Zachtronicsのパズルゲーム『Last Call BBS』を紹介しよう。対応プラットフォームはPCで、Steamで2050円で配信されているほか、海外での発表によるとPC Game Passにも対応するようだ(執筆段階では未配信)。
本作は『Shenzhen I/O』や『EXAPUNKS』など、プログラミング要素を取り入れたパズルゲームを手掛けてきたZachtronicsの最新作にして最終作(コンピューター教育の仕事に専念するためらしい)。それまでのさまざまなゲームの要素を取り入れたオムニバス的な作品となっている。
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インターネット普及以前のアングラネットが繋ぐ、1990年代初頭の異国のコンピューター文化体験(を疑似体験)
- 収録ソフトその1: 全自動クッキングマシンを作る“20th Century Food Court”
- 収録ソフトその2: ガ●プラビルダーになる“STEED FORCE”
- 収録ソフトその3: 邪悪な肉塊生成プログラムを作る“X’BPGH: The Forbidden Path”
- 収録ソフトその4: ピクロス系のロジックパズル“Dungeons & Diagrams”
- 収録ソフトその5: コードを書かない回路プログラミングパズル“ChipWizard Professional”
- 収録ソフトその6: マジドロ風落ちものパズル“HACK*MATCH”
- 収録ソフトその7: 株札でプレイするソリティア“Kabufuda Solitaire”
- 収録ソフトその8+α?: さらなるゲーム追加の可能性も
インターネット普及以前のアングラネットが繋ぐ、1990年代初頭の異国のコンピューター文化体験(を疑似体験)
本作で中心となるのが、架空の日本製コンピューター“サワヤマ Z-5”。“The Barkeep”なる人物からこの年季の入った代物を渡されたプレイヤーは、対応ソフトを求めて彼が1990年代当時に管理人を務めていた掲示板“Last Call BBS”のアーカイブデータに潜っていくことになる。
ゲームの作りとしては、7+1本のパズルゲームパートと、それを進めるごとにBarkeepから送られてくるメッセージによって語られるストーリーパートの二部構成。進行は自由で、どのソフトから取り掛かってもいいし、パズルを解くのに詰まったり飽きたらいつでも他のソフトに移っていい。
ゲームのインターフェースはインターネット普及以前の往年のパソコンやネットを模していて、本体内蔵の“Sawayama Solitaire”(サワヤマ・ソリティア)以外のゲームの入手方法も、「ピーヒョロロ―」と鳴る古典的なダイアルアップモデムでLast Call BBSに繋いでいちいちダウンロードするという形式だ。
しかしLast Call BBSにあがっているゲームソフトはいずれもどこかのハッカーが勝手に移植したり改造した海賊版という体裁で、一部はテキストがフルに日本語だったりする。これは日本語にローカライズされているというわけではなく、「自分がちゃんと読めない言語の海賊版ゲームをかまわず落として遊ぶ」という、いにしえのアングラネット文化の疑似体験になっているのだ。ややこしい。
ちなみにソフトのダウンロードにはリアルに実時間で数分かかるし、1本ダウンロードし終わるとしばらく次のソフトをダウンロードできなくなるので、サワヤマ・ソリティアやすでにダウンロードしたゲームを遊んで時間を潰すといいだろう。ダウンロード完了まで作りかけのガ●プラを組むこともできる(詳細は後述)。
収録ソフトその1: 全自動クッキングマシンを作る“20th Century Food Court”
それでは収録ゲームを紹介していこう。“20th Century Food Court”は、ごくシンプルな信号の入出力を持った単機能のマシンを組み合わせて、注文に合わせて全自動で調理済みの食事を出すフードコート用マシンを作り上げるパズルゲーム。
注文に沿った適切な処理を行うためにどうそれぞれのマシンの信号を送受信させて効率的な分岐処理を作るかがキモで、高価な機材をできるだけ使わずに低いコストで実現できればなおよし。
たとえば赤ワインと白ワインを出しわけるステージなら、だいたい以下のような処理をマシンの配置と配線で実現する。ある種、簡易プログラミング的な問題処理能力が求められるゲームだ。
- トレイ排出機の出力で注文内容別に処理を行う(※トレイには注文を示すバーコードが貼られており、スキャンするとどの注文なのかわかる)
- どっちの注文でもまずグラスをベルトコンベアに流す
- 赤ワインなら赤ワイン用のカウンターに1加える
- 白ワインなら白ワイン用のカウンターに1加える
- スタッカー(重ね機)でトレイの上にグラスを乗せ、即座に流す
- 注ぎマシンの所でトレイを止め、スキャンする
- 赤ワインの注文のトレイがある時、赤ワイン用カウンターから1を引いて赤ワインを注ぐ
- 白ワインの注文のトレイがある時、白ワイン用カウンターから1を引いて白ワインを注ぐ
- 赤ワイン用カウンターも白ワイン用カウンターもゼロになったらトレイ排出を行う
収録ソフトその2: ガ●プラビルダーになる“STEED FORCE”
これはパズルゲームではなく、日本のロボットアニメのプラモデルを組み立てるソフト。3体のモデルを収録している。
まずはランナーからニッパーでパチパチとパーツを外す工程が必要だったり、やたらと細かいデカールやパーツがあったり、マニュアルがわざわざ日本語だったり、要は「90年代のアメリカ人オタクが読めないマニュアルと奮闘しながら輸入ガ●プラを頑張って組み立てる」シミュレーターとなっている。
Zachtronics氏いわく「グラフィックアーティストがガ●プラ好きなのですごく頑張った」らしく、説明書の雰囲気などはなかなかの感じ。
なおパーツを組みあげればオーケーで特に得点などはないため、カラーリングやデカールは好きに遊んでよし。使える色は決まっているが、勝手な俺専用カラーに塗ったり作例と違うデカールを貼ったりしても問題ない。
収録ソフトその3: 邪悪な肉塊生成プログラムを作る“X’BPGH: The Forbidden Path”
ターンごとに進む邪悪な細胞分裂のルールをセットし、お題通りの肉塊を作り上げるというダークなパズルゲーム。
細胞のスタート位置にくわえて、その分裂方向や変化(変異や皮膚の発生)、ヒューズ(並行した列の細胞を融合させる)、消滅などのコマンドをどう並べていくかがカギになる。
他のソフトは大体マニュアルがあるのだが、このソフトだけマニュアルがない上にトリッキーでスタイリッシュすぎるユーザーインターフェースをしているため、まずはルールを把握するまでがひと苦労だ。
収録ソフトその4: ピクロス系のロジックパズル“Dungeons & Diagrams”
“ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ”ならぬ“ダンジョンズ・アンド・ダイアグラムズ”というこのソフトは、ピクロスなどのロジックパズルの一種。(※当初、“数独系”としていましたがピクロス系の誤りです)
モンスターの配置と各列の数字(その列にある壁の数を示す)を手がかりに壁を置いていって、ダンジョンの基本ルール(モンスターは必ず行き止まりにいる、宝箱は必ず3×3マスで出口1箇所のみの部屋にあるなど)を満たす全体像を完成させる。
収録ソフトその5: コードを書かない回路プログラミングパズル“ChipWizard Professional”
配線と簡単なトランジスターやキャパシターを配置して、お題に沿った信号処理を行う基板を作成するプログラミングパズル。旧作で言うと『Shenzhen I/O』のプログラミング言語抜き版のような感じだ(入力信号と出力信号と正解の信号処理を示すシミュレーター画面が一緒)。
求められている出力信号をコピーできればどんな回答も正解なのだが、配線層とトランジスター層のスペースがかなり限られている中で、配置や処理を工夫しなければいけないのがミソ。トランジスター層の使用範囲をより少ない面積で実現できるとランキング上位に行けるので、思わず最適化したくなる。
収録ソフトその6: マジドロ風落ちものパズル“HACK*MATCH”
『EXAPUNKS』にミニゲームとして収録されていたパズルゲームの“リマスター版”。『マジカルドロップ』のように上からブロックが迫ってくるなか、ピースを入れ替えて同色でまとめて消して対応していく。地味にローカル対戦機能がついていたりも。
このシリーズ実は、NES(海外版ファミコン)用にプログラムし直されたバージョンが単独で販売されていたりもする(ROMファイルの実行環境が必要)。
収録ソフトその7: 株札でプレイするソリティア“Kabufuda Solitaire”
日本の株札を使ってプレイする一種のソリティアで、同種の札4枚をまとめた山を10個作ればクリアー。
Zachtronicsのゲームにはよくソリティアの変種が入っているのだが、このゲームはその中でも、Zachtronicsがパブリッシングしたアドベンチャーゲーム『Eliza』にミニゲームとして搭載されていたものの“レトロデメイク版”という設定になっている(ゲーム内容は同じ)。
収録ソフトその8+α?: さらなるゲーム追加の可能性も
現段階で収録されているのは、以上の7本にクロンダイク系のソリティア“Sawayama Solitaire”を加えた8本。いろんな形のパズル脳を刺激される構成で、さすがのZachtronics節だ。
テキストメッセージで送られてくるストーリーパートについても軽く触れておくと、外国企業であるサワヤマ周辺のさまざまな人々をめぐる断片的な回顧録という体裁になっていて、アドベンチャーゲーム的なメインコンテンツというより、あくまで主はパズルでストーリーは世界観を繋ぐものといった具合。また英語だが比較的読みやすい。
なのでストーリーの進捗にあまり追われずにじっくりパズルに取り組めるのも本作のいい部分だろう。コツを掴むまで結構時間がかかってしまった記者はかれこれ30時間ほどプレイしているが、完全クリアーまではまだまだ全然といった感じだ。
また本作は正確には現状数ヶ月間のアーリーアクセスの扱いとなっており、フィードバック次第ではさらなるタイトルを追加する可能性もあるそうなので、せっかくの最終作なのだしコンテンツ追加を期待したいところ。できればSTEED FORCEのプラモ追加をお願いしたい。