2022年11月11日にNintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、PCで発売予定のスクウェア・エニックスのタクティカルRPG最新作『タクティクスオウガ リボーン』。本稿では、本作の開発スタッフ6名へのスペシャルインタビューをお届けする。『伝説のオウガバトル』やオリジナル版『タクティクスオウガ』の生みの親である松野泰己氏、同作のサウンドを手掛けた崎元仁氏など、そうそうたる顔ぶれから本作の開発秘話や、大きな進化を遂げたゲームシステムの概要を訊くことができた。

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松野泰己氏(まつのやすみ)

ALGEBRA FACTORY所属。本作ではゲームデザイン総指揮・脚本・監修を担当。

加藤弘彰氏(かとうひろあき)

スクウェア・エニックス所属。本作ではプロデューサーを担当。

片野尚志氏(かたのたかし)

スクウェア・エニックス所属。本作ではディレクターを担当。

矢島友宏氏(やじまともひろ)

スクウェア・エニックス所属。本作ではサウンドディレクターを担当。

崎元仁氏(さきもとひとし)

ベイシスケイプ所属。本作ではサウンドディレクターを担当。

高橋直之氏(たかはしなおゆき)

スクウェア・エニックス所属。本作ではリードゲームデザインを担当。

最新技術のノウハウが『タクティクスオウガ』を蘇らせた

――『タクティクスオウガ リボーン』(以下『リボーン』)と銘打った理由を教えてください。

加藤タクティクスオウガ 運命の輪』(以下、『運命の輪』)をベースにしつつも、単なるリマスター版ではない、バトルデザインをリメイクした新生『タクティクスオウガ』ということで命名しました。ちなみに、吉田明彦さんに『リボーン』用に描き下ろしていただいたキービジュアルは、スーパーファミコン版『タクティクスオウガ』のキービジュアルを現在のタッチで描いたものとなります。『リボーン』と決まるよりも前に、吉田明彦さんにどんな絵を描いていただこうかと検討している中で、今回の内容にいたり、結果として奇しくもタイトルとキービジュアルに親和性のある形になりました。

――そもそもどういった経緯で『タクティクスオウガ』をリボーンさせることになったのでしょうか?

加藤『運命の輪』発売時に遊んでいただいた皆様のご意見を踏まえつつ、いつかのタイミングで『タクティクスオウガ』の開発にあらためて携わりたいという強い思いがありました。転機となったのは、私自身が担当した『ファイナルファンタジーXII ザ ゾディアック エイジ』(以下、『FFXII TZA』)の開発になります。オリジナル版『ファイナルファンタジー XII』(以下、『FF XII』)からの映像表現力の向上、新規の音声収録を含めたサウンド表現力の向上、バトルデザインの改良、プレイアビリティの向上を経て、「いまなら、このノウハウを活かすことで新たな『タクティクスオウガ』を生み出せるのでは」という考えにいたり、開発を始めました。

――最新鋭の技術を体感したことが開発のきっかけになったと。松野さんが『タクティクスオウガ』を復活させるうえで最重要視したことは何でしょうか?

松野私が合流した時点で、いくつかの制作方針が決まっていました。『運命の輪』をベースにしつつ、「新たなVFXやマップ、キャラクター、シナリオなどの追加はしない」という大前提が加藤さん、片野さんから提示されました。おもに予算的な都合による制限ではありましたが、実際のところ『運命の輪』でステージ数やイベント数、魔法、スキルなど、あらゆるデータがオリジナル版より2~3倍に増えていたため、ボリュームとしてはすでに十分。それゆえ、「新たな拡張は原則としてなし、あくまでもブラッシュアップに留める」という話でした。とはいえ、画面解像度はPSPと比較になりませんし、Nintendo Switch、プレイステーション5、プレイステーション4、など複数ハードに対応しなければなりません。英語や仏語など複数言語にも同時対応、さらにはマウスやキーボード操作にも対応と、新規作業が多岐にわたるため、すべてを考慮しつつ製作を進めなければならず、なかなかハードな開発だったと思います。

――ベースの作品をただ作り変えるというわけではないのですね。開発にあたって最初に行ったことは何なのでしょうか?

松野まずは『運命の輪』に対するプレイヤーの皆さんのご意見を真摯に受け止め、修正すべき点を洗い出しました。スタッフと議論を重ね、“やれること”と“やれないこと”、“やるべきこと”と“やるべきではないこと”をリストアップし、開発を進めることにしました。グラフィック面については加藤さんと片野さん、監修の皆川さんに任せつつ、気になる箇所を指摘する程度に留めました。システム面については、『運命の輪』でもっとも不評だったレベルシステムを個々のユニット単位に戻しました。また、“演習”コマンドを各拠点に付与。いわゆるトレーニングを復活させました。とはいえ、個々のユニットのレベル上げにあまり時間を取らせるのは有益ではありません。レベルアップしやすいようパワーレベリング(レベル格差があるほど、低レベルユニットの得られる経験値が多くなる)を導入しました。

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――パワーレベリンは『運命の輪』にもありましたよね?

松野はい。そのシステム自体は『運命の輪』にもありましたが、強化し経験値を取得しやすくしました。さらに、戦闘で得られる報酬に経験値を得られる消耗アイテム(ドーピングアイテム)も導入したため、ゲーム後半、新たに雇用したユニットであってもレベルをあげることはかなり容易になっています。

――なるほど。ほかに新システムはあるのでしょうか?

松野新たなシステムとしては“ユニオンレベル”というものを導入しました。簡単に説明すると、軍全体のレベルであり、そのレベル以上にユニットのレベルを上げることができないという、いうなればレベルキャップシステムです。ユニオンレベルはシナリオの進行に応じて徐々に開放されていくわけですが、レベルの上限が設定されているためレベルを極端に上げて戦いに挑むということができません。

――圧倒的なレベル差で敵を蹂躙する、いわゆる「オレ強ぇ!」みたいなプレイができないと。

松野その通りです。したがって、戦術ゲームとしてのユニットの運用が重要になります。その点では、『運命の輪』より難度は高くなっていると思います。ただし、序盤から中盤にかけてユニオンレベルは敵レベルよりやや上にしてあるので、上限いっぱいまでレベルを上げれば本来の想定よりもやや楽にプレイできると思います。また、“W.O.R.L.D.機能”でシナリオを戻した際、一度クリアーしたステージならレベルキャップを無視して戦いに挑むことができます。強い武器や防具を手に入れて装備させることで、たとえレベルキャップ付きでの戦闘だとしても、その強い武具の分だけ難度が下がりますのでご安心ください。

※2022年11月15日追記。ユニオンレベルの内容に誤りがありましたので修正しました。

――それならば強さを求めるプレイスタイルの人でも楽しめますね。魔法とスキルはどういった調整を行ったのでしょうか?

松野魔法とスキルについては数が多すぎたため削減しました。これは、思考アルゴリズム(以下AI)の最適化のためにも必要でした。セット可能な魔法数やスキル数、消耗品数などを制限することで、より余計なシミュレーションをAIがしなくて済むことになり、快適に動作するようになりました。同時に、プレイヤーにとっては何をセットするかという取捨選択が重要となります。よりオリジナル版の遊びかたに近づいたかと考えます。「より快適に、そしてより現代のゲームとして」をコンセプトに改良したゲームが今作の『リボーン』となります。

――戦略ゲームとしてのおもしろさがさらに深まっていると。『タクティクスオウガ』といえば、物語も人気ですよね。脚本を監修された中で、さらに手を入れられた箇所はありますでしょうか?

松野今作ではフルボイスということもあり、シナリオについては細かく精査し、加筆修正を施しました。「読ませるテキストよりも、聴かせるテキストを重視した」といった感じでしょうか。もっともそこは私のこだわりであり、プレイヤーの皆さんが気にされることではないかと思います。

――フルボイスの魅力を際立たせたのですね。『運命の輪』では、新たなキャラクターやエピソードが追加されたり、本来敵だったキャラクターが仲間になったりと、物語部分でプレイヤーを驚かす大きな変化がありました。今回はそういった要素はあるのでしょうか?

松野追加イベントなどはありませんが、声優さんの配役に応じてキャラクターの機微を表現するよう台詞を修正しています。海賊アゼルスタンなどが代表例となりますが、『運命の輪』とはまた異なる印象を受け取っていただけるのではないかと思います。そもそもオリジナル版に対して『運命の輪』では台詞だけでも倍増しています。したがって、シナリオについては『運命の輪』と同じ内容です。また、エキストラエピソード4編“DIVA”“ウォーレンを捜せ”“真の騎士”“十二人の勇者”も再録しています。それらは一度、エンディングを迎えることで、遊ぶことができます。なお、今作において“十二人の勇者”はエンドコンテンツとしての意味合いもあり、最高峰の難度になっています。

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幅広いニーズに対応できるいまだからこその苦労

――『タクティクスオウガ』のUIは昔からあまりにも素敵ですが、利便性を追求して一新することを決めた際に、オリジナルを手がけた皆川さんとは、どのような相談をされましたか?

松野当時、皆川さんはほかのプロジェクトの開発で極めて多忙でした。マップやキャラクターの高解像度化などを相談し、方針を決めてもらいつつ、グラフィック全般の監修を担当してもらいました。ただ、UIに関してはほぼ開発チーム側で吸収しました。さすがに、新たな仕様ひとつひとつに細かな対応が必要となるため、そこまでの負担を皆川さんに強いることはできませんでしたから。

――UIの一新で苦労した点はあったのでしょうか?

松野基本は『運命の輪』のUIをベースに作業が進んでいたのですが、マウス操作に対応しなければならなくなった時点でさまざまな問題が生じました。コントローラー操作では不要な“閉じる”ボタンの設置などが代表例でして、マウスの場合、右クリックのキャンセルでウィンドウ類を閉じることができつつ、“閉じる”ボタンを左クリックで決定することでも閉じなければなりません。このように、どちらの操作でも両立するようUIの構築にはかなりの時間がかかりました。また実装した後、実際に操作をすると「ここは違う」といった感想も多く出て、その都度、修正変更してもらいました。

――苦労の連続だったと。

松野そうですね。とくに戦闘画面におけるバトルコマンドのUIについては最後の最後、開発終了まであとわずかという段階で変更してもらいましたね。当初は『運命の輪』のテキストコマンド方式のままだったのですが、小さな液晶画面だったPSPではよかったのですが、大サイズのTVモニターでプレイするとウィンドウが邪魔で仕方なかったですね。そこで、オリジナル版で採用していたアイコン選択方式をさらにブラッシュアップして実装しました。プログラマー陣にはとても負担をかけましたが、結果として変更してよかったと考えています。キーアサイン機能などコンフィグ設定も充実していますので、ご自分に合うようカスタマイズして遊んでいただけると幸いです。

――プレイヤーによって設定は十人十色ですからね。細かく調整できるのはかなりありがたいと思います。UIデザインで、重視されてきたことを教えてください。 

松野解像度が上がったことから、さまざまなUIのレイアウトを変更する必要がありました。デザインは基本的にデザイナー側から修正版が上がってきますが、雰囲気に合わないものはリテイクすることも多かったと思います。とくにデザイナー側は、『運命の輪』における皆川さんのデザインに縛られている傾向が強く、一度、そこから解放することが必要でした。『運命の輪』を忘れて、むしろオリジナル版に近づけるよう指示を出しました。ときには“Photoshop”でサンプル画像を作成しデザイナーに提示し、そのサンプルをもとに構築し直していただくことも多々ありました。開発終盤でのリテイクはさぞかしたいへんだったと思いますが、デザイナーもよりよい商品作りのためにプライドを持って対応してくれたと思います。

――UIひとつとってもかなりの苦労があるのですね。『タクティクスオウガ』といえば、ドット絵のカットシーンも大きな魅力ですよね。『リボーン』でさらなる高解像度化を施すにあたって工夫されたところを教えてください。

片野高解像度化の方針としてデザイナーにはもとのドット絵としての表現を失わせることなく、高解像度化をしてもらうことを心掛けて対応をしてもらいました。高解像度を狙いすぎるとドット感が失われたのっぺりした絵やもともとの印象から逸脱する絵になる傾向がありますので、もとのドット絵と比較をしてもらいながら高解像度化を図ってもらっています。

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フルボイス化とオーケストラ演奏によって新たな魅力が生まれた

――カットシーンをフルボイス化する際に、音響の演出などはどのような点を大切にしたのでしょうか?

松野収録現場では、ユニットどうしが隣接しているのか(近い距離なのか)、それとも離れているのか(遠い距離なのか)について注意を払いつつ収録に挑みました。後者の場合、少し、声を張っていただくといった感じですね。また、収録には私自身が必ず参加し、台詞の解釈について演出監督と声優の皆さんに指示を出しました。演出監督が旧スクウェア時代からの友人ということもあり、収録はかなりスムーズに進んだと思います。ただ、台本だけでも31万字。台詞の多い少ないはあるので一概に言えませんが、30分もののアニメに換算すると約2クール分に匹敵します。主人公デニムを演じていただいた前野智昭さんにいたっては、毎回3~4時間の収録を5回に分けて行いました。叫ぶ台詞も多いため、最後にはガラガラ声になってしまうといったこともありました。また、声優さんも人数も相当なもので、収録だけでも約3ヵ月かかりました。スケジュール調整などをやりくりしていただいた東北新社の担当様には感謝しかございません。

――台詞31万文字、収録期間3ヵ月……。ボリュームのすごさを実感する数字です。でもプレイヤーとしては物語を進めるのが楽しみになります。効果音も再構築したとか。

松野はい、再構築しました。当初の開発方針としては『運命の輪』を流用することが前提でした。ですが、ユニットの戦闘不能時にボイス収録した“悲鳴”を実装しました。その瞬間、従来の効果音が気になり始めました。マップのテクスチャと同様に、一見するとオリジナル版のままに見えますが実際は高解像度化が施されているわけで、効果音についてもその作業が必要だと確信しました。開発の末期でしたが、サウンドディレクターの矢島さんに頼み込んでほぼすべての効果音を作り直してもらいました。

矢島開発末期、サウンド周りの作業がほとんど終わったころに松野さんに呼ばれて効果音の全差し換えを提案されたときは「日程的に大丈夫なのか……」と正直思いました(笑)。ただ、ひと通り内容の揃った状態でゲームを見て思ったことをいろいろとお聞きする中で、効果音の重要性を強くおっしゃられていて、その熱量に「これは要望に応えていきたい!」という気持ちになりました。

――差し換え作業はたいへんだったのでしょうか?

矢島たいへんでした。過去の仕様をそのまま移植したため、開発末期ということもあり、メモリ容量の問題や過去の内蔵効果音の仕様を大幅に変更するわけにもいかず、音の差し換えが困難な箇所も多々ありました。そんな中、常駐素材波形の音質の向上化や、各スキルやエフェクトの内容に合わせて明示性の高い効果音に差し換えたり、UIの音をわかりやすくしたりと、いろいろブラッシュアップを行っています。松野さんにも連日確認を行っていただき、リテイクもかなり重ねて納得がいく対応ができたと思います。松野さんとの仕事は久しぶりだったのですが、昔と変わらず気合の入った松野さんと全力で仕事ができて本当にうれしかったです。

――なるほど。プレイする際はそんなこだわり抜いた効果音も注目のポイントですね。フルボイスにあたり、声優のキャスティングはどういった基準で行ったのでしょうか?

松野私はほとんどアニメを観ないので、おもに洋画や海外ドラマで吹き替えを担当されている声優さんを中心にお声がけさせていただきました。これは『FF XII』と同じですね。もちろん、皆さんベテランなのでアニメやゲームでも大活躍されているのですが、私のチョイスは前述の洋画や海外ドラマからでした。この声がこのキャラのイメージに合っているなというところからチョイスし、お名前と経歴を調べたうえで依頼するという形でした。

――収録したボイスが乗ったカットシーンを客観的にご覧になったときの感想を教えてください。

松野改めて全編を通しプレイしたときに感じたのは、文字通りキャラクターに命が吹き込まれたなと。やはり声優さんの演技が加わることでキャラクターの感情もつかめますし、なによりもより臨場感が増します。執筆した脚本を数段、レベルを上げていただいたなと感動しました。ご参加いただいた90余名の声優の皆様に改めて感謝申し上げます。

『タクティクスオウガ リボーン』傑作SRPGの生みの親・松野氏ら6名の開発陣スペシャルインタビュー。進化を遂げて蘇った本作の開発経緯と魅力を訊く

――早くボイスが乗ったカットシーンを見たくなっちゃいます。『FFXII TZA』に続き、今回も崎元さんによる生演奏再収録ですが、スタッフの皆さんが生演奏版を始めて実装して聴かれたときのファーストインプレッションを教えてください。

加藤その楽曲クオリティから「ボイスの実装と相まって、より臨場感のあるカットシーンやバトルになるよね!」という話で持ち切りでした。個人的にオリジナルのスーパーファミコン版音源は大好きな楽曲のひとつで、いまでもよく聴いているのですが、長年の夢のひとつである「このすばらしい楽曲の数々を、オーケストラ編成で聴いてみたい!」がついに実現しました。崎元さん、岩田さんの楽曲が好きな方々は、きっと同じ夢を抱かれていたに違いないと思います。

――オーケストラ編成で収録されたとのことですが、崎元さんは、かつて手がけられた『タクティクスオウガ』のサウンドを『リボーン』のために、いま改めてお聞きになってどのような感想を抱きましたか?

崎元無謀さも間違いもいろいろありますが、でも一生懸命、精一杯がんばっているな、と感じられます。どんなときでも全力を尽くすことは大事ですね。

加藤崎元さんから「経験を積んだいまの自分であれば、物語の幅を持たせる(物語の本質的な一面をあらためて見せる)演出を楽曲で表現できるはずなので、カットシーン用に数曲書き下ろしたい」という相談があり、作曲していただきました。また、私の方からも、とあるバトル用に曲を書き下ろして欲しいというリクエストをさせていただき、カッコイイ曲を仕上げていただきました。ほかにも新曲を用意していますので、実際にプレイをして聴いていただけるとうれしいです。

AIの進化によって戦術の重要性が増す!

――敵のAIが、戦況や戦術、フィールド状況で変化するとのことで非常におもしろそうなのですが、実際のプレイでは、具体的にどのような体験をもたらすものになっているのでしょうか?

高橋プレイヤーもそのときの状況から動きを考え戦う必要がある“手応えがある敵”となりました。いくつかの難所では戦術を練り直すことがあるかもしれませんが、それに対してAIは細かく動きを変えて対応してきます。

――いわゆる詰将棋的なバトルではなく、動的に変化するバトルになると。

高橋その通りです。これはさまざまな積み重ねで作られていて、いくつかの要素で構成されています。まず位置取りです。今作は敵軍がどのあたりでプレイヤーと戦いになるか前線位置を考えられるようになりました。細い道のマップ、平原のような広いマップなど、地形とプレイヤー軍の動きをあわせて、敵が位置取りを考えます。つぎに近接攻撃、遠隔攻撃にダメージ的な特徴が出たことをAIは考慮します。弓などの遠隔攻撃は後衛クラスに有効ですが、ナイトなど前衛に対してはそれほどではありませんし、魔法は遠隔攻撃ですが前衛にも有効、といった差があります。AIはこのダメージの差と前述の位置取りを合わせて動きを決めます。ほかにもマップに落ちているものや、スキルの状態など多くの情報をAIが考慮できるようになっています。

――AIもかなりの進化を遂げていると。戦術を練るのが楽しみになりそうです。本作ではバトルテンポも向上しているのですよね。

松野“倍速モード”を実装しました。ユニットの移動速度から魔法等のVFXまですべてのアニメーションが高速になります。「これが標準でよいのではないか?」と個人的には思いますが(笑)。あとは、戦闘中のバトルコマンドの変更によるところが大きいですね。『運命の輪』ですと、“武器による攻撃”や“魔法”、“スキル”など、それぞれのサブコマンドを選択して階層を深掘りする必要がありました。今回はUIの変更で使用可能な攻撃などが一括表示されます。この深掘りしないで済むだけでも操作ステップが減りました。とくに以前はMP不足で魔法を使用できないといったことが深掘りしないとわからなかったのですが、今回は一括表示のため、どのコマンドが使用できて何か使用できないのか、それを一瞬で把握することができます。

――テンポ、操作性、視認性、あらゆる要素がパワーアップしていると。

松野さらに、AIの高速化も行っています。AIを1から作り直していますが、判断に悩みそうな魔法やスキルを削除し、さらに一体のユニットにセット可能な魔法やスキル等の数を制限しています。これにより『運命の輪』とは比較にならないほど複雑な思考を高速で実行できるようになりました。もちろんハードの性能やメモリの確保によるところも多分にありますが、そうした一連のブラッシュアップによってAIが進化しています。これらの作業によってバトル全体のテンポが向上したというわけです。ちなみに“演習”による自軍ユニットのレベル上げですが、私はほぼAIに任せていました(笑)。そのあいだにコーヒーを淹れたり、他作業をしたりと(笑)。放っておいても問題なく敵をせん滅してくれるほど、今作のAIは信頼できると思います。

『タクティクスオウガ リボーン』傑作SRPGの生みの親・松野氏ら6名の開発陣スペシャルインタビュー。進化を遂げて蘇った本作の開発経緯と魅力を訊く

――最後にファンの方たちにメッセージをお願いします。

崎元スーパーファミコン版『タクティクスオウガ』に関してはひとつだけ心残りがあり、シナリオの現実的な厳しい部分ばかりが取りざたされている印象を受けていました。この物語は人間愛がもとになっていると私は思っていまして 、今作では少し印象が変わるよう新たな楽曲を加えてあります。音声が入ってまた印象が変わり、違った味わいになっていると思いますので、ぜひ手に取っていただけるとうれしいです。

高橋バトル周りは長期間に及び細かな調整と要素の追加・削除をくり返しました。ボリュームのあるタイトルでたいへんなこともありましたが、結果的にやりごたえを感じていただけるゲームができたと思います。とくにスキル選びや、どのクラスを入れるかといった自軍の編成は、ひとつの解法ではなくプレイヤーの皆さん独自の軍団が作れるようになっていると思いますので、楽しんでいただければと思います。

片野私自身の『タクティクスオウガ』の開発者としての携わりはPSP版からとなりますが、いま、遊ばれるかたにどう楽しませたいかということを松野さん、開発スタッフと丁寧に検討をしつつ開発を進めていきました。カットシーンについては松野さんの立ち会いのもとのフルボイス収録がされており、『リボーン』の開発中に音の入った状態で初めてカットシーンを見た、聞いたときは松野さんの意図が入った演出と声優さんの演技力で臨場感がすごいことになっている……と素直に思いました。バトルについては、丁寧に改善をして、UIの改良や丁寧に挙動を調節した高速モードでテンポよくバトルが進められ、敵のAIはちょっと憎たらしく思いつつ、そうくるならこの手なら勝てるか? ということをバトルの盤面だけでなく編成やスキルなどの装備を考えてプレイをする楽しさが表現できていると思っております。新しい『タクティクスオウガ』を楽しんでいただけると開発スタッフ一同思っておりますのでぜひお手にとって最後まで楽しんでいただければと思います。

矢島今回『タクティクスオウガ』という名作に携わることが出来て本当に光栄です。開発スタッフの熱量も非常に高く、いろいろな要望や調整に細かく対応していただけたことに感謝しています。
 プレイヤーの皆さんの目線を大事にして当時の世界観を崩さないよう気を付けながら、ボイスの追加や効果音のブラッシュアップ、音量のバランス調整を行いました。これまでのすべての開発スタッフの想いが集結している、新たに“リボーン”した『タクティクスオウガ』をぜひ楽しんでいただければと思います。

加藤名作と言われるタイトルの開発に3度携わらせていただき、より研ぎ澄まされた内容にできたのは、いまだファンの皆様から熱い支持を得られているのと、スーパーファミコン版およびPSP版の開発に携われられたすべての開発関係者の尽力による賜物と実感しています。この場をお借りして感謝申し上げます。かつて『タクティクスオウガ』をプレイしたことのあるかたには “思い出を越える” 体験を、初めて『タクティクスオウガ』をプレイするかたには “いままでにない” 体験を味わっていただける形に仕上がっていますので、奥深い物語の世界を存分に楽しんでいただけると幸いです。

松野かつて『伝説のオウガバトル』から『タクティクスオウガ』を開発する際、同じゲームシステムを踏襲せず、がらりとそれを変更しました。何故、そうしたのか。当時、弱小メーカーだった我々は「なんでも作れる」ことを示すことでブランドを確立しようと足掻いていました。結果、離脱したファンの方も多かったと思います。今作も同様でしょう。ですが、オウガシリーズはつねに変化を恐れず、果敢に挑戦していくことがコンセプトのタイトルです。完璧なリメイクとは、あえて申しません。欠点もあるでしょう。グラフィックを含めてフルリメイクできたらよかったかもしれませんが、それなら新作の製作を選んだはず。その意味では、ひとつの区切りを付けるために今作に携わりました。先へ進むために。ファンの皆様の長年にわたる熱意と支持に感謝申し上げます。皆様の声がなければリボーンすることはありませんでした。そして、生まれ変わったタクティクスオウガをその手に取り、最後まで遊んでいただけると幸いです。