先週、アメリカのサンフランシスコで行われたゲーム開発者向けのカンファレンス“GDC”(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)。最新技術の発表やヒット作の振り返りなどがゲームファンの目を引くなか、実際に受講する開発者にとっては組織論や労働環境の改善、そして開発者のキャリアパスなども重要なトピックだ。
『トゥームレイダー』シリーズや直近では『Marvel's Guardians of the Galaxy』などを開発したアイドス・モントリオールの代表、デイビッド・アンフォッシ氏がビデオ出演で明かしたのは同スタジオの働き方改革について。
同スタジオと姉妹スタジオのアイドス・シャーブルックは昨年、週休3日の週4日勤務制(週あたり32時間勤務)を導入することを公式に発表している。その目的は、過酷な開発業務での燃え尽きをできるだけ低減し、持続可能な勤務体制を構築することだ。
しかし、コロナ禍での開発は簡単ではない。リモートワークへの移行にあたってアイドスでも他社同様、コミュニケーション手段の分散やプライベートと仕事の境目が曖昧になったことなどにより生産性の低下や離職率の増加が見られたそう。しかしアンフォッシ氏は「大きな変化をもたらすのはいつがいいのか? 私達にとっては今です。パンデミックの最中だから現状維持で、という選択肢はありません」と語る。
むしろ、そういう難しい時代だからこそ長期的な安定性を上げる方策としてスタッフとともに考えて出てきた取り組みが週4日制なのだという。前述の発表記事によると、これまで1時間かかっていた社内会議を30分にするなど、より集中して効率的に取りかかれるよう目指しているようだ。
そしてその中間結果として今回提示された数字はなかなか興味深い。低下している部分はあるものの、アンフォッシ氏は現状の数字として大変満足しており、今後の改善とスタッフ側の適応によってより多くの人が満足できるものにできると考えているとのこと。今後は業務評価のやり方など組織の有り様も変えていくという。
- その週に割り当てられた4日32時間分のタスクを完了できなかった人は9%
- その週の作業を完了するのに疲労困憊になるまでやらざるを得なかった人は6%
- この新たな取り組みで生産性が低下した人は7%
働き方改革はインディースタジオでもホットトピック
ところで「これは海外の大手スタジオだからできるんじゃないの?」とか思う人もいるんじゃないだろうか。またアイドスのようなAAA(超大作)を作るトップクラスの人材を獲得するには、環境の良さを宣伝することが欠かせないがゆえに強調されがちといったこともある(実際、前述のアイドスの発表は求人とセットになっている)。
あるいは「もっと健康的なワークバランスに……」と“改革”した結果が結局外注とその管理業務の増加に至っていたとか、週5で働く外部とのやり取りをする人はそれに合わせて働くことになりがちとか、そもそもシステマチックな作り方が多いからうまくいく……なんて話を聞くこともしばしば。
もちろんケースバイケースだろうし、ワークフローの根本的な見直しも含めてのことなんだろうが、注目しておきたいのはこういった試みはインディーゲームスタジオでも進んでいるということだ。今年のGDCでは、週4日勤務制を実施する4つのインディースタジオの代表や現場トップによる座談会も行われていた。
残念ながらこちらの座談会は時間が合わず、映像アーカイブもまだ上がっていないので直接取材できていないものの、海外Protocol誌のレポートによると登壇者からの反応は非常によく「もう週5日勤務には戻れない」といった発言が複数のスタジオ代表から聞かれたとのこと。
Wrote about the rising number of indie game studios, many from Montreal, switching to four-day workweeks during the… https://t.co/dNynOIHxbU
— Nick Statt (@nickstatt)
2022-03-24 01:05:38
ただしこちらもアイドスの場合と同様にまだ解決すべき課題はあり、たとえばもっと作業に時間を使いたいスタッフがいたり(他のスタッフがプレッシャーを受けないような形で金曜勤務を可能にしているとか)、また祝日が挟まってくるとその週の進捗が著しく滞ってしまうため「週4勤務の通常化の代わりに祝日も働くべきなのか否か」といった検討もしているという。
ユニークだったのは、『Boyfriend Dungeon』などで知られるKitfoxのターニャ・X・ショート氏が週4日勤務での生産性の低下率を見積もった際の根拠。5%から10%の低下で済むと想定したそうなのだが、その理由が「金曜日の午後はどっちみち早めに切り上げる人が多かったので」というもの。これは金曜の夕方になるともう人が結構いないと噂に聞く、海外の組織ならではと言えるかも知れない(Kitfoxはカナダのモントリオールが拠点)。
またアイドスの例でアンフォッシ氏が次のステップとして業務評価などを含めた組織体系の変更を示唆していたように、インディー側でも生産性などの評価をどう行うかは重要なトピックとなっていたようだ。週4勤務を前提にしたスケジュール組みなども含め、実際に時間あたりに行える作業がわかっているスタッフ側よりも、マネージメント層にこそ適応が必要なのかもしれない。