の建設も予定されている昨今におけるゲーム展示の展望や課題のほか、そこに関係してくる“学芸員”に関してのものとなっている。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 そもそも企業博物館とは、どういった定義によるもので、なにを目的とするものなのか。こちらは単に資料の展示や企業としてのブランディングを目指すだけではなく、フィランソロピー(※)と地域・社会貢献活動の一環や、娯楽施設としての役割もまた考えられる、多様な施設とされている。

※人間愛に基づく活動。概念的には慈善活動に近い。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
いわゆる“娯楽”要素について、ほかの博物館ではワークショップなど教育を見据えたものであるのに対し、企業博物館はエンターテインメント性が重視されているのも特徴。

 こうした企業博物館では、いまなお学芸員(博物館に勤務し、資料の収集や研究、展示会の企画などを行なう専門性が高い職業)が存在しないものが半数以上を占めている。また、企業博物館が開館後に資料収集を続けているケースは約7割となっているが、研究活動については3割ほどしか実施していないという。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
研究活動については外部の人間が行なうケースも多く、企業博物館所属の学芸員による研究活動は難しい状況にある。

 そもそも博物館の定義とはどういったものなのか。日本における博物館は“登録博物館”、“博物館相当施設”、“博物館類似施設”の3つに分類されており、だいたいの企業博物館は博物館類似施設に属している。

 また学芸員については、日本では専門職員として規定されてはいるものの、職務分化の形態が他国とは異なる。アメリカやイギリスでは展示を専門とする“キュレーター”や管理者“レジストラー”など、職務ごとに分けた人材の育成がされているが、日本ではこうした区分はない。ひとりの学芸員が、多面的な業務に携わっている。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 こうした状況を踏まえ、日本でのゲーム展示はどのように行なわれてきたのだろうか。2000年から2019年までに開催されたゲーム展示数は約32展で、平均すると1年に1~2回は必ず開催されてきたともいえる。

 現在のところ、博物館資料としてゲーム資料が保存されている博物館は少ない。そのため、ゲームの歴史を紹介する初期のゲーム展示には、それだけで十分な意義がある。現在のゲーム展示にはそういった昔のゲームを体験した世代が親になり来場するケースが多く、そうした該当ゲームの体験や経験を持つ世代によって成り立っている部分も多い。

 ただ、この世代がいなくなったあと、いま成り立っている展示は引き続き成立できるのだろうか。また、資料やプレイアブルといった展示方法が規格化してしまうと、もっと広がりがあるはずのゲーム展示の可能性を狭めかねない。

 これらはゲーム資料の明確な定義づけや、来場者に何を伝えたいのについてのキュレーション(情報の整理と編纂)と併せて、今後の課題と言えるだろう。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 そうした課題への取り組みとして、これまで開催されてきたゲーム展示のキュレーションそのものを紹介していく“ゲーム展TEN”や、『ギャラクシアン』などの開発資料の展示を通じての開発資料の重要性の示唆、『三国志』をキーワードとしたゲーム、マンガ、地域との連携ならびにリアル展示とオンライン展示というゲーム展示の可能性の実証など、小出氏はさまざまな活動に携わってきた。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 これらの活動を通じて見えてきた、今後のゲーム展示の展望と課題についても触れられた。今後は展示にキュレーションが重視されていくと予想されるが、それらが可能となる人材育成が必要となるものの、欧米のような職務分化が進んでいないなかでの育成は難しい。それを補う他分野からのアプローチは、より重要になると見られる。

 企業博物館が増えていくことでゲーム展示の点数も増えていくなかで、娯楽と教育のバランスを考えつつ、企業博物館である利点を生かしてさまざまな展示が可能であることを活かしたいところ。

 また、あくまで設立企業の資料を展示することが企業博物館では重視されるため、よりマクロな視点から“ゲーム文化”を見た場合、企業博物館以外の博物館でもゲーム資料を展示していける体制を作ることが、今後の課題のひとつになると思われるという。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

ゲームやゲーム展示は、国が公認するアートとなり得る

 続いてはゲーム制作会社・サイバーズの社長である中林氏から、さきの講演内でも触れていた公的なアーカイブについての興味深い体験事例が紹介された。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
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 世界的にも、ゲームが資料としてアーカイブ対象となっているのは周知の事実だ。シリコンバレーでは、世界初のシューティングゲームとされる『Spacewar!』の開発者自身がデモンストレーションを行なうなど、非常に資料的価値が高い講演も実現している。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 そういった現状で、中林氏が副理事長を務める国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)が“福島ゲームジャム”を開催したところ、文化庁メディア芸術祭での推薦作品に選出され、公的にアーカイブされた。これにより何が起こったのかを、中林氏が以降解説してくれた。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 まず、福島ゲームジャムとはどういった催しだったのかを説明する。こちらは2011年から2017年にかけて、産業復興支援を目的としたゲームジャムだ。

 2013年には福島県の会場をメインに、4か国、14会場、531人が参加。多数のゲーム業界有志の参加に加え、ゲーム業界各社の協賛も得て、協働CSR(※)の形式をとっての開催となった。

※CSR(Corporate Social Responsibility):企業の社会的責任。組織活動が社会に与える影響に責任を持ちつつ、企業は利潤追求以外にも、事業活動を通じて社会に貢献していくべきという考えかた。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 ある日、文化庁メディア芸術祭の審査委員から、この福島ゲームジャムを推薦したいとの連絡があったという。文化庁メディア芸術祭はあくまで“アート”ならびに“アート活動”を取り扱うもので、このとき中林氏には自分たちの活動がアートであるという認識はなく、応募して大丈夫かという懸念があったという。

 それでも福島ゲームジャムについてポジティブなものになるならばと、応募を決定。推薦作品に選出される運びとなった。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 そもそも文化庁メディア芸術祭とは、アート、アニメ、マンガ、エンターテインメントを対象とするものであり、ゲームはエンターテインメント分野に含まれる。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 “メディア芸術”という単語の定義も、こうなると気になってくるところだ。こちらは公的に定義されており、従来からあるファインアート(純粋芸術。芸術的価値を専らとする活動や作品)以外のものを指す。こうしたメディア芸術作品に関しては“メディア芸術データベース”にて、メタデータの収集と保存、ならびに公開が進められている。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 推薦作品に選ばれたのならばと、福島ゲームジャムはメディア芸術祭の会場での特別版開催を実施。ゲーム開発の見学や成果発表会などといった展示で、福島ゲームジャムの認知向上が叶った。

 また、巡回展にも招聘されたため、秋田や富山での展示も実施。この際の出店経費は芸術祭側が原則負担してくれたことも、ある意味メリットとなった。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 ほかにも推薦作品選出により、翌年の福島ゲームジャムの開催から、イベントの開催告知などに推薦作品選出の旨を記載できるようになり、文化庁への後援依頼にもスムーズに許可をもらえたという。

 これらの効果により、子ども向けのワークショップなどの開催時に小学校などへチラシを配布する際などに、地元教育機関などの協力が得やすくなった。CSR活動をゲームで行なう立場の者のほとんどが直面するであろう「しょせんゲームでしょう?」などといった認識から協力を得ることが難しいという事態が解決されたわけだ。無論、ゲーム業界内での認知向上により、開催協力体制が強化できた点も大きい。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 そしてなにより、文化庁メディア芸術祭の歴代受賞作品アーカイブのなかに加えられ、文化庁メディア芸術データベースにも公的にアーカイブされたということ自体が、確固たるCSR活動の証明として大きなメリットとなっている。アートとしても扱われ得ることも加味し、こうしたCSRをはじめとしたゲーム業界の活動は、より積極的に行なっていくべきと感じたという。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
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展示方法もさまざま、効果的な方法を模索すべき

 続いては京都国際マンガミュージアムの学芸室員を務める應矢氏から、“ゲームミュージアム”というものが実際に作れるものなのか、どのように作られていくのかについて解説された。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 まず、應矢氏が所属している京都国際マンガミュージアムは、小出氏の解説にもあった博物館の3分類のなかでは“博物館類似施設”に相当する。

 また、ミュージアム(博物館)には大きく分けて“収集”、“保存”、“公開”の3つの果たすべき役割がある。このなかでも、公開にあたる活用、教育、育成の活動が、非常に難しいと氏は考えているという。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 博物館の展示には、“常設展示”と“企画展示”の2通りがある。これまで京都国際マンガミュージアムでも、マンガの原画展やゲームマンガ展など、さまざまなゲームに関する企画展示を行なってきた。

 実際にこうして博物館でできるゲーム資料の展示方法自体には、どのような形態があるのだろうか。以降、実例が紹介された。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】
ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 まずはすでに多く取られている展示方法について。プレイアブルな“作品紹介展示”や“プレイ展示”は、ハードやソフトの商品紹介にも結びつく展示だ。とくに“プレイ展示”は、アーケードや自宅など、そのゲームがどのように遊ばれるのかという現場の再現も伴うことで、より効果的と考えられるという。

 “歴史展示”はどのような展示にもワンコーナーとして使えるもので、年表からブームや社会現象などに発展した事例を紹介するのがとくに効果的で、歴史背景と文化の変化との連動により、“過去を振り返る”という行動をより促せる。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 “制作パート展示”は、京都国際マンミュージアムでももっとも多く行なわれる展示方法のひとつだ。最初期の企画書やデザイン案、音楽などがとくに来場者に喜ばれる傾向がある。ゲーム制作にまつわる苦難などを知ってもらえることで、ゲーム開発にどのような人々が関わっているかを知ってもらうきっかけにもなっている。

 “他メディア展示”は、あらゆるメディアと関係性が深いゲームならではの、マンガや実写劇場版などの紹介をワンコーナーとして取り扱う手法。ゲームを他メディアとの複合コンテンツと考えることで、展示物の数は格段に増える。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 ここからは、これまで紹介した展示方法とはやや異なる手法となる。“問題定義展示”は、ゲームが社会にどのような影響を及ぼしたのかを展示するもの。時代によっては健康に影響を及ぼすものとされ、ときに“ゲーム脳”などという言葉も生まれたが、それらに説明をつけたうえでの展示という形式も考えられる。

 “問題定義展示2”は、問題を提起することでその問題により多くの人が注視してくれるように促すもの。ゲームにおいては資料の保管方法や場所の問題などを提示し、議論を交わすパネル展示のような形式だ。

 “制作現場展示”は、企画の起点から会議の経緯、予算やスタッフなどの準備過程などに加え、環境や賃金などの製作現場の状況についても展示することで、より制作現場へのファンの目線を集め、現場で働いてみたいという想いへの後押しにも貢献しうる。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 “他国比較展示”は、應矢氏がもっともやってみたいと考える展示のひとつだという。日本のゲームと他国のゲームとの比較で、他国ではタブーとされて発売禁止となる要素をあえて比較・抽出し、日本と外国の文化の違いを知ってもらえるとともに、ゲーム会社同士の交流や情報交換のきっかけともなり得る。

 “展示場紹介展示”は、ゲームミュージアム自体の紹介だ。先にも触れているとおり、今後日本には多くの企業系ミュージアムができあがっていくと思われる。そのとき、どこにどの資料があるのかを一堂に集めた紹介展示が可能となり、海外からの来場も増えると考えられる。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

 これらのなかでもとくに難しいのが“プレイ展示”であるという。ゲームがプレイされていた現場の再現というのは、とくに昔のゲームでは機材やモニターの規格上、現在では難しいケースが多い。

 また、展示ではゲームのプレイ時間に限界があることも問題となる。昔プレイしたゲームで、隠れキャラを発見するまで裏技をいろいろと試したりと、そうした楽しみが再体験できるものこそが本当のゲームミュージアムと應矢氏は考えているという。それらを映像で上映したとしても、実プレイでの体験とはどうしても異なってしまう。

 この問題に関しては、今後の“メタバース”の発展により、どこからでもそのゲームがプレイできる仮想時空間にアクセスできるようになれば解決できると考えているとのこと。いつでもそのゲームが好きなように体験できる、そのような形が望ましい。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

ゲーム資料には果てしない価値がある。企業と博物館の協力強化を求む

 講演では最後に、講演者の4名によるショートディスカッションが実施された。以下、その内容をまとめたものをお届けする。

ミュージアムでゲーム展示を行なうメリットとは

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

尾鼻まずはCEDECでもこのテーマが一番興味を持たれているかと思いますが、ミュージアムでゲームを展示するとどんなメリットがあるかについてです。

中林単純に考えると、広告宣伝が挙げられるでしょうね。最近多いのはグッズ販売で、通常の美術展でも図録などは売れ行きがいいですし、アニメなどとタイアップしたIP系のグッズはかなり人気がありますので、単に広告だけではなく収益モデルとしても考えられると思います。

應矢実際に京都国際マンガミュージアムでも、企業様といっしょにコラボをした展示をしております。そのなかでも、いま中林さんからお話があったとおり一番大事とされるのは収益であるとされていまして、限定商品にはたくさんの人が興味を持たれますので、展示を見るだけでなく持ち帰れるものとして、図録などが人気を博しています。

 これを1番として、2番3番を挙げるとするなら、実際にコラボ企業様から耳にしたのは「作品を愛してくれるファンへのサービスとして展示を行ないたい」という言葉ですね。10周年や20周年といった区切りのいい記念展示などでは、作り手とファンのつながり、触れ合いを作れることに大きな意味があり、社員の士気も大きく上がると聞きました。

小出企業がこれまでどのような作品を作ってきたのかを示すことで、新入社員の育成に生かせるという点も、メリットとして挙げられるかと思っております。どんな作品が作られてきたのか、その技術を踏まえて自分たちはどんなことをすべきか、気づきのひとつになるのではないかと。

 また、いまの展示はゲームに慣れ親しんだ世代がいるからこそできるというお話をしましたが、そういった世代以外の人たちが展示を見ることで、やってみよう、買ってみようという意欲を高めうる点もメリットと考えます。

尾鼻ここで中林さんにお聞きしたいのですが、ざっくりと言ってしまって、ゲーム産業側から見てミュージアムでの展示を行なう際の一番の障害とはなんでしょうか。

中林プロモーション展示に関していえば、いろいろな会場を借りてやってきた実績を各社さんともにお持ちですが、それらとミュージアムでできることの違いはなにかと言われたときに、実はそうした展示はどこでもできるんですよね。

 極端に言えば、ミュージアムの展示スペースは商業用に借りるスペースよりも狭かったりするので、キャパシティーの問題としてペイできるかできないかということがネックになる可能性も出てきます。

 逆に地方であればより広い会場を提供してもらえる事例などもありますし、そうした考慮をノウハウとして皆が共有していくことで、より会場として積極的に活用させていただきやすくなっていくかと思います。

尾鼻博物館で展示する場合、そこにはキュレーター(学芸員)がいらっしゃるわけですよね。研究者やキュレーターは当然、資料の扱いについてはプロではありますから、企業から資料などがどさっと渡されれば研究はより進むかと思いますが、これは企業の権利的には問題はないのでしょうか。

中林それはおそらく共同研究といった形で、うまく連携していけば可能かと思います。ただ、それを当たり前のように共同研究として行なうという下地はまだできていないので、これを機会に皆が可能だということに気づいてくれれば、全員がハッピーな方向に進むのではないでしょうか。

どのようにゲーム資料の展示をするのか

應矢ゲームソフトひとつを展示する、資料を整理して行なうといった展示も面白いものだとは思うのですが、どの目線、どの切り口でそれらを見せていくのかを考え、キュレーターが資料を抜粋していくことが今後は大事になってくるかと思います。

 たとえば設定資料や音楽など、そういった特定のところに目をやっていくのもひとつの手法ですが、制作しているリーダーが携わったものだけ、触ったものだけを表示するといった展示方法も考えられるかと。

尾鼻現状、ゲーム展示で比較的足りていないと思われるのは、“作家性”を出したものでしょうか。美術の展示やマンガの展示など、作家が中心に置かれた展示というものが展示においてはマジョリティーなのですが、ゲームにおいては作家が表に出ない形が多いですよね。

 それがゲーム展示ならではの面白いところでもあるのですが、新しい切り口にもなりうるかも知れません。小出先生が以前手がけられたナムコの資料展などでは、普段我々からは見られない開発者側の貴重な見解が得られましたが、手ごたえとしてはいかがでしたか。

小出開発資料を膨大にお借りし、自分なりにピックアップし展示させていただきましたが、開発者の視点を一般の方々が知ることができる機会にもなりうると考えて選びました。結果、ゲーム制作者を目指す若い世代にも刺激となった、いい展示にできたと自負しております。

尾鼻来場されたかたがそのゲームをどう見るのかを、開発者のかたが知ることができる機会でもあるわけですね。ユーザーの生の声というのは開発者に届きづらい現状ですので、それが可能になる場としてもミュージアムは成立する気がします。

ゲーマーの夢“ゲームミュージアム”をいかに実現するか。企業の取り組みや博物館側の見解などを交え、ゲーム展示の今後を考える【CEDEC 2022】

ゲーム資料の扱いについて

中林デジタルゲームでいうと、技術革新によって結果的に従来のものが遊べなくなるというケースが繰り返されています。ただ、企業側からすると収益を上げていかなくてはならないので、新しいプラットフォームで新しいゲームを販売していくのが基本となります。

 博物館のキュレーターのかたはエンジニアの専門知識を持つわけではないので、そこに対しては企業側がなにかしらのサポートをすべきですが、アーカイブの収益モデルなどが確立できないと難しいところではあるかと思います。

尾鼻ゲーム企業の皆さんが思っている以上に、その資料には価値がありますよ! ということを、ここで強調したいですね。同時に、それを伝えられるようなものを我々からも持っていければと考えていますので、今後もそうした協力関係が作れればと。