2022年8月6日と7日の両日、スクウェア・エニックスは東京・丸ノ内にある東京国際フォーラム・ホールAにて、『ファイナルファンタジー』(『FF』)シリーズ生誕35周年を記念したオーケストラコンサート“FINAL FANTASY 35th Anniversary Distant Worlds: music from FINAL FANTASY Coral”の東京公演を開催した。
指揮はおなじみのアーニー・ロス氏、演奏は新日本フィルハーモニー交響楽団。
本稿では、そのオーケストラコンサート模様をお届け。なお、8月13日には兵庫公演も行われるので、同公演に参加予定の方はネタバレにご注意を。
Distant Worlds自体も今年で15周年。公演は世界78ヵ国、公演数は8月7日で212回、オーケストラ演奏された楽曲は142曲に
本公演はあいだに休憩を挟む、第一部と第二部の二部構成。第一部は『FFVI』までの楽曲が演奏された。
コロナ禍でいままで当たり前にあったことが当たり前ではなくなったこのご時世。ひさびさの『FF』コンサートということもあり、会場はいつも以上に緊張感あふれるピンと張り詰めた空気が漂っていた。
そんなシンと静まりかえった会場にオーケストラや指揮者のアーニー・ロス氏が登壇すると会場からは大ききな拍手が。拍手で少し緊張がほぐれたところで演奏されたのは、最初のDistant Worldsでも演奏された『メドレー2002 [FINAL FANTASY I~III]』。
『FFI』のフィールド曲や軽やかな『チョコボのテーマ』、悲壮感のある『反乱軍のテーマ』など、起伏に富んだ物語が楽しめる『FF』の魅力が詰まったメドレーだ。スクリーンにはピクセルリマスター版を使った各作品のシーンが映し出され、35年というシリーズの歴史の重みを感じるとともに、初期作品も時代に合わせて進化を遂げ、いまだ色褪せない輝きを感じさせられるオープニングとなっていた。
2曲目に入る前にアーニー・ロス氏が客席に振り返り挨拶。
会場に来ているゲストとして客席にいるファイナルファンタジー ブランドマネージャーの北瀬佳範氏を紹介した(その後、コンサートでは折に触れてゲストが紹介され、この日はほかに水田直志氏、崎元仁氏、祖堅正慶氏、下村陽子氏が紹介された)。
さらに『FF』楽曲の生みの親、植松伸夫氏も登壇。植松氏は「『FF』が発売された1987年は日本で初めて携帯電話が発売された年だそうで、そう考えると大昔のように思えますが、それからいまだにシリーズを続けていられるのは皆様のおかげです」とファンに感謝の意を伝えた。
また、Distant Worlds自体も今年で15周年となり、公演は世界78ヵ国、公演数は8月7日で212回、オーケストラ演奏された楽曲は142曲ということが明かされ、植松氏も感慨深い表情。今回のDistant Worldsロンドンやシカゴ、ロス、バンコクなどでの公演も予定さているとのことで、今後もその数字はまだまだ伸びることになる。
植松氏の挨拶の後は『悠久の風』(『FFIII』より)が演奏。それに続く3曲目『赤い翼』からの『バロン王国』(『FFIV』より)、4曲目『ファイナルファンタジーIV メインテーマ』(『FFIV』より)はオーケストラ演奏では初お披露目となる。
『はるかなる故郷』からの『想い出のオルゴール』という心憎い構成から『新しき世界』と『FFV』からの楽曲が続いた後は、『FFVI』の『迷いの森』、『魔列車』、『獣ヶ原』、そして『街角の子供達』が演奏。なお、パンフレットによると『街角の子供達』は昨年亡くなられたすぎやまこういち氏にいちばん最初に褒められた曲とのことで、その曲が今回演奏されたというのも感慨深い。
ここまで紹介した通り、第一部は『FFI』から『FFVI』まではナンバリング順のセットリストとなっており、そんな第一部のラストは『FFI』から『FFVI』までの通常バトル曲を中心に新たにメドレー構成にした『FINAL FANTASY I~VI バトルメドレー2022』。メドレー後半は『FFVI』の『決戦』で盛り上げてからの最後は勝利のファンファーレ!
RIKKIさんの『素敵だね』、白鳥英美子さんの『Melodies of Life』、コーラスなど第二部は歌ものでさらにドラマチックに
休憩を挟んだ第二部のスタートは『FFVII』から……と思いきや、『FFVIII』のオープニング曲『Liberi Fatali』から。“Barzz~鳥の吟遊詩人たち~”のコーラスが会場に響き渡り、第一部とはまた違った雰囲気のスタートに。
第二部2曲目は『FFXI』から『Ragnarok』(作曲:水田直志氏)。同曲は拡張データディスク『アトルガンの秘宝』の最終決戦の曲とあって壮大な曲となっているが、オーケストラ演奏でさらにスケール感もアップ!
3曲目は定番曲『エアリスのテーマ』。それ続く4曲目は『FFXII』より『剣の一閃』(作曲:崎元 仁氏)。曲の出だしからスケール感と爽快感を感じさせる高揚感あふれる、爽やかな風を感じほど気持ちいい演奏。
5曲目は『FFX』から歌ものの『素敵だね』。RIKKIさんが登場し、オーケストラをバックに当時と変わらぬ歌声であの切ないバラードを歌い上げた。こうしたオーケストラコンサートに歌ものも楽しめる、という懐の深さも『FF』コンサートの魅力のひとつだ。
続く『FFXV』からは『APOCALYPSIS NOCTIS』(作曲:下村陽子氏)。こちらもコーラスが入る壮大な曲。後半の盛り上がりもハンパないアレンジ。
7曲目はヴァイオリンの躍動感あふれる演奏が印象的だった『FFXIII』から『閃光』(作曲:浜渦正志氏)が演奏され、8曲目は『FFIX』からノスタルジックな曲調が印象的な『いつか帰るところ』からの主題歌『Melodies of Life』。歌い手はもちろん、白鳥英美子さん。白鳥さんの澄んだ伸びのある優しい歌声はコンサート終盤の寂しさを癒してくれるよう。
『Melodies of Life』の後は、ハイテンションなイントロで『FFXIV』を象徴する名曲『天より降りし力』(作曲:祖堅正慶氏)。コーラスも迫力バツグン。
そして最後の曲はシリーズのメインテーマで最後を飾るにふさわしい『FINAL FANTASY Main Theme with Choir -The Definitive Orchestral Arrangement-』。『FF』シリーズといえばこのメロディー。昨年開催された東京五輪の開会式でも流れたのは記憶に新しいところ。
当然巻き起こるアンコールを求める拍手に応え、演奏されたのは『FFX』より『ザナルカンドにて』。そしてオーラスはどのコンサートでも盛り上がる『片翼の天使』(『FFVII』より)。とくに『片翼の天使』では、赤い照明でオーケストラも真っ赤に染まり、演奏、コーラスも相まって圧巻の迫力。演奏後はゲスト陣も登壇。しばらく拍手が鳴り止まず、まさに35周年のコンサートを締め括るにふさわしいフィナーレとなった。
意外にもオーケストラ演奏では初めて、という曲も多数演奏され、それでも『FF』シリーズの王道なセットリストという印象だった今回のコンサート。そうした名曲の多さでも35周年の歴史に加え、才能豊かな作り手たちのこだわりが感じられた。シリーズ全体からバランスよく選曲され、それらの名曲をオーケストラ演奏と映像で堪能できるのはまさに“Distant Worlds”ならでは。今後も40周年、45周年と節目ごとに開催してもらいたい!
セットリスト
<第一部>
1 メドレー2002[FINAL FANTASY I~III]
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Shiro Hamaguchi
2 悠久の風(FINAL FANTASY III)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Hiroyuki Nakayama
3 赤い翼 ~ バロン王国(FINAL FANTASY IV)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Hiroyuki Nakayama
4 ファイナルファンタジー IV メインテーマ(FINAL FANTASY IV)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Hiroyuki Nakayama
5 はるかなる故郷 ~ 想い出のオルゴール(FINAL FANTASY IV)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Yohei Kobayashi
6 新しき世界(FINAL FANTASY V)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Yohei Kobayashi
7 迷いの森 ~ 魔列車 ~ 獣ケ原(FINAL FANTASY VI)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Yohei Kobayashi
8 街角の子供達(FINAL FANTASY VI)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Yohei Kobayashi
9 FINAL FANTASY I~VI バトルメドレー2022
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Yasumasa Sato
<第二部>
1 Liberi Fatali(FINAL FANTASY VIII)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Shiro Hamaguchi
2 Ragnarok(FINAL FANTASY XI)
Composer: Naoshi Mizuta
Orchestrator: Yoshihisa Hirano
3 エアリスのテーマ(FINAL FANTASY VII)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Shiro Hamaguchi
4 剣の一閃(FINAL FANTASY XII)
Composer: Hitoshi Sakimoto
Orchestrator: Yoshimi Kudo
5 素敵だね(FINAL FANTASY X)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Shiro Hamaguchi
Vocalist: RIKKI
Lyrist: Kazushige Nojima
6 APOCALYPSIS NOCTIS(FINAL FANTASY XV)
Composer: Yoko Shimomura
Orchestrator: Sachiko Miyano
7 閃光(FINAL FANTASY XIII)
Composer: Masashi Hamauzu
Orchestrator: Masashi Hamauzu
8 いつか帰るところ ~ Melodies Of Life(FINAL FANTASY IX)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Shiro Hamaguchi
Vocalist: Emiko Shiratori
Lyrist: Ciomi
9 天より降りし力(FINAL FANTASY XIV)
Composer: Masayoshi Soken
Orchestrator: Shota Nakama
10 FINAL FANTASY Main Theme with Choir -The Definitive Orchestral Arrangement-
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Shiro Hamaguchi
Chorus arrangement: Hiroyuki Nakayama
<Encore>
11 ザナルカンドにて(FINAL FANTASY X)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Shiro Hamaguchi
12 片翼の天使(FINAL FANTASY VII)
Composer: Nobuo Uematsu
Orchestrator: Shiro Hamaguchi
今後も少しずつ変えていきながら、いつまでも続けていけるコンサートに
最後に公演を終えた植松伸夫氏とアーニー・ロス氏への囲み取材のやり取りをお届け。
アーニー・ロス
指揮者。Distant Worlds以外にも『FF』のオーケストラコンサートでディレクターや指揮を担当。
植松 伸夫(うえまつ のぶお)
『FF』シリーズの楽曲を多数手掛けてきたコンポーザー。
――本公演を終えての感想は?
アーニー『FF』20周年から始まり、25周年、30周年、そして35周年のオーケストラコンサートに参加させていただけることをとても光栄に思っています。『FF』シリーズの音楽の作曲家である植松さんといっしょに日本でコンサートが実現できたことをうれしく思っていますし、それを実現するためにサポートしてくれたスクウェア・エニックスの方々にも感謝します。
植松35年もよく続いたものだな、というのが正直なところです。支えてくださる方々がいてこそのことだと思うので、素直にうれしいです。35年経ってもこういったコンサートが開催できるのは、自分にとっても光栄ですし、今回のコンサートに来てくださった方々が喜んでいただけたとしたら、作曲家冥利に尽きます。つぎは40周年ですかね(笑)。
ただ最近、曲数が多くなりすぎていて、1回のコンサートだけだと「あの曲も聴きたかったのに」と思うことも出てくるのかな? 曲を変えながら3日くらい連続で開催できたら、皆さんが聴きたいであろうあの曲もこの曲も演奏できるのかな? なんてことを考えながら演奏を聴いていました。
――すでにつぎの構想も練りながらご覧になっていたんですね。今回のコンサート“Coral”(サンゴなどの意)についてですが、Coralと付けた意図は?
植松ダジャレです(笑)。Coral⇒サンゴ⇒35(周年)という。
――まさかの(笑)。
植松ただ、Coral=サンゴだと日本人にしか通じないダジャレになるので、ひと捻りして“Choral”(合唱)だと音楽に関係しているからいいんじゃない? などと提案したりもしたんですけど、アーニーさんから却下されました(笑)。「合唱のコンサートだと思われるから」と。
アーニー“Coral”については外国の方に毎回聞かれます。説明が難しいです(苦笑)。
――今回のセットリストについてはどういった基準で?
植松『FFI』から『FFVI』の楽曲については、オーケストラコンサートでまだやっていない楽曲の中からスクウェア・エニックスのスタッフの方にピックアップしてもらって、そのリストから自分が選びました。
『FFIV』の『赤い翼』については、好きだと言ってくださる方が多いにもかかわらず、これまでオーケストラで演奏してこなかったので、今回やれてよかったなと思います。
――アンコールに選んだ2曲については。
植松最近、あの2曲はやらないわけにはいかない、というのがありますよね(笑)。あとは、どこに入れるか……という。
2010年の“Distant Worlds: music from FINAL FANTASY Returning home”では『片翼の天使』を1曲目に入れて、それはそれでおもしろかったですが……でもやっぱり「セフィロス!」って終わる感じは、コンサートの最後としてよくないですか?(笑)。ちなみに、海外では僕も『片翼の天使』のコーラスに交じって歌っているんです。日本ではまだ実現できていませんけど(笑)。
アーニー海外でも『片翼の天使』は最後の曲のような位置付けになってきていて、観客のリアクションを見ても、それを求めていることを強く感じます。2週間前にアメリカ・ヒューストンでもコンサートをやったのですが、そこでも最後の『片翼の天使』はすごい反応でした。
植松海外ではお客さんといっしょに合唱になることも多いんですよ。
アーニー歌詞をスクリーンに表示して何回か練習してから演奏すると、すごく盛り上がるんです。いつか日本でもできるといいですね。
植松コロナが落ち着いて、早く声を出せるようになればいいですね。
――『片翼の天使』の演奏時はオーケストラ全体に赤い照明が当たり、曲の雰囲気に合わせていたのが印象的です。
アーニーそうですね。かなり曲とフィットしていました。言っておきますが、Coral(サンゴ)にちなんだ色ではないですよ(笑)。
――では、今後の“Distant Worlds”についてひと言ずつお願いします。
植松同じことをやっていると飽きてくるので、お客様も我々も新鮮な気持ちで楽しめるうに、今後もDistant Worldsは少しずつ変えていきながら、いつまでも続けていけるコンサートに育てていきたいと思っています。
アーニー今回の“Distant Worlds”では、『FFI』から『FFVI』が演奏される第一部はシリーズの曲の進化がわかる構成になっていますので、ぜひそこも注目してほしいですね。また、今回はアップテンポな曲が多く、とても楽しめると思います。
今後の“Distant Worlds”についてですが、『FF』シリーズの曲も多くなってきました。『片翼の天使』のような来場者が期待する定番の曲を入れつつも、初めて演奏される曲が必ずあるよう、更新しながらやっていきたいと思います。
FINAL FANTASY 35th Anniversary Distant Worlds: music from FINAL FANTASY Coral
- 日時:2022年8月7日(日) 開場11:00/開演12:00
- 場所:東京国際フォーラム・ホールA
- 指揮:アーニー・ロス
- 演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団
- コーラス:Barzz~鳥の吟遊詩人たち~(R)
- 歌唱:白鳥英美子/RIKKI
- ゲスト*植松伸夫
- 主催:キョードー東京
- 協力:スクウェア・エニックス
Photo By MASANORI FUJIKAWA