世界各国で多くのファンを持つ『グランツーリスモ』シリーズの生みの親であり、最新作『グランツーリスモ7』(プレイステーション5、プレイステーション4用ソフトウェア)のプロデューサー。映像美と音楽に並々ならぬこだわりを持つ山内氏に、最新のBRAVIA XR X95Kシリーズの凄さを尋ねた。

山内一典 氏(やまうち かずのり)

ポリフォニー・デジタル代表取締役プレジデント。ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)在籍時にリアルドライビングシミュレーター『グランツーリスモ』の企画立案とプロデュースを行い、同作を世界的な大ヒットに導いた。1998年には自身のスタジオとしてポリフォニー・デジタルを設立し、『グランツーリスモ』シリーズの制作を続ける。自らレースへ参戦するほどのクルマ好きで、日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員も務める。
(文中は山内)

世界は、一目で変わる。あの人も実感、BRAVIA XRの魅力。(BRAVIA公式サイト)

25周年を迎えた『グランツーリスモ』シリーズ

――ドライビングシミュレーターとして世界で確固たる地位を築いた『グランツーリスモ』シリーズですが、25年前にこのゲームを作り始めたときには多くのご苦労があったのではないでしょうか?

山内当時はスーパーファミコン全盛期で、まだプレイステーションというものが世に出ていなかったですし、いまのソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)の前身にあたるソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)という会社自体も作られていませんでした。

 ですので、僕は「SCEという会社はこういう会社です」、「プレイステーションというゲーム機はこういうものです」、「プレイステーションで動く『グランツーリスモ』というゲームはこういうものです」という3本の企画書を持って各自動車メーカーを回りました。ただ、みなさん「リアルドライビングシミュレーターと言われてもどんなものかよくわからない」という反応でして、ご理解いただくのに苦労した思い出があります。

――自動車メーカーさんにはゲームのことはわからないことも多いでしょうしね。

山内そうです。しかも、仮定の上に仮定を積み重ねたような企画書ですからね(笑)。ただ、最初にトヨタさんが興味を示してくださいまして。その後、各メーカーさんに協力していただけるようになりました。

――そこから25年という歴史が始まります。

山内気がつけば25年という感じではあるのですが、25年間続けて来られたのは支持してくださったユーザーの皆様あってのことです。と、同時にスタッフのおかげでもあります。いまポリフォニー・デジタルで働いているスタッフというのは、創業当初から人は増えているものの、メンバーはほとんど入れ替わっていません。そういうすばらしいファミリーに恵まれたことは、『グランツーリスモ』にとってすごく大きなことだと思います。

クリーンな4K/60pの絵というのはゲームでしか体験できない

――『グランツーリスモ7』とX95Kシリーズの組み合わせはいかがでしたか?

山内ゲームでは「フォトリアルなグラフィック」と表現する言葉があり、それを耳にしたかたもいると思いますが、『グランツーリスモ』シリーズが目指しているフォトリアルというのは、本当の意味でのフォトリアルです。これほどストレートかつまじめなアプローチでフォトリアルなCG、あるいはゲームというものに挑んでいるタイトルは、じつは世の中にそう多くありません。

 そして、フォトリアルを徹底しているがゆえに、ディスプレイとの関係性はより緊密になります。たとえば『グランツーリスモ7』はクルマの挙動を物理演算で忠実に再現していますが、同様にクルマの表面の質感、収録されているコースの構造物などもひとつひとつを測色計で実際に測定し、正しくライティングして再現しているんです。

『グランツーリスモ7』山内プロデューサーが語るBRAVIA XR X95K クリアでキレのある映像とその画質に見合った音質で鳴るテレビ
本記事はX95Kシリーズの提供でお送りします。

――ある意味、物理や計算で描画されているという絶対的な本物感は感じます。

山内あとはリアルタイムでのレイトレーシングを行っているのも『グランツーリスモ7』の大きなトピックのひとつですね。じつは初代『グランツーリスモ』の開発を始めたころから、リアルタイムでのレイトレーシングという技術を研究しているかたたちがいました。

 当時はスーパーコンピュータで挑戦していたのですが、それでも秒間2~3フレーム程度の表示をするのがやっとだったのです。しかも、当時ですから解像度もいまよりずっと低いVGA(640×480)レベルのもので、です(笑)。

 それがいまや『グランツーリスモ7』では、4K/30pでリアルタイムでのレイトレーシングが動かせるようになった。これはひとつの大きな達成であることは間違いないですね。

――レイトレーシングがなければできなかったことも多かった?

山内はい。たとえば、併走している隣のクルマの姿が自分のクルマに映り込むような表現はレイトレーシングでしかできません。また、自分のクルマのミラーに映ったものが自分のクルマのボディーに映り込むといったようなことも、レイトレーシングならではの表現です。

 初代『グランツーリスモ』のリプレイ映像などで使用していた映り込みの技術である環境マッピングとは、そこが大きく違うところです。この技術を『グランツーリスモ』に投入できるというのは、CGアーティストにとってはひとつの夢だったと思いますね。

『グランツーリスモ7』山内プロデューサーが語るBRAVIA XR X95K クリアでキレのある映像とその画質に見合った音質で鳴るテレビ

――そのこだわりをみなさんに感じていただくには、映像が表示されるテレビは重要ですね。

山内そうですね。絵を作り込んでいる『グランツーリスモ7』なので、ぜひX95Kシリーズのようなテレビで遊んでほしい。なぜなら、2022年現在、4K/60pで非圧縮の映像を出力できるのはゲームだけと言っていいくらいの状況ですから。

――衛星放送の4K放送や動画サイトの4K映像などは、基本的に圧縮映像ですものね。

山内もちろんそれでもきれいなのですが、テレビ本来の凄みや色などは出しづらい。現状、クリーンな4K/60pの画面というのは、現段階ではゲームでしか体験できないと言っても過言ではないので、そういう意味でも『グランツーリスモ7』とX95Kシリーズの組み合わせで遊んでいただく価値はあると思いますね。

――X95Kシリーズの率直な印象としてはどのようなものになりますか?

山内ひと目見て一流の製品であることがわかります。

 映像から感じる印象としては「クリアでキレがいい」というものですね。75インチのテレビだと、目の前にステアリングコントローラーを設置すれば、だいたい実車に乗っているときの視界に近くなりますから、そういう使いかたをするときも75インチというのはいいサイズ感だと思います。

 じつは、液晶パネルというのは見る角度によって色が変わってしまうという特徴があって、それは正しい映像を表示したいと願う僕たちからすると面倒なものなんです。先ほどX95Kシリーズの液晶パネルを斜めから見てみたのですが、かなり視野角が広く設計されていて。安心して観られるなと思いました。

Mini LEDによって実現した映像に技術の進化を感じる

――X95KシリーズはディスプレイにMini LEDを圧倒的高密度で配置し、表現力が大幅にアップしました。

山内バックライトに大量のMini LEDが搭載され、ひとつひとつのLEDが担当する面積が減ったことで、液晶パネルの弱点であるにじみが感じられなくなった印象です。

 『グランツーリスモ7』の場合、内部的には太陽なら太陽の輝度をそのままに計算しているのですが、実際に表現できる光のレンジは限られてきます。そこから溢れてしまう部分は、たとえばグレア(まぶしさ)のエフェクトを乗せて「白以上に明るい白なんです」と表現をするわけです。このとき、液晶パネルの性能の問題で明るい部分の光がにじんでしまうような状況だと、こちらの計算以上になって正しい映像にならなくなります。

 そういうことがあるので、X95Kシリーズのようなにじみがほとんどない液晶テレビというのは、とてもありがたいですね。

――なるほど。

山内また、真っ暗な背景の中に白い文字が表示されるというものはゲームだと多用される表現なのですが、その白い文字の周囲ににじみがでないというのは、僕たちからすれば大きな価値です。

 有機ELテレビなどを見るとにじみがわからないので「液晶とはこういう部分が違うんだな」と気付かされることがあるのですが、これだけ多くのMini LEDが搭載され、有機ELテレビと同じくらいのにじみのなさになったのは、シンプルに技術の進化を感じます。

――“XR”プロセッサーがMini LEDを緻密に制御することで、グラデーションをより滑らかに表現するという効果も生まれました。

山内そうですね。隣接する色の明度差が大きいとマッハバンドと呼ばれる色の境界線が見えてしまうものがけっこう多くて。たとえば有機ELテレビだとマッハバンドが見えることもあるのですが、このX95Kシリーズはまったく見えません。

 つまり、明るさが非常にスムーズに変化しているということなので、非常にクオリティーの高い液晶テレビだと思います。

――実際にゲームを遊ぶ際にも、そのメリットは大きいですか?

山内たとえば夜間のレースでは、ヘッドライトはあるもののコースは真っ暗です。そんな暗闇の中のわずかな光の階調を頼りに運転しなければならないので、明るい部分はもちろん、暗部の階調を正確に再現してくれる液晶テレビのほうが、運転はしやすくなると思います。

『グランツーリスモ7』山内プロデューサーが語るBRAVIA XR X95K クリアでキレのある映像とその画質に見合った音質で鳴るテレビ

液晶パネルのクオリティーに十分見合う優れた音質

――『グランツーリスモ』シリーズと言えば、音にもかなりこだわられています。たとえば、クルマのエンジン音も多くの場合、実車から収録すると伺いました。

山内その通りです。日本とドイツ、アメリカのカリフォルニアにクルマのエンジン音を録音するためのスタジオがありまして、そこに収録されているクルマを持ち込んで収録しています。

 これは『グランツーリスモ5』くらいのころからやっているのですが、収録時にタイヤのホイールを外してハブにアダプターを直結させるダイナパックというパワー測定機につなぎ、負荷をかけた状態で回転数ごとにクルマのエンジン音を録音しているんです。アクセル全開の状態でありながら特定の回転数を保持した音を出さないとリアルなエンジン音にはならないのですが、それにはエンジンにかける負荷を自由に変えられることが非常に重要なので、ダイナパックを使用しています。

――そのように手間をかけたサウンドが6つのスピーカーから成る“アコースティック マルチ オーディオ”という技術で再現されているわけですが、音質についてはいかがでしたか?

山内とてもいい音が出ていると思いました。もちろんオーディオシステムがあれば当然もっといい音にはなるのでしょうけれど、テレビ単体としてもすぐれた音質でしたし、画質のクオリティーに十分見合ったものだと思います。

 画面と音質のクオリティーというのは、揃っていないととにかく気持ち悪い印象を与えてしまうものです。高画質なのに、音質の満足感が低いと寂しく思うのですが、X95Kシリーズは低音もしっかり出ますし、輪郭がはっきりした音も出るので好印象ですね。

 『グランツーリスモ7』はクルマから出る音にもこだわっていますが、あらゆるジャンルの膨大な音楽が収録されていて、ある意味、“音楽を聴くゲーム”でもあります。世界中のいろいろないい音楽を聴いてほしいという裏テーマで作っていて、ミュージックラリーやミュージックリプレイなどの新要素を取り入れた理由でもあるので、それらをぜひX95Kシリーズの高音質で聴いていただきたいですね。

――プレイステーション5(PS5)のユーザーにはありがたい、PS5のHDR設定をテレビ側で自動的に連携するという機能も搭載されています。

山内CGの絵や音というものは、ほんの少し設定が違うだけで明らかに壊れてしまうんです。なので、HDR設定を自動的にPS5と連携して最適化されるというのは、単純にいいことですよね。

 機器に詳しくない方にとっては便利だと思いますし。一方で、どの人がどんな環境で絵を見たり、音を聴いたりしても、こちらが計算した通りに正しく伝わるということは、多くのデバイスがあり、そのデバイスが自動的に絵や音を調整してしまういまの時代にはなかなか難しい。ある種の標準化を行っていくということは、今後業界全体で考えていかなければならない問題かもしれません。

『グランツーリスモ7』山内プロデューサーが語るBRAVIA XR X95K クリアでキレのある映像とその画質に見合った音質で鳴るテレビ

山内絶対輝度は高ければ高いほどいいですし、ダイナミックレンジは大きければ大きいほどいいですし、黒はキチンと沈んでほしい。とくに輝度は正義なんですよ(笑)。

 『グランツーリスモ7』は1万nit(光量の単位)にまで対応していて、僕は1万nitを出せるモニターでプレイしたこともあるのですが、体験として別モノですね。1万nitの絵というのは、心臓がドキドキします。そもそも輝度は有機ELテレビよりも液晶テレビの得意分野ですし、それでいてにじみがないX95Kシリーズは、ひとつの理想形ですね。

 加えて、ゲームに欠かせないのは、どれだけ遅延が少ないかも重要。画面の遅延はクルマとの一体感がなくなってしまうので、レースゲームにとって致命的なのですが、その点に関してもX95K シリーズはクリアーしているので、非常にいい製品だと思います。

『グランツーリスモ7』の今後と、山内氏の気になる技術

――ありがとうございます。これだけのテレビですし、『グランツーリスモ7』の真価を味わってもらうためにも、ぜひプレイステーション5(PS5)で遊んでほしいですね。

山内『グランツーリスモ7』はPS5とプレイステーション4(PS4)の2機種でクロス開発するということはもともと決まっていましたし、現状のプレイヤー数もPS5のユーザーが極端に多いという感じではありませんが、PS4で遊ぶのとPS5で遊ぶのとは体験が違いますから、PS5で遊べるのであればぜひそちらで楽しんでいただきたいですね。

――映像もさることながら、PS5コントローラの“DualSense”での操作も直感的かつ、路面の段差までわかるようなハプティックフィードバックがとてもいいですよね。では、続いて、『グランツーリスモ7』の中長期的な展望など、現時点で語れることはありますでしょうか?

山内現時点で言えることは、「毎月の頻度でアップデートを重ねていきます」ということくらいです。

――わかりました。ところで、最新のテクノロジーを惜しみなく投入している『グランツーリスモ7』ですが、今後を見据えて、いま山内さんが技術的な面で注目されていることはありますか?

山内いま僕が関心を持っているのは、「その絵が何ワットのエネルギーで表示されているか」というものです。

 たとえばPS5だと200~300ワットのエネルギーを使うことで『グランツーリスモ7』のCGを表示できます。逆に、スマートフォンのゲームでは、バッテリーの消費を考えずにフルパワーで稼働しても15ワット程度。このような“絵のリッチさに対するエネルギー効率の問題”は重要だと思っています。

 じつは、このエネルギー効率という意味では、いまの半導体もそこまで進化しておらず、いい絵を求めるほどにエネルギーが必要になるというのはずっと変わらないのですよね。我々としては「1ワットあたりどれくらいリッチな絵を出せるのか」という部分に興味を持っていきたいと思っています。

 とはいえ、そういった進歩のためには我々の技術とともに、最先端の新しい半導体の開発も必要になるのですけれど。

『グランツーリスモ7』山内プロデューサーが語るBRAVIA XR X95K クリアでキレのある映像とその画質に見合った音質で鳴るテレビ

――へええ。そういった考えかたはしたことがありませんでした。

山内僕がゲームを見るときはそこが気になりますね。ゲームが動くハードウェアにはいろいろな違いはありますけれど、けっきょくのところ使えるエネルギー量が違う、ということになるので。

――最後になりますが、『グランツーリスモ7』でまだ遊んだことのないゲームファンのみなさんにアピールをお願いします。

山内いわゆるAAAタイトルというのは、マーケット的な側面で見るとどれも同じようなものに見えると思います。

 ですが、『グランツーリスモ』シリーズというのは明らかに異質だと思うんです。物理的な正しさの追究やクルマの文化への純粋な尊敬、いい絵やいい音楽を見せたいという真摯な想いで作っていますが、じつはこれは25年前から変わっていません。

 そして、それがようやく『グランツーリスモ7』で、ほかのAAAとは違うことが多くの方に伝わったのではないかと思っています。まだプレイしたことのないゲームユーザーのみなさんには一般的なゲームとはちょっと違うタイトルなので、「違った価値観で作られたこういうゲームもあるんだよ」ということをぜひ体験していただきたいですね。

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