いまや国民的RPGとしてその名を知らない人はいない「ドラゴンクエスト」シリーズ。そのすべての始まりとなる第一作の『ドラゴンクエスト』は1986年5月27日に発売されました。2018年、一般社団法人・日本記念日協会によって5月27日は“ドラゴンクエストの日”として登録され、毎年この日には「ドラゴンクエスト」シリーズに関連する情報の発表などで大いに盛り上がっています。

 今年の“ドラゴンクエストの日”も目前に迫り、2022年5月25日から3夜連続でスマートフォン向けタイトル『星のドラゴンクエスト』の特別番組“ドラクエの日記念 3夜連続!ギガ感謝生放送!!”が配信中です。

【“ドラクエの日”記念特別企画】「ドラゴンクエスト」シリーズの思い出を振り返る超私的コラム:『ドラゴンクエストIX』編
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 来たる“ドラゴンクエストの日”を記念して、本記事ではファミ通で長きにわたり「ドラゴンクエスト(以下、DQ)」シリーズを担当しているライターが思い出のシリーズタイトルを語ります。今回は、ファミ通では「DQ」シリーズと言えばこの人! というライターの齋藤モゲによる『DQIX』の思い出をお届けします。皆さんも、あの熱かった日々を思い出しながら読んでみてください!

もう二度と味わえないからこそ……貴重な思い出に!

 今回は“「ドラゴンクエスト」シリーズから好きなタイトルを1本選んで、その思い出を書いて”と編集担当から声を掛けられ、ふたつ返事で引き受けたわけだが……さて、原稿を書こうと冷静になってみると、なかなか酷なお題である。筆者は「DQ」シリーズとともに育ってきたような世代なので、全タイトルに思い出があると言っても過言ではないからだ。

 アクションゲームが全盛だった当時、『週刊少年ジャンプ』を読んで「こんなゲームもあるのか!」と驚き、初めて触れたRPGが『DQI』だった。そこでガッツリ魅力に囚われ、小~中学生の時にリアルタイムで遊んだロト三部作は、筆者のゲームライフに大きな影響を及ぼした。たとえば、主人公の名前があらかじめ決まっているタイプのRPGにあまり心を動かされないようになったのは、「DQ」シリーズの影響のように思う。RPGの主人公=自分の分身という概念を猛烈に刷り込んだのは、もしかすると「DQ」シリーズの功罪かもしれない。まあ、筆者のようなケースはレアだと思うが。

【“ドラクエの日”記念特別企画】「ドラゴンクエスト」シリーズの思い出を振り返る超私的コラム:『ドラゴンクエストIX』編
『DQI』でじっくり考えて戦えるというターン制コマンドバトルに出会えた瞬間の衝撃も忘れられない。
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『DQIII』での、この直後に味わった衝撃も半端じゃなかった!

 というわけで、三部作の締めとなる『DQIII そして伝説へ…』をテーマに本稿を書こうか、はたまた「DQ」シリーズの集大成的な作品である『DQXI 過ぎ去りし時を求めて』にしようか、と逡巡する。熟慮を重ねた結果、本稿のテーマには2009年7月11日にニンテンドーDS向けで発売された『DQIX 星空の守り人』を選ぶことにした。「ここまでの前フリは何だったんだよ!」と思われるかもしれないが、無関係とも言えないので続けて読んでいただきたい。

 筆者の超個人的見解で述べるなら、『DQIX』は、それまでのシリーズ作の流れを汲みながら、『DQIII』を平成の世に呼び戻したようなタイトルだ。主人公の仲間たちにはあえてしっかりとした個性を与えず、名前やキャラクターメイキング、スキルによってプレイヤーがそれぞれで思い入れを作ることができるタイプ。これが時流に合っていたかはともかくとして、個人的には「これこれ!」と感じるものだったのは間違いない。仲間たちのバックボーンがしっかりしていることも作品としての魅力を高める要素のひとつではあるが、あえてそれを排除して想像や妄想の余地を残してくれることも、また魅力だと思うからだ。

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個人の好みにもよるが、“キャラクターメイキングはご自由に”スタイルをシリーズでひさびさにやってくれたのはうれしかった。

 また、同作はニンテンドーDS用のタイトルなので、ナンバリングタイトルでは前作となる『DQVIII 空と海と大地と呪われし姫君』ほどグラフィックがすごいわけではない。しかし、ドット絵で育ってきた筆者にとっては、これでも十分過ぎるほどだった。むしろ、マルチプレイで遊ぶときのことを考慮してこういった形になったと思われる、自分が選んだ装備品がキャラクターの見た目に反映されるシステムがうれしかったことを記憶している。

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あえてちぐはぐな格好をさせたり、ほかの人との冒険を考えてコーディネートを優先したり。このあたりをプレイヤーが自由に考えられるのも好き。

 ストーリーもまた、筆者の心を引きつけた。『DQIX』にはけっこう闇深いエピソードも多いのだが、ガングロギャル風の妖精・サンディのポップさのおかげもあり、「どうにもこうにも救われねえ!」みたいなことにはならなかった(ような気がする)。ちなみに、サンディというキャラクターに対しては「DQ」ファンのあいだで賛否が別れたようだが、個人的には当時からアリ。むしろ、サンディくらいアクの強いキャラクターを以降の「DQ」シリーズでも求めてしまうくらいには魅力的だった。

【“ドラクエの日”記念特別企画】「ドラゴンクエスト」シリーズの思い出を振り返る超私的コラム:『ドラゴンクエストIX』編
じつはせつなくて考えさせられるようなエピソードも『DQVII』に匹敵するくらい多かったかも?
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『DQIX』と言えばサンディ、という印象を与えるほどパンチの効いたキャラクター。クセがスゴい!

 そして、『DQIX』最大の魅力と思うのは、すれちがい通信やマルチプレイといったニンテンドーDSの機能をフルに活かした通信まわりだ。とくに、すれちがい通信でほかのプレイヤーと交換できるランダム生成ダンジョン“宝の地図”のシステムは、『DQIX』の印象を決定付けたものと言っていいだろう。

 当時のことを知らない人のために説明しよう。『DQIX』がリリースされて間もなく、経験値稼ぎに最適なメタルキングがやたらと出現する“宝の地図”があるという噂が流れ始めた。その噂は事実で、そんな“宝の地図”を発見したプレイヤーは、すれちがい通信で本人が受け渡せるレベルのわずかな『DQIX』ファンに配布。その地図が孫コピー、ひ孫コピーされてさらに多くのプレイヤーの手に渡り、瞬く間に日本全国に伝播していったのだ。いまほどSNSが発達していなかった時代、匿名掲示板の真偽のわからないような情報を頼りに集合場所に集まり、すれちがい通信でその“宝の地図”が拡散していく様は……ニュース番組などでも取り扱われたほどの“異常事態”だった。

【“ドラクエの日”記念特別企画】「ドラゴンクエスト」シリーズの思い出を振り返る超私的コラム:『ドラゴンクエストIX』編
当時の週刊ファミ通誌上にも登場してもらった、まさゆき氏が発見した地図。おかげでレベル上げが捗りました。

 そんな“宝の地図”の受け渡しはあっという間に社会現象になった。誰もが欲しがる“宝の地図”を受け渡すついでに、友だちの友だちといっしょにマルチプレイを楽しみ、新しい友だちができた……なんていう人も、当時は少なくなかったはず。『DQ』の生みの親である堀井雄二氏は当時の取材で「ゲームがリアルを侵食し始めるとおもしろい」と語っていたのだが、まさにそれが現実になる瞬間を目の当たりにしたわけで、より堀井氏へのリスペクトが深まったのは言うまでもない。

【“ドラクエの日”記念特別企画】「ドラゴンクエスト」シリーズの思い出を振り返る超私的コラム:『ドラゴンクエストIX』編
“宝の地図”を交換したい人々は東京・秋葉原のヨドバシカメラAkiba前にあった“すれちがい広場”に集合した(写真は2009年当時のもの)。『DQIX』の流行に乗じて当時は集客したい場所にこういったスポットが作られたものだ。

 ゲーム自体ももちろん楽しかったし“さすが「DQ」のナンバリング作だ!”と納得できるレベルのものだった。しかし、『DQIX』は前述のようなムーブメントにより、おもしろさに大幅なブーストがかかっていたことは事実だ。それは筆者だけでなく、多くのプレイヤーがそうだったはず。『DQウォーク』のようにゲームを目的にリアルの街へ出向き、リアルで会った人が同じ『DQIX』プレイヤーだとわかれば、『DQX オンライン』のようにプレイヤーどうしで冒険を楽しむ。そういったことが2009年時点でできたのだから、人々が魅了されないわけがない。かく言う筆者も、当時は仕事として『DQIX』をプレイする立場だったが、どちらかと言えば「仕事にかこつけて『DQIX』をやる」という感じだった気がする。

 筆者としては非常に思い入れが強いタイトルだけにリメイクや移植などを期待しているのだが、現時点でその予定はない。仮にいま『DQIX』がスマホなどで当時に近しい通信まわりのシステムを搭載してリメイクされたとしても、すれちがい通信というリアルで近くにいなければならないシステムは昨今のご時世的にどうなのかという意見が出るかもしれないわけで。かといって“宝の地図”というシステムがなければ、それはもう『DQIX』として見られないものになってしまうし……。こうして考えていくと、素人ながら誰もが満足する移植やリメイクがいかに難しいかがよくわかる。そりゃあ、いままで出てないわけだ。

【“ドラクエの日”記念特別企画】「ドラゴンクエスト」シリーズの思い出を振り返る超私的コラム:『ドラゴンクエストIX』編
Wi-Fiを活かした配信クエストもたくさんあったが、いまニンテンドーDSでプレイしても受注できない。こういったものも含めてリメイクされるとうれしいんだけど……!

 当時、社会現象になったような“おもしろさブースト”は、ある意味で一瞬のキラメキだったのかもしれない。だからこそピカピカに磨かれた思い出として心にしまい込まれているのだとは思う。ただ、それ抜きでも十分にナンバリング作を背負えるだけのおもしろさを『DQIX』は持っているとも感じるのだ。そんなせっかくのタイトルを、ぜひ若い世代の人たちにもぜひとも味わってほしいな……と、“DQの日”を機に、おじさんファンは思うのである。

【齋藤モゲの思い出の「DQ」】

【“ドラクエの日”記念特別企画】「ドラゴンクエスト」シリーズの思い出を振り返る超私的コラム:『ドラゴンクエストIX』編

■『ドラゴンクエストIX 星空の守り人
ニンテンドーDS/スクウェア・エニックス/2009年7月11日発売

 ナンバリングタイトルでは初めて携帯ゲーム機に対応。地上に落ちてしまった天使である主人公が天使界に戻るため、世界中を冒険しながら“女神の果実”を集めていく。主人公のキャラクターメイキングなどのカスタマイズ要素が強化されたほか、別プレイヤーと最大4人でのマルチプレイが実現。ダンジョンの形状や入手アイテムが異なる“宝の地図”システムは社会現象に。また、歴代の作品に登場したボスと戦えたり、各職業に“必殺技”が実装されるなど、トピックの豊富さも人気で、国内出荷本数400万本を超える大ヒットに。

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