ファミ通.comの編集者&ライターがゴールデンウィークのおすすめゲームを語る連載企画。今回紹介するゲームは、プレイステーション5、プレイステーション4、PC用カンフーゲーム『Sifu』です。

【こういう人におすすめ】

  • リアルな戦闘ができるゲームが好き
  • 死にゲーに興味がある
  • 己の内なる功夫を高めたい

NeverAwakeManのおすすめゲーム

『Sifu』

  • プラットフォーム:プレイステーション5、プレイステーション4、PC(Epic Games Store)
  • 発売日:2022年2月8日配信 ※PS4/PS5用パッケージ版『Sifu: Vengeance Edition』は2022年7月28日発売予定
  • 発売元:ダウンロード版/Sloclap、パッケージ版/H2 Interactive
  • 開発元:Sloclap
  • 価格:スタンダードエディションは各4180円[税込]、デラックスエディションは各5170円[税込]、ヴェンジェンスエディションは5980円[税込]
『Sifu: Vengeance Edition』(PS5)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『Sifu: Vengeance Edition』(PS4)の購入はこちら (Amazon.co.jp) 『Sifu』PS Storeサイト 『Sifu』Epic Games Storeサイト

 2022年2月上旬、俺は退屈していた。『エルデンリング』や『Horizon: Forbidden West』といった大作タイトルの発売を数週間後に控え、どうもやりたいゲームが見つからず、漫然と注目作の発売を待つだけの腑抜けた様子になってしまっていたのだ。

 そんなある日、ぼんやりゲームカタログを眺めていた俺は、ある作品を目にした瞬間に鋭い掌底を叩き込まれたような衝撃を感じた。そのゲームのパケ絵にはチャイナ服を着た男が険しい目つきで立っている。「シフ……」タイトルを読むと同時に俺の頭にはスパークが走り、この男が誰で、何であるかを悟った。こいつにはカンフーがみなぎっており、すなわち戦いに生きる男であると。

 『Sifu』は徹底的にカンフーするゲームだ。間違いなくハードコアであり、プレイヤーは試され続け、安っぽい勝利は得られない。この記事の読者には『エルデンリング』をクリアーした方も多くいるだろうが、『Sifu』をやっていないのであればアクションゲームの達人を名乗るにはまだ早いと言っておこう。

エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】

カンフーを鍛えろ

 武術を教える師父が弟子に殺され、師父の息子がその仇を討つ。このゲームのストーリーは、タイトルと同じくらいシンプルだ。捻りがないように見えるかもしれないが、それでいい。なぜなら、古今東西のカンフー映画の名作はすべて何らかの復讐をする物語であり、逆説的に言うと、復讐劇であればそれはつまりカンフーだからだ。よくわからないかもしれないが、そういうことだ。

エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】

 このゲームを手に取ったプレイヤーは、主人公のイメージトレーニングを通じたチュートリアル兼オープニングクレジットをこなす。木人(カンフー映画によくある訓練用の器具)に連打を決め、仇討ちの準備は万全に見える……が、その10分後には、主人公は雑魚から袋叩きに遭って死んでいるだろう。身に着けた不思議なお守りの力により、主人公は年を取ってその場で生き返る。殺されるたびに老いはどんどん加速し、70歳を過ぎたころにはお守りの力も底を尽きる。その状態で死ねば……ゲームオーバーだ。

エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】
エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】
美しくミニマルなゲームオーバー画面。

 あまりにもあっさりと死んでいく主人公を見て「これってカンフーの達人になれるゲームじゃないの?」とショックを受ける人もいるかもしれない。『Sifu』はイージーモードを持たず、ぶっ壊れ性能の戦技もないストイックなゲームだ。特殊なコマンド技を習得することもできるが、習得すればクリアーできる救済措置というわけでもない。この厳しさに耐えられない者は容赦なくふるい落とされるだろう。狭間の地に逃げ帰るならいまのうちだ。

 この名もなき主人公は確かにカンフーの使い手である。しかし、このゲームはプレイヤーにもカンフーを要求する。KUNG FU……功夫とは努力であり、鍛錬であり、それにかけた時間と労力のことを意味する。つまり、チュートリアルをこなしてすぐのプレイヤーはまだまだ功夫の足りないヒヨッコに過ぎず、プレイを通じて己のレベルアップをしなければいけないというわけだ。

エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】
本作のフォトモードはポーズ指定やキャラ表示設定などもできる優れものだ。

 “一度の人生だけでカンフーを知り尽くせるか?”とはこのゲームのキャッチコピーであるが、その答えは否だ。死を恐れていては学べるものも学べない。『Sifu』において死は単なるペナルティーではなく、ゲーム全体の学習サイクルのひとつなのだから。

死んで覚えろ

 最初にプレイヤーが心得なければならないのは、これは悪党相手に無双するゲームではないということだ。師父を殺した男、ヤンを筆頭にボスはどれも曲者揃いのカンフーマスターだし、それらに付き従うチンピラたちもしっかりとカンフーを学んでいる。そんな油断ならない連中にひとつ覚えのボタン連打で勝とうとするのは、端的に言って自殺行為だ。その一方で、プレイヤーが十分に注意していてもなおこのゲームはタフであり、ヤンを倒すまでには数え切れないくらい死にまくる。覚悟しておくことだ。

エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】

 すでに書いたが、主人公は生き返るたびに年を取っていく。全5ステージを進める中で年齢は引き継がれるので、“何度も死んでやっとボスを倒したけれどもう70歳を過ぎていて、つぎのステージは実質的に一発勝負”みたいな状況が起きる。だが、これはよくあることなので安心していい。そういうときは、いままでの戦闘で貯めた経験値を使ってスキルをアンロックしてから、前のステージに再挑戦するといい。みずからの内に蓄えられた功夫のおかげで以前より少ない死亡回数でボスを倒し、もっと余裕を持ってつぎのステージに挑めるようになるからだ。

 この記事を読んで『Sifu』に興味を持ってくれる人のため、ここにいくつか攻略のポイントを書いておく。

1. 回避しないと死ぬ

 『Sifu』では相手の攻撃にタイミングを合わせて防御することでパリィ(ゲーム内では“受け流し”と呼ぶ)し、反撃の起点にできる。最近のアクションゲームではよくあるタイプのジャストガードであり、全体的な戦闘システムも『SEKIRO』にかなり近い。だが、もしあなたが『SEKIRO』をクリアー済でハードコアゲーマーを気取っていたとしても、このゲームをパリィだけで切り抜けられるとは思わないほうがいい。

エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】

 『Sifu』はパリィのタイミングがかなりシビアな上に、攻撃をガードし続けるとすぐに体勢ゲージを削りきられてしまう。その上、一対一で戦闘できる状況はかなり稀で、基本的には多勢に無勢を強いられる。敵の攻撃は一発一発が重く、死からの復活を除いて体力を回復させる手段はほとんど存在しない。したがって、雑にガードを連打してパリィの発動を祈るのは無用な被ダメージに繋がる悪手だと言える。パリィのみに頼ったが最後、数の暴力をさばききれず、逆に体勢を崩されて殺されてしまうのがオチだろう。

エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】

 その代わり、L1+左スティックで出せる“見切り”での回避を軸に立ち回るべきだ。こちらはガードに比べると判定が緩く、適当に連打しても案外うまくいくことが多い。敵の連撃の最終段を見切ると一瞬だけ敵の動きがスローになるので、その瞬間を見逃さず反撃のこぶしを叩き込もう。

 たいていの攻撃は前後どちらにスティックを倒しても見切ることができるが、足払いなどの下段攻撃はスティックを前に倒す下段見切りでしか回避することができないので要注意だ。適当に避けられると思ったが最後、地面に叩き伏せられて手痛いダメージを負うことになる。下段技をしてくるのはいかにもプロっぽい風格が漂う一部の敵くらいなので、そういったツワモノと戦うときは強引に攻めず、まずは相手の攻撃モーションを見極めることに専念しよう。

2. 武器に頼らないと死ぬ

 もしも、この記事を読んでいるあなたが「拳ひとつで戦うのがカンフーでしょ?バットとかモップとか使ったらダサくない?」と思っているなら、それは完全に間違っている。カンフー、そして武術とはすなわち“武器を操る術”であり、肉体はあくまで武器のひとつに含まれているに過ぎない。だから、バットでもモップでも山刀でも使いこなせばそれはつまりカンフーと言える。よくわからないかもしれないが、そういうことだ。

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 そもそも、プレイヤーはたったひとりでカンフー使いの集団にカチコミをかけるヤバい復讐者であり、手段を選ぶ余裕などまったくない。使えるものは何でも使うしかないのだ。転がっているビンは投げつけ、椅子は蹴飛ばして相手のスネに当てなければ生き残れない。ちなみに、最初は椅子を蹴飛ばすスキルを習得していないので、優先的にアンロックすべきだ。

エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】

 当たり前だが、武器を持った相手は危険だ。こうした相手の多くは壁に叩きつけたり転ばせたりすることで武器を落とすので、真っ先に仕留めて逆に武器を奪ってやるといい。また、刃物による攻撃を素手で防ぐと、いくらカンフー使いの主人公と言えどダメージを受けるので、攻撃だけでなく防御のためにも武器は必要となる。武侠の世界で戦い抜くためには、武器に頼らないという選択肢は存在しないと思っていい。

3. フォーカスしないと死ぬ

 攻撃や受け流しや回避を行うことで、主人公にはフォーカスと呼ばれるゲージが溜まっていく。溜まったゲージを消費して放つフォーカス技は発動前に画面全体がスローになって戦況の判断がしやすくなる上、発動時は完全に無敵なので相手の攻撃に強引に割り込むことができる。多くの敵に囲まれてタコ殴りに遭い、反撃すらままならないような状態ではこうしたフォーカス技が逆転の一手になるというわけだ。

エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】

 熾烈な攻防の最中にはフォーカス技の存在を忘れがちだが、ゲージを使わず死ぬのはカンフー使いとして二流だ。フォーカスが溜まったときの効果音に注意し、溜まれば積極的に使って有利に立ち回る姿勢が重要といえる。

水になれ

 『Sifu』ではそれぞれのステージに学ぶべきテーマがある。基本的な攻防を学ぶ1面、見切りの重要性を理解する2面、武器格闘を知る3面といった感じだ。どのステージも思わず悪態をつきたくなるほど難しく、とくに2面は1面をクリアーしたプレイヤーの自信をバキバキにへし折るほど急激に難しくなる。なにしろ、記事執筆現在の2面クリアー率は約44%と、1面の約80%に比べて急激に低下しているのだ。ステージごとに年齢がリセットされず引き継がれるという仕様も相まって、このゲームがいかに手ごわいかを物語る数字だろう。

エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】

 2面の難しさにコントローラーを放り出すプレイヤーも多い。しかし、ここまで記事を読んでくれたあなたには間違いなくカンフーの素質があり、諦めるにはまだ早い。あなたはこれまでの戦いで得た知識を活用しつつ、目の前の敵からも学び、そして適応する必要がある。さもなくば決して勝つことはできず、復讐は果たされない。つまり、ブルース・リーだ。

心を空にしろ。
形にはまらず、自由になれ。
水のように。
コップに水を注げば、水はコップの形になる。
瓶に注げば、瓶の形になる。
ティーポットに入れれば、ティーポットの形になるだろう。
水は、流れることもできるし、打ち壊すこともできる。
友よ、水になれ。

 己を知り、敵を知り、互いの動きをすべて理解したとき、プレイヤーは理と合一し、復讐を果たす。このゲームは比較的小規模なタイトルだが、得られるカタルシスはAAA級のそれに勝るとも劣らない。

エルデの王になった? つぎは『Sifu』を遊んで水になれ【GWおすすめゲームレビュー】

 エルデの王になれるなら、きっと水にもなれる。このGWをかけて、己の内なる功夫を高めてみるのはいかがだろうか。

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