KDDIと言えば、auやUQ mobile、povoなどのブランドを展開している通信事業の会社だということはご存知だろう。そのKDDIが、なんとeスポーツとリアルの両方を視野に入れたレーシングドライバーのドライビングテクニックの向上を目指す実証実験(以下、プロジェクト)をスタートさせた。

KDDIによるeモータースポーツの技術向上の実証実験が始動!“脳”力を育てる“ブレインテック”でトップドライバーは誕生するか
本記事はKDDIの提供でお送りします。

 国内最高峰のレースであるスーパーGTでは 、auがTGR TEAM au TOM’Sのメインスポンサーを務めていることもあり、モータースポーツとの関連性は浅からぬKDDI。それだけに、「eスポーツも含めたレーシングドライバーのテクニックを向上させよう」という流れには納得だ。しかし、気になるのはその手法。“ブレインテック”という、聞きなじみのない技術を使って、ドライバーを育成しようというのだ。

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auがスポンサードするチーム、TGR TEAM au TOM’S。もちろん2022年もスーパーGTに参戦する。

 ブレインテックとは、脳(Brain)と技術(Technology)を組み合わせた言葉で、簡単に言えば脳を科学的に分析し、そのデータを活かしてさまざまな技術に応用すること。極端な例を挙げるなら、脳に電極を差し、その信号を読み取って手を使わずにゲームを操作するようなこともブレインテックの応用技術のひとつだ。

 ということは……頭にヘッドセットを付けて電気をビリビリ流すことで、とても速いレーシングドライバーが誕生するということ!? 「科学ノ発展ニ、犠牲ハツキモノデース……」とか言われない!? 非常に気になった取材班は、KDDIに乗り込んでその詳細を聞き出すべく、このプロジェクトの発起人と、被験者であるふたりのドライバーに直接取材を敢行した!

 今回取材班の素朴な疑問にイチから答えてくれたのは、KDDIで今回のレーシングドライバー育成プロジェクトの指揮をする、伊藤悟さん。さらに、被験者であるふたりのドライバーにもその実感のほどを訊いた。

脳×eモータースポーツ その最先端を走るメンバーにインタビュー!

KDDIによるeモータースポーツの技術向上の実証実験が始動!“脳”力を育てる“ブレインテック”でトップドライバーは誕生するか
プロフィール写真からもわかる通り、どうやらかなりのクルマ好きの様子。よもや、自身がクルマ好きだからこのプロジェクトを始めたのではあるまいか……!?

伊藤悟 氏(いとう さとる)

KDDIで5GやXR関連のサービス企画開発を担当。先進技術を使ったエンタメやモビリティのDXに取り組んでおり、モータースポーツにおいてもバーチャルとリアルの融合を目指している。本実証実験のプロジェクトマネージャー。(文中は伊藤)

宮園拓真 選手(みやぞの たくま)

国内でもトップクラスの実力者で、国内最大のeモータースポーツであるJEGTの公認ドライバー。グランツーリスモ選手権 2020では、世界一の座にも輝いた。『グランツーリスモ7』では教官役としても登場。22歳。
おもな経歴/FIA グランツーリスモ選手権 2020 ワールドチャンピオン/マニュファクチャラーシリーズ 2020 SUBARU代表 チャンピオン/ネイションズカップ 2020 チャンピオン/GR SUPRA GT CUP 2020 チャンピオン

佐々木唯人 選手(ささき ゆいと)

2019年の茨城国体で東京都1位を獲得後、いくつかの大会で上位に入り、JEGT認定ドライバーに。これからの活躍も期待される若手ドライバーのひとり。20歳。
おもな経歴/全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2021 MIE 一般の部 東京都代表/JEGT GURANDPRIX 2020 TEAM BATTLE チャンピオン/TC CORSE Esports MAZDA 所属

ブレインテックを活用したドライバー育成プロジェクトとは

――さっそくですがもっとも気になる質問からです! どうしてこんなプロジェクトを始めたのですか?

伊藤そもそも、KDDI、auは会社としてブレインテックという領域の研究に力をいれていたんです。これまでには、音楽と脳波の関係性、あるいはサウナと脳波の関係性を解明しよう……なんていうことも行っています。

――すでにそういった研究をされていたのですね。

伊藤ええ。そして、KDDIはeスポーツを含めたスポーツ分野にもかなり力を入れていました。そこで、「eスポーツとリアルモータースポーツにブレインテックの研究を活かせないか」ということからこのプロジェクトが始まりました。とくに、eスポーツのレースとモータースポーツというのは、ほかのジャンルよりもゲームとリアルの隔たりが少ないということもあります。

――確かに。格闘ゲームの達人と格闘家のやっていることはまるで異なりますが、レースゲームと実際のドライビングは明らかにそれより隔たりが少ないですね。

伊藤そうなんです。そしてもう1点、「モータースポーツの裾野を広げたい」という思いもあります。リアルのレースというのはトレーニング含め、参戦するには資金がかなり必要です。そこで、その一助となるよう、ブレインテックを使ってリアルレーサーがより速くなるお手伝いができたらいいな、と。さらに、研究の結果次第では、eスポーツ選手がリアルレーサーになる橋渡しができるのではないかと思っています。

――なるほど。では、ドライバー育成とは言っても、今回行うのはあくまでもブレインテック領域に限られた形なるわけですか?

伊藤はい。我々はeスポーツのコーチでもレース屋さんでもないので、イチから選手を育てるわけではないです。

――逆に言えば、リアルレーサーだった方がeスポーツに参戦するという未来もありそうですね?

伊藤そうですね。eスポーツとリアルはあくまでカテゴリーの違いであるという認識ですので、個人的にはそれぞれのカテゴリーを行き来できるような選手が生まれてほしいな、と考えています。そして、それに合わせてそれぞれのファンが行き来することで、eスポーツとリアルを問わず、レースというものが盛り上がってくれればいいなと思っています。

ブレインテックを駆使したトレーニングってどんなことをする?

――実際にブレインテックを使ったドライバー育成というのはどのようなものになるのでしょうか?

伊藤ブレインテックという言葉を聞くと、「運転しているときの脳波を計測するの?」なんて思われるかもしれません。もちろんトレーニングの一環で脳波を計測することもあります。

 ただ、今回我々が行っているプロジェクトは、かなり端折って言うと「○○タイプの人がeスポーツドライバーやリアルレーサーに向いているかも?」といったように、「個々の性格や脳の特長がレースでの速さにどう影響しているのか」を調べることに主眼を置いています。現在は、eスポーツドライバーやリアルレーサーにさまざまなトレーニングを行っていただき、そのデータを蓄積している段階です。そして、来年度以降は被験者の数を増やして、より精度の高いデータを集める予定です。

――被験者の皆さんがやっているトレーニングというのは具体的にはどんなものでしょう?

伊藤今回はVIE STYLEさんという脳科学を専門的に扱っている企業に協力していただき、プロドライバーに求められる資質や能力、脳の力とは何かという目星をつけました。たとえば空間認識能力、メーターを見ずにスピードがなんとなくわかる能力、高速で動いているものが一定時間後にどこにあるかを予測する能力などです。そして、その能力を計測したり、伸ばしたりするようなミニゲームを被験者のeスポーツドライバーやリアルレーサーの皆さんにプレイしていただいています。いわゆる、“脳トレ”のようなものですね。

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eスポーツ選手たちが行っているトレーニングはパソコンで行っているが、その内容はあっけないほどシンプルなもの。写真のトレーニングは“提示される円の色の組み合わせが黄色と赤のとき以外にスペースキーを押せ”というもの。もちろんこれ以外にもさまざまなトレーニングがある。

――しっかりトレーニングをすれば、ドライバーとしての才能が開花することも……?

伊藤あると思います! また、不得意なことが明らかになるので、それを意識して改善したり、的確なアドバイスができたりするようになるので、より効率的な練習をすることができます。

――なるほど! そのトレーニングは、後に一般公開されたりはするのでしょうか?

伊藤まだまだ先になるとは思いますけれど、将来的には、皆さんがトレーニングできるアプリを一般公開できたらおもしろいですね。また、ゆくゆくは、ドライバー向きの能力が解明されて、「こういう人はドライバーになれる可能性が高いから募集します!」なんてこともできるようになるかもしれません。

――それは夢がありますね。今後の展開に期待しています!

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トレーニングを行った後、およそ1ヵ月のトレーニングがどの程度の成果を引き出したのかタイムを計測するeスポーツ選手たち。検証はリアルレーサーも練習で使用することが多いドライビングシミュレーター『iRacing』を使って行われた。

被験者に生の声を訊く。ついでにレースゲーム攻略法も訊く

 育成プロジェクトの内容はわかったが、実際にトレーニングを受けているeスポーツ選手たちはどのように思っているのだろうか? 多くのeスポーツドライバーが被験者として参加しているが、今回はその中で、宮園拓真選手と佐々木唯人選手のふたりにインタビューを実施。

 このプロジェクトを通じて得たもの、そしてeモータースポーツ最前線を走る両名の練習法とは? レースゲームのタイムを削るトレーニング法もばっちり聞いたのでぜひチェックを!

宮園選手が今回のプロジェクトを通じて得られたもの

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――まずはこのプロジェクトに参加することを決めた経緯を教えてください。

宮園知り合いの方から紹介いただいたのですが、興味のある内容でした。詳しい話を聞き、「特定の領域を伸ばすことで今後もっと速くなれたらいいな」ということで、実際に被験者として参加することに決めました。

――実際に被験者として参加した印象はいかがでしたか?

宮園今回は何人かで同じテストをしているのですが、それぞれに個性があって。たとえば僕は感情の部分が比較的ネガティブ思考なのだということがわかりました。そういった部分を改善すると、走りにつながるのではないかということで、それを意識しながら3週間くらい脳トレのようなトレーニングをくり返してきました。

 これまで劇的に効果があったかというとそこまでの実感はできていませんが、いままでは速く走れるようなるために何かを数値化して確認するということはやっていなかったので、とても新鮮でおもしろいですね。

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――そのほか、このプロジェクトに参加することで、どんなことが得られましたか?

宮園今回のプロジェクトは、「速く走るためにドライバーにどんな能力が必要なのか」という未知数な部分を解き明かしていこうという趣旨だったので、いちドライバーして非常に興味があった分野でした。その解明に携われたことで、自分自身の成長について考える機会にもなりましたし、とても有意義だったと思います。

 また、この研究が進んでいけば、教習所などで一般的な運転をするに相応しい能力を伸ばすカリキュラムが導入されることもあるのではないかと。そうなれば、運転技術の底上げにもなりますし、交通事故なども減ると思うので、そういった意味でも意義のあるプロジェクトではないかと思います。

――研究が進めば、トップドライバーだけが恩恵を受けるものではないというのは、宮園選手に言われて納得しました! 続いては、宮園選手の直近の目標、長いスパンの目標をそれぞれ教えてください。

宮園直近の目標は、去年『グランツーリスモ』の大会で3位に終わってしまったので、もう一度王者の座に返り咲きたいという気持ちがあります。そして、できればずっと王者であり続けたいと思っていますので、まず今年世界王者になることを目標にしたいと思います。

――がんばってください!

宮園そして長いスパンの目標ですが、僕はいま22歳で、eスポーツドライバーとしてはもうベテランの領域になりつつあるんです。なので、今後は、若い選手たちに自分の経験からアドバイスをできればと思います。具体的には、大会本番での気持ちの持ちようとか、そういった部分ですね。そして、彼らが活躍できるような環境を作っていければと思います。

――なるほど! そうは言っても、個人的にはずっと宮園選手が長いあいだ最前線で活躍する姿も見たいと思います。eスポーツはフィジカル的な負荷のかかるものではないですし……。

宮園じつはeスポーツって、フィジカル依存ではないからこそ、反応速度や動体視力などの衰えがダイレクトに反映されてしまうという側面があるんです。だからこそ、第一線でいられる期間を伸ばせるかもしれない今回のプロジェクトは興味深かったという部分もありますね。

――そんなことを言われると寂しい気持ちになってしまいますが、そこは経験で補えたりはしないのでしょうか。

宮園経験が活きてくるのは、突発的な出来事への対処や瞬間的に状況が変わる場面だと思うんです。実車だと、風向きの変化やタイヤのグリップ力の変化などがあるので経験が活きてくる部分も多いのですが、いまのeスポーツは基本的に同じ条件で走り続けるので、突発的な事象も起こりづらい。だからこそ、反応速度や動体視力といった個々の能力にかなり依存するんです。今後、ゲーム中でもトラブル的な要素が起きるレギュレーションになっていけば、年齢が高めの方でも経験が活かせることになるので、第一線で走り続けられようになるかもしれませんね。

佐々木選手が感じたプロジェクトの効果、そしてリアルとゲームの差

KDDIによるeモータースポーツの技術向上の実証実験が始動!“脳”力を育てる“ブレインテック”でトップドライバーは誕生するか

――続いて、佐々木選手にも本プロジェクトの実感などお伺いします。まずは参加することになった経緯から教えてください。

佐々木最近は大会とは違う、こういったイベント的な行事がなかったんです。そんななか、とてもおもしろそうなお誘いを受けたので、即決で参加することに決めました。自分は基本的にお祭り好きなので。

――では、わりと軽い気持ちで?(笑)

佐々木そうですね(笑)。

――今回のプロジェクトを総括してどのように感じられましたか?

佐々木これまでは「同じ人間なのだから、自分も同じように速くなれる」と考えていて、「選手個人の“脳力”や性格などが速さに関連するかもしれない」という観点で考えたことがなかったので、非常に興味深いプロジェクトでした。

 eスポーツの場合はフィジカルのトレーニングがないものなので、一般的なスポーツよりも練習の種類が少ないんです。そういう状況のなか、新しい形のトレーニングで個々の“脳力”を高められる可能性があることを知れたのは有意義でした。今後研究が進んで、新しいトレーニング方法が確立されればいいなと思っています。

――ありがとうございます。今回のプロジェクトを糧に、いい成績が残せるといいですね! 佐々木選手の直近の目標としては、どのようなものになりますか?

佐々木いままでは国内の大会しか出られていなかったので、今年は『グランツーリスモ7』の世界大会に出場することを目標にがんばっていきたいと思います。

宮園選手が教える、レースゲームで速くなるための練習法

KDDIによるeモータースポーツの技術向上の実証実験が始動!“脳”力を育てる“ブレインテック”でトップドライバーは誕生するか

――ここからは、豊富な実績を持つおふたりに“レースゲームの上達方法”といった観点でお伺いしていきます。まず、世界王者になった経験もある宮園選手ですが、普段はどのような練習をされているのでしょうか?

宮園いまの練習量は、平均すれば1日に1時間から2時間といったところです。ただ、僕はレースゲームを4歳くらいから続けていて、その積み重ねの部分もあるので……1時間から2時間がほかの人にとっても最適なのかどうかはわからないですね。

――確かに蓄積が大きいところはあるかもしれません。

宮園そうなんです。そして、具体的にどんな練習をしているかという点ですが、速く走るという面で考えると、タイムトライアルには非常に重きを置いています。たとえばいま僕がプレイしている『グランツーリスモ7』なら、オンラインのレースができる“スポーツモード”に“予選タイムトライアル”というものがあるのですが、まずは自分で走ってみて。ある程度タイムを出せたら、速い人のリプレイをダウンロードして「自分の走りとどういう部分が違うのか」を確認します。そして違いを分析した後、実際に走ってみて……ということをくり返していますね。

――実際に注目するのはどんな部分なのでしょう?

宮園走行ラインはもちろんですが、コーナーごとに出ている速度、どれくらいブレーキをかけているのか、ハンドルの切れ角はどれくらいなのか、というところをおもに確認しています。

――ご自身のリプレイとそれらを比較したりもするのでしょうか?

宮園自分のリプレイも撮りますけれど、そのリプレイを観て比較はしていないですね。走りながらでも自分がどういう走りをしているかは理解しているので、それとほかの方のリプレイを比べる感じです。

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――上達法についてアドバイスをいただきたいのですが。

宮園イチから始める人に教えるというのはあまり得意じゃないのですが(笑)。腕前を問わず重要だと思うのはやはり、リプレイを観ることです。たとえば最新の『グランツーリスモ7』などでもお手本になる走りがゲーム内でも観られますし、YouTubeにもたくさんのリプレイがアップされていますので、そういったものを参考にするのがいいと思います。ただ、初心者の方ですとどの部分を参考にすべきかわからないこともあると思うので……先ほど申し上げたような走行ライン、コーナーごとに出ている速度、アクセルとブレーキの踏みかた、ハンドルの切れ角など重点的にチェックして、リプレイの走りに近づけるということを目標にされるのがいいと思います。

――なるほど。

宮園もっと初心者の方に向けてですと、『グランツーリスモ7』ではドライビングをアシストする機能がかなり豊富なので、それらを活用するのがいいと思います。そして、いい感じに走れるようになったら、ひとつひとつアシストを減らしていくというように、段階を踏んでドライブしていくと、結果的にクルマをコントロールする技術が上がっていくと思います。

――自転車の補助輪を外していくようなイメージですね。

宮園そうですね。やっぱり最初は難しく感じると思うので。目標を達成できないのであれば、まずはアシスト機能を使って達成しておいて、慣れてから外して再チャレンジするのがいいと思います。そのほうが、自分が上達したことがわかるので楽しいと思いますし。

――それはその通りですね。ちなみに、宮園選手はふだんアシスト機能はまったく使われていないのですか?

宮園ブレーキのロックを防ぐABSだけは付けていますが、あとは基本的にアシストなしでプレイしています。トラクションコントロール(TCS)も基本的には入れていないですが、状況に応じて。たとえば雨が激しく降っているときや、クルマが滑りやすいセッティングになっているときは少しだけTCSをかけるといった感じです。

――確かにTCSはセッティング次第なところもありますね。ちなみに、宮園選手は自分に合ったセッティングをどのように見つけていくのでしょう?

宮園まずはひとつのコースである程度走ったうえで、少しずつ変えていきます。ただ、セッティングを変えても1~2周走っただけでは違いがわかりづらいので、僕の場合は5周くらい走ってみて決めます。「特定のコーナーが遅いな」とか「直線の伸びが悪いな」なんていう部分は比較的すぐに気付くのですが、乗り味が好みになっているかなどは、どうしてもある程度走ってみないとわからないので。そんな感じで進めるので、レースのセッティングを詰めるのにはかなり時間をかけていますね。

――では、練習をする場合にはあまりセッティングを変えないほうがいいかもしれませんね。

宮園そうですね。慣れていないときは変にセッティングをいじらず、たくさん走ってコースに慣れ、タイムを短縮していくほうが大事だと思います。

――練習にお勧めのコースはありますか?

宮園コーナーの外側に芝生やグラベルなどがあるコースだと、一度飛び出すとかなり戻るのも大変ですしタイムロスになってしまうので、壁に囲まれているようなコースで練習するのがいいと思います。ただ、最初のうちの練習として考えると起伏の多い、ニュルブルクリンクのようなコースは少し難しいかな、と。トータルで考えると、たとえば『グランツーリスモ7』なら、ハイスピードリンクや東京エクスプレスウェイなどがお勧めですね。起伏もあまりなく、多少失敗してもリカバリーしやすいので、とにかく周回して身体にクルマを馴染ませるにはいいと思います。

――とても納得できましたので、参考にしたいと思います! では、ある程度ゲーム自体やクルマにも慣れ、走れるようになってきた中級者や上級者は、どのようなものを目標に据えて走るといいでしょうか?

宮園そこから先は人それぞれ、目指す方向によって変わると思います。タイムを伸ばしたいのであれば、リプレイと自分の走りを比較・研究するという作業を続けていくことですね。ドリフトがうまくなりたいなら、とにかくクルマを滑らせた後のコントロールを練習し続けることになると思います。また、レースで勝ちたいということであれば、ひたすらオンラインで走り続けることですね。いろいろな方がいらっしゃるので、その方たちとレースをして、ほかのクルマがまわりにいても止まれるブレーキングや、併走時の周囲のクルマとの距離感などを覚えていくしかないです。

――こと、レースに関しては慣れが必要そうですね。

宮園そうですね。僕も最初にオンラインでレースをしていたときは何もわからなくてちゃんと走れなかったのですが、1~2年やり続けているとできるようになったので、継続が大事だと思います。とにかくたくさんほかの人と走るというのが唯一の練習法だと思います。

KDDIによるeモータースポーツの技術向上の実証実験が始動!“脳”力を育てる“ブレインテック”でトップドライバーは誕生するか
宮園選手のタイム推移(筑波サーキット1周ベストタイム):プロジェクト実施前:65.407秒→プロジェクト実施後:64.606に。0.8秒近くのタイム短縮となった。

――続いて、佐々木選手にもレースについてお伺いします。佐々木選手は、機会があればリアルレーサーにもなってみたいと思いますか?

佐々木じつは自分はいまカートのレースにも出場していて。リアルなレースにもかなり興味を持っています。ですので、もしも乗れる機会をいただけるようなら、リアルレーサーにもなりたいと思っています。

――そうでしたか! eモータースポーツと両立することで、どちらにもいい影響がありそうですね。

佐々木そうですね。ゲームやシミュレーターをプレイすることで得た知識は実際のレースでも生きると思います。

――ところで、リアルなレースは資金がいるのでたいへんなのでは?

佐々木そうですね。そこはモータースポーツの敷居の高い部分だと思います。逆に言えば、その問題を解決してくれるのがゲームやシミュレーターだとも思っています。eスポーツ選手として賞金が獲得できればそれをカートレースの資金に回すこともできるでしょうし。

――なるほど(笑)。リアルレースでは激しいGもかかりますし、かなり勝手が違いますよね? 

佐々木まさにその通りで。始めてカートに乗ったときは正直「何だこれ!?」と戸惑いました。ゲームではコントロールできるけれど、実際のカートではスピンもしまくりますし。

――佐々木選手でもそんな感じだったのですね。

佐々木そうでしたね。師匠的な方にいろいろ教えてもらって、少しずつ速く走れるようになってきました。

 ゲームをやっていたおかげで、教えてもらったことの意味がわかる、理解度が高くなるんです。速く走るために必要な理論……たとえば“荷重を移動させることでクルマがどうなるのか”なんてことを、お金をかけずに学べるのはゲームの大きな利点だと思います。

――そのほかに、ゲームとリアルのふたつを比べたときに感じる違いというものは?

佐々木ゲームは基本ひとりでプレイするものですが、実際のレースは多くのスタッフさんが関わってくるものです。なので、リアルレーサー志向なのであれば、よりコミュニケーション能力は大事になってくるのかな、と思います。スタッフさんと話ができなければ、得られる知識も得られないと思うので。

――なるほど。eスポーツはイコールコンディションのマシンが用意されますが、リアルはセッティングもできてしまいますし……。メカニックさんとの関係性も大事だったりしますよね?

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佐々木そうなんです。メカニックさんと協力して「速いクルマを用意する」というのも重要な要素になりますし、それにはコミュニケーションが必須になるのではないかと思います。とはいえ、ゲームも極めてくると情報交換が必要になったりもするので、コミュニケーションが不要ということではないのですが。リアルの場合、最初からコミュニケーション能力があったほうがいいという部分は大きな違いですね。

佐々木選手が教える、レースゲームで速くなるための練習法

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――佐々木選手の練習という部分に興味を持っている方も多いと思うのですが、普段はどんな練習をされているのでしょう?

佐々木じつは日によってかなり差があるんです。いまは『グランツーリスモ7』が出たばかりということもあり、「早く攻略してみんなとの差を広げたい!」という気持ちで、時間が許す限りやっています。前作の『グランツーリスモ SPORT』をやっているときも、大会前はそんな感じで、自分が納得できるまで練習していました。ただ、とくに大会などがないときは「仲間が集まってレースをやる」みたいな場合で、1日10時間くらいですね。何もないときは、感覚を落とさないようにする目的で、「15分でも30分でも触れておこう」くらいでした。

――プレイヤーの習熟度別にお勧めの練習方法というのはありますか。

佐々木まず初心者の方ですが、走っていてもコースに留まれないことが多いんじゃないかと思います。そこで、コース内に留まれるようにブレーキをしっかりかけて、「クルマの速度を落としてから曲がる」ということを意識して走るといいですね。

――練習するコースは、ひとつのコースで集中的に練習するほうが効率的でしょうか?

佐々木ひとつのコースをキチンと走れるようになると、「このコーナーは、あのコースのあそこの走りかたでいけそうだぞ」みたいな感じで、ほかのコースにも応用できるようになるんです。そこに気付けるようになると、人によっても違いますが、そろそろ初心者レベルも卒業かな? という感じですね。なので、ひとつのコースを集中的に練習するのは効果的だと思います。

――ちなみに、練習に適したおすすめのコースというのは?

佐々木比較的いろいろなゲームに収録されているコースで言えば、個人的に筑波サーキットがお勧めです。全長が短いコースなので周回をくり返せますし、ヘアピンなどのしっかり止まらないと曲がれないコーナーもいくつかあります。また、S字などはクルマによっては全開で通過できることを学べますし、順走で言うとコース中盤にあるヘアピン後の90度コーナーは止めきらない微妙なブレーキングが必要です。そんなバランスのいいコースなので、練習には向いていると思います。

――参考になります。今日から筑波サーキットで練習しよう! では、筑波サーキットでコース内に留まれるようになってきたらどうすればいいでしょう?

佐々木つぎに考えるのは、ライン取りやコーナーの繋がりを意識することですかね。ひとつ前のコーナーをどう抜けるかで、アウトインアウトではなく、ミドルインアウトのほうが速く走れるケースなどもあるので。

――なるほど。ちなみに佐々木選手の感想でいいのですが、ゲーム上で表示されるレコードラインやブレーキングポイントというのは、かなり信用していいものですか?

佐々木初心者であれば、ブレーキングポイントからブレーキをかければ曲がれるはずなので、参考にはなると思います。

――佐々木選手クラスだと、だいたいブレーキングポイントの表示よりも奥でブレーキをかけるのでしょうねぇ……。

佐々木そうでもないかも……? コーナーによっては手前からゆるいブレーキをかけるケースもあるので、一概には言えないところがありますね。コースによっても個人個人でも走りかたはいろいろあると思うのですが、いちばんいいのは速い人のリプレイを観ることですね。かなり勉強になりますし、リプレイを見てどうやって走っているのかがわかれば、いわゆる中級レベルに達していると思います。

――佐々木選手も皆さんのリプレイは参考にされているのですね!

佐々木そうですね。すごく勉強になります。

――人によってだいぶ走りかたが違いますが、そのあたりはどう参考にすればよいのでしょう?

佐々木走りのスタイルが違うということに気付かれる方は、もう中級から上級レベルだと思います。いろいろなスタイルがあるなかで、リプレイを真似して練習するのであれば「このコーナーはこの人が速いから真似をしよう!」というのを繋ぎ合わせるのではなく、ひとりのリプレイを徹底的に真似するほうがいいと思います。

――そういうものなのですか!?

佐々木ええ。やっぱり1ラップ通して真似をしたほうが理解しやすいんです。いろいろなスタイルを継ぎ接ぎすると、ときには矛盾するようなことも出てきてしまいますから。なので、自分の師匠のようなプレイヤーを探すことから始めるといいですね。

――どういう人のリプレイを師匠にするといいのでしょう?

佐々木ランキングで上位にいることが多い人のリプレイを参考にしてください。たまに出てくるメチャクチャ速い人よりも、いろいろなコースで安定して速い人のほうがリプレイの質がいいので、参考になると思います。

――ありがとうございます。私も師匠捜しをできるくらい走りを詰めていきたいと思います。では最後に、上級者の方にアドバイスするようなことはありますか?

佐々木上級者の方々に言えることはあまりないですね(笑)。自分も最近そこから這い上がったような感じで、すぐにでも追い抜かされそうな状態なんです。みなさん本当に速いですし、負けてしまうこともあるので……「勉強させてください!」という感じです!

――なるほど。佐々木選手のアドバイスも参考に練習してみたいと思います! おふたりとも、本日はありがとうございました。

KDDIによるeモータースポーツの技術向上の実証実験が始動!“脳”力を育てる“ブレインテック”でトップドライバーは誕生するか
佐々木選手のタイム推移(筑波サーキット1周ベストタイム)。プロジェクト実施前:65.585秒→プロジェクト実施後:65.166秒。こちらも0.4秒以上のタイム短縮という結果に!