いまやゲームファンにとって、非常に認知度の高い言葉となった“サイバーパンク”。定義には諸説ありますが、ネオン看板が立ち並ぶ摩天楼に、体の一部を機械化したり、電脳化した人々と、アンドロイドが共存する世界……といったビジョンが浮かぶ方は多いはずです。
やはり、その名をタイトルに冠した2020年発売のゲーム『サイバーパンク2077』のメガヒットは、このジャンル名の浸透に大きく貢献したように思います。しかし、とくにインディーゲームシーンでは、“サイバーパンク”な世界を舞台とした名作は、それ以前からいくつもありました。
『VA-11 Hall-A ヴァルハラ』や『RUINER』、『2064:Read Only Memories(2064: リードオンリーメモリーズ)』などは、それらを代表する作品群と言えるでしょう。
そんな名作揃いの“サイバーパンクなインディーゲーム”に新たに名を連ねるのが、今回レビューを行うプレイステーション4/プレイステーション5/PC用アクションアドベンチャーゲーム『ANNO: Mutationem(アノー:ミューテーショネム)』。2022年3月17日に発売されたばかりの新作です。
開発を行うのはThinkingStars。販売は『ハードコア・メカ』などのLightning Gamesが担当。ともに中国に籍を置く企業です。
ANNO: Mutationem - Launch Trailer(英語版)
高度な戦闘訓練を受けてきた女性・アンを操作して、行方不明となった弟を見つけ出すためにサイバーパンク世界を駆け巡る本作。この世界の影で進行している“とある計画”と対峙し、やがては自分という存在のあり方を問い直すといった物語が展開されます。
“王道サイバーパンク”らしい世界観ながら、中国産のタイトルらしい味付けが新鮮。加えて、アクションアドベンチャーとしての完成度も秀逸――といった作品になっております。日本語版は音声も含めたフルローカライズとなっているので、海外のゲームをあまりプレイしたことがない方にも、ぜひ挑戦してみてほしいです。
『ANNO: Mutationem』(PS Store) 『ANNO: Mutationem』(Steam)“2D+3D”で描写される、魅力的なサイバーパンク世界
このゲームをプレイし始めて、まず心を奪われるのは、その“2D+3D”を掲げるグラフィックでしょう。キャラクターは平面的なドット、それ以外は3Dで描かれている独特のアートスタイルによって、キャラクターには想像の予知を残した少し懐かしい感触があり、それでいて作品世界の実在感は昨今のゲームらしいものに。ふたつの表現が違和感なく調和している点も驚きです。
とくに街並みの表現は、漢字混じりのネオン看板、降りしきる雨、艶めかしく濡れたアスファルトと、「これぞサイバーパンク!」という景色を煮詰めたようなものになっており、新しい場所に向かうたびにワクワクさせてくれます。
このように、ふたつの表現が融合しているアートスタイルが大きな魅力の本作ですが、ゲームジャンルとしても“2Dアクション”と“3Dアドベンチャー”が絶妙に混ざり合ったものになっています。
街やダンジョンは、奥行きのある3Dのフィールドで構成されており、前後への移動も可能。それでいて敵が登場する局面になると、前後への移動ができない代わりに“ジャンプ”や“しゃがみ”が可能な2Dアクションへとシームレスに切り替わります。
この組み合わせにより、“探索しがいのある立体的なフィールド構造”と“シンプルで痛快な横スクロールアクション”のいいとこ取りとなっているのです。
シンプルながら“アガる”ツボを押さえた剣戟アクション
“いいとこ取り”と言うと、どちらも中途半端な出来になっていそうな印象を持たれる方もいるかもしれませんが、本作に関してはそういったことはありません。
まずはアクションですが、こちらはビームソード主体で戦うオーソドックスな剣戟モノ。とはいえ、操作のレスポンスは軽快、敵を攻撃したときの効果音とエフェクトも心地よく、良質です。取り回しやすく、手数が多い小剣と、大振りではあるものの威力が高くリーチが長い大剣が、それぞれ別のボタンに割り振られており、これらを使い分けて戦っていきます。
わずかな時間、無敵になれるローリングで敵の背後に回り込んだり、小型の敵なら切り上げ攻撃で空中に浮かせて無抵抗のまま追撃したり。銃弾があれば、遠距離からの銃撃を織り交ぜることも可能です。状況を見極めつつコンボを叩き込む手応えは、アクションゲームファンも納得の出来と言えるでしょう。
敵の体力は赤いゲージで表示。一部の敵は体力ゲージの上に青いゲージがあり、こちらを削り切ることで強力な一撃をお見舞いできます。このときの演出がじつにイカしていて、カッコイイ! ボス戦では、専用のモーションが用意されている場合もあり、カメラワークも凝っていて、トドメを刺したときの達成感もひとしお。こういったダイナミックな演出もまた、“2D+3D”ならではです。
武器の強化やアビリティの獲得で、アンはさらに強く
ゲームを進めていくと、武器やアン自身をアップグレードすることができるように。バトルがより選択肢の多いものになってゆきます。
武器自体も複数用意されており、それぞれ性能や攻撃モーションが異なりますが、加えてこれらの武器にチップを装着することで、一部の性能を向上させることが可能。自分の戦闘スタイルに合ったカスタマイズを施すことができるのです。
アン自身はいわゆる“スキルツリー”によって、さまざまなアビリティを手に入れます。敵を倒すことで手に入るポイントを消費し、基礎能力の向上のほか、ダッシュ攻撃などの新たな技が解禁になったり、タイミングよく防御すればカウンター攻撃が放てるようになったりと、戦い方の幅が広がるものも多数用意されています。
いろいろな戦い方をマスターして、攻略を有利に進めましょう。
世界への没入をより深いものにしてくれる、快適なアドベンチャー要素
アドベンチャー要素は、この世界の住人たちに話を聞いてまわることで、物語が進展していくという流れがメイン。開かない扉のロックを、ハッキングを駆使して解除するといったサイバーパンクらしい局面も。
本作のマップはいくつかの街にわかれており、別の街に行くときはアンが所有する空飛ぶクルマに乗って向かいます。こうした場面ではロードを挟みますが、ロード画面では道中でクルマを運転しているアンの様子が描かれるなど、待ち時間を自然なものと感じさせてくれる工夫がイイ感じです。
マップ上に“?”と表示された場所にいる住人に話しかければサブクエストが始まることも。この世界に生きる人々の困りごとや悩みに触れられたりと、やることはシンプルながら、遊べば遊ぶほど作品世界への理解が深まる作りになっています。
ダンジョン探索では、先に進むために装置を起動させるなどの要素がちょっとしたスパイスに。ゲームの進行上は行く必要のない場所でもアイテムや音声ログ、メモが見つかったりと、隅々まで見て回りたい気持ちにさせられます。
なお、追いかけるクエストを選択しておけば、つねにつぎの目的地がマップに表示されているので、どこに行けばいいか迷うことは皆無。メインストーリーを進めたい場合も、サブクエストを消化したい場合も、その目的に合わせてかゆいところに手の届く仕様が、ありがたいところです。
ちなみに、こういった探索やサブクエストで手に入れた素材アイテム・お金は、お店で解体・合成して、前述したアンのアップグレードに使用することになります。“アンをより強く鍛える”という動機も、世界を隈なく探索し、サブクエストをこなしていくモチベーションになっていると言えるでしょう。
フルローカライズでくり広げられる、くだけた会話劇にも注目!
哲学的なテーマが描かれることの多いサイバーパンク。本作のメインストーリーも、そうした要素を多分に含むシリアスなものなのですが、それでいて話運びはかなりライトなノリ。
本作のストーリーは、アンとその友人――ホログラムの姿でアンをサポートしてくれるハッカーのアヤネ――とのやり取りを中心に進行していくのですが、アヤネはアンのことを「ダーリン」と呼ぶほどに、アンに対してぞっこん。親愛の情を抱きつつも、気心の知れた者同士といったくだけた調子の会話劇がくり広げられます。
このあたりは、日本のライトノベルやアニメの影響も感じられるところ。終始ハードボイルドな雰囲気の漂う、硬派なサイバーパンクを求めている方のニーズには合わないかもしれませんが、女性キャラクターどうしの確かな絆を感じられる本作の語り口も、個人的にはアリだと感じます。
音声も含めた丁寧なフルローカライズで、こういった台詞回しが違和感なくくり広げられるあたりも、このテイストだからこそ尚更ありがたいところ。ちょっとローカライズの質が低いものも存在する海外のインディーゲームの中において、本作の大きな強みと言えるでしょう。
サイバーパンクの魅力を凝縮しながらも、さまざまな要素が高水準でまとめ上げられており、独自の味付けも光る『ANNO: Mutationem』。ビビッと来た人は、ぜひプレイしてみてください!