ファミ通.comの編集者&ライターがゴールデンウィークのおすすめゲームを語る連載企画。今回紹介する作品は、『Unpacking アンパッキング』です。

【こういう人におすすめ】

  • 4〜5時間でサクッと“いいゲーム”を遊びたい人
  • ものを大事に取っておく人
  • 積みゲーを片づけたい人

ヨージロのおすすめゲーム

『Unpacking アンパッキング』

  • プラットフォーム:Nintendo Switch、Xbox One、PC
  • 配信日:2021年11月2日配信
  • 発売元:Humble Games
  • 開発元:Witch Beam
  • 価格:Nintendo Switch版/2090円[税込]、Xbox One版/2350円[税込]、Steam版/2050円[税込]
  • IARC:3歳以上対象
  • 備考:ダウンロード専売、Xbox Game Pass対応タイトル(2022年4月現在)、プレイステーション5版とプレイステーション4版が配信予定(配信日未発表)
『Unpacking アンパッキング』ニンテンドーeショップサイト 『Unpacking アンパッキング』Microsoft Storeサイト 『Unpacking アンパッキング』Steamサイト

 新年度が始まって約1ヵ月が経った。新たな出会いがあった人もいるのではないだろうか? じつは僕も、最近気になっている人がいる。少しだけその人についての話につきあってほしい。

 その人は、サッカーが好きだ。部屋の中にもサッカーボールが転がっているくらい夢中だ。

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 その人は、ズボラだ。引っ越しの荷造りで、キッチン用品とブーツ(しかも片方だけ!)を同じ箱に入れてしまったりするのだから。

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 その人は、ゲームが好きだ。机や戸棚にはいつも携帯ゲーム機が置いてあって、そのほかにも複数のハードを所有している。好きなメーカーはたぶん任天堂だ。

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 その人は、ぬいぐるみが好きだ。子どものころからたくさんのぬいぐるみを持っていて、とても大事にしている。とくに豚のぬいぐるみがお気に入りみたいだ。

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 その人は、音楽が好きだ。聴きかたにもこだわりがあるようで、スマートフォンがすっかり普及した時代になってもMP3プレイヤーを愛用していたりする。また、ウクレレを自分で弾くこともあるようだ。

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 その人は、絵を描くのが好きだ。年々増え続けるスケッチブックは置き場所に困ることもしばしば。そして、素晴らしい才能の持ち主でもある。その才能によって、なにかしらの賞を得ていて、獲得した盾や賞状は誇らしげにディスプレイされている。

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 その人は、『ゴーストワールド』という映画が好きだ。『ゴーストワールド』ははみ出しものの不機嫌なティーンネイジャーふたりの物語で、誰もが知るような作品ではないが、それゆえに好きな人の熱量は非常に高い。いわゆる“カルト作”ってやつだ。その人はおそらく中学か高校生のときに同作を観て魅了された。購入したDVDは、10数年後も大事にとっておいてある。

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】
『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 その人の生活は、たくさんの好きなものに囲まれていて、一見すると楽しさに満ちたものだ。でも実際には多くの悩みがあったし、大きな挫折も経験している。

 僕はその人の人生を、約20年見続けてきた。

 でも、その人の顔は知らないし、住んでいるところもわからない。性別はたぶん女性だが、それだってじつは100%確かなことではない。

パズルゲームだが、パズルゲームとして楽しむのは難しい

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 『アンパッキング』は、引っ越しの荷解きをモチーフにしたパズルゲームだ。

 引っ越しの当日を舞台に、部屋に置かれたダンボールをひとつずつ開封して、荷物を室内の然るべき場所に置いていく。本は本棚に、パソコンは机に、ぬいぐるみはベッドの上に……なんて具合にだ。ダンボールを開けるときの「スコンッ」といった音や、モノを置くときの心地よい効果音なども楽しみつつ、すべての荷物を然るべき場所に置けばステージクリアーとなり、住人がつぎに迎える“引越しの当日”へと進む。

 荷物を置く場所はだいたい合っていればOKというファジーさだが、まったく場違いなところに置いた状態だとステージクリアーにならない(オプションでルール変更可能)。洗面所に毛布を置くことはできないし、ベッドの上に洋服を放り投げておくこともNGだ(僕はよくやってしまうけど)。

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 とは言え、正しい置き場所がわからなくて詰まってしまうようなことはまずなく、難度は低め。ふつうに遊べば4〜5時間でエンディングを迎えられるだろう。

 本作を純粋にパズルゲームとして評価するなら、ユニークなテーマ性のインディーゲームらしい小品……という、よくも悪くもない評価に落ち着く。言い換えれば、クリアーして1週間後にはすっかり記憶から消えてしまうような作品だ。

 でも、それはあくまでパズルゲームとして評価した場合の話。実際のところ『アンパッキング』を純粋なパズルゲームとして楽しむことは、よっぽど鈍感でない限り不可能だ。

 『アンパッキング』は荷解き&配置という、現実においてはただの作業でしかない行為を小粋なパズルゲームにしたうえで、見事な環境ストーリーテリングによって、プレイヤーの共感を呼び起こすささやかな物語を描く。

 僕が気になっている“その人”が大好きな『ゴーストワールド』同様、刺さる人にはぶっ刺さる、忘れがたい作品なのだ。

人格の断片を見つめ、人生の断片に思いを馳せて、物語を読み解く

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 というわけで、話はこの記事の最初の話題に戻る。

 とっくにお気づきかとは思うが、僕が気になっている人というのは、『アンパッキング』に登場する住人その人だ。とは言え、ステージに住人は一切登場しない。あるのは部屋とダンボールだけだ。

 だが、前述のとおり僕はその人のことをよく知っている。プレイヤーがダンボールから取り出して配置する荷物たちは、部屋というステージを完成させるパズルのピースであると同時に、住人の趣味嗜好を伝える“人格の断片”でもあるからだ。

 ともすればストーカーの日記みたいにも読める冒頭の文章は、『アンパッキング』の適切な楽しみかたを、僕なりに示してみたものである。サッカーボールやぬいぐるみ、ゲーム機、DVDといったわかりやすい断片を中心に取り上げたが、それ以外の小物たちもじっくり眺めて思考すれば、住人の姿がぼんやりと見えてくるだろう。

 シンク下の戸棚につねにあるゴキブリ駆除スプレー。フィットネス器具の然るべき場所はいつもクローゼットの中やベッドの下だ。それらの細かな断片は、“キッチン用品といっしょに梱包された片方だけの靴”と同様に、住人の愛すべき人柄をプレイヤーに伝えてくれる。

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 洗面台に置くものの量はどう考えても多すぎて、いつだってものでごちゃごちゃになってしまう。そんな状況にはクスリとさせられるが、正直に言えば我が家も大差ない状況だったりする。

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 設置場所が明確でやたらと数が多い本や衣類、靴下、カトラリーなど一部の荷物は、配置が作業的で、ゲームとしては退屈な時間かもしれない。でも「作業的だな」と思いつつも、無意識に靴下の向きに注意深くなっている自分にハッとさせられたりもした。

 数々の断片に触れるうちに、僕は共感を越えてこの引っ越し作業に自身を投影し、住人と同化していたのかもしれない。

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 無数の荷物たちが人格の断片だとしたら、1997年に始まってその後約20年という月日のなかで移り変わっていく部屋たちは“人生の断片”だ。

 まっさらな部屋だけでなく、すでに住人がいる部屋へ引っ越すこともあるし、見た瞬間に「あれ!?」と思わずにはいられない引っ越しもある。

 そんな人生の断片がつらなって、ひとつの物語になっていく。もちろん、たいした物語ではない。だって、住人は僕らと同じ、ふつうの人だから。

 予想外の展開にワクワクしながらステージを進めるような遊びかたを期待すれば、肩透かしを食う。でも、そこがいいのだ。

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 初めての子ども部屋を手に入れたよろこび、不安と期待がないまぜのひとり暮らし、若さゆえのにぎやかな生活、ほろ苦い引っ越し……どれもぜんぜん特別なことではない。だからこそ、『アンパッキング』の物語はプレイヤーの共感を呼ぶし、住人に寄り添いたくなるし、もっとその人のことが理解したくなる。

 たとえ顔もわからないゲームのキャラクターであろうと、他人を理解するって行為はいつだって刺激的な体験だ。『アンパッキング』ではその刺激が絶え間なく起きて、気がつけば冒頭に書いたとおり“その人”のことが気になってしかたなくなってしまうだろう。

パズル部分に仕掛けられた小さな大仕掛けに唸らされる

『アンパッキング』レビュー。引っ越しを通じて人生の断片を見つめ、物語を読み解いていく忘れがたいパズルゲーム【おすすめゲームレビュー】

 荷物と部屋の移り変わりだけで、ひとつの人生を描き出す『アンパッキング』の環境ストーリーテリングはじつに鮮やかだ。でも、環境ストーリーテリングの手法が“それだけじゃない”という点はしっかり強調しておきたい。

 記事の最初のほうで、パズルゲーム部分について「詰まってしまうようなことはまずなく、難度は低め」とややネガティブな書きかたをしたが、じつはパズルゲーム部分にも、物語を伝えるための仕掛けがある。

 『アンパッキング』では無数の荷物が登場するが、同一の荷物はステージが変わっても基本的に置き場所は一定だ。シャンプーはシャワールームに置く必要があるし、衣類はクローゼットの中にしまわないといけないし、賞状は壁に誇らしげに貼るのがセオリーとなっている。そういったセオリーはステージを進むうちに自然と身につき、やがて荷物を見た瞬間に考えることなく、置き場所へカーソルが動くようになるだろう。

 でも、それが突然崩れる瞬間が訪れる。おなじみの荷物を、おなじみの場所に設置して、さあステージクリアー……できないのだ。あるいは、いつも置けた場所がどうやってもスペースが足りない、なんてこともあるかもしれない。

 プレイヤーはその荷物を再び手に取り、前回の引っ越しから今回の部屋へ至った人生の断片に思いを馳せることになる。そして、新たな然るべき場所を理解するのだ。

 その瞬間、ゲームはステージクリアーとなり、同時にプレイヤーの心には住人の人生の節目が鮮明(クリアー)に刻まれる。パズル部分の仕掛けはほんとうに小さくて些細なものだが、『アンパッキング』のクライマックスと言ってもいいほどに見事な小さな大仕掛けなのだ。

GWの積みゲー消化の景気づけに、サクッと遊んでほしい

 ゴールデンウィーク中に積みゲーを一気に消化しようと考えている人も多いと思う。でも、ゲームに限らず片づけってのはいつだって初めの一歩を踏み出すのがいちばんシンドイ。逆に言えば、一歩踏み出してしまえば、あとは意外とサクサクと進むものだ。

 積みゲーを消化するために、新たなゲームを手に取るってのはどうにも倒錯した状況な気がしないでもないが、本作は4〜5時間で終わるから初めの一歩にはピッタリかもしれない。

執筆者紹介:ヨージロ
元ファミ通編集部ニュース班。本文で書き忘れましたが『アンパッキング』は音楽も最高です。この原稿を書いているあいだ、ずっとサントラを聴いていました。
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