ファミ通.comがアニメ業界の気になる人たちへとインタビューする連載“アニメの話を聞きに行こう!”。ゲームメディアならではの切り口で、人気のアニメに関わる人たちの考え方を掘り下げていきます。

 記念すべき連載第1回では『機動戦士ガンダム』の生みの親であり、2021年に御年80歳を迎えたアニメ界の巨匠、富野由悠季氏。この年齢になってもなお現役でアニメーション監督を続けるそのバイタリティー、そして多方面で放つ切れ味鋭い発言の数々は、我々に唯一無二のインパクトを与えてくれます。

 そんな富野氏が監督を務め、全5部作の構想で2019年より公開されてきた劇場版『Gのレコンギスタ』が、2022年7月22日公開の第4部「激闘に叫ぶ愛」、8月5日公開の第5部「死線を越えて」で、ついに完結。

 2014年放送開始のテレビアニメシリーズ『Gのレコンギスタ』完結後、改めて“劇場版”を作り直している理由とはいったいなんなのか?

 80歳になってもエネルギッシュに創作活動を続けられる秘訣とは? 手塚治虫とのエピソード、現代政治への失望とそれに対する思いなど話題は多岐にわたります。そしてインタビュー中に飛び出した「『ファミ通』なんか読まないような子たちに観てほしい作品です」という発言の真意とは? ぜひ最後までお楽しみください。

富野由悠季(とみの よしゆき)

アニメーション監督。テレビアニメ『鉄腕アトム』の脚本・演出に関わり、監督を務めた『機動戦士ガンダム』シリーズが大ヒット。『伝説巨神イデオン』や『OVERMAN キングゲイナー』ほか代表作多数。自身が監督するアニメ作品のテーマ曲の作詞やノベライズも手掛けるなど、活動は多岐にわたる。

劇場版『Gのレコンギスタ Ⅰ』「行け!コア・ファイター」(Amazon Prime Video)

『G-レコ』を作り直している理由

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――テレビシリーズ『Gのレコンギスタ』(『G-レコ』)は2014年から2015年に掛けて放送された作品です。これを劇場版として作り直している理由について改めてお聞かせください。

富野テレビの『G-レコ』は話がわかりづらかったんですよね。

――確かにテレビ放送中、そんな声は一部ありました。

富野テレビでのオンエアで客観視することで、自分が作ってきた『Gのレコンギスタ』というアニメの全体像を、これまでと違った視点で見渡せたわけです。すると、思った以上に破綻があって、「作り直せないかな?」という気分に陥ったんです。

 ただ、これを劇場版にすると5本になるってことが直感的にわかったんです。それは個人の資金でできることではないわけですし、「5本も作らせてもらえるだろうか?」というのが大問題としてありました。

 「5本の劇場版として作り直したい」という希望をオンエアが終わった瞬間にサンライズへ申し出て、すぐには決まらないだろうと思ったんですけど……テレビアニメ版が終わった瞬間から、僕のほうでは劇場版のためのコンテの直しをやり始めました。そうして半年もしないうちに「5本作っていいよ」というゴーサインが出たんだと思います。

 映画5本分のコンテに整理をするっていうレベルでの不安感みたいなものは一切なかったと記憶しています。3本目のコンテをまとめているころには、サンライズもそういう態勢になってくれてるんだろうなと感じましたので。

 結果的に作り直した意味がハッキリとわかる劇場版に仕上がったので、本当によかったなと思っています。

――『機動戦士ガンダム』や『機動戦士Zガンダム』などでもテレビ版の後に劇場版を公開する作品がありましたが、これまでと『Gのレコンギスタ』には違いがあるのでしょうか?

富野違います。ぜんぜん違います。根本的に違います。

 テレビ版の『G-レコ』を観ていて不思議だなと思ったのが、「なんでこうまでわかりにくいんだろうか?」というのがパッと見ではわからなかったんですよ。それで何度も観ているうちに気づいたのが、ベルリとアイーダの関係性みたいな部分をきちんと描いてなかったという、ドラマラインの問題があったんです。

 ここに関しては、コンテ上の組み換えや新規の映像を入れなければいけないというのが自動的に導き出せましたし、第3部でベルリとアイーダの関係がハッキリしてくれば、当然、間に入っているノレドの位置づけも、よりハッキリせざるをえないよね、ということもあって、それは大きな問題ではなかったんです。つまり、“ドラマを組み直す”っていうのは一見大変なようなんだけども、ラインはハッキリしていましたね。

 「妙だな、なんでピンと来ないんだろうな」と思っていたのが、ひとつにカシーバ・ミコシ(※)が思ったよりも小さく見えてしまっていて、「原因は何なんだろうか?」と本当に考えました。ほかの宇宙戦艦と並べても大して大きく見えない。「根本的にコンセプトが間違っていたんだろうか?」って考えましたね。カシーバ・ミコシのデザインを直していくことが、実をいうといちばん大きな問題でした。

※カシーバ・ミコシ……『Gのレコンギスタ』作中に登場する豪華絢爛な大型航宙艦。スコード教のご神体のひとつでもある。テレビシリーズから劇場版になったとき、デザインが大幅に一新されている。

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

 だけどこれも原因がハッキリしたので、メカデザインの山根さん(※)に「(大きく見えるように)できる?」って聞いたら「う~~~~ん……」って30分くらいうなった後で「はい」って言ってくれました。

※山根さん……山根公利氏。『Gのレコンギスタ』でメカニカルデザインを担当している。ガンダムシリーズへの初参加は『機動武闘伝Gガンダム』のときで、直近では『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』にも参加。

 「これをまだ大きくするのか、本当に?」っていう抵抗感はすごくあるんです。デザイナーとしては大きく作ったつもりだった。でも実際にはちっとも大きく見えなかった。これは何なんだ? どうやらデザインの骨格を変える必要があるらしい。それがわかったらもう大丈夫なんだけど、問題なのは「面倒臭いよね」ってことでしたね。

――あはは。

富野もっと原因がわからなくて「う~~ん……」とうなっていたのはナットの問題なんです。つまり、キャピタル・タワーの駅ごとに人工衛星を並べていったものがナットなんだけど、140個だか150個だか、全部同じ色だったから、同じものにしか見えない。ところが実際はストーリーが進むにつれ、ベルリたちは移動してるんですよ。だけど画面では全部白いから別の場所のナットに見えないんですね。

 ただ、宇宙モノで、宇宙空間で長期的に使われているものは白じゃないと太陽熱を吸収しちゃうという問題があるんです。

――現実のISS(国際宇宙ステーション)なんかも白ですもんね。

富野うん、だから本来は白以外絶対使えないんです。けれども「このナットとこのナットは違うな」というのがわかるように、ひとつひとつのナットの見た目を変えたほうがいいとわかったんです。

 主人公たちは動いてるんだから景色を変える、変えなきゃいけなかったんだね。

 ナットの形は原則的に絶対変えられない。それを見分けがつくようにするにはどうすればいいのか? それがすぐにはわからなかった。最終的に「色と模様を変えるだけでいいんだよね」というところに行き着くんだけど、「本当は白でしか塗っちゃいけないものに色を付ける」っていうのはすごく抵抗がありました。

――科学考証、SF考証としては誤りになってしまう。

富野だけど、考えてみれば初代の『機動戦士ガンダム』のときに宇宙船もモビルスーツもいろんな色をしてたじゃない。「だから関係ないよね」っていう結論に達しました。

――確かに。

富野色と模様を変えるだけ。そうすると何が起こるかというと、それぞれの特色を出すための名前をきちんと決めなくちゃいけないというのも思ったし、合わせて「こういうデザインの模様を付ける」っていう話もした。そうすると、CGでそれを回さなきゃいけない。真っ白いのを回すのと勝手が違うから、美術監督も背景マンも、デジタルのスタッフも「えっ、こんなただでさえ面倒臭いやつを回すんですか?」と言うんだよね。

――「白い物体を回転させるのとは事情が違うんですが!」って(笑)。

富野そう。けれども「場所が変わって、景色が変わったから、いまベルリたちがいるのはここ!」っていうのを観てる人にわかるようにするにはこれしかないってわかったら、スタッフはみんな億劫がらずにやってくれました。

 ただ、今回公開される4作目(2022年7月22日公開の「激闘に叫ぶ愛」)にはもう劇中にナットが出てこないわけ。だからエンドロールではキャピタル・タワーの全景を蔵出ししたんです。「劇中に出てこないならエンドロール長いんだから、そこでぐるぐる回しとけ!」と言って、落ち着いた。

 このエンドロールを見て「本編でナットは映らなかったけど、こういうものが背景としてある物語なんだよね」とわかると安心できるという意見が出たわけです。「やっぱり観客・視聴者に世界設定をきちんと見せるっていうのは大事なことだったんだよね」と教えられましたね。

 始めはどうしようもなかったんだけど、最終的にはエレベーターがいちばん目立つようになって、「モビルスーツはどこに行ったんでしょうか?」というくらいの作品になりました。

――どこへ行ったんでしょう?

富野「よくわかりませんねぇ」っていうくらいになりました。

劇場版『G-レコ』の見どころ

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――わかりづらいところ直すという意識で始まった本シリーズで、「せっかく作り直すなら」とこだわった部分はありますか?

富野いま言ったところがいちばんこだわってやった部分で、あとは戦闘シーンなんかはテレビ版のままでいいんだよねっていうくらい。

 だけど本当に妙なことなんだけど、あの背景、デザインワークスをやったおかげで、テレビ版のままのところも、テレビ版のままには見えないわけ。「これ手を加えた?」「いやいや、まんまですよ」という会話をしたところがけっこうある。だからそういう意味では、まさに表現や物語の説得力に“裏打ち”をしていく作業ができたんだなというのを、今回改めて感じました。

 つまり、ガンダム系のテレビシリーズを映画化したときって、基本的にテレビ版のまんまだったんですよ。それが『G-レコ』では“新作”と言ってよいものになりました。5本目も絵並びができて、音楽プランもチェックした結果として、完璧に新作になったなという感じはあります。

――それは新規カットもかなり増えたりしているんでしょうか?

富野いや、新規カットとかの問題じゃないんです。世界設定の背景がきちんと見えていると、見ている側も「どういう世界なんだろう?」っていうイメージをしやすくなるっていうか、安心するんです。単純に綺麗な絵にすればいいっていうわけではないんです。

 それで言えば、劇場版で新たに参入してきたアニメーターや彩色マンのほうが、慣れていなかったりするの。だから、新規カットがあったとしても必ずしも全部が全部綺麗になっているわけじゃないんですよ。でも、これは自己満足かもしれないけど、総合的には「かなりよくなったな」という感触があって。昔作った劇場版と同じような気分ではないですね。

 やっぱり“8年くらい掛けて作った新作”という感覚はあります。だから第3部まで観た方にはぜひ第4部・第5部も観ていただきたいです。カシーバ・ミコシの見えかたで何が変わったかということと、物語がどういうふうにハッキリしたかということ。「ビーナス・グロゥブ(※)ってなんだったの?」という、なんだかよくわかんなかったものが背景をちょっと変えただけでベロッと変わりました。

※ビーナス・グロゥブ……金星宙域を周回するフォトン・バッテリーの集合体とこれに付随するスペースコロニーの総称。劇場版における第3部『宇宙からの遺産』ではここに向かうストーリーが展開された。

 とくにすごいなって思ったのは、背景マンが億劫がらずに手を加えてくれたのは、ナットだけじゃないんです。「申し訳ないけどここは数を増やしてくれ」ってお願いすると「えーっ?」と、一度は言うんだけど(笑)、やってくれて。それは4作目のポスターを見てもわかると思います。

――今回のポスターもいいですね、キャラクターが左上に向かって勢いがあるといいますか、“映画感”があると言いますか。

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

富野ははは!(笑) デザインっぽく作るのはやめて、「絵がうるさいけど『G-レコ』ってこうなんだよ」というのを意識して作ったというのはあります。この絵を描いてくれたアニメーターも、勝手にいろんなところをバージョンアップしてるわけ。こちらが思っていることと違うことをやってるの。腹が立つよね(笑)。

――勝手によりいいものになっていった。

富野はい、スタッフが勝手によくしてくれてます(笑)。

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

富野監督が考える“キャラクターの魅力”

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――富野作品に登場するキャラクターはみんな活き活きとしていて、とても魅力的だと思うのですが、この魅力はどこから来ているのでしょうか?

富野あのね、アニメ関係のスタッフから袋叩きに遭うことを言います。

 たとえば女性キャラクターでは、ほかのアニメに出てくる美形の女性キャラクターとは違う声優を使ってるんです。いわゆる“かわいい声”の人は使っていません。あれだとみんな同じに感じませんか。7人か8人いたって。

 アイドルブームでわかるとおり、同じようなコを13人連れてきたら全部わかんなくなるでしょ? それはやっぱりおかしいよね。グループだとみんな同じにしとかなきゃいけないから、個性はいらないってことだと思うんだけど。芸能プロダクションも冷酷なところがある。みんな並べて売るんだから、女の子たちに「お前だけじゃないんだよ」って言ってるようなものだよ。あの冷酷さを僕は持てない。

――“声”がかなりのウェイトを占めているとお考えなんですか?

富野かなりそうです。なので今回、声優さんの選定はやっぱり間違ってなかったなと思っています。皆さん、基本的にそれぞれの個性を活かして演じていただいています。

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――登場人物のキャラクター性について、演者がそこまで大きなウェイトを占めているというお考えだというのは意外ですね。

富野これはアニメに限らなくて、実写の監督もそうなんだけども、みんな女性の趣味がワンパターンなんですよ。つまり、そのときヒットしてる人気のある女優を使い過ぎる。

 昨日あっちの映画にも出ていた女優を、お前が撮る映画でまで使うのやめなさいよっていう考えかたをしない人が多いですね。そういう使いかたはキャラクターをいちばん活かす方法ではないと感じます。

 だからそれはいちばん最初の『機動戦士ガンダム』のときからなるべく避けるようにしています。ファーストガンダムのときにいた音響監督(松浦典良氏)が耳のいい人で、声優さんに対する固定された趣味を持っていない人だったんです。いわゆる新人とか、未経験みたいな子を平気で連れてきましたね。

――耳がいいというのは「このキャラクターにはこの声優さんが合っているはず」ということでですか?

富野そう、合ってる。「まさかこの子に?」って最初に思った典型的な例が戸田恵子さん(※)。

※戸田恵子さん……『機動戦士ガンダム』でマチルダ・アジャン役に抜擢。現在は『それいけ!アンパンマン』のアンパンマン役や『きかんしゃトーマス』のトーマス役などで有名。

――まだ駆け出しでいらっしゃるころの?

富野そうそう。声優でもない、歌手……歌手というより、歌手志望というくらいの女の子を連れてきたんですよ。

――なるほど。その後のキャリアを考えると、その音響監督さんは慧眼をお持ちだったわけですね。

富野「彼女、いいでしょう?」と言われたから僕は「はい」って答えるしかなくて。そこでキャリアとかじゃないんだなと教えられました。だから、人の姿って本来はこれだけ違うんだから、違う人を連れてくるっていうのはいちばん大事なことだよねって思いますね。

 だからそういう考えかたの違いが、間違いなくキャラクターの声に現れています。今回で言うと、ジット団(※)のねーちゃんたちもみんな好きです。本当に好きです(笑)。

※ジット団……『Gのレコンギスタ』でベルリたちと敵対する組織。女性も複数人所属している。

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――『Gのレコンギスタ』にはさまざまな勢力が登場して、対立や対話が行われますが「劇場版はここに注目して観ると話が理解しやすい」という注目ポイントはありますか?

富野本当に申し訳ないなと思うんだけれども、僕ね、国や組織の名前って覚えられないんだよね。みんなよく付き合ってくれるなと思っています。そこは「すみません」って言うしかなくて、解説を読んでも自分でもよくわからないんだよね。

――固有名詞やキャラクター名は監督がお決めになっているのでは?

富野僕がお決めになっている……のですけども、お決めになった瞬間に忘れる(笑)。

――あははは(笑)。

富野「あれ? どっちだったっけ?」って。いまだによくわからない。シナリオを書いているときしか覚えていません。

――書いているときは覚えているんだけど、観るときになると?

富野もうぜんぜん覚えていません。軍艦の名前も覚えられない。だから「どういうふうにしてるの?」って聞かれると本当に困るんだけど、やっぱりキャラクターでしか覚えていないんですよ。逆に言ってしまえば、クンパ・ルシータ(※)みたいな醜いキャラクターを作ってしまうのは、僕にとって覚えるためのサインなんだよ。

※クンパ・ルシータ……『Gのレコンギスタ』に登場する、ベルリたちが所属するキャピタル・ガードの調査部大佐。同時に禁忌とされている軍事力の強化を推し進めるキャピタル・アーミィに対して裏から糸を引いている人物でもある。

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

富野あぁ、だからなんだね。僕が『ラブライブ!』を作れないのは、同じようなキャラクターを並べられると識別できないからだったんだ。

 ……本当はああいう仕事もやって覚えなくちゃいけないんだろうね。

――では監督の次回作は新境地のアイドルアニメに挑戦を。

富野しません(即答)。

一同 (笑)

富野監督が嫉妬(?)する「物語を作る能力がある」人たち

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――先ほど「ベルリとアイーダの関係性がきちんと伝わらなかったのはドラマの部分に問題があったからだ」とおっしゃっていましたが、このあたりについて詳しく聞かせていただけますか?

富野おおむねのキャラクターは、世界設定の解説者としてセリフを言ってもらっているところがあるんです。とはいえベルリとアイーダは、テレビ版では「解説者にしかなっていなかったのではないか」という反省があります。本来はお姉ちゃんと弟の話だったはずのものが、そうは受け取りづらい部分があったりして。とくに劇場版でいう1作目、2作目のブロックがわかりにくかった。

 第3部でようやく(ベルリとアイーダの関係が)わかったんだけど、ビーナス・グロゥブまで行くっていうシチュエーションの話になってしまうと、キャラクターを追い掛けた話が後ろに引っ込んじゃうという問題が起きたりしましたね。そのあたりのバランスは必ずしもじょうずには行っていなかったなぁという反省もしています。

 だからもう、このところ、毎週日曜日になると気が滅入ってるんだけど、やっぱり三谷幸喜さんはそういうところがうまいよね。

――ああ、『鎌倉殿の13人』(※)。

※『鎌倉殿の13人』……2022年の大河ドラマ。脚本・三谷幸喜、主演・小栗旬でNHKにて放送中。北条義時や鎌倉頼朝を始め、多くの歴史的人物により骨太な物語の群像劇が織りなされる。多数の主要人物が登場し、関係性は複雑ながらエピソードはユーモラス。

富野観るたびに悔しがってます。あいつ(三谷氏)僕の日芸の後輩なんだけどね。

――キャラクターの設定に関連してもうひとつ、『Gのレコンギスタ』には被差別階級を指す“クンタラ”という言葉が出てきますが、こうした設定を盛り込んだ意図はどういったところにあるのでしょう?

富野これを採用したことに関連して何を考えたかというと、おそらく「人類の人種に関する偏見は、絶対になくならないだろう」という確信です。だから「人類がみんな平等で、楽しく仲よく生きていきましょう」っていう平等主義がありますけど、そんなかんたんに理想論を言っていいのかな? ということを思うんです。

 世の中で理想論をそうかんたんにぶつけてほしくない。安易な理想主義者に対する嫌がらせであり、むしろ私たちは私たち、日本人は日本人というありかたを認めてくださいと言いたい。クンタラという存在はつまり、人種意識をフィックスにしたということなんです。

――人種意識、差別意識をより強調して、デフォルメ表現した存在ということでしょうか。もともと違いはあるものだという前提として。

富野「古い考えかたや偏見というものを、我々は持っているよね」って、考えているから、僕には誰もが理想とするようなキャラクターは作れないんじゃないかと、言わざるをえないんです。理想的な人間関係を作るっていうのが、創作の上でもできない人間なんですよね。

 いわゆる作家であればそれができるのかもしれないんだけど、やはり僕にはそのセンスがないってんで、ギブアップしてる。だから、クンタラみたいな存在を置けば“劇らしいもの”が作れる、ラライヤみたいなキャラクターを作れるっていうところに行っている。技術論として、そういう設定を採用せざるをえなかったというところがあります。

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――民族や国家、ひとりひとりの思想の対立というのは過去の富野作品から描き続けてきたテーマだと思うのですが、こうした部分の描きかたで若いころに手掛けた作品から変化したことはありますか?

富野自己認識としてはこの50年間、ほとんど変わってないです。むしろそうしたテーマに触れないと作れなかったんですよ。戯作者としての能力がなかったので、そういうものにすがって作ってきたという意識があります。その意味では「富野さんは成長ができていないですねー」っていう言いかたはできますんで、馬鹿にしてくださってけっこうです。

――とんでもない。そういった分断や対立、ひるがえって連帯というのはとくに現代の問題にもフィットするテーマだと感じます。

富野いやだからそれは違うんですよ。謙遜で言ってるんじゃなくて、作家としての才能があったらそういうことも考えずに物語を作っちゃうんですよ。「現実はこうだから」っていうのを認めて、それをもとに話を作っていくっていうのは、ひどい言いかたをすれば創作力がなくったってできるんです。

――ああ……なるほど、作中で対立が描かれているとしたら、まさにそれが現実世界に起きていることだから、富野監督としては「現実をそのまま描いているに過ぎない」ということなのですね。

富野まったくその通りです。その意味では白紙の状態から物語を作る能力は僕にはない。本当に謙遜じゃないんです。能力がある人をじかに知ってるから。

――そうまでおっしゃる“物語を作る能力がある”人というのは?

富野それは手塚治虫という人を知っているからです。

――あああ。

富野だからこの程度のことは謙遜でもなんでもないの。それこそあの人は、何も考えずにつぎの作品を平気で描いてるんだから。『どろろ』を描いて、すこし経ったら『アドルフに告ぐ』を描いてたりするから、こっちからすると「ちょっと、あのさぁ……やめてくれない?」って感じだよね。

 『リボンの騎士』なんて核心を突いてるからね。何かっていうと、ジェンダーもひとつ題材にして、ドーン! と描いてるじゃない。同性愛とか女性性について、医者としての知識もあるから平気で描けるのよ。サファイアが両性具有者だっていうことにまでてらいなく踏み込む。きれいなだけの少女マンガじゃあなくて。「じゃあどうなってるの?」って見てみたくなるよね。「手塚治虫全集」で5~6年前に改めて読んだんだけど、やっぱりすごいよ。「マンガじゃねえぞ」って思うものね。

――手塚治虫氏はもともと医学の知識があって“人体の現実”というものを知っているからこそ……

富野平気なの、平気でそういうことをマンガとして描ける。それで僕は、あの手塚治虫が「おれは絵が描けないから」って言ってるのをじかに聞いているからね。5~6人で新企画のミーティングか何かをやってるとき。「えっ? そうかこの人、絵が描けないって自覚してるんだ」って。リアルっぽい絵を描いていた時期もあって、悪戦苦闘していたんです。

――昭和40年代あたり、水島新司氏やさいとう・たかを氏などの劇画ブームにコンプレックスを感じていたというころでしょうか。

富野その後、けっきょくあの手塚治虫らしい絵に戻るしかなかったんだけど。僕は彼が「絵が描けない」というのを聞いたときから、手塚治虫っていう人を信用するようになった。

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――富野監督の作品の話に戻ります。現実的なテーマを入れ込むと単純明快なエンターテインメントとはいかなくなると思うのですが、このあたりのバランスについて気をつけている点はありますか?

富野いや、僕にはそういう考えかたはいっさいできません。エンターテインメントが描けないんです。“エンターテインメントが描ける”っていうのは、お笑い番組の構成をやっている人のほうがはるかにすごい。僕にはその部分がないから「笑いがあって、ここにも笑いがあって、最後にキレイにオチました!」っていう話を作れないの。思いつきのギャグっぽいものしか作れないんだよね。

 コメディーにするとか、コミカルに演出するっていうのはとんでもなく体力を使うので……あんまり僕は好きじゃないんだけどドリフターズもすごいよ。週一ペースでやっていくっていう過酷さがあるのに、よくやっていたと思う。

――先ほど三谷幸喜さんのお名前も出ましたが、ああいった作劇の中に笑いを組み込んだ作品は観ながら悔しさを感じるのですか?

富野うんやっぱり……いや、いいや。絶対言いたくない。言わない、やめる!

『ファミ通』なんか読まないような子どもたちに観てほしい

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――ファミ通.comはゲームメディアで『Gのレコンギスタ』をまだ観たことがない読者も多かと思います。本作がどんなテーマで制作されたものなのか改めて教えていただけますか。

富野一見巨大ロボットが出てくる宇宙モノに見えるんだけど、“宇宙開発全否定”の作品を作ったんです。これがまさに決定的なところです。地球と宇宙を行き来するキャピタル・タワーというものがあって、そこに5両連結のエレベーターが上下してる物流を成立させるための運搬車両を交通手段にしている世界です。

 あれはアニメだから描いてるけど、いま現実に、リニアモーターカーを使って静止衛星機動まで行くっていうことを本気で考えてる人がいたりするんだよね。でも「そのケーブルは誰が引くのよ?」って。もっと重要なのは「その経費は誰が出すって想定してるの?」ってこと。

 経済的なバックボーンを持っていなければ、レールを引くことはできないんだから。それを考えてないでしょ。ケーブルの物量、ケーブルを敷設するっていうことをどう考えてるのか、誰が出資するのかってことは考えてないでしょって。

――ふむ。

富野つまり『G-レコ』は宇宙エレベーターがキャピタル・タワーっていう名称で実用化されている世界なんだけど、経済的なバックアップがあるからレールが引けて物流を成立させているんだよね。物流を成立させるだけの経済的なバックボーンを持っていない限り、絶対に作れないものを、それを考慮せずに作ろうとしてるのは頭悪いよねって、まずそういう人に対する嫌がらせがある。

 今回の劇場版では“宇宙エレベーター”とはひとことも言ってないんだよね。キャピタル・タワーって言ってるの。キャピタルっていうのは“首都”という意味のほかに“資本”っていう意味もあるんだよ。

 フォトン・バッテリーという絶対的なエネルギー源があると仮定すれば、そのためなら出資する人がいるだろうって考えた。それを月の向こう側から静止衛星まで運んできて、カシーバ・ミコシで運搬して。つまり宇宙に運ぶべきものがあるから交通機関は成立しているけれど、それがなければ成立しないんです。

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――確かにそうですよね。運ぶ価値があるものがなければ成立しない。

富野『Gのレコンギスタ』ではキャピタル・タワーの定時運行をしている車両でそれを示している。これは徹底的に宇宙開発をやろうと思っている人に対して「そんなことできるわけないんですよ」って話をしてるの。

 じゃあそのフォトン・バッテリーがなぜ必要になったかというと、地球は石炭も石油も彫り尽くしてなくなっちゃって、人類は絶滅しそうになった。なぜそうなったかというと、かつての宇宙世紀(※)っていう時代に、戦争をやり続けていたからだよね。

 そのあとでわずかに残っていた機材を使って、フォトン・バッテリーが手に入るようになったから、それを使ってるんです。かつての反省から人類が「もう地球での環境汚染は絶対に起こさせない」と決めて、それがキャピタル・タワーの成り立ちにつながっている。そういうバックボーンがあるんです。

※宇宙世紀……初代『機動戦士ガンダム』の流れを汲むシリーズ作の舞台となっている時代および世界設定のこと。『Gのレコンギスタ』は、この宇宙世紀からはるか未来の時代である“リギルド・センチュリー”を舞台としている。

――それは宇宙世紀の人たちは持っていなかったであろう問題意識ですよね。

富野これをみんな『ガンダム』の続きとして観てるから「よくわかんない話」って思っちゃうんだよね。『ガンダム』の延長線上だと思って観ていると『Gのレコンギスタ』のいちばんのコンセプトさえも見抜けなくなります。

 テレビ版のときはタイトルが『ガンダム Gのレコンギスタ』ってなっていたからしかたないところもあって「困ったな」と思ったんだけど、それでもガンダムファンじゃない世代がちゃんと付いてきてくれたおかげで、劇場版にすることができたんですよ。

 「アニメなんか子どもにみせちゃいけない」みたいに言われるんだけども、『Gのレコンギスタ』に関しては間違いなく、これから政治家や経済人、実業家になろうっていう人たちには子どものうちに観ておいてほしい。この問題を理解して「宇宙エレベーターなんか作る前に地球を保全する活動をしましょう」って考えられるような大人になってほしいんだよね。

 そういう作品だから、ガンダムファンを相手にしてないということ!

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――がはは! そんなこと言っていいんですか(笑)。

富野いいんですよ! つまりそれは『ファミ通』なんか読まないような子どもたちに観てほしい作品だということです。『ファミ通』で書かなきゃいけないのは、お父さんお母さんに向けて「子どもたちには観せてくださいね」ということなんです。

富野監督とゲーム

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――ゲームについてお訊きします。ゲーム業界はファミコンの頃から活躍してきた“第1世代”がようやく60代を迎えたと言える、アニメ業界と比べても若い業界です。80代を迎えてなお現役で活躍している監督の生きかたは、世のゲームクリエイターが今後目指すべきところのように思うのですが、そのエネルギーはどこから生まれてきているのでしょうか?

富野電子ゲームを、やらなかったからだーっ!

――だははは!

富野文句ある?

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――つまり、ゲームを遊ぶようなエネルギーはすべて仕事・アニメ作りに注ぎ込んで来られたということですね?

富野この世代だから、ゲームがいちばん初めに喫茶店で流行ったときの『スペースインベーダー』も見てきてるし、触ったこともあるわけ。おもしろいなと、よくできてるなと思ったんだけども、同時に「これはハマったら抜け出せなくなるな」というのもわかったんです。それだけのこと。

 そしたらやっぱり10年くらいで技術が確実に高くなっていって、本当にこれはもうずっと飽きずに遊び続けられちゃうなってなりますもん。だから、もう絶対に触っちゃいけないなと。それで電子ゲームは一切合切触らなくなった。そう思うくらい、電子ゲームはすさまじく衝撃的なものだった。

 『スペースインベーダー』のあともシューティングゲームがいろいろ流行ったけど、僕、シューティングゲームはかなり好きなんです。

――おお、そうなんですね!

富野これこそマズいぞと思った。作りようによってはいくらでもおもしろくなると思ったんで、こっち(ゲーム)の作り手になったら終わりだと分りました。ゲームに囚われて、ゲームでアピールできるコンセプトやメッセージを作れるようになったら、文芸的なところに行けないってわかりましたからね。

 つまり僕はゲームが苦手なんじゃなくて、ゲームにハマりやすい質だっていうのを自覚してたからやらなかったんです。逆に言えば自覚ができたのと、あまりすぐ上達する腕前がなかったおかげでゲーム離れできたっていうのが、僕にとってありがたいことだった。

 ゲームってやっぱりハマると、全知全能を感じられるのよ。将棋や囲碁だってハマる奴はいっぱいいるよね。それに賞金なんか掛かったら抜け出せなくなるのは当たり前なんですよ。いまのゲームの世界って賞金が掛かるようになっちゃったけど、社会性はないんだもの。個人の勝利感みたいなのは、狭い自己満足でしかないでしょ?

――ご存知の時代と明らかに異なるのは、現代はひとりで遊ぶものだけでなく、オンライン上で多人数でコミュニケーションを取って遊べるようなものもあります。

富野対戦ゲームだったらけっきょく「こいつらの中で俺が一等賞」っていうことでしかなくて、そこに社会性の問題がないのがいちばんの問題ですね。社会性の問題で言うと、僕がこのところ注目してるのは将棋の藤井聡太。とても重要なのは、あの人はどれだけ褒められても悦に入ってない。「まだ僕には足らないことがあるから、またがんばります」って。「いやいや、もう四冠も達成してるのにこれ以上がんばられたら困るんだけど」って思うけどね。

 何を言いたいかというと、あの人たちは「社会の中の一個人としてどうあるべきか」っていうのをしっかり教えられてきて、つねに意識しているんだと思う。彼には師匠がいて、そういう、これまでの人との関わりというのを背負って将棋をしている自覚と覚悟があるから、それが人柄に出ているんだよね。接してきた人たちからの影響を大切にしているから、見ていてあんまり「藤井聡太だけが勝っている」みたいな気分にならないんだよ。この人はまさにニュータイプ(※)だなって僕なんかは思う。

※ニュータイプ……ガンダムシリーズに登場する、さまざまな人間離れした能力を持つ新しい人類。

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

――現実だと藤井聡太さんのような人がニュータイプだと。

富野つまりニュータイプっていうのは、社会性によってほかの人に対する影響力を持てる人なんだろうなって思う。それと「巨大ロボットものばっかり作っていたら、そういうふうにはなれないんだよ」っていうことも含めて考えていったときに、「僕の人生ではこうなった」みたいな企画が一応作れたので、いまこういう話をしていられるんだけどね。

 本当はこういう話をもっとちゃんとできるような年寄りになりたかったんだけども、『ガンダム』の延長線上だけで終わっていってしまうところがあるので、「ちょっと嫌だな」と思っている部分はある。だけれども『Gのレコンギスタ』でその部分を上積みすることができたんじゃないのかなって思ってます。

その部分はさっきも言った通りです。これから政治家や経済人、実業家になっていく人たちが考えなきゃいけないことっていうのは『Gのレコンギスタ』の中にハッキリと現れているんだから、その意を汲み取って、今度は彼らの時代に世直しをするっていう方向に行ってほしいなと思えます。

 そしていまこんなことを言うのは、皆さん感じていると思うけど、ここ数年、政治家がみんな堕落してるよね。

――昔と比較しても感じますか?

富野感じる。なんなんだろうか? そういうことを考えていったときに、どうも日本が平和すぎて、物事を深刻に考えるっていうことを忘れてるんじゃないのかって感じますね。それでアニメの世界から現実の物事を考えていくヒントというのを『Gのレコンギスタ』には詰め込んだつもりなので、そういうものを読み解くっていうのを中学校や高校くらいの時代にやってくれると、そういう子たちはちゃんとした政治家や経済人になってくれるんじゃないかなぁって。

 ビジネスオンリーで物事を考える人はビジネスだけで終わっていくわけ。突出した人っていうのは、その人がいなくなっても世の中に影響を与え続ける。そういう人を我々は知っています。渋沢栄一です(※)。

※渋沢栄一……明治・大正時代の実業家。2021年の大河ドラマ『青天を衝け』の主人公であり、吉沢亮が演じた。

 ああいうふうに、一見経済人なんだけど、近代国家がどうあるべきかっていうことをやってきた人というのもいるんだから、やはり彼と同じように、もう少し我々はそういうものを目指さなきゃいけない。それはアニメとかゲームとか関係ないんです。

 つまりアニメを作っていても享楽にとどまらず、一歩先のことを考える。ゲームをやっていても、より広いことを考える。つまり、たとえばこれから50年先の人のありかたっていうものを意識するっていうのは『ファミ通』でもやっていいんじゃないの? そういうメッセージを伝えていくことをやるべきなんじゃないのかって、話なんです。

富野由悠季監督が『G-レコ』で描きたかったのは“宇宙開発全否定”の物語。まったくプレイしないというゲームのことも聞いてみた【アニメの話を聞きに行こう!】

富野監督に話を聞きに行って

 いかがだったでしょうか。劇場版『Gのレコンギスタ』を皮切りに、話題は転変しつつ、軸はブレない。舌鋒鋭く、しかしユーモラスに、アニメのこともアニメ以外のこともどこまでもエネルギッシュに語り尽くしていただきました。

 富野作品の持つ魅力とはなんだろう、富野作品の持つキャラクターが人々を魅了するのはなぜだろう、そんな疑問を内心抱えつつ挑んだ取材。見えたものは作品の根っこにある、監督自身の魅力でした。エネルギーでした。氏が持つエネルギーが作品を生んで、作品に魅了された人々がまた作品を作っている。富野作品はそうして現代までつながっているのだなと実感しました。

 また、これから世界を担う子どもたちの未来を見据え、問題意識を持ち続けながら作品を作ってきた富野監督の言葉はどれも刺激的で、我々もそうした未来に向けた“種まき”のようなものをしていければと、気持ちを新たにさせられた想いです。

 そんな富野氏による最新作、劇場版『Gのレコンギスタ IV』「激闘に叫ぶ愛」は2022年7月22日より公開中。劇場版『Gのレコンギスタ V』「死線を越えて」は2022年8月5日公開予定です。

作品情報

  • 劇場版『Gのレコンギスタ IV』「激闘に叫ぶ愛」
  • 劇場版『Gのレコンギスタ V』「死線を越えて」

公開日

  • 第4部:2022年7月22日(金)公開
  • 第5部:2022年8月5日(金)公開

メインスタッフ

  • 総監督・脚本:富野由悠季
  • 原作:矢立 肇、富野由悠季
  • 吉沢俊一(G-レコIV、G-レコV)、進藤陽平(G-レコIV)
  • キャラクターデザイン:吉田健一
  • メカニカルデザイン:安田 朗、形部一平、山根公利
  • デザインワークス:コヤマシゲト、西村キヌ、剛田チーズ、内田パブロ、沙倉拓実、倉島亜由美、桑名郁朗、中谷誠一
  • 美術監督:岡田有章、佐藤 歩
  • 色彩設計:水田信子
  • ディスプレイデザイン:青木 隆
  • CG ディレクター:藤江智洋
  • 撮影監督:脇 顯太朗(※)
  • 編集:今井大介
  • 音楽:菅野祐悟
  • 音響監督:木村絵理子
  • 企画・制作:サンライズ
  • 製作・配給:バンダイナムコフィルムワークス

※朗は正しくは点が1つ多いもの。

  • 劇場版『Gのレコンギスタ』テーマソングアーティスト:DREAMS COME TRUE

メインキャスト

  • ベルリ・ゼナム:石井マーク
  • アイーダ・スルガン:嶋村 侑
  • ノレド・ナグ:寿 美菜子
  • マスク:佐藤拓也
  • クリム・ニック:逢坂良太
  • マニィ・アンバサダ:高垣彩陽
  • ラライヤ・マンディ:福井裕佳梨
  • ミック・ジャック: 鷄冠井美智子
  • バララ・ペオール:中原麻衣

[2022年8月1日12:20追記]
記事初出時、キャスト名に一部誤りがありました。読者並びに関係者各位にお詫びして訂正いたします。

劇場版『Gのレコンギスタ Ⅰ』「行け!コア・ファイター」(Amazon Prime Video) 劇場版『Gのレコンギスタ II』「ベルリ 撃進」(Amazon Prime Video) 劇場版『Gのレコンギスタ III』「宇宙からの遺産」(Amazon Prime Video)