ファミ通.comの編集者&ライターがゴールデンウィークのおすすめゲームを語る連載企画。今回紹介する作品は『添丁の伝説』(てんていのでんせつ)です。
【こういう人におすすめ】
- 歯応え抜群、自由度・爽快感溢れるアクションを楽しみたい方に
- 古き台湾の世界に入り浸れる、アドベンチャー要素を満喫したい方に
- 戦争、歴史、平和のことを少し考えてみたい方に
たむ爺のおすすめゲーム
『添丁の伝説』
- プラットフォーム:Nintendo Switch
- 発売日:2021年11月2日配信
- 発売元:Neon Doctrine
- 開発元:Creative Games Computer Graphics Corporation
- 価格:Nintendo Switch版は2190円[税込]、Steam版は2050円[税込]
- 備考:ダウンロード専売
『添丁の伝説』ニンテンドーeショップサイト
『添丁の伝説』Steamサイト
「よくできた2Dアクションだなあ」。これが本作をプレイしたときの第一の感想。
そもそもこの作品には前身と言われるタイトルがあったようで、開発者のひとりが大学在学中に卒論の一環として制作したFlashゲームがそれにあたる。それをベースに改めて作り上げたのが本作となる。前身となる、Flashゲームのころから、すでにメディアで大きな話題となり、いくつかの賞も受賞したほど、評価を得ていた模様。
難易度、やり応えを含めたアクション性はもちろんのこと、ヴィヴィッドで往年のハードを少し思わせるタッチのグラフィックや、ストーリー、ランダム・収集要素などがポイントで、さらに作品からにじみ出る制作者の思いなど、「はー、心地よい」といったゲームです。そんな『添丁の伝説』を紹介していこう。
歯応えがあり、自由度・爽快感のあるアクション
まずは、本作の概要を簡単に説明すると、本作の舞台となるのは、20世紀初頭の日本統治時代の台湾。100年ぐらい前の実社会を舞台に、実在した伝説的な英雄である廖添丁(りょう てんてい)を題材にしたストーリーが展開されていく。廖添丁が、悪者で私腹を肥やしているような存在をこらしめたり、不正に手に入れたであろう金銭を取り戻したりし、貧困者を救済するという内容になっている。
廖添丁は、日本の植民地時代には指名手配もされていた、権力から見れば“ならず者”とも言える存在。それが、“富める者から奪い、貧しき者を養う”という姿勢が、台湾の国民から共感を得ていたようだ。“巨大な権力を持ちながら、悪の権化である存在に立ち向かう”というのは、映画やドラマ、マンガなどにも見られるが、ある意味で普遍的なテーマと言えるだろう。
本作は横スクロールアクションゲームで、アクションパートはメトロヴァニア形式。章ごとに異なるステージをトラップを避けたりパズル的仕掛けを解いたりしながら探索し、敵と戦って、最後にボスと戦うというスタイル。攻撃、回避、特殊技、空中アクションなど行動の選択肢が豊富で、力技、ゴリ押しというのがあまり通じない、テクニックを楽しめる。歯応えありのアクションを堪能できる。一方で、アクションが苦手な人にはストーリーを優先して進められる難易度設定もあるのでご安心を。
特徴的なのが、回避と選択肢の多い攻撃アクション。回避は、突進のようなダメージ不可避なアクションをタイミングよく行うことで無傷で避けられるというもの。一瞬を見切ってくり出すことが要求されるアクションだ。
攻撃アクションについては、ステージを進めていくことでより多くの技が使えるようになる。戦闘中はある程度自由なアクションを選択ができるのがミソで、どういった攻撃でもつぎにつなげられるため、臨機応変な行動が取れるのがよいところだ。
突き飛ばしてその先にいる敵も巻き込める技を使ったり、敵を締め上げて武器を奪い取ってその武器で攻撃したりと多彩な攻撃アクションが楽しめる。
また、アクションでは敵との戦い以外にも、ステージを進んでいくためにも特定のアクションが必要になる場面が多々ある。たとえば回避を行わないとダメージを受けて進めない場面があったり、より高く飛べるジャンプを使って高い壁に登ったり、“蜘蛛縄”を駆使して少し先の障害物に縄を投げて振り子の原理で遠くに飛んで進んだりする必要がある。まったくの余談だが、蜘蛛縄は筆者が最高のアクションゲームのひとつと思っているファミコンの『ヒットラーの復活』(カプコン)、もしくは『海腹川背』を彷彿とさせてくれる。
以上のようなテクニックが要求されるのが、本作の大きな魅力となっている。
ステージ上のギミックのひとつ。高いアクション・操作が必要となるシーン。緑の流水は触ると毒を受けるので、まずはジャンプ後に回避して、タイミングよく蜘蛛縄を出して二段ジャンプ。つぎのポイントのために大きく回り込み、再度蜘蛛縄を出して上空に飛ぶ。そして最後のポイントに蜘蛛縄を投げて最上部に到達するといった、タイミングを合わせたアクションが要求される場面もある。
古き台湾の世界に入り浸れる、アドベンチャー要素もしっかり
本作ではアドベンチャー要素もあり、アクションパートに入る前の街の探索において人々と話しながら、ストーリーやイベントを発生させていく。メインストーリーに関わるもの以外にも、クリアーには関係のないサブクエストも発生し、物語をより楽しめるほか、じつはその進行がエンディングに関わったりする仕掛けもある。分岐によるマルチエンディングになっているわけである。一部ボス戦だけというところもあるものの、全部で6つの章が用意されていて、純粋にお話を楽しむだけでも、かなりのボリューム感となっている。
そのほかにも、敵からドロップするアイテムは収集要素をもっていたり、四色牌という中国起源の長い歴史をもつミニゲームが楽しめたりと、メイン以外のサイドデニッシュも用意されている。好みは出るかもしれないが、音楽、サウンドや、香港漫画を参考にしたという漫画のコマ割りを使ったカットインなどの演出もあり、古き台湾の世界に浸る要素がふんだにんに盛り込まれている。
ゲームの世界にのめり込める丁寧な作り込みになっているので、アクション以外のストーリーを楽しむ、その世界観を楽しむといったこともできる。そういった数々の要素で、古い時代、そして台湾の世界を歩き回れるというのが、アクション以外のポイントとなっているのだ。
アクションステージにもクリアーに不必要だけど得するお宝があったり、そこに到達するには頭と特定アクションが要求されたりする。
敵を倒すなどで手に入れられるアイテムは、ナンバリングによる収集要素も。手に入れたアイテムの詳細は、時代背景も含めて解説で読むことができる。
街の探索では人々との会話がところどころで行えたり、イベントが発生したりする。ストーリーに関係するもの以外は素通りできるが、サブイベント実行の有無がエンディングに関係してくる。
戦争、歴史、平和を考えるきっかけを作ってくれる
最後に、『添丁の伝説』をプレイしてみて、その世界観から受けたインスピレーション、影響について。『添丁の伝説』は、このご時世だからということもあって、歴史、戦争、平和といったことを考えさせてくれるいいきっかけになってくれる作品だということだ。
近年の台湾と日本との関係性は、東日本大震災のときの台湾の援助などを筆頭に、良好だと思っている。ただ、本作の舞台となるのは日本統治時代。日清戦争による下関条約で台湾が清朝(当時中国大陸にあった国家)から日本に割譲されてから、第二次世界大戦終結後の時代であり、そういった時代背景なしに、本作を語ることはできない。
勘違いしないでほしいのだが、『添丁の伝説』にはそういった過去に対するメッセージやプロパガンダが埋め込まれているということは一切ない。ただし、時代設定ということで、本作には日本人の警官が登場したり、彼らが住人の生活を左右していたりという描写はある。何がよい、何が悪いという話ではなく、『添丁の伝説』をプレイすることで、どういう歴史があったのか、台湾の歴史はどうだったのか、日清戦争とはなんだったのか、諸外国にどういうことが起こったのかといった、近代歴史を再度勉強するいいきっかけを与えてくれたのだ。
鉱山の開発や鉄道の建設が活性化し、農工業の生産も増加。衛生環境の改善や、農林水産業の近代化などで、生活水準が大きく向上したとも言われている一方で、日本による統治を快く思っていなかった人も、たしかに存在したようでもあり……。『添丁の伝説』は、多方面での情報を得るべきだと気付かされる機会でもあったのだ。
筆者の勝手な思いであるが、ゲームには、人々をつなげたり何かに奮起させたりといった力も持っていると思っている。そういった意味で『添丁の伝説』は、ゲームを遊ぶことに加えて、“何か”を与えてくれた作品だった。
人々の自由、平和が維持されますように。
ゲームでは外からの日本の側面を垣間見ることができる。ゲームに合わせて歴史の世界に旅立つのも一興。ちなみに、句読点のみ上下センターになってやや違和感がある点はご愛嬌ではあるが、本作のローカライズはきちんとしているのでご安心を。